第237話 不自由な戦闘と付け焼き刃の技術
「まずは様子見……って、言いたいところだけど、不確定要素が多いから速攻で片を付ける」
鈍い攻撃を掻い潜りつつ、接近した私はその勢いのまま魔物の腹部目掛け、強化魔法を纏った蹴りを放つ。
しかし、単純な威力だけならその辺りの岩でも砕けるその一撃は魔物を覆う魔鉱石の鎧に阻まれてしまった。
っ硬い……というか、物凄く痛い…………!強化魔法を纏ってこれなら打撃で倒すの難しそう。
やはりというべきか、魔物の体表を覆っている鎧は魔鉱石と同様……いや、下手をすればそれ以上の硬度を持っている。
幸い、蹴りを放った足はじんじんと痛みはするものの、動きに支障は出ていない。
けれど、この調子で蹴り続ければ、ものの数発で私の足は限界を向かえてしまうだろう。
仮に鎧に覆われていない部分を狙っても、致命傷には至らないだろうし、狙うにも体格差のせいで上手く力が乗らず、威力が伝わりきらないのは目に見えていた。
……打撃を主な武器にする人達は衝撃を相手の内側に送り込む技術を持ってるって聞いたことはあるけど、流石にそれを再現するのは無理……かといって下手な魔法はさっきの二の舞だし、やっぱり上手く隙間を狙うしかないか。
本音を言うなら距離を取って急所を狙い撃ちたいけれど、私が離れてしまえば魔物の標的があの子供に移ってしまう可能性が高い。
この状況だ。見ず知らずの子供、それも転生者なんて見捨ててしまえばいいという人もいるかもしれない。
でも、それをしてしまえば私は忌み嫌う人でなしの道へ一歩踏み出してしまう……そんな気がしてあの子供を見捨てることができなかった。
着かず離れずの距離を維持しつつ、魔物の狙いがあの子供へ向かわないよう、こちらが傷つかない程度の打撃で注意を引く。
速攻で片を付けるとは言ったものの、思っていたより、時間が掛かってしまっている。
方針は決まっていても、万が一、狙いが外れ、魔法が弾かれた場合を考えると、私はともかく、あの子供に当たる可能性を考慮して慎重にならざるを得ない。
まして狙える隙間も小さく、魔物の動きが鈍いとはいえ攻撃をかわしながらでは尚更だ。
拘束魔法で動きを封じて……ううん、魔法である以上、魔鉱石に弾かれるのは避けられないだろうし、試すだけ魔力の無駄だ。
注意を引くためにもこの距離を維持し続けなければならない以上、取れる手段も限られてくる中、私は懐……その内側に仕込んである収納用の魔道具から数本の短剣を取り出した。
「……付け焼刃ではあるけど、まあ、この程度の相手なら大丈夫かな」
子供を守らなければならない状況や魔鉱石の鎧が厄介ではあるものの、魔物自体の動きは鈍く、念のために準備した片目のせいで視界が塞がっていても、問題なく立ち回れる相手だ。
私はあくまで魔法使い……けれど、こういった魔法の通じない相手も想定して、ある程度は武器の扱いも学んである。そして、それに合わせた私だけの戦い方も編み出した。
「さて、まずは……」
数本の短剣を指に挟みこんだまま、魔物の攻撃をかわし、跳躍。
数本の内、一本だけをもう片方の手に持ち替え、鎧に覆われていない関節部分、目掛けて勢いよく振り抜く。
いくら魔鉱石の鎧に覆われていないとはいえ、魔物の外皮は硬く、ただの短剣を振り抜いたとしても、通常、刃は通らない。
しかし、私の振り抜いた短剣はいとも容易く魔物の関節を切り裂き、小さな傷をつけた。
「グッガァァァッ!」
その巨体からすれば大した傷ではないが、それでも攻撃された事に腹を立てたらしい魔物が怒りの声を上げて暴れ回る。
「……でかい身体をしてる癖にその程度の傷で暴れるのとは思わなかった。それならこれはどう?」
目茶苦茶に暴れようと鈍重なのに変わりはない。魔物の攻撃を全て掻い潜り、今度は短剣二本を持ち替え、その顔面へと投げ放った。
放たれた短剣の内、一本は暴れる魔物の腕に阻まれてしまったものの、もう一本は過たずその顔面を捉える。
先程、関節を切りつけた時とは訳が違う。短剣は勢いのまま魔物の左目付近に深々と突き刺さった。
その巨体と鈍重さに似合わず、たった少しの切り傷でさえ、敏感に反応し、暴れ回る魔物だ。
短剣の刃渡りでも、顔面に刃物が突き刺されば痛みはその比ではなく、鉱山内が振動で震える程の叫び声を上げた。
……短剣の数は二本、なら後は――――
耳に響く煩い叫び声に辟易しながらも、俯瞰して魔物の動きを見極め、追撃として残った短剣も投擲する。
阻まれないように再度、関節を狙ったが、所詮は付け焼き刃。暴れる魔物に弾かれてしまい、私は持っていた短剣を使い切ってしまった。
通常ならこの時点で短剣を回収するか、新たに取り出す必要があり、そこに隙が生じてしまう。
けれど、私の編み出した戦い方はその欠点を解消したものだ。
私は投げ放った短剣……そこから伸びる魔力の糸を手繰り寄せ、その全てを手元へと回収した。
「……強度に心配あったけど、これなら問題なさそう」
短剣と私を結びつけているのは魔力操作の応用だ。
武器に魔力を纏わせて斬れ味を上げる剣士系統の技術……それを転用、発展させ、細く長い魔力糸を作り出した。
物理的には切れない魔力で構成されたその糸は私の自由に操れる。
とは言っても、糸の扱いは難しく、おまけに鍛錬不足とくれば精々、短剣を手元に引き寄せる程度しかできない。
だから私は割り切ってそれに特化して研鑽した結果がこの戦い方だった。
「さて、巨体といっても急所は変わらないはず。なら短剣でも刺しまくれば倒せる」
手繰り寄せた短剣を今度は両の手にそれぞれ短剣を二本ずつ挟み、間髪入れずに投擲。
狙いが逸れようとも構わず投げては戻しを繰り返し、ただひたすらに攻撃を続けた。
「――――ッ!!?」
暴れようと何をしようと飛んでくる短剣に魔物は声にならない叫びを上げてのたうち回る。
そうして、ひたすらに魔物の抵抗をかわし、短剣を投擲し続けること数分……何度、投擲を繰り返しただろうか、やがて魔物の叫びも弱々しくなり、そのまま鮮血を撒き散らしながらゆっくりと倒れていった。




