ゴミ拾いには福来たる? 野辺山高校ごみ拾い部活動日誌
野辺山市立野辺山高校ゴミ拾い部 裏では良い子ちゃん部と呼ばれているが俺は気にしない。
ゴミ拾い部 俺が去年立ち上げた部活である。裏の話をするならば部活の部長と言う内申点目的である、やっぱり限りなく黒に近くても確認のしようがないしね、だが不正はしていないルールに則ってこの部活を立ち上げた。何故そんなことが可能かと言えば理由は至って簡単である。この野辺山市立野辺山高校はたとえ1人だろうと部活を立ち上げることが出来るのである。
その代わり部費もほとんどなく、部室もないので教室で1人悲しく下校時刻が来るのを待つだけだが。その間は本でも読んでればすぐに過ぎるし重宝している。
だがそんな平穏な日々はなんの前触れもなく終わりを迎えた。
部長である俺、神崎悠馬は放課後、俺以外に2人いる部員のうち暇だった足立梨花を道連れ……じゃなくて部活動として河川敷の清掃は来ていた。もう1人の部員のエルザは本の発売日だからと言う理由で休み。
そんな理由で休むやつを部員と言って良いのかと何回思ったことやら、だが俺もなんの前触れもなく部活自体休みにするからなんにも言えない。
エルザは名前からも推測できる通りイギリス人の母を持つハーフである母親がルーツの金髪に対して教師人の目が光ることも多いが、時々母親が学校に乗り込んで何かすると翌日には静かになる。
エルザの生まれは日本で5歳の時に一度、母の母国であるイギリスに帰り中学生になる前に日本に戻ってきたそうだ、その為イギリス訛りだが英語も堪能、日本語もできてクラスでは英語の授業の通訳として一役買っている。とまぁ、そんな話は置いといてエルザ本人の話としては国籍上は日本人と言う扱いになるらしい、詳しく聞いたわけではないがそんなことを話していた。
父はイギリス駐在の外交官で今もイギリスに単身赴任中。最後に会ったのは去年だとか……。決して親子関係、夫婦関係が悪いというわけではなく、お互いの事情はお互いきちんと理解している。
足立と共にゴミ拾いを始めて約20分持ってきた野辺山市専用ゴミ袋は大量のペットボトルとビニール袋が溜まり始めて来た。
俺は手に持つこのトングでそこに沈んでいるゴミを拾い上げていると底の石の隙間に鈍く光丸い金属を見つけ、トングで掴み上げた。
「お、100円だラッキー」
「泥棒ですね」
水中に沈んでいた100円玉を拾い上げ、目の前で俺と同じように腰を屈めていた足立に見せつけるがあまり反応は良くない。それどころかゴミを見るような眼差しで「泥棒ですね」と一言吐き捨てた。
「ゴミ拾いには福来たるだ、落とす神いれば拾う人間もいる」
「落としたのが神だとは限りませんけど」
うちの部員1号足立はこっちを一切見る事なくゴミ拾いを続ける。
もっとこう、なんて言うの? 反応があっても良いと思うけど、もしかしたらこれが足立なりの照れ隠しなのかもしれない……訳ないな。足立にそんな可愛いところがあるとは思えないし、たとえあったとしても俺にそんなことする訳ないし。
「そうだな」
俺が仕事に戻ろうと足を出した瞬間、後ろにいた足立が「あっ」っという可愛い声と共にバシャッと言う水を切ったような音が聞こえ、何事かと思い後ろを振り返ると、足立が悪い顔して、手のひらをこちらに向けて出していた。嫌な予感がする……。こんな笑み浮かべた足立なんて見たことない。絶対に碌なことにならないぞ。
「それ私が落としました、だから返してください」
ほーらね、碌なことが起きない。そんなことだと思った。
「絶対嘘だろって思ってますよね」
っ! コイツ、人の心を的確に読んでくる。
「……うん? そんな事ないよ、でもさ本当? この100円落としたのが足立なの? 嘘はよくないよ、お母さんに脅されなかった? 嘘つきは泥棒の始まりって」
これは俺の実体験だ。ゲームが欲しい時にみんな持ってるよ! と言うと必ずこの言葉が返って来た。
でもね、勉強の事になるとみんなやってるんだからやりなさい! って怒鳴られて、俺はこの経験である事を学んだ。大人は汚いって。
だが俺も汚くなる!
「嘘じゃないわよ、だって私が落としたんだから本当のことでしょ」
確認しようがねぇじゃねぇかよ。
「私、嘘つかないから」
「そんな100円が欲しいのか?」
「うん、欲しい」
うわー、欲望丸出し。隠す気もねぇよ。
「それ私のなの、だがお願い返して」
「チッ、ほらよ」
足立の手に極力触れないように俺は仕方なく100円を乗せた。セクハラとか言われたら困るしね。自衛しないと。
「ありがとう」
「どういたしまして」
足立は100円を儲けたと言うほくほく笑顔でその100円をポケット入れた。一方の俺は俺は自分の頬が引き攣るのがよくわかった。だが100円の得はあったかもしれない。
胸元に透けるライトブルーの丸い二つの生地、その間に挟まれた白い肌。へぇ。足立はライトブルーねぇ、良いのつけてるじゃん。
足立は全くその事に気づいていない。
だが足立が俺の視線に気づき、自分の胸元を見た瞬間、その顔をまつ毛の先まで真っ赤に染め、両腕で覆うようにして胸を隠した。
「見た?」
「……いいえ」
「この変態‼︎殺してやる!」
後退りして反論しようとするが足立はサッとその距離を詰める。
「事故だって水着とーーー『バチンッ!』ーー」
一緒だろそう反論しようとしたが反論の余地を一切与えられずに振り上げられた足立の細い腕が俺の顔面を捉えたのはそのすぐ直後の事であった。
たとえ反論できたとしても結末はさほど変わらなかったのかもしれない。
「へ! ヘックシュン! なんで俺こんな濡れてるの?」
ずぶ濡れになり一気に重くなった制服を脱いでいるとくしゃみが出てくる。まだ春先の川は冷たい。
水に濡れたくない足立は俺から少し離れた位置で持参したタオルで濡れた足を拭いていた。
「大丈夫? だから水辺は危険なのよ」
足立はポケットティッシュを取り出し、俺に差し出すとお母さんのような優しい口調でそう注意されたがちょっと待て。話が違う。
「記憶を改竄するな」
「あら違った? あんたが躓いて溺れかけたから私が助けてあげたのよ」
「そんな記憶はない。確かライトーー」
「何か言った?」
「いえ何も」
河原の鋭い石を喉元に突きつけられれば何も言えない。
俺は自然と両腕を頭の後ろに回していた。
足立はふらっと立ち上がり俺の背後に周り、頭の後ろにあった手を左手で掴み、動かさないようにするとギリギリ聞き取れるほどの声量で呟いた。
「じゃ今から少し寝てもらうから」
暴れてもがいて逃げ出そうするが拘束が解かない。
「えっ? ちょ! 待ってやめて!…ッ!……」
俺はそこで再度意識を手放した。
少しして目が覚めると足立のいた痕跡は全て消されていたが一つだけここに足立がいた事を証明するように、脱ぎ立てのストッキングが放置されていた。
まだ暖かい。だから俺はここ10分ほど俺は意識を失っていた事になる。これは、ゴミじゃないな。うん。きっとそう。
キョロキョロと左右を確認して足立がいない事それと通行人がいない事を念入りに確認して、そのストッキングを熟練のスリ師のようにポケットに入れ持ち帰った。
もちろん拾ったゴミも持ち帰った。
母なる地球は大切に