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死が2人を分つまで  作者: 雪月花
テイク2
3/26

ティアの想い


『ピーーーーーーー!!!!』

 ウロボロスの開始音が辺りに響いた。


「今日のアドニスは珍しく、やる気がみなぎってるな」

 隣に立っている側近のネイロが俺を茶化すように笑った。


「……まずはレノを倒す」

 俺は前方にいるレノを見据えたまま、ネイロにそう告げて、剣を構えた。

 そして宣言通りレノに向かっていった。


 後に残されたネイロが誰に聞かせるわけでもなく呟いた。

「アドニスは、意欲的になると誰よりも強いからな。今日はもっと面白くなりそうだ」

 彼はニヤリと笑いながら、戦い出した両国の王をしばらく眺めていた。




 力任せにレノに剣を振り下ろしながら、俺は叫んだ。

「今日は決着をつけさせてもらう!」

「くっ! こっちこそ!!」

 俺より力の弱いレノが、必死に攻撃を剣で受け止めながら言葉を絞り出す。


 今日の俺は、面白いように上手く戦えた。


 前回より剣に力をのせることができ、素早い振りから繰り出される一撃は、相手を(ひる)ませた。

 頭はとても冴えており、レノの一挙一動が遅く感じるほどだった。

 そしてその勢いのまま、俺は一歩踏み込み、渾身の力で剣を下から上へと振り抜いた。


『ガンッ!!』

「……っ!!」

 その強烈な一撃はレノの剣を跳ね飛ばした。


 武器を失ったレノの表情が焦りに変わる。


「これで終わりだ!」

 レノにトドメを刺そうと剣を構え直した時だった。




「今日は戦いモードなんだね」

 いつの間にか俺の後ろに立っていたティアの声がすぐ近くでした。


「ティア!? ……!!」

 思わず振り向くと、スピアの一振りが襲いかかってきたので、剣で防ぎながらすぐさま横に退(しりぞ)いた。


 俺が防御に反転した隙に、ティアがレノの前に立つ。

 腕の傷はもう治ったようで、普通に腕を動かしていた。

 速すぎる傷の治りに少しだけ不審に思った。

 



「2回連続の参戦。強い闘争意識。素敵だね」

 ティアがスピアを構えた。

 そしてギュッと握る力を強めながら、ニヤリと笑いながら続けた。

「ダメだ。我慢出来ないかも」

 彼女は後ろにいるレノに少しだけ顔をかたむけた。

 目線は相変わらず俺を捉えたまま。


 この状況が嬉しいのか、ティアはゾクゾクして頬を上気させていた。


「ティア……まだダメだよ」

「分かってるわよ。レノ」


 敵の彼らは2人にしか分からない話をし出した。

 俺はその状況に苛立ってきていた。


「ずっと喋ってるなんて余裕だな!」

 気持ちをぶつけるように叫ぶと、俺はティアに斬りかかっていった。


 今日こそ彼女を連れて帰る!!




 ーーーーーー


「アハハハ! 久しぶりだね!! こんなに戦うのは!」

 楽しそうなティアの笑い声が響く。

 それと共に、彼女の隙の無い連撃が俺に襲い掛かる。


「クソッ!! ……強いっ」

 俺は防御に必死で攻撃することが出来なかった。

「アドニスは今日、この前より戦いやすかったでしょ? それは戦おうとする意思が強いから。それに呼応して私も強くなるの」

 彼女は踊っているかのように、ヒラリヒラリと舞いながらスピアをぶつけてくる。

 俺の服や髪先を刃先が(かす)っていく。


「今日は戦いモードが久しぶりすぎて、私にも影響が強いみたい」

 ティアが目を細めてニヤリとまた笑う。

「……さっきから久しぶりって、何だよっ!!」

 俺はティアがスピアを大きく振り抜いた隙に、踏み込んで剣を打ち下ろした。


「フフフッ。私は昔からアドニスを知ってるから……ねっ!」

 彼女は俺の攻撃をヒラリと横に避けて、スピアの(つか)の先端で肩を力強く突いてきた。


「うわっ!」

 俺は不意の攻撃に、後ろに倒れた。

 

 しまった!


 俺の目線の先には、倒れた俺にまたがって立ち、スピアを両手で振り上げて笑う魔女がいた。


 その瞬間、彼女の光悦とした表情の瞳に、俺と同じ気持ちを宿していることに気付いた。


 ーー俺を殺したいんだ。




『ピーーーーーーー!!!!』

 ウロボロスの終了音が響いた。


『ザクッ』

「…………」

 そのワンテンポ後に、ティアのスピアが俺の顔の真横の地面に刺さった。


「今日はアドニスが捕虜だね」

 さっきまでと別人かのように、ティアがニッコリと俺に笑いかけた。




**===========**


 捕虜となった俺は、何故か手厚い歓迎を受けていた。


 敵国であるはずのリュシー国の城内で、従者たちから甲斐甲斐(かいがい)しくお世話を受けている。

 戦場で汚れただろうからと、少し早めの湯浴みも入れてくれた。

 そして新しく用意してくれた服に袖を通し、拘束されることなく、豪華なゲストルームに通されていた。


「…………」


 ーー何なんだ?

 この待遇は?

 敵国の王だぞ?


 違和感を抱くが、誰にも聞くことが出来ない。

 困惑したまま部屋の大きな窓際に立ち、そこから見える城下町を何気なく眺めていた。


「アドニス、ディナーの準備が出来たよ」

 そこへ、美しく着飾った淡い水色のドレス姿のティアが訪ねてきた。

 嬉しそうに俺に近付くと「来て」と言って腕を引っ張った。


「ディナー?」

 俺は素直にティアについて行く。

「そう。2人でのディナーは久しぶりだね」

 腕にピッタリくっ付いて歩くティアは、ニコニコ笑っていた。


 また〝久しぶり〟って言った。


 ……ティアと俺は、会ったことがある?


 …………


 俺はあどけなく笑う彼女を見つめながら記憶を探ったが、何も思い出せなかった。




 それからティアと2人で夕食をいただいた。

 給仕が用意してくれた豪華な食事を口に運びながら、時折りティアと会話をする。

 

 さっきまで戦っていたとは思えないほど、穏やかなひと時だった。

 こうしてウロ以外で会う彼女には、不思議と殺意は湧かなかった。

 純粋に好きだと言う気持ちだけが残っている。

 ティアからの俺への好意も確かに感じる。


 嬉しい反面、ここは敵国であり、ティアはレノの恋人のはずなので、気持ちにブレーキがかかる。


「……レノは?」

 気になって仕方ないので、思わず彼の名前を出した。

「お仕事してるかな?」

 ティアが首をかしげながら答えた。

「俺と2人きりでレノは何も言わないのか?」

「え??」

「……だから……ティアはレノの恋人だろ?」

「あぁ。なるほどね。違うよ」

 ティアはそう言い切ると、小さく切ってフォークに刺した食べ物を口に運んだ。


「違う?」

「うん。レノはメンテ……簡単に言えば、私のお医者さんなの。ウロで負った傷を治してくれるのよ」

 ティアはそう言って、前回俺が切った腕を袖をめくって見せてくれた。

 そこは確かにざっくり切れたはずなのに、跡形も無く綺麗になっていた。


「魔法?」

「フフフッ。そう。レノだけが使える魔法なの」

 ティアが口元を押さえながらクスクス笑った。

 何かをはぐらかされている雰囲気を感じたが、ティアの楽しそうな様子に何も言えなくなっていた。




 ディナーが終わると、俺がいたゲストルームに戻り、2人で寄り添ってソファに座りくつろいでいた。

「ティアは昔から俺を知ってるって言ってたけど……いつから?」

「んー? いつからかな。だいぶ前からだね」

「俺は会ったこと無いんだけど……」

「…………遠くから見てるだけだったから」

 ティアが少し(うつむ)いて、寂しそうに笑った。


「何で?」

「ずっとずっと好きだから」

 ティアが顔を上げて、俺の瞳を覗き込んだ。

 頬を薄っすら赤く染めて、真剣な表情をしている彼女は美しかった。


「…………俺を殺したくなる程に?」

「!! ……そう。私を殺したいと思っているアドニスと同じなんだよ」

 初めは俺の発言に驚いて目を見張ったティアだったが、ゆっくりと目を細めて微笑んだ。


「俺も好きだ」

「……嬉しい」

 

 俺たちは、どちらからともなく顔を近付け口付けをした。


 彼女の細い体を抱きしめ、そこにいるのを確かめるように名前を呼ぶ。


 お互いに愛を囁き合い、肌を触れ合わせた。


 



 そうして俺とティアは一夜を共にした。



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