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目指すもの

 長かった受験生活も終わり、俺もついに憧れの西東京高校に入学した。西東京高校は、都内有数の進学校で、東大現役合格者も毎年多数輩出している名門校だ。俺もその例に漏れず、東大に現役で合格することを目指してこの高校に入学した。今、その一歩を踏み出そうとしている。思えばほとんど勉強ばかりしていた中学時代だったけど、すべてはこの学校に入学するためだったので、他の人には味気ない中学生活だと思われてしまうかもしれないが、別に後悔はしていない。これから更なる飛躍のために、勉強により一層精を出し、そして‘東大に現役合格する’という新たな目標のために頑張っていきたい。理想としては、可愛い彼女をつくり、その彼女と一緒に東大に現役合格して、華やかな大学生活を過ごしていく足がかりとなるような高校生活を送れればいいと思う。そこら辺のやつでも考えそうないたって単純なものだ。ただ、その単純なものであっても俺が設定する目標を達成するには人並ならぬ努力が必要だということは自覚している。受験戦争の厳しい荒波をしっかりと乗り越えていける学力を身に付けて受験戦争を勝ち抜き、そして、卒業式には笑顔でこの学校を去りたい。今の自分にとっての究極の目標だ。俺はこの目標を達成するために学校の勉強だけでは物足りないと思い、予備校へ通うことにしている。親にはまだ早いと反対されたが、最後には俺の情熱に折れて予備校に通うことを許可してもらった。できれば春期講習から通いたかったが、そこは中学校の内容の復習で補ったから問題ないだろう。この新たなミッションを達成するため、授業が始まるのが待ち遠しかった。待っていろ東大!


 入学式が終わった。校長先生の長い挨拶には少し退屈を覚えた。この少しゆったりとした雰囲気がこれから始まる試練の前のつかの間の休息といえよう。俺はそんなことを考えていた。教室に戻ると、そこには受験戦争を勝ち抜いてきたライバルたちが少し硬い表情で黙って座っている。隣の人と話すこともなく、少し緊張気味に担任が来るのを待っている。俺は机の上に置いてあった配布資料を読んだ。そこには、学校の歴史や、授業に関する注意などが書かれていた。西東京高校では通常の授業と別に選択授業として受験対策講座が一年のときから設置されている。この学校に通う生徒の8割以上がこの選択授業を履修している。その授業内容は評判がいいらしく、この高校から東大に進学する生徒の実に9割は何らかの授業を一年生のころから履修しているらしい。一年生は英語、国語、数学の三教科が設置されており、当然ながら俺は英語、国語、数学の三教科を受講することにしている。レベルは高くなるだろうが、この選択授業が始まるのが今から待ち遠しい。

しばらくすると担任がやってきた。細身の体形で、見た感じは三十代前半くらいの容貌だろうか。すらっとした体形にスーツがよく似合う。先生は教壇の前に立つと、一通り教室を見渡し、深々と頭を下げてから挨拶を始めた。

「皆さん入学おめでとうございます。今年一年君たちの担任を務めることになった池永です。担当教科は現代文です。一応私もこの学校の出身なので、授業のことだけでなく、学校生活で分からないことがあったら何でも聞いてきてください。」

池永先生は簡単に挨拶をして、今度は俺たちに自己紹介をさせた。みんな当たり障りのない挨拶に終始していた。そういう俺もみんなと同様に名前と出身中学校を言うにとどめた。ここで東大に現役合格しますと高らかに宣言してもいいところだが、万が一にも失敗したときのことを考えたら赤っ恥をかくだけだから今回は挨拶だけにとどめておいた。みんなが挨拶をしている中、俺は周りを見渡していた。新しいクラスの醍醐味と言えばかわいい女子探しだが、このクラスには俺好みの女子はいなかった。天は二物を与えないものか・・・勉強ばかり頑張ってきたんだろうなっていう女子しかいないように思えた。まぁ、恋愛はあくまでも二の次だからかわいい女子がいなければかえって勉強に身が入るのでいいのかもしれない。

 真面目そうな人たちのありふれた挨拶に飽きていたころ、俺の耳を疑うような挨拶が聞こえてきた。

「村上龍一です。武蔵野中学校出身です。中学ではバスケットボールをしていたので、高校でもバスケ部に入ってインターハイに出場したいです。みなさんよろしくお願いします。」

一瞬耳を疑ってしまった。俺には村上の発言が理解できなかった。なぜ進学校に入学したのに、部活でインターハイを狙うなんてことを宣言するのだろうか。全国大会に行きたければスポーツの強豪校に進学すればいいのに、何でクラブ活動の実績に乏しい西東京高校に入ってきたのだろうか理解に苦しむ。ただ、これでライバルが一人脱落したわけだから村上には頑張ってインターハイを狙って勉強を疎かにしてもらうことを願いたいものである。村上の挨拶の後は、これといった特異な挨拶もなく淡々とした自己紹介が続いた。


 自己紹介の後、池永先生から授業に対する諸注意を受け、今日は下校となった。俺は帰りがけに予備校へ入学の申し込みをしに行くことにした。自転車置き場に行くと、同じ中学校だった島谷がいた。中学時代はクラスが一緒になったことはなかったが、この高校を受験することを知ってから急に仲良くなった。

「島谷!」俺は島谷に声をかけた。

「おお、江藤か。今帰りか?」

「あぁ、でもこれから予備校に入学手続きしに行くんだけどな。」

「もう勉強か、江藤?まだ入学したばかりなんだし、そんなに焦ることはないんじゃないか?」

島谷は少し呆れ気味に俺に言った。

「いや、みんなが始めていない今だからこそスタートダッシュをするにはいいんじゃないか!島谷だって目指すんだろ東大?」

俺は自分のポリシーを強く主張した。

「行けたらいいとは思うんだけど、せっかく高校生になったんだしさ、バイトとか恋愛とかもっといろいろなこともしてみたいんだよな。」

島谷は一般的な高校生が考えそうなことを話した。

「甘いぞ島谷。そんなことでは東大に現役で合格だなんて夢のまた夢だぞ。」

俺は島谷の考えの甘さを指摘した。

「まぁ、そうかもな。でも、俺はとりあえず高校でもバスケしたいからバスケ部に入ることにするよ。」

島谷はのんびりとした口調で答えた。島谷には勉強は今のところそれほど重要ではないようだ。

「あ、バスケ部っていえば、うちのクラスに自己紹介の時にバスケ部入ってインターハイ目指すって言っていたやつがいたぜ。」

「え、マジで?」

島谷はこれまでと違ったトーンで返事をした。

「あぁ、村上ってやつが中学でバスケをやっていたから高校でもバスケしてインターハイに出たいって。」

「へえ、この学校で部活似入るやつなんて半分もいないみたいだからそいつは貴重だな。」

島谷は少し嬉しそうに話した。

「そうだな。お前もそうだけど、何で進学校に入ってわざわざ部活するんだ?」

俺は本音を言った。

「よくわからないけど、俺みたいにバスケとかが好きなやつか、お前みたいに目標がはっきりと定まっていないから、とりあえず部活でもするかってやつとかじゃないの?」

島谷は俺の本音に少しいらだったのか、低いトーンの口調で答えた。

「でも、よかったな。お前が部活に入ったら新しい仲間ができそうだし。」

俺は慌ててフォローした。

「そうだな。そうと決まれば俺も真っ直ぐ家に帰らないで新しいバッシュでも買って帰るかな。」

俺の間髪いれないフォローのおかげで島谷の機嫌が少し良くなったようだ。その後、俺たちは軽い言葉を交わして別れた。俺は帰りに吉祥寺に行き、予備校の入学手続きを済ませた。


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