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〝凡才の魔女〟ルーコの軌跡~才能なくても、打ちのめされても、それでも頑張る美少女エルフの回想~  作者: 乃ノ八乃
第二章 エルフのルーコと人間の魔女

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第61話 巡る噂と人々の不安

 

 ぎるどを出た後、依頼報酬とダイアントボアの素材を売ったお金を手に私とサーニャの二人は箒を購入すべく、魔法具店へと向かっていた。


「━━それにしても昨日に続いて今日も用事があるなんてねー」


 歩きながら間延びした声でそう言ったサーニャはくるりとその場で反転して私の方を向き、そのまま歩き続ける。


「……色々ありましたし、アライアさんも忙しいんじゃないですか?」

「んーどうだろ。まあ、確かに案内するだけだからアライアさんがついてこないといけない理由はないんだけど……っと着いたよ」


 話している内にいつの間にか目的の魔道具店についていたらしく、話をそこで止めてさっそく中へと足を踏み入れた。


「思ってたよりも人がいっぱいいますね……」


 軽く数えても十人以上の人が店内を散策しており、想像以上に賑わった様子を見せている。


 一昨日いったミアレさんの武具店よりもずっと大きいからなのかもしれないけど、それにしたって多い気がする。


 とはいえ、まだ人間の世界に来てお店という場所を訪れたのは二回目なので私の感覚が変なだけなのかもしれない。


「そうだね……いつ来ても賑わってる店ではあるんだけど、今日はいつにも増して人が多いかも」


 どうやらサーニャからみても人が多いようで、どうしてだろうかと彼女も首を傾げていた。


「……もしかしたら昨日の一件が変な噂が広まってるのかもしれないね」

「どういう事ですか?」


 昨日の一件が広まる事と魔道具店に人が多い事の関連性が分からずにそのまま聞き返す。


「んと、色々あったけど、この町の近くにダイアントボアみたいな凶悪な魔物が出たという一つの事実が広まればそれに備える人が増える。だから魔道具を買い求める人が増えたんじゃないかな」

「……でもあれは自然発生じゃないですし、わざわざ備える必要はないんじゃないですか?」


 あのダイアントボアはギーアが私達を確実に仕留めるために用意した謎の玉の中から出てきたもので、本来ならこの辺りには生息していない。


 迷い込んでくる個体がいないとも限らないが、可能性は圧倒的に低いだろうし、そのために備える必要はない筈だ。


「それはそうなんだけど、あくまで噂として知った人達はその辺りの事情まで知らないんだよ。だから町の近くにダイアントボアが出たって事だけ伝わって備える人が増えたんだと思う」

「……確かにそう考えると備えなきゃって思うかもしれません。倒されたと聞いてもまだいる可能性は捨てきれないでしょうし」


 昨日の今日で曖昧な情報があふれる最中、まだダイアントボアの現れる可能性を捨てきれないならそうやって備えようとする気持ちも分からなくはない。


 曖昧な情報とはいえそれが死に直結しているものなら備えるのは当然といえるだろう。


「まあ、そのうちギルドの方から発表があるでしょ。それよりも早く箒を選んじゃおうよ」


 サーニャに促されて箒が並べている一角の前まで移動し、どんなものがあるのか目を通していく。


「……結構種類があるんですね」


 素人目には性能の違いがあるのかまでは判断できないが、色や形という見た目の特徴が様々な箒が並べられているため、それでも目移りしてしまう。


「うん、正直、性能にそこまで差はないから色や形で選ぶ人がほとんどかな。特に形は乗り心地に直結するからね。合わないやつを選ぶと体を痛めちゃうし」

「そういうものなんですか……ええと」


 形が重要な事は分かったが、乗り心地と言われても確かめようがなく、やはりどれにしていいか迷う事に変わりはなかった。


「とりあえず最初は一番扱いやすい無難なやつにしておけばいいんじゃないかな。使っていって慣れてきたらその箒を自分の好みにカスタマ……あー、えっと、改造する事もできるしさ」

「……なるほど、そうですね。そうします」


 後からどうにでもなるならいいかと飾り気のない普通の箒を持ってそのまま会計へと進み、支払いを済ませてすぐに店を後にする。


……値が張るって話だったけど、思ったよりも出費が少なく済んで良かった。


 一番飾り気のない見た目だったからだろうか、他の箒に比べて値段が安く、依頼の報酬だけでもぎりぎり買えるほどだった。


「私が勧めた手前、言えた事じゃないけど、よく即決できたね。あんなに種類があったのに」

「私には本当に良し悪しが分かりませんでしたからね。むしろ勧めてくれて助かりました」


 なまじダイアントボアの素材を売ったお金があったせいで買える商品の幅が広かったのも、私を迷わせた要因の一つだろう。


 もし、これがお金を出してもらう立場だったら遠慮して一番値段の安いものを迷わず選んでいた筈だ。


「ならいいけど……あ、そうだ。一応、その箒にも私の杖みたいに伸縮の魔法が付与されているからそうやって持ち歩かなくても大丈夫だよ」

「……え、飛行魔法が刻まれてるのにですか?」


 この箒一つに二つも魔法が宿っている事実に驚く私にサーニャは頷き、言葉を続ける。


「うん、飛行魔法は刻印として刻んで、箒本体の方に伸縮の魔法を付与してあるんだよ。ほらここの柄の部分に魔力を込めながら捻って……」

「わっ!?小さくなった……?」


 掌に収まるくらいの大きさにまで縮んだ箒をまじまじと見つめつつ、もう一度箒に魔力を込めると今度は元の大きさに戻った。


「飛行魔法を使う時はきちんとここを捻ってから魔力を込めないと付与した方の魔法が発動しちゃうからそこは注意してね」

「は、はい、気を付けます……」


 魔道具を使う際の注意事項を軽く教わりつつ、別行動を取っているアライアと合流すべく、事前に指定していた集合場所へ足を運んだ。


「━━やーごめんね。一緒に見に行けなくて」


 合流したアライアは開口一番にそう言って申し訳なさそうな表情を浮かべる。


 別に用事があったのだから謝る事ではないのだが、本人からしたらそうもいかないらしい。


「気にしないでください。それよりも用事の方はもういいんですか?」

「あ、うん。元々そんなに時間の掛かる用でもなかったからね。だから早く終わったら直接店の方に行こうかなと思ってたんだけど……」


 そう言いながらアライアは私が手に持っている箒にちらりと目をやり、それからサーニャの方へと顔を向けた。


「でも無事に買えたみたいで良かったよ。サーニャが選んであげたの?」

「勧めはしましたけど、最終的に選んだのはルーコちゃんですよ」

「……これなら扱いやすくて後から改造もできると聞いたので」


 箒を片手で持ち掲げて見せると、アライアは少し考えるような素振りをしてからにやりと笑みを浮かべる。


「そっか、なら帰り道に練習がてら早速その箒に乗ろうか」

「……え?」


 アライアからの唐突な提案に私は思わず疑問形のまま声を漏らしてしまった。


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