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死が2人を分つまで  作者: 雪月花
テイク2
5/26

終わりの条件


 この日は朝早くに目が覚めた。

 この日が来るのが嫌すぎて、寝付きが悪かったのもあるのかもしれない。


 俺は朝の支度をし、執務室にいた。

 いつもは嫌な書類仕事を進んでこなす。

 なにか違うことをして、この不安な気持ちを少しでも考えなくしたかったのかもしれない。


 そんな時に、廊下からバタバタと、誰かがここに走ってくる音が聞こえた。


「おはよう!」

 いつものように、俺の部屋の扉を『バァン!!』と無遠慮に開けながら、側近のネイロが飛び込んできた。


「…………」

 俺は顔を思いっきり横に向け、あからさまにネイロを拒絶した。

 ネイロがツカツカと執務机の前まで来て、バンッと机に両手をついた。

「今日はウロの日だぜ! なんだよアドニス。今さら嫌って言っても出てもらうぞ」

 

 俺は顔を横に向けたまま不貞腐(ふてくさ)れた顔をした。

「……嫌だ」

「相変わらずワガママな王だな。前回のウロはアドニスが捕虜になって終わってるから、今回参加しないと、国民たちは王は怖くなって逃げたと思うぞ」

「…………もう、それでいい」

 俺が投げやりに言うと、ネイロが詰め寄ってくる。

「良くない! 今日決着がついてもいいから出ろ! 何なら負けてもいい!」

「えー……でも、その勝ち負けって何で決まるんだ?」

 俺は何気なく聞いたつもりだった。


 ウロボロスが終わる条件。

 どちらかの国が〝負けました〟と宣言すればいいのだろうか?


「…………」

 珍しくネイロがなかなか発言しなかった。

 口を引き結んで眉をひそめていた。


 俺はネイロに顔を向けて、戸惑っているネイロに言葉を続けるように目線を投げかけた。


「……決着は……」

 俺の視線を受けてか、ネイロの口がゆっくり開く。


 そして衝撃的な真実が語られた。




「アドニスかティアのどちらかが死んだ時だ」




**===========**


『ピーーーーーーー!!!!』

 耳障りなウロボロスの開始音が鳴った。


 ここはウロの舞台である荒れ果てた町。

 俺は結局ウロに参加していた。


 いつものように隣に立っているネイロが、俺にボソッと言葉をかける。

「アドニスに〝負けてもいい〟なんて冗談言ったけど、わざと死ぬなよ」

「さすがにそれは無いけど……俺はどんなテンションで戦えばいいんだ……」

 完璧に意気消沈している俺は、ゆるゆると剣を構えた。


 俺かティアが死ぬまでウロが続く!?


 なんで?

 何のために?


 ティアが死ぬなんて結末は論外だ。

 出来ることなら守ってやりたいぐらいなのに。

 かと言って俺も死にたくない。


 じゃぁどうすれば??


 ーーーー


 そんな思考のループにはまっていた。




「アドニス!!」

 近くでネイロの怒号が聞こえた。


 ハッとして前を見ると、敵国の赤目の魔女の……ティアのスピアが目の前に迫ってきていた。


「……!!」

 俺はとっさにスピアの剣先めがけて剣を振り下ろし、彼女の攻撃を止める。

 そして横へスピアをいなして反対方向へ飛びのき、ティアと距離を取った。




 敵であるティアの姿を目でしっかりと(とら)える。

 それと同時に俺は絶望した。


「そんなっ!!」


 ティアを見た途端に理解してしまった。

 先ほどまでグルグル考えていた悩みの答えが出てしまった。


 ……ティアをこの手で殺してしまえばいいんだ。

 そのための……ウロが始まったら膨らんでしまう殺意!




 彼女がいなくなってしまうのは絶対に嫌なのに、自分の手にかけてしまえば満足するのでは? という狂った考え方に頭の中が塗り替えられていく。


 そしておそらく……ティアも同じ感情を抱いてるんだ。


「アドニス、気付いたの?」

 ティアがニヤリと笑いながら、スピアを無慈悲に俺めがけて振り下ろす。


 俺はそれを剣で振り払うようにして跳ね返す。

「なんで……なんで俺たちは、こんなことさせられてるんだ!?」

 叫びながらも、体はティアに向かっていく。


 彼女の心臓に剣を突き立てたくて(たま)らない。


「それが……私たちの存在意義だからっ!!」

 ティアも悲痛な叫び声を上げながら、俺に向かってスピアを向ける。


「分からないっ! そんなのおかしい!! 俺はこんなにティアを愛してるのに、殺し合うなんて、おかしい!!!!」

 想いをぶつけるように、ティアに向かって渾身の一撃を放つ。

 それを予感したのか、彼女は後ろに向かってヒラリと飛びのきながら攻撃を受け止め、威力を半減させてなんとか(しの)いだ。


「ハァ、ハァ…………アドニス……」

 距離を取ったティアが、大きく肩で息をしながら俺を切なげに見た。


「……私たちはウロの開始音を聞くと、相手への殺意が生まれて……回数が増えるにつれてどんどん大きくなっていくの……」

 ティアが静かに語り出した。


 俺は泣きそうな表情で彼女を見つめ、言葉の続きを待った。


「愛する気持ちと殺したい気持ちが混在する……それを脳が混乱してイコールだと勘違いし出すの。愛することは、殺すことだと」

 ティアはそう言いながら目に涙を溜めていた。

 

 そして、ニッコリと笑った。

「それが続くと、優しいアドニスは壊れちゃうんだ」


 彼女の頬を涙がいく筋も流れ落ちた。


「だから……」

 ティアが目を閉じて口元に穏やかな笑みを浮かべる。

 彼女を夢中で見つめている俺は、辺りの喧騒が聞こえなくなった気がした。


「記憶を消してあげるね」

 最終通告のような冷たい声がすると、ティアの赤い目が開かれ、俺を射抜くように見た。


 その瞬間、ティアに()()された。


 それを受けた俺の意識が勝手に遠のいていく。


 ……そうか。

 俺の記憶は……

 ティアが消していたんだ。




 狭くなっていく視界の中、赤目の魔女は満足そうに笑い続けていた。



 


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