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苦手な方はご注意ください。

書籍化やコミカライズなど

イケオジ魔術師様との『事故ちゅー』で真実の愛でしか解けないはずのモフモフの呪いを解いてしまいました

作者: 氷雨そら


 淡い金色の髪の毛は少々癖が強くてボリュームがある。紫色の瞳は冷たい色を打ち消すほど大きくて子どもっぽさが際立つ。


 私をよく知らない人には『なぜ子どもが魔術師ギルドの受付嬢を!?』と驚かれてしまうことがあるくらいだ。


(失礼ね……私はれっきとした大人だわ! 先日成人したのだから結婚もできるの!)


 今日も未成年と間違われてむくれる私を見た魔術師様たちが、ニコニコと微笑みかけてくる。飴を差し出してくる人までいる。やはり子ども扱いだ。


「ほら、これで機嫌を直しな」

「飴なんかで釣られませんから」

「おお、そうかそうか。お嬢ちゃん、では今度は最高級の魔石でも……今はこれしかないが」

「はあ……最高級の魔石だなんて、結婚の申し込みと勘違いされますよ? 私でなければ」

「うーん、お嬢ちゃんは可愛いから俺としてはやぶさかでもないが」

「子どもに対するあしらいですからそれ!?」


 結局無理やり飴を握らされてしまったそのとき、勢い良く開いた扉から強い風が吹き込んできた。それと同時に舞うのは最高級の魔石みたいに輝く雪の結晶。

 風が弱まると香るのは、ほのかにハーブが混じる焼き菓子のような甘い香りだ。


 嵐のような風と甘く爽やかな香り、そして最高級の魔石みたいな魔力をまとって輝く雪の結晶が彼の帰還を告げる。


「……お帰りなさいませ、ギルド長」


 スカートの裾を摘まんで礼をする私の目の前に立つのはアイスブルーの瞳に銀の髪を持つイケオジ、魔術師ギルドの長、フレイ・ランディル様だ。

 まるで大きな鳥の羽ばたきのようにロングコートがはためく。


「――変わりはなかったか? ミルティア・レイ」

「何も変わりなく平穏そのものでした」


 イケオジが笑う。それは私の心臓を握りつぶすような威力を持つ。けれど雪原のような美しい瞳は、まったく笑っていない。


「ギルド長たる私に嘘をつくものではない。S級の魔獣が出現したと報告は受けている」

「……事実、我らがギルドの敵ではありませんでした」

「そうだな、死傷者が一人も出ないとは……君のチーム編成の采配は今回も素晴らしかったと聞いている。……よくやったミルティア」

「……っ、はい」


 フレイ様に褒められるのは嬉しい。

 憧れの魔術師様の役に立ちたいがために、私はここにいる。


 私たちは並び執務室へと向かった。

 先ほどのフクロウの魔獣については、まだ伝えなければいけないことがある。


「さて、S級の魔獣……捕らえたと聞いた。討伐には至らなかったのか」

「はい、魔法耐性が高く……」

「君の魔法で捕らえたのか、無茶をするなとあれほど」

「申し訳ありません……」

「君から離れると、いつも心底不安になる」


(……私でなければ勘違いしますよ、その台詞)


 年の差20才。イケオジ魔術師フレイ様は、女性に興味がないようだ。子どもじみた私が相手ならなおさらだろう。

 それなのにふとした言葉で勘違いしてしまいそうになる自分が嫌になる。


 今回の魔獣はフクロウだった。私は攻撃魔法は使えない。その代わり補助魔法が得意で弱った魔獣を捕らえるのは私の仕事だ。


 金色の蔦と薔薇、魔法で作られた籠の中、白い体に金色の瞳をしたフクロウがこちらを見つめている。

 身体が大きなこと以外は、まるで飼われているかのように大人しい。


 何とか捕らえたものの、誰一人とどめを刺せる者がギルド内にはいなかった。

 フレイ様であればあるいは……と帰りを待っていたのだ。


「フクロウか……穏やかではないな」

「ええ、しかも白い体に金の瞳です」

「白と金の組み合わせの魔獣とは珍しい。高位の存在か……。それにしても、フクロウは一度番を決めると生涯連れ添うという。番がいたら君が狙われる可能性が高い」

「……それは覚悟の上です。捕らえた魔獣からは強い力を感じます。おそらく呪いを練り上げているのかと」

「ふむ、君が言うならその通りだろうな」


 フレイ様が眉間を長い指先で揉んだ。

 そのときだった。頑丈に作られているはずのギルドの建物が大きく揺れた。

 フレイ様が抱きとめてくれなければ、勢い良く尻餅をついたに違いない。


 抱きしめられれば、お菓子のように甘くてハーブのように爽やかな香りが鼻先を掠める。こんなときなのに思ってしまう……香りまでズルいと。


「……入り込んできた」

「どうしましょう」

「討伐すれば良いだけだ。君は他の部屋で……く、そこまで来ているようだ、手遅れか」


 確かにフレイ様は魔術師ギルドの長に任命されるだけあって王国最強の魔術師だ。

 けれど相手が強ければ必ずしも安全とは限らない。


「ご無事を……」

「この部屋には入れない、任せておけ」


 頭をポンポンッと撫でられて、いつもなら『子ども扱いしている』と怒るところだけれど泣きそうになってしまう。


「そうそう、君は先日成人したのだったな……祝いの品を用意してある。あとで渡したい」

「ギルド長……ギルド受付嬢の経験から、戦い前にそういった言葉は望ましくないと」

「はは……君に祝いの品すら渡せなければ、それは運がなかったと諦めよう」

「ギルド長……」

「だから泣くのはやめなさい、ミルティア」


 それだけ口にすると、フレイ様は部屋から出て行った。

 補助魔法しか持たず、激戦の最中では守られるしかできない私は、ついていくこともできずにその背中を黙って見送ったのだった。


 * * *


 それからしばらくして、急に物音が止んだ。ギルド内に入り込んだのが本当にフクロウの魔獣の番だったのかはわからないが、無事鎮圧したようだ。

 ホッとしていると執務室の扉がコツコツと叩かれた。


「ギルド長?」


 コツコツと叩く音は強く高くなる。

 次の瞬間、ガタンッと大きな音を立てて扉がちょうつがいを破壊され倒れ込んできた。


「……は?」


 目の前には白いフクロウがいた。

 私の後ろに捕らえられた一羽とよく似ているが、銀の瞳をしている。


 神々しいほどの姿……それはジッと静かに私を見つめた。

 そして白く美しい羽根が舞い散るとともに、魔法陣が私の足下に浮かび上がる。


「ミルティア!」


 そのとき、勢い良く誰かが飛びこんできた。もちろんこの声を聞き間違えるはずなんてない。


 私は勢い良く突き飛ばされると魔法陣の外に尻餅をついた。


 ―――バサバサと激しく羽ばたく音がする。


 白銀の閃光が部屋を包み込み、閃光が床をこがして焼き付いていく。

 このままではフレイ様は無事では済まない。

 後先考えずに魔法陣へと飛びこんでいた。


 その体を抱きしめようとして、逆に抱きしめられる。

 まるで閃光の中、私のことを守ろうとでもいうようだ。

 いや、私を包み込む魔力はフレイ様のもので、事実私を守ろうとしているに違いない。


「君だけは……」

「フレイ様!!」


 ギュウギュウと抱きついていると、急に時が止まったように全ての音と光が消えた。


《……番》

「え……はい?」


 相変わらず知的な瞳をしたフクロウだ。

 その銀の瞳に見つめられると目が離せなくなる。


《……番を引き離してはいけない、それは我が一族の掟だ》

「つがい……?」


 呆然と見つめていると、フクロウは羽ばたいて私が作り上げた金のつる薔薇の檻に閉じ込められたフクロウの元へ舞い降りた。


《人に危害を加えるつもりはなかった……他の魔獣ならいざ知らず。すまないな、私の番はまだ幼いせいで好奇心に駆られてしまったようだ》

「……好奇心」

《番を解放してくれれば、君たちを許そう》


 確かに、魔獣の全てが私たちに敵がい心を持っているわけではないと私たちは知っている。


 この状況では真偽を確かめることもできない。すでに魔力がつきかけたのだろう、フレイ様は私を抱きしめたまま何も喋らないし、私が判断するしかないようだ。


 魔獣を扱う魔術師もいるし、高位の存在であれば高い知性を持つ。嘘ではないことを祈りながら、私は金眼のフクロウを捕らえる檻の魔法を解除した。


 二匹のフクロウは嬉しそうに寄り添った。


《……だが、このまま許すのもしゃくに障る。そうだな、番にふさわしい呪いをかけるとしよう》

「……呪いは私が」


 この身に受ける、と叫ぼうとしたとき口が塞がれた。


「黙っていなさい」

「むぐ!?」


 ポタポタと頬にこぼれてくるのは、フレイ様の汗だろう。

 フレイ様は私の代わりに苦しげな声を絞り出した。


「全てこの身に。どうか彼女だけは」

《……》


 知的な金と銀の瞳が私たちを見つめた。


《それでは番としての愛の大きさに応じて呪うとしよう》


「ぐっ……」


 苦しげな声が聞こえて、思わず抱きしめる腕の力を強める。フクロウの言っていることの意味がわからない。そして私は何ともないのにフレイ様は酷く苦しそうだ。


《なるほど……人にとっての二十年の長いことよ。まだそちらの番は雛なのか……この呪いは真実の愛で解ける。だが、先は長そうだ。自分の番が雛だと知ったときの我が身のようで身につまされるな》


 番の意味はわからない、けれどフレイ様と私の年の差は20才。魔獣にまで子ども扱いされたことだけはわかる。


 そのとき聞こえてきたカチカチというくちばしを鳴らす音。驚いて視線を向けると『ギエェ!!』と金色の瞳のフクロウが威嚇するように鳴いた。


「そうよね、子ども扱いダメ、絶対」

『ホーホー!!』


 見つめ合う私たち。このとき私たちは確かに種族を越えて理解し合った……気がした。


《……あまり酷い呪いにはしないでくれ? 命の危機に瀕したのに、君は本当に……だが、君のお願いに私は弱い》


 金と銀の光が眩しすぎて、それと同時に吸い取られた魔力で強い眠気に見舞われる。


《番は仲良く末永く……君たちにも早くそんな日が訪れると良いな》

『ホーホー!!』


 ボンヤリとした視界。フクロウは魔法陣を発動すると静かに消えていった。


《愛の大きさに応じてね……。ふぅ、君が無事で良かったと言うべきか》


 フレイ様の安堵したような、困惑したような声が聞こえる。けれどそれはいつもとは違って脳内に直接語りかけているようだ。


 私に寄り添うフカフカした感触はとても温かい。


(どうしてこんなにも心惹かれるの……)


 不思議なほど愛しく思えるそれを逃すまい、と私は腕の力を強めたのだった。


 * * *


 フカフカの感触が妙に愛おしくて顔を埋める。私の体温より遙かに高い温度は心地よくて安心する。

 思わず私は顔を埋めたまま頬ずりした。


「……ん」


 薄く目を開ければ、白い天井が見えた。慌てて起き上がれば、見慣れた魔術師ギルドの医務室のベッドの上だった。


「……え? どうしてここに」


 温かい何かを抱きしめたまま周囲を見渡す。そして、ようやく倒れる前の出来事に思い当たる。


「……ギルド長!」


 慌てて起き上がろうとして、ようやく抱きしめていたフカフカの物体に視線を向ける。


「フクロウ!! えっ、魔獣!?」

《……》


 真っ直ぐこちらを見つめるフクロウの羽毛は、キラキラと輝くような白銀、そして瞳は凍るようなアイスブルーだ。


 混乱しながらも、あまりに柔らかい感触と、大人しく抱きしめられているせいで危険を感じられない。


「か、かわい……」


 何を隠そう、私はモフモフ好きなのだ。とくに猛禽類が大好きだ。

 だから、金色の瞳の魔獣とはいえ明らかにモフモフ可愛らしいフクロウを閉じ込めるのは密かに心痛んだ。


《……君には危機意識というものはないのか》

「え……ギルド長!? どこですか!」

《……君に抱きしめられているが》

「は!?」


 驚いて抱きしめていたフクロウを凝視する。確かに色合いはフレイ様そのものだ。

 けれど、人が人ならざるものに姿を変えてしまうなんて……。


「呪い」

《……そのようだな》


 しばらくフクロウになったフレイ様を見つめる。

 可愛い。この上なく可愛くて、いろいろなことがその可愛さに上書きされてしまう。


「――好きです、モフモフ温かいです」

《……はあ》


 私の腕から逃れたフクロウが、バサリと羽を広げた。

 白銀の体とアイスブルーの瞳。フレイ様はどんな姿でも美しい。


《君は何も変わりないのか》

「私……ですか? そういえば、背中がむずがゆいです」


 慌てて背中に手を伸ばすと、服の下に何かある。

 慌てて襟元から手を差し込んでみると、そこには小さな羽根らしきものがあった。


「小さい羽根が生えています」

《ふーん》


 低くつぶやくとなぜかフレイ様はそっぽを向いてしまった。こんなにそっぽを向けるなんてフクロウはすごいと私は場違いな感想を抱く。


「ところで何で急に塩対応なのです」

《……君に変化があるだけ喜ぶべきか、君まで呪われたことを悲しむべきか》


 先ほどからフレイ様の言っていることの意味がわからない。これも呪いの影響なのだろうか。


「……先ほどの魔獣は、真実の愛で呪いが解けると言っていましたね」

《……君には羽根が生えただけだ。とりあえず急ぐこともなかろう》

「……大ありですよ! どうしてそんなに落ち着いているんですか」

《……年の功、かな》


 こういうときにまで年の差を持ち出してくるのは切ない。同じ立場にはいないのだと思い知らされるようだ。


「……とりあえず、はいっ!」


 気を取り直して大きく手を広げた私と、猛禽類らしく大きく首をかしげたフレイ様。


《何だ》

「もう……。だって、先ほどまでフクロウの魔獣と戦っていたのですよ!? 間違って討伐されたら……」

《それはすでに解決済み……》


 そのとき、軽いノックの音とともに扉が開いた。慌てた私はフレイ様を思いっきり抱きしめる。


 扉から入ってきた人が、のんびりとした声を上げる。


「おや、ようやく念願叶ったのか」


 ぎゅうぎゅうとフレイ様を抱き締めながらようやく先ほどの言葉と今の言葉の意味を理解する。


「すでにご存じでしたか」

「……ミルティア嬢を人質にした魔獣だと思って、ギルド員総出で討伐しようとしたら、全員返り討ちに遭った」

「やはり討伐対象と認識されていた!?」


 フクロウの姿でもギルド員総出の戦力に負けないフレイ様……強い。


 でも、そうなると私は副ギルド長の前でフレイ様を抱き締めていることになる。


「あ、あわわわ!!」


 慌てて手を離して逃げようとした私は、なぜか転がっていた薬瓶で足を滑らせた。


『ホホゥ!!』


 フレイ様は慌てて私を支えようと目の前に飛びこんできたけれど、フクロウ姿で支えられるわけもなく二人で床へと倒れ込む。


 唇に尖ったくちばしが触れる。

 絶対に痛い! と思った途端、なぜかそれは柔らかい感触に変化した。


 それは私のファーストキスにカウントされるかどうかは微妙なラインの【事故ちゅー】に違いない。


 けれど倒れ込んだ身体は、跪いたフレイ様にしっかりと支えられる。

 なぜか押さえられた後頭部と、まるでフクロウが啄むように離れて再び押し付けられる唇。


 2回目のこれは【事故ちゅー】ではない、ゼッタイに。


「……フレイ様、その呪いは真実の愛でしか解けないのでは」

「そうだな、検証の余地はあるが……幼い雛のような君に真実の愛についてはゆっくり教えるとしよう」


 不満の言葉は大人な口づけに塞がれ発することができなかった。


 * * *


 その呪いは、口づけでは完全に解けなかった。

 のちの検証では口づけで呪いが解ける時間は半日。

 しょっちゅう口づけすることになった私たち、夜はフカフカのフクロウを抱き締めて眠る至福の時間。


 最高級の魔石をもらった私はご機嫌だ。けれど、本当の意味で呪いが解けるまではまだ少しの時間を要する。


 そのとき私は、自分がまだまだ雛だったことをようやく思い知らされるに違いない。




 



モフモフヒーロー好きによるモフモフヒーロー好きのための自主企画参加作品です。


モフモフヒーローお好きな方は、是非『モフモフヒーロー主義』タグで検索してみてください♪

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[良い点] 『その可愛さに上書きされてしまう』状況……分かります。 可愛さと凛々しさを兼ね備えた、イケオジフクロウ様が、素敵過ぎました。 ヒロインと番が、種族を越えて分かり合うシーンが可愛いくて、大好…
[良い点] 年の差で、さらに自覚が薄い主人公というのがグッときました(*^▽^*) イケオジの過保護が加速するのも分かります。 色々と目が離せません。 改めて、素敵な企画をありがとうございます!
[良い点] フクロウとイケオジ!フカフカの毛並みときっと低音ボイス! サイコーの組み合わせです(//∇//) そして!なぜか転がっていた薬瓶!グッジョブ^_−☆ [一言] 今日からモフモフ祭り!素晴…
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