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〝凡才の魔女〟ルーコの軌跡~才能なくても、打ちのめされても、それでも頑張る美少女エルフの回想~  作者: 乃ノ八乃
第二章 エルフのルーコと人間の魔女

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第34話 才能と模擬戦と創造の魔女

 

 突然の提案に戸惑い、どう返そうか悩んでいると、私よりも先にサーニャが声を上げ、慌てたようにアライアへと詰め寄っていた。


「え、ちょ、戦うってどういう事ですかっ!?」


 詰め寄るサーニャを落ち着きなよと言って宥めつつ、アライアがその発言の意味を説明しようと言葉を続ける。


「戦うって言っても別に命のやりとりをするわけじゃない。ルーコちゃんの実力をみるために模擬戦をしようって話だよ」

「……そういう事ですか」


 まだ詳細を聞いてないとはいえ、ここまでの話から察するに資格を得るにはある程度の強さが必要な筈……つまり、アライアは説明云々の前に私がその資格を得られるかどうかを見極めようというのだろう。


「で、でも、まだルーコちゃんはこんなに小さいんですよ!模擬戦だとしてもアライアさんと戦うなんて……」


 ここにくるまでの経緯を聞いて私が戦える事を知っている筈のサーニャがなおもそう食い下がる。


狭い集落……それも無関心なエルフ達の中で暮らしていたから忘れていたけど、やっぱり私の年で戦えるって言ってもそういう反応になるのが普通なんだろうね。


 言葉でどれだけ言っても、実際に目にしない事には信じられないのだろう。ましてサーニャは私の事を可哀想な庇護の対象として見ている節があるため、なおさらだ。


「…………分かりました。その模擬戦、受けて立ちます」

「ええっルーコちゃん!?」

「……うん、そうこなくちゃね」


 私が了承の旨を伝えるとサーニャは驚き声を上げ、アライアはにやりと口角を吊り上げる。


「それじゃあ早速だけど、動けるようなら今から始めてもいいかな?」

「大丈夫です。体力も魔力も万全、むしろ少し有り余ってるくらいですから」


 冗談めかしてそう返すとアライアは微笑を漏らし、ここの裏手に広い場所があるから先に行って待ってると言い残して部屋を出ていった。


「……ルーコちゃん、本当にアライアさんと戦うつもりなの?」


 アライアが部屋から出ていってすぐにサーニャが心配そうに尋ねてくる。正直、ここまで心配してくるという事は私が小さいからという理由の他にも何かあるような気がしてならない。


「はい、そのつもりですけど……何か問題があるんですか?」

「問題というか……その……」


 案の定というべきか、模擬戦を止める年齢以外の理由があったようでサーニャは視線をさまよわせ、諦めるようにため息を吐いてから先の言葉を続ける。


「……アライアさんは〝創造〟の二つ名を持ってる魔女でその実力は文字通りの最強…………そして手加減が物凄く下手くそなの」

「…………へ?」


 真剣な表情から飛び出てきたまさかの言葉に思わず変な声を漏らしてしまった。


「忘れもしないあの時……私の特訓にアライアさんが付き合ってくれる事になって……最初は嬉しくて喜んでたんだけど、いざ特訓が始まると私が一回も魔法を使う間なくボコボコにされて……結局その後、気を失って三日間くらい寝込む羽目になったんだよ……」

「そ、そうなんですか……」


 遠い目をしながら体験談を語るサーニャに若干引きつつも、同じように自分も姉から容赦のない特訓をさせられていた事を思い出し、その似たような境遇に少しの共感を覚えてしまう。


「……だからルーコちゃんも戦うつもりなら気をつけて。本当に危ないと思ったらすぐにでも降参するんだよ?その時は私も頑張って止めに入るから」

「……はい、気を付けます。その、心配してくださってありがとうございます」


 親身になって心配してくれるサーニャに私はお礼を言って頭を下げる。


 今の話でアライアとの模擬戦の危険性は十分に理解できたが、それでもそれが必要な資格を得るための延長線上にあるというのならここで退く訳にはいかなかった。


「……そろそろいこっか。アライアさんをずっと待たせるのもあれだし」

「……はい」


 そう言って話を終えた私とサーニャはアライアの元に向かうべく部屋を後にした。




 サーニャの案内の下、程なくして目的の場所に着いた私を迎えたのは、身の丈ほどもある大きな杖を手に持ちながら笑みを浮かべるアライアだった。


「きたね。準備はもう良いって事かな?」

「はい……お待たせしました。いつでも始めて大丈夫です」


 アライアの言葉に応じて返し、いつでも動き出せるように構える。


「よし、それじゃあ始めようか。サーニャ、合図を頼むよ」

「……分かりました。くれぐれもやり過ぎないでくださいね」


 渋々といった表情で了承したサーニャはそうアライアに注意してから合図を出すべく片手を上げた。


「……じゃあ、いきますよ。よーい━━━━始め」


 サーニャの掛け声と共に手が振り下ろされた瞬間、私は強化魔法を発動させてアライアとの距離を一気に詰める。


 もし、ここで最高位の称号を持つアライアを倒す事が出来れば私の実力でそれが取れるという証明にも繋がる筈……だから戦える事を確めるための模擬戦だろうと全力で勝ちにいく。


「ふっ!」


 奇襲じみた最初の攻防、短く吐き出した息と共に加速した勢いを乗せ、私はアライアの胴体目掛けて強化された右拳を打ち放った。


「っ……!」


 打ち放たれた拳は胴体を捉えるより前にアライアの左手で容易く受け止められてしまう。


「━━へぇ、凄いね。中々に錬度の高い強化魔法だ。それこそ剣士や戦士並の出力はある」


 涼しい顔で拳を受け止めたアライアは感心したような声を上げながら右手に持った杖を回転させ、反撃と言わんばかりに私の胴体へと打ち込んできた。


「っまだ!」


 迫る杖をその場でしゃがんでかわし、反動を利用して今度はアライアの顎を打ち抜くように拳を突き上げようとする。


 攻撃が届くよりも前にアライアが空いている方の手で指を弾いたその瞬間、目の前で空気が小さく爆ぜ、私はその場から飛び退く事を余儀なくされた。


今のは無詠唱魔法……?


 飛び退き、体勢を崩す事なく着地した私はさっきの攻防で起きた出来事を整理し、考えを巡らせる。


……杖を持ってる時点で使えるだろうとは思ってだけど、あそこまで速いなんて……それに私の拳を受け止めた時の強化魔法もまるでお姉ちゃんみたいに無駄がなかった……やっぱりサーニャさんの言った通り、アライアさんはとんでもなく強いみたい。


 まだ互いに全力を出していないながらアライアの実力が、姉や長老と比べて遜色がないであろう事を悟り、改めて気を引き締める。


「ル、ルーコちゃんって魔法使いじゃなかったの……?」


 戦いを見守っていたサーニャが唖然とした様子で呟く。


 どうやらさっきの攻防を見て驚いているらしいが、どうして魔法使いかどうかを疑われているのだろうか。


「━━サーニャが驚いてるのは君が一般的な魔法使いの定義から外れてるからだよ」


 私が怪訝な顔をしているのに気付いたらしいアライアがその疑問に答えてくれる。


「……魔法使いの定義、ですか?」

「ああ、君達の中ではどうなのかわからないけど、人間の……一般的な魔法使いはさっきみたいに強化魔法での接近戦はしないんだよ」


 なるほど、確かに私も姉からその大事さを教えてもらうまでは強化魔法なんて必要ないと思っていたし、集落にあった本にも強化魔法を用いるのは近接攻撃を主な手段として戦う剣士や戦士だと書かれていた。


 そのためアライアの言う一般的な魔法使いであるサーニャからは奇異に映ったという事なのだろう。


……それでもアライアさんがあえて一般的って言ったのはそこに当てはまらない魔法使いも少なからずいるって事……そしてさっきの攻防を見る限り、アライアさんも一般的の範疇から外れてるのは間違いない。


「それにしてもルーコちゃん凄いね。その年であそこまでの強化を使える子は他に見た事ないよ」


 自分からは仕掛けるつもりがないのか、アライアは特に構える事なく感心したようにそう続けた。


「……それをいうならアライアさんの方が強化魔法の錬度は凄いじゃないですか」

「そりゃ私はこれでも〝魔女〟だからね。それくらいできないと勤まらないのさ」


 肩を竦め、軽い調子で答えるアライア。あの錬度の強化魔法をそれくらいと断じてしまう〝魔女〟という称号の高さに思わず辟易してしまいそうになる。


……私が目指さないといけないのは一度、そうはなれないと諦めたお姉ちゃんと同じくらいの高み……本当にそこまでいけるの?


 ここで再び立ちはだかる才能の壁を前に、心に疑念を抱えたままアライアとの模擬戦は続いていく。


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