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13話 カルディアリアム領の役所

 


 *****



 会社も家も、完全に回復した! とまではいかないけど、ある程度は軌道修正出来たと思う。あと、あの下半身に正直な無能な浮気男ローレイがめちゃくちゃにしたのは――


「こちらも随分好き勝手してるわね」


 カルディアリアム伯爵家執務室にて、ジェームズと二人で領地運営の書類に目を通す。

 これによれば、領主として領地の平和を維持しなければならないはずのローレイは、自分達が贅沢をするためだけに税を引き上げ、問題が起きても放置してお金を領民にために使わず、自分達に媚びを売る者にだけ甘い汁が吸えるようにしていた。

 これでよく、『俺に領主を任せないと領地がめちゃくちゃになるぞ!』なんて言えたものです。もう既にめちゃくちゃなんだけど。


「すぐに税を適正な金額に戻して」


「かしこまりました」


 それでも今まで運営出来ていたのは、会社の時と同様、父の代からいる他の優秀な者達がフォローしていたおかげらしい。

 書類を見ていて思うのが、特に半年前から、ローレイの目をくぐり抜けて、上手く立ち回っていたように思う。例えばこの書類、ローレイは適当にしか仕事をしていなかったから気付かなかったんでしょうけど、きちんと見れば、これが領民のために使う予算の申請書だと分かる。


「凄いわ……この書類を作った人、完璧ね」


 最後まで読み切らなければ、ただの定期報告書だと勘違いしてしまう。

 本来、申請書なんかは相手に分かりやすくしなければならない物だけど、ローレイを騙してサインさせるために、このような形式をとったのでしょう。


「どうやら半年前に入った新人がとても優秀なようです」


「もうこんな手の込んだことしなくても、普通に送ってくれれば良いと伝えて」


「かしこまりました」


 新しい領主になった私のサインを書き終えると、やっと、目の前に並べられた全ての書類が片付いた。

 前世もデスクワークしていたけど、本日、朝の八時より夜の十一時まで休憩込みで十五時間労働。ずっと書類と睨めっこしてて、流石に疲れた。


「お疲れ様でしたフィオナ様」


「ジェームズもお疲れ様、付き合わせてごめんなさいね」


「いえいえ、フィオナ様のお役に立てて何よりです」


「ジェームズがいてくれて助かったわ。私一人だったら、何をすればいいか分からなかったもの」


 本来なら前領主であるお父様やローレイから引継ぎを行うものなのだけど、お父様は私を過保護に育て過ぎて領主の教育をしてこなかったし、ローレイに至ってはあいつから教わることなんて何一つも無い。

 お父様の時代から執事をしていたジェームズがいないと、正直詰んでた。


「フィオナ様、あまり恨を詰め過ぎないようにして下さいね」


「ええ、分かってるわ」


「分かっておられないようだから心配しているのですが……フィオナ様は充分、頑張っておられますので、無理をなさらないで下さい」


「心配してくれてありがとうジェームズ、私は大丈夫よ」


 ジェームズがこうやって心配するのは、放っておくと私がいつまでも仕事に没頭してしまうからでしょう。ジェームズがいなかったら、今日も休憩を取るのを忘れるところだった。


 新しい仕事を覚えるのは楽しい。それに、お父様が残してくれた領地を守るのも、一人娘である私の役目だもの。

 過保護過ぎるくらい過保護に育てて、何も出来ない娘に育ててしまったお父様だけど、私を大切に、愛して育ててくれたことは確かだから。

 私は一生懸命、お父様の残してくれた領地を守ってみせます。



 ――――後日、私は初めて、ジェームズと共に領地の視察に、カルディアリアム領地の役所に足を運んだ。


「お嬢様! ……ようこそいらっしゃいました」


 私を出迎えてくれたのは、父の代から役所で勤めてくれている《イリアーナ》と呼ばれる女性で、私と初めて出会った時はまだ新人だったのに、今では立派に成長して、役所のお偉いさんになっているようだった。


「久しぶりねイリアーナ、元気そうで何よりだわ」


「げ――元気、ですけど、お嬢様はその、随分雰囲気が変わりましたね」


 昔お父様とここに来ていた時の私は、人見知り全開で挨拶もロクにせず、ずっと俯いていましたもんね。


「覚醒しました」

「覚醒……ですか?」


 何言ってんだと思われても、私はこれで押し通すことにしています。


「どう? 何か困っていることはない?」


「いいえ、お嬢様に心配されるようなことは何もありません」


「……そう、では町の視察に行くわ」


「いいえ、行く必要はありません。お嬢様は私達に任せて、家で大人しくしていて下さい」


 これぞ、取り付く島もないというやつでしょうか……私には一切、領地運営に関わらせたくないというのがヒシヒシと伝わってきますね。


「イリアーナ! フィオナ様に失礼ですよ!」


「いいわよジェームズ、気にしないで」


「しかし!」


「いいの」


 イリアーナだけじゃない、ここにいる全員が、私を歓迎していないのが表情で分かる。


「お邪魔したわね、また何か困ったことがあったら相談して」


「……お嬢様に相談することは、この先もありません」


「そう、自分達で解決出来るのなら、それは素晴らしいことね」


 それだけ言って、私は笑顔で役所を出た。



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