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17話 野菜の皮むきって難しいのよ

 


 孤児院には、厨房と呼ばれる場所が無い。正確に言うなら、古くて壊れて、機能していない。だから料理は、孤児院の外で、持ち込んだ機材や料理器具を使い、調理する。


「フィオナ様、相変わらず野菜の皮むき上手くならないですねぇ」


「……そうよね」


 私が包丁の特訓を初めて二週間、その間も暇さえあれば孤児院に顔を出し、炊き出しのお手伝いをしているのだが、あまり上達がみられないのは、本人である私が一番知ってる。


「ま、怪我しないだけ進歩ですよ!」


 怪我をしたらジェームズやモカがとても心配しますからね。最近会社にも顔を出したけど、カロル達にも物凄く心配されました。お父様だけじゃなく、皆、こんなに過保護だったんですね……お父様の陰に隠れて気付きませんでした。


「ふぅ、終わりました!」


「お疲れ様です! 手伝って下さってありがとうございます!」


「いいえ、こちらこそ、見捨てずに教えてくれて感謝しているわ、《ガーナ》おばさん」


 この方は孤児院の責任者であるケネディの友人で、ガルパナリ。近くの大衆食堂を経営している女性で、店がお休みの日に、こうして孤児院に無料で炊き出しを振舞っている。

 ガーナおばさんはガルパナリの愛称で、そう呼んで欲しいと本人から要望があったので、そう呼ばせてもらっている。


「何を仰いますか! カルディアリアム伯爵様が直接手伝ってくれているんだから、それだけでありがたいことですよ!」


 初対面で私がカルディアリアム伯爵だと気付かなかったガーナおばさんは、あの後、ケネディから私の正体を教えてもらったようで、馴れ馴れしい口を聞いた上に、炊き出しを手伝わせてしまって申し訳ないと謝罪された。

 私もあえて教えなかったし、出来ればあのまま普通に接して欲しいとお願いしたら、ガーナおばさんはケネディよりも順応力があり、口調は改まったが、変わらずに炊き出しへの参加を認め、私に包丁の扱い方も教えてくれた。

 家の料理長よりも気軽に教えてくれるので、とてもありがたかったりする。


「ふぅ、今日は怪我をしなかったわ」


 手に貼られている絆創膏を眺めながら、自信満々に呟く。私も少しは上達してるってことじゃない?


 下準備を終え、最後の仕上げをガーナおばさんに任せると、私は孤児院全体を眺めた。いつ見ても、廃病院のような古くて不気味な建物。とてもじゃないけど、衛生的とは言えない。


「フィオナ様」


「どうしたの、ケネディ」


「あの、本当にありがとうございます。炊き出しのお手伝いもですが、お風呂に入る場所も提供して頂いて……子供達も、皆、とても喜んでいました」


「それは良かったわ」


 彼女達の体臭から、お風呂も満足に入れていない状態なのはすぐに気付いた。聞けば、今まで孤児院を運営するための資金調達が途切れ、お風呂にまで手が回らないほど、お金が無く途方に暮れていたところだったらしい。

 体を清潔に保つのは、健康のためにもとても大切だものね。


「げっ、あんた、また来たのかよ」


「あらシング、こんにちは」


 シングはパン屋のおじさんが言っていた通り孤児院の子供で、ケネディに頼まれて残り物を取りに行っていたところで、私と遭遇した。


「金持ちの道楽に良い人のフリしやがって! さっさと帰れよ、おばさん!」


 こちらも情報通り性格がひねくれており、お口が悪く、初対面から変わらず敵意剥き出し。特に、私がカルディアリアム伯爵だと知ってからは、もっと酷くなったように感じる。


「シング! フィオナ様に向かって失礼な口の利き方はやめなさい!」


「うるせぇ! そもそも、こいつ等の所為で――!」


 こいつ等?


「シング!」


 ケネディが怒ると、シングはまだ不満げだったが、舌打ちをしてその場を去った。


「フィオナ様、シングが本当に申し訳ありません!」


「いいの、それよりも、こいつ等ってどういうこと? 私――いえ、カルディアリアム伯爵家、つまり、ローレイが孤児院に何かしたの?」


 もう原因があるとしたらあいつしか思い付かない。


「直接ローレイ様が原因というわけではないのですが、その、シングがローレイ様のご友人を蹴りつけてしまって……」


「蹴りつけた」


「あの、ご友人の方々が、孤児院の子供に『汚いからどっか行け』やら暴言を吐いたようで、それに怒ったシングが、彼等を蹴ってしまったんです。そのご友人はカルディアリアム伯爵家が持つ会社の責任者を任されているとかなんとかで……孤児院の資金援助をしてくれていた会社に圧力をかけ、援助を止めさせてしまったんです」


 ん? そいつ等ってもしかして、私が最初にクビにした(笑)元・重役軍団のことじゃない? 本っっ当にロクなことしないわね。


 シングにとっては、こんなことになった原因のカルディアリアム伯爵家の私も、敵意の対象になる。


「申し訳ありません、フィオナ様が悪いわけではないのに……」


「いいえ、夫を放置していた私にも責任があるもの」


 もっと早く爵位を取り上げるべきだった。もっと言うなら、結婚するべきじゃなかった! ああ、過去の自分に戻れるなら、男を見る目の無かった自分を殴って目を覚まさせてやりたい!



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