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18話 噂の男アルヴィン登場

 


「私がもっと、しっかりしていれば良かったんです、そうしたらこんなことにはなりませんでした」


「ケネディはもう充分過ぎるくらい頑張ってくれているわ。今まで、孤児院の子供たちが過ごしてこれたのは、ケネディのおかげよ」


「私は親の跡を継いだだけです。私自身は、何もしていません」


「そんなことないわ、子供達のために一生懸命頑張っているケネディを、私は尊敬してる。私は、そんなケネディの力になりたいわ」


「……フィオナ様……」


「おーい、炊き出し出来ましたよぉ! フィオナ様も食べていかれますよね?」


「ええ、勿論」


「ガーナおばさんったら、フィオナ様にこんな貧相な料理を食べて頂くなんて……」


「どうして? ガーナおばさんの料理、とても美味しいじゃない」


 勿論、カルディアリアム伯爵家自慢の料理長が作った料理もとても美味しいけど、ガーナおばさん作った料理も、鉄板の家庭料理な感じがして、とても美味しい。


「さ、先に子供達に料理を配りましょう」


「……はい、本当に……ありがとうございます、フィオナ様」


 孤児院の子供達はガーナおばさんの炊き出しの日をとても心待ちにしていて、皆、出来上がりの知らせを聞いて、笑顔で炊き出しの列に並んだ。一人、シングだけは私を見て怪訝な表情のままだったけど、私は気にしません。



「はぁ、もうお腹ペコペコだわ」


 ひと段落ついたところで、ガーナおばさんは明日の仕込みのために大衆食堂に戻り、残った私達は、後片付けを残し、先に余った料理を外にある木で作ったベンチで食べることにした。

 今日の炊き出しは、温かい野菜一杯の豚汁に、おにぎり! うーん、いい匂い! やっぱり今日も美味しそう!


「フィオナ様、その、良かったらこちらも召し上がって下さい。昨日フィオナ様に差し入れ頂いた野菜で作ったサラダなのですが……」


「いいの? ありがとう、頂くわ」


「お口に合えばいいのですが……」


「うん、美味しいわ! ケネディも料理が上手なのね」


「良かった……」


 嬉しそう。料理が褒められたことが嬉しいのね。

 貧相な料理だから私の口に合わないと、今までは手料理を食べさせてくれなかったけど、少しは心を開いてくれたのかしら、だったら嬉しいわ。

 私達はそのまま、たわいもない雑談をしながら、少し遅めの昼食を頂いた。


 ――――この孤児院には、滅多に来訪者が来ない。


 だからこそ、ケネディに道に迷ったと勘違いされ、声をかけられた。

 そんな町から少し離れ、歩道も整っていないこの場所に響く、車輪の音。ピタリと孤児院の前で止まる馬車の塗装に、見覚えがあった。


 カルディアリアム領の役所の馬車……イリアーナに私がここにいるのがバレたかな。


 バレたら面倒臭いなとは思っていたけど、身分を隠して行動していないし、悪いことはしていない。バレた時はバレた時。休暇中に私が何をしようが、私の自由。

 よし、当初の予定通り、何を言われても休暇で押し通そう。きっと五月蠅く文句を言われるんだろうなぁっと思いつつイリアーナが降りてくるのを待ったが、中から降りて来た人物は予想と外れ、イリアーナでは無かった。


「突然の来訪、失礼。貴女がリンシン孤児院の責任者、ケネディかな?」


 長身で細身、少し長めの紺の髪に、青眼を宿したどこか色気のある男性を一目見て、こう思った。イケメンだ! っと。


「あ、は、はい。そうですが……あの、貴方は、アルヴィン様でしょうか?」


「おや、俺をご存知で?」


 そりゃあ分かるでしょう。

 一度も顔を見ていない私ですら、噂だけで気付くくらいのレベルよ。役所勤務で町の女性が皆、虜になるくらい顔が良い男性でしょう? そんなイケメンがそこら辺にポンポンいたら驚くわ。多分、私なんかよりも顔が知られてるわよ。


「は、はい。一度町でお見掛けしたことがあるので……あの、何か御用でしょうか?」


「用と言うか、孤児院の話を聞いてね、少し様子を見ておこうと思って足を運んだんだけど……君は?」


 ケネディの隣にいた私に気付いたアルヴィンは、人たらしの笑顔を私に向けた。


「……私の名前は、フィオナよ」


「フィオナか、よろしく」


「……ええ、こちらこそ」


 笑顔で差し出された右手に応え、握手を交わす。

 イケメンに会って癒されたかったはずなのに、ちっとも嬉しくない、ときめかない。はぁ、楽しみにしていたのに、とっても残念だわ。


「もしかしてその料理は炊き出しかな? 後片付けがまだのようなら、俺も手伝うよ」


「ええ!? いえ、お役所務めの方にそのようなことをして頂くわけには……!」


「俺がしたいだけだから気にしないで」


「本人がしたいと言っているのだからいいじゃないケネディ、手伝ってもらいましょうよ」


「フィオナ様がそう仰るなら……」


「ああ、こき使ってくれて構わないよ」


 アルヴィンは言葉通り、ずっとケネディの傍で指示を仰ぎながら、百パーセントの善意の表情を浮かべて、炊き出しの後片付けを手伝った。


 ――白々しいことで。


 

誤字脱字報告ありがとうございます。感謝します。

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