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〝凡才の魔女〟ルーコの軌跡~才能なくても、打ちのめされても、それでも頑張る美少女エルフの回想~  作者: 乃ノ八乃
第二章 エルフのルーコと人間の魔女

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第78話 反省と説教と後日譚

 

――――夢を見た。


 まだ集落にいた頃の夢、そこまで時間は経っていない筈なのに懐かしささえ感じる風景の中で私は悲しいそうな表情を浮かべるお姉ちゃんと向かい合っていた。


「お姉ちゃん――――!」


 会いたかったと気持ちを抑えられずに手を伸ばして駆け出すけど、届かず一向に距離が縮まらない。


「――――――」

「っ待って!待ってお姉ちゃん!!」


 何度も呼び掛ける私にお姉ちゃんは力なく首を振って背を向け、そのままどんどん遠くへ離れて行ってしまう。


「お姉――ちゃん――」


 視界が霞み、ちかちかと明暗していく中、届かないと理解しながらそれでも私は手を伸ばし続けた。



「――――ぅ……ぁ……」


 ぼやける視界、気怠さとはっきりしない意識の中で目を覚ました私は見知らぬ布団の中からゆっくりと起き上がる。


ここは……どうして私は布団に……さっきのは夢……?


 寝起きのせいか、はたまた変な夢を見たせいか、まとまらない思考をぐるぐる巡らせつつ、辺りを見回す。


「――おや、目が覚めた見たいっスね」


 声を掛けられ、その方向に顔を向けるとそこには見覚えのない黒髪の男性が座っていた。


「え、えっと……」

「ああ、目が覚めたばかりで知らない相手がいたら驚くっスよね。まあ、すぐに皆サン戻ってくると思うんで安心してください」


 手をひらひらさせ、にへらと笑う男性。皆さんというのは誰の事だろうと考えたところで自分の置かれていた状況を思い出し、慌てて立ち上がろうとする。


「っ――!?」


 しかし、思ったように身体に力が入らず、立ち上がろうとした勢いそのまま、前のめりに倒れてしまいそうになった。


「っと……急に立ち上がったら危ないっスよ。まだ完全には回復してないんスから」

「す、すいません。でも、ノルンさんとトーラスさんが……」


 倒れかけたところを支えてくれた男性に頭を下げつつも、なお立ち上がろうとする。


 最後に魔術を放ったところまでは覚えているが、実際にジアスリザード達を倒せたかを確認する前に意識を失ってしまったため、二人の安否を一刻も早く確かめたかった。


「心配しなくても二人とも無事っスよ。今は後処理の関係で席を外してるだけっスから」


 心配事を察してか、男性はそう言いながら私を布団の中に戻るよう促し、こほんと咳払いをしてから言葉を続ける。


「まず気になっているであろう事を簡潔に説明すると、ここは村の宿屋で、ジアスリザードの群れは壊滅。貴女達のパーティで一番重傷だったルーコサンがこうして無事に目覚めた時点で今回、被害らしい被害は出てないっス」

「宿屋……言われてみれば見覚えが……」


 使っていた部屋とは違っていたので気が付かなかったけど、内装にはどことなく既視感があった。


「そんで、ボクは今回の件で回復役として連れてこられたしがない魔法使いのリオーレンっス。まあ、治癒術に関してはそれなりに自信があるんで、もしもの時はご贔屓に」

「は、はあ……よろしくお願いします」


 未だに状況は呑み込めていないけど、この男性……リオーレンの言う通りなら、少なくとも私の危惧していた事は起きていないらしい。


「さて、自己紹介も終わったところで治療を担当した立場からルーコサンに言いたい事があるっス」

「え、あ、はい?」


 理解が追い付かない中でどうして私の愛称を知っているんだろうと一瞬思ったものの、会話の内容的に誰かが呼んでいたのを聞いていたのかなと一人納得して曖昧な返事をする。


「今回、ルーコサンの身体は外から受けたダメージよりも、()()()()()()()で受けた反動の方が大きかったっス。それこそボクの治療が間に合わなければ命を落としていたほどに」

「それは……」


 予期せぬ言葉に私は思わず口籠る。


 あの時、私はその覚悟を持って『魔力集点(コングニッション)』を使った。


 結果としては運良く生き残ったけど、それでも命を賭けたという事実は変わらない。


 だから治療を担当したリオーレンから説教紛いの言葉が飛び出てくるのも当然だろう。


「ああ、勘違いしてほしくないんスけど、別に責めてるわけじゃないんスよ。状況的に使う必要があったんでしょうし、そうなる覚悟もあったんでしょう。だから命を賭けてそれを使った判断を間違いとはいいません」


 そう言ったリオーレンは一呼吸間を置き、言葉を続ける。


「でも、貴女のそれは大事な何かを削って力を生み出すもの……使い続ければいずれ取り返しがつかなくなる事だけは肝に銘じておいてください」

「……分かってます。でも私には――――」


 そこまで言いかけたところで不意に扉が開き、ノルンとトーラス、それにアライアが部屋に入ってきたことで会話が中断されてしまう。


「っルーコちゃん……良かった、目が覚めたんだ……」

「はい……ノルンさんとトーラスさんも無事で何よりです」

「……全く、無茶をして心配をかけるのはこれっきりにしてもらいたいものだな」


 抱き着いてきたノルンと腕を組み、ため息混じりにそう言うトーラスを前に改めて無事を喜びつつ、後から入ってきたアライアへと視線を向けた。


「……うん、本当に無事で良かったよ。ルーコちゃん」

「……どうしてここにアライアさんが?」


 安堵した様子のアライアへ疑問に思った事を口にし、返すと彼女はばつの悪そうな表情を浮かべる。


「……まあまあ、積もる話もあるでしょうけど、その辺にして一旦、落ち着きましょう。ルーコサンも目が覚めたばっかりですし、ね?」

「あ、そ、そうね。ごめんなさいルーコちゃん」

「いえ、私は全然……」


 意外にも場の空気を取りなすようなリオーレンの言葉に従い、私を中心にアライアを除く全員が話を聞く体勢に入った。


「さ、アライアサン。どうぞ」

「……悪いね、リオーレン。それじゃあまず今回の事の顛末から話そうか――――」


 そこから彼女はは私達が疑問に思っていたこと全てに答えてくれた。


 話によると私は意識を失って丸一日ほど寝込んでいたらしく、その間にキングを含むジアスリザードの群れの全滅が確認されたようだ。


 私の放った魔術によりほとんどの死体が跡形も無くなっており、素材はほとんどとれずじまい、おまけに森の一部分がすっかり荒れ地になってしまうという散々な状態だったが、問題のジアスリザードの群れを討伐できたため、その辺りは仕方ないとゼペルさんも許容してくれたそうだ。


 それで肝心のアライアがここにいる理由についてだが、どうやら初めからこっそりと着いてくるつもりだったらしい。


 しかし、万が一に備えて頼んだ回復役であるリオーレンの到着が遅れたり、私達が予想以上に早く依頼に取り掛かったりした事が重なり助けに入るのが遅れたとの事だった。


「――本当にごめん。今回の件は完全に私の見通しの甘さが招いものだ。もう少しでルーコちゃんに万が一が起こり得るところだった」


 今回の依頼が相当に危険なものなのはアライア自身も分かっており、最悪の事態になった場合、いつでも助けられるようにつかず離れずの距離で見守ろうとした結果がこの現状だったようだ。


「……本当ですよ。今回は運良く無事でしたけど、アライアさんはもう少し無茶ぶりを控えるべきだと思います」

「……そうですね。今回ばかりは僕もノルンの意見に同調します。成長を促す上で多少の無理難題を課すのは構いませんが、いくら何でも限度がありますよ」


 いつもアライアさん至上主義なトーラスも、今回の無茶ぶりに関しては擁護するつもりはないようで毅然とした態度でそう言い切る。


「……本当にごめんね。今後はこういった事のないように精一杯気を付けるよ」

「…………そこでもうしないと言わない辺りがアライアさんらしいですね」


 本当なら一番の無茶をせざるを得なかった私が怒るべきなのだろうが、二人が色々言ってくれたのとあくまで自分の判断でだったという後ろめたさから、半分呆れ笑いのその一言しか言葉が出てこなかった。


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