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〝凡才の魔女〟ルーコの軌跡~才能なくても、打ちのめされても、それでも頑張る美少女エルフの回想~  作者: 乃ノ八乃
第二章 エルフのルーコと人間の魔女

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第71話 戦いの始まりと連携する魔物

 

 一瞬の膠着、どちらが口火を切ってもおかしくない状況で最初に飛び出したのは剣を抜き打つように構えたトーラスだった。


「ちょっそんな真正面から突っ込んだら……!」


 危ないと言い終えるよりも先にトーラスが他の個体より少し前にいたジアスリザードと接敵、向こうが反応するよりも先に剣を振り抜く。


「疾ッ!」

「グギャッ!?」


 強化魔法によって上がった膂力から繰り出される一閃はジアスリザードの片腕を容易に切り落とし、その顔面の半分をも両断してあっさりとその命を絶った。


「まず一匹……っ!?」


 最初の一匹を倒したのも束の間、他の個体がトーラスを挟み撃ちにするよう両側から騎士剣を薙いでくる。


「このっ……!」


 不意を突いてきたその攻撃に慌てながらもトーラスは体勢を低くすることでかわし、姿勢を戻すと同時に片方へと切りかかった。


「ギャギャッ」

「ギュッガッ」


 不意打ちを返すようなトーラスの一撃に対して二匹のジアスリザードはその場から飛び退き、距離を取ってそれをかわしてくる。


「っ魔物の癖に小癪な――」


「グギャギャッ」


 避けられた事に憤り、声を上げようとしたトーラスに今度は槍を持った個体が奇襲を仕掛けてきた。


「――『直線の風矢(スレイントロ―ア)』」


「グギャッ!?」


 トーラスへ奇襲を仕掛けた個体の背後に魔法を撃ち込み、吹き飛ばす。


 鎧のせいで仕留めるまではいかなかったものの、奇襲を防ぐ事には成功したので問題はないだろう。


「囲まれてるんですから一人で突っ走らないでください!」

「っだからこそ少しでも数を減らさないとだろ!慎重になり過ぎればジリ貧になる」


 奇襲から助けたのにも関わらず、お礼の一つも言わずに怒鳴るトーラス。


 おそらく助けが入らなくても自力でなんとかできたと言いたいのだろうが、それでも助けられたらお礼くらい言っても罰は当たらないんじゃないだろうか。


 怒鳴ったトーラスは私の忠告を無視してそのまま駆け出し、近くのジアスリザードへと斬りかかっていった。


「……トーラスは放っておいて私達は私達で囲まれないように気を付けながら戦いましょう」

「……そうですね。トーラスさんは大丈夫そうですし」


 ノルンの言葉に肯定の言葉を返してなるべく囲まれづらい場所で待機している個体に狙いを絞る。


「私はあっちの個体を狙います」

「なら私はあっちね。さっきの動きから分かると思うけれど、あのジアスリザード達は下手な冒険者よりも連携が取れてる。トーラスみたいに挟まれないよう気を付けて」


 忠告に頷きながら強化魔法を全開にし、狙った個体との距離を一気に詰めた。


「グギャ――」

「はぁぁっ!」


 ジアスリザードが反応するよりも早く懐へと潜り込み、おそらくは顎であろう部分に向かって掌底を突き上げ、その身体を宙へと打ち上げる。


「〝風よ〟『風の飛刃(ウェンフレイド)』」


 そして打ち上げた後、素早く強化魔法を解き、抵抗のしようがなくなったジアスリザードに向けて風の刃を撃ち放った。


「―――っ!?」


 悲鳴を上げる間もなく絶命するジアスリザード。


 この魔法自体にそこまでの威力があるわけではないため、鎧を避けてむき出しになっている顔を狙ったのだが、それが功を奏したようだった。


よし、まずは一匹仕留めた……次は――っ!?


 それが落下するのと同時に次の目標を探そうとしたその瞬間、顔の半分を切り飛ばされて絶命したはずの死体が動き、私の足を掴んでくる。


「なっ動いて……!?」


 まさかの事態に驚き、掴まれた足を振りほどけないでいる私へ、どこに潜んでいたのか、別の個体が剣を振り上げて襲い掛かってきた。


「っまず……!」


 迫る剣に対して動きを封じられ、動揺の広がった私は咄嗟に避ける事も魔法で防ぐ事もできず、重症覚悟で腕を交差させ、強化魔法を全開にする。


――――『影千刃(シャフレウド)


 激痛を覚悟してぎゅっと目を瞑ったその時、遠くから凛とした声音が響いた。


「?……これは」


 衝撃と痛みが来ない事を不思議に思い、恐る恐る目を開けると、私に襲い掛かってきた個体がいくつもの細く黒い線に貫かれていた。


「――油断は禁物よ、ルーコちゃん」


 そう言い、別のジアスリザードと立ち回りながらも、杖をこちらに向けるノルン。


 どうやら私を助けてくれた黒い線のはノルンの放った魔法だったらしい。


この魔法は……影……?


 よくよくみると、ジアスリザードの影が変形し、貫いているのが見える。


 おそらくノルンの放った魔法は影を変形させて攻撃するもの……見た事ない上に離れた相手の影、それも自分は別の個体と戦いながらそれをこなすというのはかなり高度な魔法の腕が必要な筈だ。


……サーニャさんの時も思ったけど、このパーティの魔法使いはみんな技術が高い。


 外の魔法使いをそこまで知らないから集落のエルフ達しか比較対象がないけど、それでも例外を除けばサーニャやノルンの方が魔法の腕は上だろう。


「ガッギッ――――」

「よいしょ……っと」


 もがき、どうにか抜けようとするジアスリザードだったが、ノルンの掛け声と共に影が躍動、その身体を鎧ごとばらばらに引き裂いた。


「気を付けてルーコちゃん。こいつらは生命力が高いから頭を落としてもしばらくは動くからね」

「……えっ、ちょっ、それを先に教えてくださいよ!」


 足にしがみついたジアスリザードを振り払いながら声を張ってノルンにそう抗議する。


 トーラスが最初に倒した個体も今、倒したのと同じように顔を切り落とされていた筈だが、私みたいになっていなかった。


 おそらくトーラスはこの事を知っていてきちんと足元に注意を向けていたのだろう。


「二人が言い合いしてるのを止めてる間に奇襲されたから言い忘れてたのよ……って、ほらそれよりも次がくるわ」


 ノルンに言われて周りを見回すと、少し離れたところから別の個体が三匹ほどこちらに近寄ってくるのが見えた。


「っもう、次から次へと……」


 話の途中で向かってくる相手に文句を漏らしつつも、囲まれるわけにはいかないため、距離を取って体勢を整える。


……色々言うのは戦いに生き残ってからだ。まずはこの三匹をどうにかしないと。


 幸いにしてジアスリザードの足はそこまで速くなく、強化魔法を使っている限りは追いつかれる事はない。


 だからこそ一旦、下がって作戦を練る事ができるのだが、いかんせん、数が多いため気を付けなければ別の個体とかち合ってしまう可能性があった。


「……一匹、一匹が厄介なのにこうも数がいるっていうのはかなりきつい……けどやるしかない」


 戦っているのは私ひとりじゃない。頼り切るつもりはないけど、それでも心強い事に変わりはないだろう。





「――さて、ルーコちゃんの方はこれで大丈夫そうね」


 目の前で剣を振り続けるジアスリザードを捌きつつも、三匹相手に上手く立ち回るルーコちゃんの方をチラリと見やってそう呟く。


 彼女の実力は練習くらいでしか見る機会がなかったけど、あれなら問題なく戦えるだろうと判断して自分の戦いの方に集中する。


「……それじゃ私の方もいこうかしら――『影武装(シャームウェンズ)』」


 呪文と共に杖の影がその先端にぐにゃりと集まって形を変え、薄く鋭い弧を描く刃物を形成した。


「グギャッ?」

「ふっ……!」


 突然の変化に驚くジアスリザードを他所に杖をくるりと回し、掬い上げるように形成された影の刃を振り抜き、手首を(かえ)して今度は真一文字にその体を引き裂く。


「これで動こうにも動けないでしょうっと……」


 いくら生命力が高かろうと物理的に繋がっていなければ動かす事はできない。


 私は杖を腰だめに構えたまま次の個体に狙いを定めて走り出す。


ジアスリザード達の着ている鎧……そこまで強度はないみたい。これなら問題なく切り裂ける。


 間合いを詰めて杖を横薙ぎに振るい、遠心力に従って回転、その勢いを殺さないようにして地面を蹴り、空中から近くの個体に向けて振り下ろした。


……ひとまず三匹は仕留めたけれど、まだ先は長そうね。


 一息ついて周りを見回すとジアスリザード達は次々にここへ集まってきているのが見える。


「こうなったら多少乱暴でもせめるしかないわねっ……あら?」


 再び一番近くのジアスリザードに詰め寄って腕を振るったその瞬間、その個体が半歩下がり、風切り音と共に杖が空を切った。


この短時間で間合いを見切られた……?


 私が杖を振るったのはたったの四回、それも至近距離でそれを目にした個体は全て切り捨てている。


 にもかかわらず、目の前のこの個体は杖の間合いを見切り、最小限の動きでかわしてきた。


 まだたった一度を攻撃を避けれただけとはいえ、魔物相手にこうもあっさり間合いを見切られるのは異常の一言に尽きる。


「……これは一筋縄にはいきそうにないわね」


 呟きと同時に背中へ冷やりとした汗が流れるのを感じながら私は杖をぎゅっと握り直した。


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