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4-09 姉の小説に転生しました。

 俺は手に持ったエリアス魔法高等学院の招待状を見て気づいた。

「ここ、姉の小説の世界だ」

 俺は姉が書いた『その悪役令嬢の手紙には』という小説の舞台に転生した。しかもビルバードという名前も聞いたことのないモブキャラに。

 ゲームの世界に転生する小説の世界に転生するというよくわからない状況だ。まあ小説自体は割とご都合主義的な展開だし、その通りに物語が進めばハッピーエンドに……。

「最後の最後でこの星が爆発する」

「………なんで?」

「人類は跡形もなく滅ぶ」

 姉……! なんでそんなプロットにしたんですか姉……!

 なぜか一緒にこの世界に転生していた姉の手駒として、元の世界へ戻るため、この星の滅亡を回避するために、今日も俺は奮闘する。

「ところで俺、ビルバードっていうらしいんですけど、どういうキャラなんですか?」

「誰だお前は。そんな奴知らん」

 作者にそう言われたらお終いなんですが。


「悪役令嬢モノ、というジャンルを知っているか?」


 と、ある日姉に聞かれたことがある。


「まあ、耳にしたことはあります」

「うむ。ざっくばらんに言えば、乙女ゲームの主人公のライバル役である悪役令嬢に転生するという奴だ」

「異世界転生ってやつですね」


 完璧超人然とした我が姉が、こんな類の話をするとは思わなかった。

 座布団に正座する俺の前で、気品あふれる我が姉は足を組み直す。


「そんな悪役令嬢モノの小説を」

「……『を』?」

「書いてみた」

「書いたんですか!? 姉が!?」


 この姉が!?


「これを見てみろ」

「うわぁ本になってるぅ……」


 さらっと書籍を渡される。表紙にはきらびやかな登場人物のイラストと、『その悪役令嬢の手紙には』というタイトル。

 見るからに悪役令嬢モノである。だってタイトルに入ってるし。


「略して『そのレタ』という」

「……手紙?」

「入学予定の学校から来る手紙を読んで、それがゲームの中で読んだ手紙の内容と同じで──というところから記憶を取り戻し物語がスタートするんだ」

「なるほど」

「なお物語終盤に某所に送られていた転生前の悪役令嬢の手紙が大量に見つかり、なぜゲームの悪役令嬢が虐めなどの行為をしていたのかという真相が判明するというタイトル回収にもなっている」


 酷いネタバレを作者本人から食らった件。


 で、姉が黙って小説家デビューを果たしていたのはまあ姉が姉だから良いとして、なぜこのタイミングで俺にカミングアウトしたのかと言えば、


「男子目線での感想が欲しい。あと気に入ったら布教しろ。ということでさっさと読め」


 とのこと。

 相変わらず弟使いの悪い姉なのであった──。



 ──というワンシーンを思い出した現在。

 大量の情報を叩き込まれたように頭が痛い。


 俺の手の中にある手紙。その文面は、非常に既視感を覚えるものであった。というか完全に()の小説の冒頭だ。

 内容の要約をすれば、「あなたには魔法の才能があるから、特別にエリアス魔法高等学園への入学が可能ですよ」というもの。


「ここ、姉の小説の世界だ」


 色々調べた結果、ここは『その悪役令嬢の手紙には』の舞台であることがわかった。


 そこにこう、多分異世界転生って奴で、俺がいると。この世界の俺はビルバードという名前らしかった。


 しかしここで問題が一つ。


 俺、このビルバードってキャラ知らないんだけど。

 誰なんだこいつ。



「へー、結構格好いいじゃん」


 暫定妹が制服を褒めてくれる。あくまでビルバード君の妹であって、「俺」の妹ではない。


「エリアス魔法高等学園のデザインセンスがいいだけだろ」


 というか『そのレタ』のイラストレーターのキャラデザがいいだけである。さすがにキャラデザまで姉が手掛けてるってことはないよね……?


 俺はエリアス魔法高等学園指定の制服を買いに、王都商会の馬鹿でかい服屋まで妹と来ていた。貴族様用の店なので場違い感半端ない。


 エリアス魔法高等学園は基本的に貴族のための学園だ。というか魔法は基本的に貴族にしか適正が現れないので当然である。


 だが稀に、普通の市民の家庭から魔法適性のある子が産まれる場合がある。それが俺であり、どこのモブキャラともわからないビルバード君ということになる。

 その大半は平凡な能力で終わり、普通に魔法とは関係ない仕事に就職したりする。


 その中で特異なのがゲームのヒロインちゃんというわけだ。実際は王族の血を引いてるらしいので当然ではある。


「女性用の制服もかわいいし、私も行きたいな〜」

「行けるといいな」

「多分ムリだけど」


 暫定妹と二人で帰り道を歩く。

 街並みの異世界感がすごい。貴族制があるので西洋風な雰囲気はあるのだが、どこか現代的な清潔感もある。あとやたら彩りが良い。ヨーロッパの街並みというよりは、ファンタジーゲームの舞台だろう。

 格闘ゲームくらいしか触らないのでよくわからんが。


 数日経っても夢から覚めたりする気配がないため、本当に異世界転生したみたいだ。元の世界へ戻る方法を探したいところだが、一般市民であるビルバード君では取れる手段が少ない。


 一応姉の小説の知識はある。姉の小説の主人公は正規の攻略法だけでなく、仕様の裏技とかバグ技とかも使ってたりしてたから、その辺は利用できるだろう。


 問題は俺がビルバード君の事を何も知らないということだな。なんで名前も覚えてないようなモブキャラに転生するかね。


「どうやって成り上がるか……」

「どうしよう。兄さんが急に野望に目覚めた。私は巻き込まないでね」

「生活に困らないくらいの立場がほしい……」

「身の程を知りすぎてるよ。てかそれくらいなら大丈夫でしょ。現状維持でしょ」


 暫定妹がうるさい。

 このビルバード君は何かしら戦闘訓練を受けていたのかもしれないが、俺は元の世界ではただの格ゲーマーなのだ。


「学園でいい成績残せばいいんじゃない?」

「お前俺の魔法適正知ってて言ってんのか」

「知らないけど。見せてくれんの?」

「まあ別にいいが」


 ちょうど入学書類がある。制服を購入するのに証明として必要だったのだ。そこには魔法適正も書いてある。


「これ」

「ふむふむ……うわぁ」


 なんとも言い難い表情をした暫定妹は俺に向かって手を合わせ、


「ご愁傷さま!」

「殴るぞ」


 こんなんでも魔法持ってない一般人相手なら有利取れるんだからな。


「つかそれ大事な書類だから返せ。無くすと入学できなくなる」

「分かってるって。はい………きゃっ」


 突風。

 手から離れた入学書類。

 紙は風に煽られ彼方へと。


「──やばっ」

「──バカヤロウっ」


 俺たちは風に舞う入学書類を追いかける。ヒラヒラと舞う一枚の紙は路地、それも馬車の裏へと吸い込まれた。


 明らかに貴族の馬車と見られるそれを避けて進む……あれ? この家紋どこかで見たことが──。


 いや、今は入学書類優先だ!


 路地を進むと、その先に誰かの影があった。


「ラズベリー公爵家令嬢、クリスティ・フロー・ラズベリー! その命もらい受ける!」


 短剣を構えた男。そしてその奥へと入学書類は飛んでいく。


「な、貴様何奴──」

「──邪魔だ!」


 驚く短剣男の中段突きをステップで切り込みながらカウンター。顎先にフックを入れたらいい感じにノックアウト。


「ほう。中々手練の手駒が令嬢の護衛にいるようですね」


 奥にもう一人いた。メガネをかけた黒ずくめの男である。彼我の距離約5メートル。そのさらに奥に入学書類は落ちている。


「しかしこちらも任務。クリスティ様の命は頂かせてもらいます」

「入学書類は渡してもらう」

「何の話──」


 構えつつ前進。


 姉の小説の舞台となるこのゲーム『ドキドキ☆エリアス魔法高等学園』は、乙女ゲームにしては珍しい戦闘システムを採用している。 

 キャラは一対一で相対し、上下左右奥手前に動き魔法による遠距離攻撃や、剣術などによる近接攻撃を上中下段に分けて行う……まあ要するに3D対戦格闘ゲームである。


 姉曰く、どうせ作中劇なのだから現実には不可能なゲームを設定したかったとのこと。


 そして格闘ゲームは、俺の土俵だ。


「全く庶民は風情のない……『ファイアアロー!』」


 左手から現れたのは、確か火属性の中級魔法。高速で飛ぶ緋色の火の矢だ。当たれば大ダメージの上、燃焼のスリップダメージ。今の俺のステータスなら多分ほぼ瀕死だが──

 ──発生32F全体62Fの遠距離攻撃とか舐めてるんですかね?


「なっ!?」


 軸を壁際ギリギリまでズラして横に避ける。相手の硬直を利用してさらに距離を詰め……一瞬で攻撃範囲内へ。


「舐めるな! 『エアバレッ──ぶへっ!」


 アッパーからコンボ決めて終了。


「ふう。入学書類は無事だな……。勢いで倒してしまったが、この人達どうしようか」


 正直やってしまった感が半端ない。改めて考えると明らかに暗殺者の類ですよね?


「……埋めるか?」


「その必要はない。私を餌にして釣りだした刺客だからな。こちらで処理しよう」

「ほ?」


 後ろから声をかけられたので振り向けば、よく知っている顔がいた。

 金髪縦ロール。美人ではあるがツリ目がややキツイ印象を与える顔。赤と金を貴重とした派手な服。腕を組んだ堂々とした姿。

 よく知った顔というか、表紙を飾るメインキャラクターである。小説の主人公が転生する悪役令嬢。


「ラズベリー公爵家令嬢、クリスティ・フロー・ラズベリー様」

「ふむ。フルネームをよく覚えているな」


 ……………いや待て。お前中身は誰だ。

 ゲームのまま、ただのクリスティであったら「ホーッホッホ」とかいいそうなありがちな高飛車お嬢様キャラだ。もうコッテコテの。多分羽の扇とか持ってる。

 対して小説の主人公が中身の場合、元々は日本人なわけで、普通の女の子の口調になるはずだ。決してこんな男勝りな口調ではない。


「……それは勿論、有名でございますから」

「いや。一人称視点だったから、作中ではほとんど『私』と表現していたはずだ。たまに『クリスティ』と書いていたこともあるが」

「まあぶっちゃけ忘れてましたけど、さっきそこの男がご丁寧にフルネームで叫んでたので………アレ?」


 何かがおかしい。

 目の前の女がフッと笑う。


「とりあえず刺客を倒した報酬を渡すという形で屋敷にお前を呼ぶとしよう。馬車に乗れ我が弟(・・・)神屋(かみや)勇星(ゆうせい)よ」




 ひえっ。

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