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〝凡才の魔女〟ルーコの軌跡~才能なくても、打ちのめされても、それでも頑張る美少女エルフの回想~  作者: 乃ノ八乃
第二章 エルフのルーコと人間の魔女

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第77話 決着と代償と不穏な影

 

 土煙の晴れた先、ルーコちゃんの放ったそれが引き起こした惨状を前に私は思わず息を吞んだ。


「考えがあるって言ってたけど、まさか全部をまとめて仕留めるなんて……」


 木々が生い茂っていたその場所は土と木くず、そしてジアスリザード達が着けていた鎧や剣の金属片が散らばっており、その中心には大きく深い穴がぽっかりと空いていた。


 ジアスリザード達の死体が跡形もない……いや、あの威力を考えれば当然か。


 あれだけの数もあの巨体も見る影なく、散らばる肉片と血の跡がジアスリザード達の死を証明していた。


「ここまでの規模と威力……それこそ〝魔女〟の扱う魔術と比べても遜色のないものをルーコが……」


 トーラスもその凄まじさに絶句し、二の句が継げないまま惨状をただただ目の当たりにしている。


「っそうだ、ルーコちゃんは――――」


 この規模の魔法ないし、魔術ならそれ相応の魔力を消費する。決して魔力量の多い方ではないルーコちゃんがこれを扱うにはなにかしら無茶を通したに違いない。


「っこっちだ!」


 私達から少し離れたところに倒れているルーコちゃんを見つけて慌てて駆け寄る。


「っ……心臓の鼓動が弱まってる」

「なっ……あれ以降、攻撃は受けてない筈だろ!?」


 倒れていたルーコちゃんの身体は驚くほど冷たく、肌も血の気が引いて病的なまでに白くなっており、このままでは衰弱死してしまうだろう。


「方法は分からないけど、たぶん、相当無理をして魔力を捻り出したんだと思う。このままだとルーコちゃんは……」

「っなら早く戻って治療をすればいいだろ。今すぐ魔動車をまわしてくるから……」


 焦ったようにそう言うトーラスに対して私は力なく首を振って答える。


 ここまで衰弱しきっている状態では村に戻っても、ここで出来る事とそう大差はない。


 いや、それどころかこの状態では村まで持つかも怪しく、私達にできる事はないのが現状だった。


「このままルーコが弱っていくのを黙って見てろっていうのかっ!」

「っ私だってルーコちゃんが助かるなら何でもするわ!でも、どうする事も出来ない……治癒魔法も使えない私達じゃ助けたくても助けられないの!!」


 自分達の無力さから互いに声を荒げ、怒鳴り合う私とトーラス。


 こうしている間にもどんどんルーコちゃんは弱って死に近づいているのに何もできないもどかしさからさらに憤りが募っていく。


「――――――グガァァァァァッ!!」


 そんな中、突如として聞こえてきた咆哮にハッとし、大きく空いた穴の方を向くと、巨大な影が勢いよく飛び出した。


「っ!?」

「なっ!?」


 咆哮の主、穴から飛び出してきたのはルーコちゃんに倒された筈のジアスリザードキングだった。


「まさかあれを受けてまだ生きているなんて……」


 着ていた鎧は全て剥がれ、大刀も消失、片腕も吹き飛ばされたのか、無くなっており、血だらけの満身創痍の状態……にもかかわらず、しっかりと両の足で地面に立ち、こちらに血走った視線を向けている。


「くそっ!あれでまだ死んでないのか……!!」

「っまずいわ、いくら向こうがボロボロでもこんな状態のルーコちゃんを抱えてる現状じゃまともに戦えないわよ」


 ルーコちゃんを守るように臨戦態勢をとるも、こちらの準備が整うより早くキングが突進を繰り出してくる。


――――『反覆創造(クリエレイション)


 瞬間、呪文が響き渡り、空から無数の黒い塊がジアスリザードキングに向かって降り注ぐ。


「――――――」


 流石に突然の大質量による圧殺には抗えず、悲鳴を上げる間もなく、今度こそ確実にジアスリザードキングはその命を閉ざした。


「今のは……」

「まさか……」


 聞き覚えのある呪文、見覚えのある現象を前に私とトーラスが思わず上を見上げると、そこには箒に乗った二つの影が見える。


「「アライアさん!」」


 二つの影の内の一つ、今しがたジアスリザードキングにとどめを刺したその影の正体は私達をお送り出した張本人、〝創造の魔女〟アライア、その人だった。


「…………」


 アライアさんはそのまま箒から飛び降りると私達……ルーコちゃんの方に駆け寄り、難しい表情を浮かべる。


「アライアさん……その、ルーコちゃんは……」

「大丈夫、心配はいらないよ――――リオーレン」


 私の言葉を止め、そう言ったアライアは後ろを振り返り、もう一つの影に呼び掛けた。


「――はいはい、全く突然呼びつけて人使いが荒いんスから」


 名前を呼ばれ降りてきたのは全身をローブで包んだ黒髪の男だった。


 男は頭を掻きながらルーコちゃんの方に近付き、細く閉じられたその目でじっと観察してから軽くため息を吐く。


「……こりゃ相当に無茶をやらかしたっスね。ここまでくると普通の治癒魔法じゃあ治せないっスよ」

「普通のなら、でしょ?こういう時に備えて連れてきたんだから貴方に治せない筈がない」


 振り返り、肩を竦める言う男に対し、アライアは表情を変えずにそう言い放った。


「まあ、そうっスけど……はぁ、仕方ないっスねぇ」


 頬を掻きつつ、柄が曲がっている黒塗りの杖を片手にルーコちゃんのお腹の辺りに手をかざす。


「〝気まぐれな群れ、全てを癒す歌、穢れなき旋律は何人も侵せず、理を超えて響き渡る〟」


 さっきまでの軽い雰囲気から打って変わった声音で詠唱が紡がれ、溢れた淡い光の粒がいくつもの小さな人の形となってルーコちゃんの周りを飛び回る。


――――『妖精の輪唱(フェアリロスウィング)


 飛び回っている人の形を模した光の粒がルーコちゃんの身体に当たっては弾け、その度に傷ついていた箇所がみるみるうちに治っていく。


「…………ふぅ、ま、こんなもんスかね。流石に少し古い傷は負担になるんで治さなかったんスけど、そこは勘弁してくださいね」


 治療を終えたらしい男がそう言いながら立ち上がると、そこには傷が治り、すっかり血色の戻ったルーコちゃんの姿があった。


「凄い……完璧に治ってる……」

「さっきのは魔術か……?だとしたら一体……」


 尋常ならざる治療の腕に驚く私達に気付いたのか、謎の男がいやぁと片手を頭の後ろに当てながら自己紹介を始める。


「どうも、申し遅れたっスね。ボクはリオーレンっていうしがない魔法使いっス。一応、治癒系統の魔法がちょっと得意なんで呼ばれたって感じで、まあ、よろしくっス」


 さっきの治癒術はどう考えてもちょっとの域を超えている。方向性は違うが〝魔女〟の扱う魔術にも匹敵すると言っても過言ではないだろう。


「リオーレン?その名前どこかで聞いた気が……」

「……っそうか、その風体と異常なまでの治癒術の冴え……〝療々の賢者〟リオーレン・スタリアか!」


 トーラスの言葉で思い出した。


 〝魔女〟と並ぶ魔法使いの頂点〝賢者〟の称号を持つ人類最高峰の治癒術の使い手、法外な値段であらゆる病気や怪我を治す魔法使いの存在を。


「あー……いや、まあ、そうっスけど……あんまりその呼び名は好きじゃないんスよね。〝療々〟っていうのも〝賢者〟っていう大仰な称号も、自分には合わないっスよ」

「……その割に名前にあやかってずいぶんと稼いでるみたいだけど?」


 困った顔で頬を掻くリオーレンに対し、アライアさんはじとっとした視線を向けた。


「……いやっスね~そんな人聞きの悪い。ボクは別に取るべきところから取ってるだけで、払えないような人から無理矢理徴収したりはしてないっス」


 再び肩を竦め、煙に巻こうとするリオーレンにアライアさんはしばらく訝しげな表情を浮かべるも、軽く息を吐いて切り替える。


「……どうだかね。まあ、いいけど、それよりもルーコちゃんの方は動かしても大丈夫なの?」

「問題ないっスよ。外傷は治しましたし、枯渇しかけてた諸々も最低限回復させましたから、後は自然治癒に任せて、休ませてあげてください」


 胡散臭さの拭えない印象のリオーレンだが、こと、治療に関しては真剣らしく、一切の軽口を挟まず、経過だけを真面目に答えた。


「そう、なら一旦、村まで戻ろうか。トーラスは魔動車を取ってきて。色々話もあるだろうけど、まずはルーコちゃんを休ませてからね」


 アライアさんの指示の下、トーラスが取ってきた魔動車に乗って私達はその場を後にする。


 疲労と後悔と無力感に苛まれた一日だったけれど、ひとまず全員無事に帰る事ができるのだから良しとしよう。


 今はただ何も考えずに休みたい。


 まあ、話す事や聞きたい事があるからそういうわけにはいかないのだろうけど。














 アライア達が去ってしばらくした後の森。無数の塊に圧し潰されたジアスリザードキングの死体を見つめる一つの影があった。


「――――まさかここまで育てた()()がこうも無残にやられるとはな」


 さして残念そうには聞こえない声音でそう呟いた影は死体を一瞥し、辺りを見回す。


「致命傷を与えたのは〝創造の魔女〟だが、追い込んだのは別の者か……」


 惨状と残存魔力からそれを読み取った影は少し考えるような仕草を見せるも、すぐに顔を上げ、明後日の方向に目をやる。


「……まあ、いいか。一つの試みとしては上手くいった。次に活かしていくとしよう」


 すでにキングの死体には興味がないと言わんばかりに視界から外した影は空へと浮かび上がり、そのまま景色に溶けるように消えていった。


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