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19話 警戒しますよ

 


 後片付けを終えると、ケネディは子供達の世話に戻るため、私達に丁寧に頭を下げてから、孤児院に戻った。


「フィオナ、日も落ちて暗くなっているし、家まで送るよ」


 なんて紳士的な台詞。こんなイケメンに言われたら、コロッと恋に落ちちゃう女性もいるのでしょうね。


「結構です、私も、すぐ近くに馬車を待たせているので」


「そう、それは残念」


「……こんな回りくどい真似をして、一体、私に何の用なの?」


 もしバレないと思っているなら、私のことを馬鹿にし過ぎだわ。


「何のことかな?」


「とぼけないで。半年前とは言え、カルディアリアム領の役所に勤めている職員が、私の名前に気付かないはずが無い。貴方は私を知っていて、わざとここに来たわね?」


 現カルディアリアム伯爵家の当主である私の名前を知らないのはおかしいし、イリアーナ達からも、私の話は聞いているはず。

 てか、百歩譲って同名の別人だと思ったにしても、ケネディは私を普通に様付けで呼んでいたのにそこには触れないし、今まで役所が孤児院に関与したことは無かったのに、私が関わったタイミングで来るし、怪しむのは当然でしょう! 怪しすぎて、全くイケメンを堪能出来なかった! これっぽっちも癒されなかった! 楽しみにしていた分、責任を取って欲しいくらいよ!


「……参ったな、イリアーナから聞いていた話と全く違うや」


「それで、用件は? 貴方達の邪魔はしていないはずですが」


「気分を害さないで欲しいんだけど、本当に様子を見に来たんだ。急に夫から爵位を取り戻してカルディアリアム伯爵になったお嬢様がどんな人物なのか気になってね」


「では直接訪ねて来てくれない? こんな風に嘘をつかれては、こちらが警戒するのも仕方ないわよ」


 後片付けの最中もずっとケネディから私の情報を聞き出していたし、マジでなんなの? って思った。


「失礼しました、カルディアリアム伯爵。俺はアルヴィンと申します。半年前からこちらに来たのですが、前カルディアリアム伯爵――貴女の夫がいかんせん出来損ないでして、とても困っていたんです」


「それは本当に申し訳ありません」


 その話を持ち出されると耳が痛いわ……でも元凶はローレイであって、私ではないからね。


「イリアーナから聞いていた話では、父親に過保護に育てられたお嬢様は何も出来ない気弱な箱入り娘になり、悪い男に引っ掛かって、離婚を盾に夫の言いなりになっているとのことでしたが」


「間違っていないわ、事実よ」


「ええ、少し前まではそうだったようですが、最近は人が変わったように、次から次へと革命を起こされていると聞きました。実際、こうして会った貴女は、とてもじゃありませんが気弱な箱入り娘には見えません。どちらかと言えば、意志の強い女性に見えます」


 そりゃあ、前世は社畜でバリバリ働いて男社会を生き抜いてきましたから、弱くはないと思うわよ。

 女だからって理由でお茶くみをさせる上司を見返すために、どれだけ必死で働いてきたと思う? その上司の役職を抜いて逆にお茶くみを頼んだ時には、内心『よっしゃー!』って叫んだから。


「貴女が、急に変わった理由は何なんですか?」


 前世を思い出し、昭和生まれのアラフォー独女の人格が蘇っちゃいました! えへっ! と言って、信じてくれる? ないない、頭おかしい奴と思われるに決まってる。異世界転生は前世ではまぁまぁ知られていたけど、今世の世界では意味不明でしょうし、私も実際、その身に起こるなんて思いもしなかった。


「猛省して覚醒しました」


「猛省して覚醒、か」


 その顔は信じていないわね? まぁ、何言ってるんだと思われても、正直に話すよりはマシでしょう。


「私がどんな人物か理解出来たなら、もう用は済んだでしょう?」


「ええ、ご協力感謝します」


「協力した覚えはないけど……まぁいいわ、では、次は私から少しよろしい?」


「何でしょう?」


「ここでお会い出来たのも何かの縁だし、貴方に、お願いがあるの」


「お願い?」


「ええ、今度は代わりに、私に協力して下さい」


 貴方が優秀であることは、もう十分知ってるの。だから、私にその力を貸してもらいます。優秀な人材はちゃんと使わなきゃね。






 ――数日後、私はケネディや子供達を全員連れて、孤児院の引っ越しを行った。


「あの、ここは……?」


「ここが新しい孤児院よ」


「新しい孤児院!? 引っ越し!?」


「言ったじゃない、新しい家を用意するって。『今の孤児院は廃病院みたいに不気味で老朽化が進んでボロボロだし、森に近いから毒蜘蛛なんかもいて危険で、とても良い環境だとは思えないから、新しい家を用意するわ』って、一緒に炊き出しを食べている時に、雑談のついでに話したと思うんだけど」


「言――っていましたけど、まさかあの雑談が本当のことだったなんて……しかも、ここが新しい孤児院? こんなに綺麗で、立派な建物が……!?」


「ええ、どうしようか用途に困っていた場所だから、是非有効活用して欲しいわ」


 綺麗なのは当然、だってここは、ローレイが最近建てたばかりの別邸だもの。

 名目上は、仕事を円滑に進めるための別邸だとか言って領民のお金で建てた、実際はただの自分達が遊ぶための別荘! しかも無駄に広くて部屋数が多いのは、自分達の友人がどれだけ遊びに来ても泊まれるようにするためと言う、マジで仕事とは関係無い無駄な産物!

 それがこんな形で役に立つ日がくるとは……何があるか分からないものね。



誤字脱字報告ありがとうございます。感謝します。

いいね、ブックマーク、評価、読んで下さる皆様、ありがとうございます。

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