彼女の右手にネコがいた。
※(ノベルアップ+)七海美桜様の「登場人物固定企画」参加作品です。
夏樹 聖、高2男子。生徒会所属、役職、書記。
そんな僕には好きな人がいる。
生徒会に入った動機は……そう!
憧れの東海林 心愛さんが生徒会長を務めているから、ぜひ身近でお手伝いして、あわよくば仲良くなって、最終的には恋人の地位を獲得したいと……。
きわめてピュアな目的で持って、立候補した。
表向きの公約は、1~3年合同イベントを催し、学年間の壁をなくした楽しい学校づくりをすること。
心の中の公約は、2年生の僕が、3年生の彼女と少しでも多く接触する機会を得ること。
そんなわけで、数々の行事を共にし、会長を支え奮闘する毎日の中で。
僕はあることに気付いた。
彼女、ずっと右手に包帯を巻いたままなんですけど──?
はじめは、何か怪我したのかな、と思った。
だけどいつまで経っても。春も夏も秋も、そしてこの冬も。通年通してずっと巻いている!
怪我にしたら長い。長すぎる。
包帯は常に新しく清潔なものに取り換えられていることから、家では間違いなく外している。そりゃそうだ。
どうして誰も何も聞かないんだ?
いや聞けないよな?
プライベートなことだもんな。
いつも明るく可愛い彼女。
黒髪のセミロングが似合う、優しい笑顔の東海林会長にも、もしかしたら人に言えない悩みがあって。
あの包帯の下には、凄惨な秘密があるのかもしれない。
酷い火傷とか、刃物の跡とか、魔法陣とか。
けれど、だからこそ!
自称、彼氏になりたい男ナンバー1の僕としては、少しでも何か力にでもなれたらと、ついに今日、勇気を出すことにした。
だって次の春には先輩は卒業。そう、時間はあまり残されてない。
もしかしたら、踏み込み過ぎて嫌われてしまうかもしれない。
だから、会長の反応をよく見て──、少しでも嫌がられたら、即座に引く。
生徒会の雑務で居残った今。
他のメンバーは皆帰り、部屋にはふたりきり。
ここしかない!!
僕は大きく深呼吸して、会長のそばへ行った。
「あ、あの、会長。どうしてもお聞きしてみたいことがあって……」
「何かしら、夏樹君」
「その、とてもプライベートなことなので失礼だと承知しつつ、以前から気になってまして」
「? だから何?」
うっ、小首を傾げる仕草が、すっごいカワイイ。
「その! 大変ぶしつけな質問だとは思うのですが、右手の包帯は──、左手で巻いてらっしゃるんですか?」
ちっが──う!!
盛大なツッコミのハリセン音が、僕の心の中で響いた。
いや、それも確かに気になってはいた。
彼女は右利き。巻きにくくない?
だが違う。いま聞きたかったことは、そこじゃない!!
「そうだけど?」
あ、そうなんだ。なんて器用。さすが会長!
素で感心して、思わず「すごいですね」と言ってしまった。
「包帯は……腱鞘炎とか?」
会長はピアノもお手の物。もしかしたら、その線での負傷もあり得る。
「ううん、違うよ? あ、何か知りたい?」
「はい!!」
うっわぁぁぁ~~、つい食い気味に返事してしまった。
「ここにね、ネコがいるんだ」
「はい?」
どうしよう。宇宙からの言語阻害波か?
ネコ、と聞こえた。ネコ???
「見せようか?」
「はい……。え?!」
って、目の前の彼女はあっさりクルクルと包帯を解いていく。
この数か月間の僕の葛藤は??
そして、あらわになった。
東海林会長の右手首には、楕円形おまんじゅうに三角山が二つのった、ω口のおかしなラクガキがあった。
これはネコ!! …かなぁ? 確かに Λ・ω・Λ な記号が揃えば、ネコっぽくは見えるけど。
「会長、それは……?」
「私ね、子どもの頃から、ずっとネコを飼うのが夢だったんだ」
遠い目をして、彼女が語り始めた。
「でもうちはペット禁止の賃貸で、飼えなくて。寂しいなぁって思ったから、ある日、ネコを描いてみたの」
右手首に?
「左手で描いたのに、思いのほかすごく上手く描けて」
上手の基準は、ひとそれぞれだもんね。
そもそも、なんで左手で描いたの?
「見てるとなんだか癒されて。だから残したいなぁって思って、包帯で保護することにしたの」
いや待ってぇぇぇ──!!
「き、消えなくなりますよ? そんな長い期間! 何のペンで描いたのか知りませんけど」
ムッと不機嫌そうに頬を膨らませた、東海林会長。
「消す気ないもん」
イヤ、という風に、ネコ付きの手を庇う動作が愛らしいんだが。
白くきれいな手首に、一生まんじゅうネコのタトゥーを残す気なのか?
「悲しい時や寂しい時、いつもこのコに慰めて貰ってたの!」
まさかの、心の拠り所──!!
何してるんだ、親!
娘が手首のネコを頼ってるぞ、おい。
「先輩、確かにそのコはすごくカワイイですけど」
「でしょう???」
キラキラ輝く瞳、まぶしい。
「写真とかに残して、分離させてはいかがです?」
「なんでそんなこと言うの」
「ほら、いまならキーホルダーとか、いろいろグッズ化も出来ますし」
「この温かさがいいのに」
それ自分の体温だから!
「なら会長! 本物のネコはいかがですか?」
「えっ?」
「うち、ネコいるんです。良かったら今度遊びに来て、ネコ触ったりしませんか?」
「ホントのネコを触らせてくれるの?」
「そうです!」
「行く!!」
(!!!!)
「行くよ、夏樹君ち。いつならいい? 今日でもいい?」
「あっ、や、今日はちょっと、もう遅いですから、会長のおうちでも心配されるでしょうし。また後日改めて、ご招待しますから」
「うん。わぁぁ、すっごい楽しみ。どんなコかなぁ」
「それは見てのお楽しみということで……」
あまりの急展開に、びっくりした。
ネコで。ネコでこんなに簡単に会長がノッてくれるとは。
さすが手首のネコを愛でてる女子。
「さ、さあ、会長、今日はもう片付けましょうか? 外、暗くなるの早いですし」
「そうだね! でも夏樹君がネコ飼ってるの、知らなかったなぁ。なんて名前?」
「名前は……まだない、かな」
「マダナイちゃん?」
「あっ、いえいえ、夏目漱石の真似です」
「ああ、なーんだ。それも秘密なの?」
「そうです、そうです。ささ、帰りましょう。僕、送っていきますから」
言いつつ、ネコのことを聞かれたらマズイとも思いながら。
「会長がネコ好きだなんて知りませんでした」
「話すと、すごく恋しくなっちゃうから。夏樹君こそ、ネコの気配なかったのになぁ──」
「は、は、は」
こないだ駅の商店街に貼ってたポスター、まだ有効かな?
"ネコ、もらってください"
先輩を送った後に、聞いてみないと。
うちが戸建てで良かった。
未来の飼い猫の名前を考えつつ、今日僕は、東海林会長のネコ好きと包帯下の真実を知ったのだった。
《おしまいにゃ!》
お読みいただき有難うございました。
冒頭から人物名。「?」と思われたかと思います。
こちらのお話は、ノベプラ・七海美桜様の個人企画「登場人物固定企画」参加作品です。
七海様が用意された、たくさんのキャラクターから2名以上を選び、お話を作るというご企画。
右手首の包帯持ち、ピアノもイケる生徒会長、「東海林 心愛」ちゃんと、黒髪短髪なメガネ男子「夏樹 聖」くんをお借りしました。
あ、お問い合わせいただきましたので追記ですが♪
夏樹君は下心で猫ちゃんをお迎えするわけですけど、その後、会長共々猫ちゃんに骨抜きになり、ニャンコはとても大切にしますので、ご安心ください(•͈ᴗ•͈) 何なら新居にも一緒に……ゴホゴホッ。これも出会い!!
いつものことですが時間が取れたら、絵が増えるかもしれません(苦笑)。
お話を気に入ってくださった方はぜひ、下の☆を★★★★★に塗って、夜空に投げてください!
歴史に残る皆既月食に、煌めく星を添えて♪