幕間 魔女と賢者と拳王の後悔
ルーコちゃん達を試験へと送り届けた次の日、私はギルドからの緊急要請を受け、急いで町へと向かった。
当初こそ死体が動き、その数を増やしながら住民を襲っているとの事だったが、実際にいってみると遠くからでも分かるほど巨大な怪物が暴れ回っており、相当な被害が出ていた。
私はその時点で怪物の危険度を〝魔女〟、〝賢者〟クラスだと考えて〝反覆創造〟を発動させ、一気に殲滅するつもりで現場に急行した。
しかし、現着した頃には怪物は討伐され、謎の集団と満身創痍のルーコちゃん達が対峙している状態……私の到着あまりにも遅かった。
結果として謎の集団を逃がし、ブレリオ一級魔法使いが手の施しようのないほどの重症の末、殉職。エリンも再起不能になるほどの深手を負ってしまった。
正直、後悔してもしきれない。もし、私が一緒に着いていったら今回の事件は未然に防げたんじゃないのか、もっと早く現着できていれば結果は変わったんじゃないのか、考えだしたら止まらなかった。
「――――アライアサン?聞いてるっスか」
「え、あ、ああ……ごめん。ちょっと考え事してた」
リオーレンに呼ばれて我に返った私は慌てて笑みを作り、後悔を悟られないよう誤魔化し返す。
「しっかりしてください……と言いたいところっスが、無理もないっスね。あんな事があった後っスから」
「……いや、大丈夫。私よりも当事者だったルーコちゃん達の方が辛いだろうし、なによりも問題を放置するわけにもいかないからね」
気を遣ってくれるのはありがたいけど、せっかく設けてもらったこの機会を私のせいで無駄にするわけにはいかない。
「――そうね。まあ、肝心な時に気絶していて何もできなかった私の意見が役に立つとは思えないけど」
自嘲気味にそう言って笑ったのはベッドの上で上半身だけ起こしているエリン。まだ傷が治りきってないため身体のいたる所に包帯が巻かれており、その姿は酷く痛々しい。
「……悪いね、エリン。病み上がり……というか治りきってないのに無理言って」
「全然、本来なら私はギルドマスターとして事後処理をしないといけないのにこの様だからね。これくらいはやらないと」
「治療を担当した立場からしたら止めるべきなんスけど……エリンサンの意見は重要っスから」
今回、病み上がりのエリンを交えてまで話し合いの場を設けたのは他でもない、今回の件に深くかかわっているであろう謎の集団についてだ。
「思想も目的不明の集団……それだけでも面倒そうな件なんだけど何よりも…………」
「……参加している顔ぶれに問題がある、って事っスね」
集団の中心である男の正体こそ不明だが、それ以外の面々は各方面で名の知れた人物ばかりだ。
人の命を弄び嗤う狂人、そしてブレリオの命を奪った張本人である〝死遊の魔女〟――――ガリスト。
粗野な言動と行動が目立つものの、その実力は折り紙付きな〝暴炎の拳王〟――――バーニス。
とある国の元重鎮、切れる頭と冴える魔法の腕で他国から恐れられた〝鏡唆の賢者〟――――ソフニル。
どんな凶悪な魔物も腕の立つ賞金首も一刀の下に切り捨てる〝神速の剣鬼〟――――スズノ。
一人一人が一騎当千の実力を有しており、とりわけガリストとバーニスの二人に関してはその素行が何度も問題になった事で有名だった。
「……私は実際に見てないけど、随分な顔ぶれね。到底、まとまるとも思えないわ」
「そうっスね。まともそうな二人はともかく、問題児たちに協調性は皆無っスよ」
二人の言う事はもっとも、そもそも私を含めて〝魔女〟に相当する称号を持つ者は我が強く、得てして一人を好む傾向にある。
もちろん、全員が全員そうとは言わないが、先に挙がった問題の二人は特にその傾向が顕著だ。しかし――――
「確かに二人のいう事は間違ってないよ。実際、〝死遊〟と〝暴炎〟の二人は他の仲間に対して不満を露わにしてたからね。でもそれをあの男は圧で黙らせた……つまり、男は他の四人と同等かそれ以上の実力を有しているって事になる」
私もその現場を直接見たわけではないけど、離れた場所からでもその圧を感じ取る事はできた。
だからこそ私はあの男が他の連中よりも危険だと思う。我の強い奴らが曲がりなりにもついていっている事実も含めて、脅威度は頭一つ抜けているだろう。
「それは厄介ね。しかもそんな集団の目的もわからないまま、こちらの被害は甚大……ほんと、どうしたらいいんだか……」
「そうっスね。まあ、ここまで表舞台に出てこなかったのが明るみになっただけでも良しとするしかないっス」
「そうだね。少なくとも今回の件で名の通っていた連中は手配されるから情報がいずれ上がってくる筈だよ」
陰鬱とした表情でため息を吐くエリンの気持ちは分からないでもないが、現状ではやれることも少なく、一気に問題を解決させる事はできない。
今できるのは今回の件で受けた被害から立て直す事と次に奴らが現れた時の事を考えて備える事くらいだ。
「…………ねえ、アライア。その、ルーコちゃん達の様子はどうかしら?」
「……怪我の方は心配しなくていいよ。ただ、やっぱり精神的には相当堪えたみたいでサーニャもルーコちゃんも部屋に閉じこもったままが続いてるよ」
経験の違いか、ウィルソンは流石に塞ぎ込むような事はなかったものの、いつもよりも少し口数が少ないように感じる。
年長者のウィルソンでさえ、精神的に影響を受ける程の事件、若い二人にどれだけの負荷が掛かったのかは想像に難くない。
「……心の傷は魔術でも治せないっス。せめてボクが彼を救えてたら」
「それを言いだしたら後悔は尽きないよ。リオーレンは精一杯やれることをやった。エリンだってそう……たらればを言っても仕方ない、でしょ?」
悩んでいた自分の事は棚に上げてそう口にし、思わず内心で自虐的な笑みを浮かべてしまう。一体どの口がそんな事を言えるのか、と。
「……それは貴女だってそうでしょう?誤魔化してるつもりかは知らないけど、内心が透けて見えるわよ」
「…………エリンには敵わないね。それでも分かってるつもりだよ。たらればを考えるよりも先の事を考えるべきだって……けど、ううん、これは自分を納得させるための言い訳か」
内心を見透かされ、表情にも自虐的な笑みを溢しながらに、それを振り払うよう首を振る。
仮にもパーティのリーダーをしている私がこんな調子ではルーコちゃん達に示しがつかないと思い直しながら。
「……大丈夫。今すぐには無理でも立ち直れるよ。サーニャもルーコちゃんも私達が思ってるよりずっと強いからね」
自らの願望も込めた言葉を吐きながら窓の方に目をやって空を見上げると、厚い雲の切れ間から薄っすら日差しが差し込んでいた。




