施行!勝進制度
慎二の妹がTOSである事が判明した夜から一夜明け、俺たちDNAクラブは体育館のステージに立っていた。
ざわつく一般生徒に、昭彦は怒鳴る。
「うるせぇぇぇぇえ!静かにしねぇとシメるぞ!女子は犯すぞ!」
空耳が聞こえた気がする。
「お前らを集めたのは他でもない。重要な発表があるんだ」
たっぷり間を置いたあと、奴は低いトーンこう言った。
「この学校の制度を変える」
再びざわつく生徒たち。それを制するように、昭彦は宣言した。
「本日よりこの学校は、勝進制度を施行する。卒業したくば勝利しろ。進級したくば勝利しろ。 他者を蹴落としてまで手に入れる勝利こそに真価がある」
瞬間、ドスのきいた声が体育館中に響き渡った。
「面白ぇことすんじゃねえか、昭彦」
「やはり食い付いたか。要」
信じられない跳躍力で人ごみから飛び出した男は、昭彦の前に着地した。
こいつが要…TOSのリーダー…
「勝利ってことは、殺せばいいんだよな?」
「その通りだ。しかし、仲間は殺しても何も起こらない」
「…ほう」
「つまりお前たちTOSは、俺たちDNAクラブを殺せばいいんだ」
「合法的にお前らを殺せるってワケか」
「理解が早ぇな」
「俺をなめんなよ」
一触即発の空気が流れる。そこに、男子生徒が一人走りこんできた。
手に持っているのは…剣?
「しまった!!昭彦!避けろ!!」
「もう遅い!くたばれこの野郎ぉぉぉ!!」
名も知らぬ生徒の剣が振り下ろされようとしたその刹那、
「余計なことしないで。私たち『滅却の四騎士』は正々堂々と殺すのが信条なの。邪気眼を持たないパンピーは不意打ちがだ~いすきなんだろうけど」
声と共に一陣の風が吹き、目の前に謎の4人組が現れた。声の主は…確認するまでもない、明日香だ。
「遅かったな。四騎士」
「ごめんねっ」
4人と親しく話をしている要を見ると、明日香と同じく無数の眼が現れていた。しかし腕だけではなく体全体に。
確定した。奴は邪気眼を使っている。それも、とんでもない能力を持った化け物だ。
金縛り状態から脱した男子生徒は、失禁しながら走り去っていった。
「じゃあな、昭彦。お前が俺の前に現れるのを待ってるぜ」
それだけ言い残すと要は一瞬でいなくなった。後に続いて、他の生徒たちも次々と体育館を後にした。
所変わって部室なう。
「で、これからどうするよ」
「決まってんだろ。購買で飯を買うんだ」
「はあ?飯?」
「そうだ。腹が減っては何とやら。何事もまずは腹ごしらえだ」
「アキ。私と涼香ちゃんは部室に残るわ。どうせアンタの事だから、部室をキャンプにしてTOS全体を潰す気でしょ?簡単に片付けておくわ」
「なぜ今更あだ名?…まあいいか。じゃあ片付け頼んだ。お前らの分も買ってくるから」
「あっきーよろしく!あたしも音波ちゃんとがんばるぞー!」
色んなことがスムーズに決まっていく。…そろそろ言おうか。
「あー、昭彦。ちょっといいか」
「どうした?」
「この学校の世間体は考えているか?」
「…あー、うん。考えているぞ」
「嘘はつくな。考えてなくても大丈夫だから」
「どういうことだ?」
「俺の知り合いが邪気眼使いで、DNAクラブ側の味方なんだ。そいつの邪気眼は『時界の侵略』といってな。結界内を周りの世界から切り取るんだ。つまり、この学校は世界に存在しないことになっている」
「ありがたい!これで遠慮せずに暴れられる!」
「敷地内から出ることはできないが、まあ大丈夫だろう」
「全然大丈夫!その知り合いに謝辞を伝えてておいてくれ!」
「次会った時にな」
「じゃ、音波と涼香は残って片づけを始めていてくれ。慎二と宗介を置いていくから、好きなように使っていいぞ」
「わかったわ。…んじゃさっそく!慎二!宗介君!」
「「はい?」」
「あなた達の存在から片付けましょうか☆」
「「!?」」
「すぐ戻ってくるからな~」
「「待って!行かないで!見捨てないでぇぇぇぇえ!!」」
購買前。たくさんの人がパンを奪い合っている中、1人の男子が余裕しゃくしゃくで焼きそばパンを持って出てきた。
長い足、知的な顔立ち。どこかで見た事があるような…?
「裕司先輩!!」
昭彦が歓喜し、ダッシュで近寄る。
「ん?あぁ、アッキ―と石和か。どうした?」
「俺たちも弁当を買いに来たんすけど、この混雑でなかなか…裕司先輩はどうやってパンを買ったんですか?会計に近づく事も難しいですよね?」
「えっとな、その…あれだ。運が良いんだ俺」
「実に羨ましい!!爪の垢を煎じて飲みたい!…と石和が言ってました」
「俺かよ!?」
「当たり前だろ。実際に他人の爪の垢を煎じて飲んだりなんかしてみろ。拒否反応で人生に幕を下ろす事になるぞ」
「俺に死ねと言うのか」
「それ以外に何て聞こえたんだ?」
「ハハハ…まあまあ。金さえ預けてくれれば、俺がお前らの分も買ってきてやるぞ」
「マジっすか!ありがとうございます!じゃあ…これで弁当を6つお願いします」
「はいよ~」
樋口をピラピラとなびかせながら、人ごみに消えて行く裕司先輩。
あ、紹介が遅れたが、裕司先輩の本名は稲村裕司。名前から察せられるように慎二の兄貴だ。
「あ、帰ってきた」
「随分と早いですね。まだろくに紹介してませんよ」
「なんの事だ?」
「いえ、こちらのお話です。それより、ありがとうございました!」
「どいたま!あ、そうそうアッキ―」
「どうしました?」
「DNAクラブのメンバーを全員連れて、1時30分に校庭に来てくれ」
「1時間後…ですね。わかりました!でもなぜ?」
「重大発表があるんだ」
「重大発表?」
「来てからのお楽しみ。じゃな」
…行ってしまった。
とにかく、俺と昭彦は6つの弁当を抱きかかえて部室へと向かった。
「んがぎ!?いきぎぎこうけいげあにぎよなきああげがご!?」
「ああそうだ。呼び出しをくらった。DNAクラブ全員で来て欲しいらしい」
「まみをにゃんにゃいていみめるぼかかばばいばぼ」
「何って…そりゃ美少女のことじゃね?」
「ないみこふえだふぃえあへんふぇぴじゃを」
「それは…」
「ヘイストップ2人とも。そろそろ時間だ。慎二は早く口の中のコロッケを飲み込め」
「あきういうぽうおふぁうぇきいう…ぷはあ。じゃ、頼んだ」
「ああ、わかった。次の鶏合戦は青森から始めよう」
「…お前たち、ほんっとに愉快だよな」
で、校庭。裕司先輩と邂逅した俺たちは、呼び出しの真意を問いかけた。
「重大発表って何ですか?」
「ああ、実はな」
「実は?」
「俺、邪気眼使いなんだ」
さりげなくYシャツから右腕を露出させる裕司先輩。
「こういうタイプの」
眼が…浮き出た。
「ってことは…」
「裕司先輩が…」
「TOS…?」
「そう。しかも、滅却の四騎士」
「…!」
宗介の目に火が灯る。
「ああ、待て待て。俺はお前たち争うつもりはない」
「何?」
「そう怖い顔すんなよ、宗介。あのな、俺はTOSに飽きたんだ」
「飽きた?」
「そう。明日香はもうちっと続けるらしいから放っておいたけど、俺は奴らから抜けた」
「何が言いたい?」
「俺はDNAクラブ側だ」
「信用できない」
「おいおい…じゃあ、どうしたら信用してくれる?」
「腐っても元TOS四天王だろ?だったら、俺たちの質問に答えてもらおうか」
「答えられる範囲内でな」
一時休戦。裕司先輩をひきつれて部室へと向かう。
TOS…そう簡単に抜け出せるものかね。
昭「事態は急展開!序盤から四天王2人が登場しマンネリの危機!」
石「裕司先輩がTOSを抜けた意味、そして気になる邪気眼の能力とは!?」
昭&石「次回!『神の豪運を持つ者』」
昭「宮永…」
石「わあああ!言うな!!」