第230話 イストの案内と気難しい店主
店を後にし、私達が次に向かったのは先日、イストとベールが誘拐犯と遭遇したらしい裏路地。
ただ、今回は別に誘拐事件について調べようという訳じゃない。
用があるのはこの路地裏を進んだ先にあるイスト行きつけのお店だ。
というのも、私とイストが辿り着き、同時に口に出した案が中古、あるいは壊れてしまった不良品を探し出し、ベールに修理してもらうというものだったからだ。
ただ、思い付いたは良いものの、私にお店の当てはない。
けれど、イストには思い当たる場所があったようで、そこへ案内してもらう事に。
彼の説明曰く、ガラクタから有用な品まで大抵、なんでも取り揃えているから魔動車もあるかもしれないらしい。
「…………ねぇ、大分、裏通りの奥まで来たけど、本当にそこって大丈夫なお店なの?」
私とイストが同時に同じ案を出した辺りからずっと不機嫌な様子のベールがその態度を隠そうともせずにそんな疑問を口にする。
とはいえ、ベールの気持ちも分からなくはない。
そもそも裏路地にあんまり足を踏み入れないが、それでも依頼の関係やイストを探す時など、普通の人よりは訪れている私ですらここまで奥には来た事がなく、周囲にはあからさまに怪しい露店が増えてきている。
仮にイストへの不満がなくても、そんな疑問が浮かんでくるのは当然だろう。
「……大丈夫か、大丈夫じゃないかで言えばまあ、うん、大丈夫…………だと思う」
「だと思うって……本当に大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。店主はちょっと……いや、大分、変だけど」
「…………もし、変な店でルーコちゃんに何かしたら貴方を殺すから」
言い淀むイストを不審に思ったらしいベールが鋭い視線をと共に言葉をぶつける。
一見、冗談に聞こえるかもしれないが、そこに込められた殺意は本物だ。
仮にそのもしもが起きればベールは何の容赦も躊躇いもなく、本当にイストを殺すと思う。
普段はのんびり軽い調子に振る舞っている……でも、ところどころで螺子が外れているというか、命を奪うのに何の躊躇いも持ってないというか、たぶん、過去に何かあったんだろうけど…………
現状、私にその矛先が向く事はないし、他人の過去を詮索しようとは思わない。
でも、何かの拍子にイストとベールの殺し合いにでも発展した場合、それはパーティとして巻き込んだ私の責任……そうなった時は命がけでも止めないと――――
そんな事を考えていると、いつの間にか先頭を歩いていたイストが立ち止まる。
考え事に夢中で気付かなかったけど、どうやら狭い通路を抜けて少し開けた場所に着いたようだった。
「……着いた。ここが所謂、裏の万事屋……店主には俺が話を通してくるからちょっと待っててくれ」
そういってお店の中へと入っていくイスト。彼の言動からしてこのお店、というより、店主に問題があるみたいだが、外観だけ見れば他と比べても小奇麗に見える。
「あ、ねぇねぇルーコちゃん。ほら、あれ」
「?何を…………あ」
ベールに袖を引かれて指差す方向に目を向けると、お店の横に結構な広さの敷地があり、そこに魔動車と思われる部品や外装が転がっていた。
「ざっと見た感じだけど、粗方、部品は揃ってそうだから、細かい部分はともかく、ひとまず問題なく組み上げられると思う」
近付き、置いてある部品類を一通り観察したベールがそう結論付ける。
つまり、ここにあるものが売り物だとすれば、買い揃えるだけで目的は達せられるという事だ。
正直、魔動車の貴重性を考えれば部品が揃えること自体、難しいと思っていたので、何軒も回る、あるいは最悪、手に入らない可能性も考慮していたので、これは幸先が良いといっても過言ではないだろう。
「……そう、なら問題は値段、それとそもそもこれが売り物かどうか、かな」
「んー……どうだろ。ガラクタに見えても、人によっては宝の山だからねぇ……お金を積めば売ってくれる人ならいいけど」
私の呟きにベールは顎に手を当てつつ、眉根を寄せて答える。
一応、この二年間で魔女として様々な依頼をこなしてきたので、私は人よりもお金を持っていると思う。それこそ後先考えずに使えば新品の魔動車を注文できるくらいには。
だから交渉に必要なのがお金なら問題はない。特に使い道がある訳でもないし、惜しむ程の執着もないからそれは良いけれど、問題はお金で交渉が進まない場合だ。
こんな場所で商売をしている以上、後ろ暗い事情は多かれ少なかれあるはず……それならお金で片が付きやすいが、イストの言い様から店主が変わった人物である事が予想できる以上、一筋縄ではいかないと思っていた方がいいだろう。
「――――全く、煩いのぅイスト坊は。わしは忙しいと言っておろうに」
どんな人物が出てくるのか予想しながら待ち構えていると、中から少し幼さの残る声が聞こえてきたかと思えば翡翠の髪を二つ結びにした少女……いや、幼女がイストと共に店内から姿を現した。
「…………ねぇ、誘拐は犯罪だよ?自首するなら減刑をお願いしてあげるけど?」
「……一緒にここまで来たのに、いの一番に誘拐を疑う辺り、文句を言いたいけど、まあ、いいとして……察しの通り、こっちの一見、幼女に見えるこの人がここの店主。外見はアレだけど、たぶん、この中の誰よりも年上だからあんまり失礼のないようにね」
相も変わらずのベールにイストはげんなりとした顔をしつつも、簡潔にそう説明する。
「おい、外見がアレとはなんじゃアレとは。全く……ま、今、イスト坊から紹介預かったここの店主、名をフレン・イシュグレーという。それで?坊がどうしてもというから出てきたが、一体、何の用じゃ?」
フレンを名乗る幼女は外見と裏腹にどこか年寄り染みた口調で問いかけてくる。
そこには子供が背伸びして無理にそんな言葉遣いをしているといった違和感もなく、この場の誰より年上というイストの言は説得力があった。
「……初めまして、私は凡才の魔女ルルロア。今日は探している物があって――――」
「へ~フレンちゃんっていうんだ。可愛いね~何歳になったのか言えるかな~?」
失礼のないよう言葉を選びながら用件を伝えようとした矢先、ベールが割り込み、イストの忠告なんてまるで聞いていなかったかのようにそんな事を言い出す。
今から部品を譲ってもらうといった交渉する場で、推定、年上相手にまるで小さな子供と接するような態度を取るベール。
そもそもイストの話を聞いていないのか、聞いた上で無視をしているのかは分からないが、少なくともそれは決して今から交渉する相手に取る態度ではなかった。
「……なんじゃこの見た目と中身がお花畑な小娘は。奇抜な格好といい、わしを舐めておるのか、おん?」
「んふふ~怒ってる姿も可愛いね~やっぱりちっちゃな子は何をしても可愛い――――むぐっ!?」
喋れば喋るだけフレンを怒らせそうなベールの口を物理的に塞ぎ、イストに目配せをして目的を伝えてもらうよう促す。
本来なら私が話してしかるべきだろうけど、ベールを抑えながらだと、どうやっても緊張感に欠けるというか、真面目に話しても伝わらない可能性が高い。
ならベールを黙らせ、元々の知り合いであるイストに説明を頼んだ方が無難だろう。
「あー……その、アレはちょっと頭がアレだから。おかしな奴がおかしい事を言っているだけと聞き流してくれ。それで、さっき軽く説明した通り、今回はちょっと探し物が…………」
「ふん、要するにイスト坊はパーティを引き連れて買い物に来たって事じゃろう?失礼な小娘と魔女を連れて、な」
不機嫌ながらもこちらを見定めるような視線を向けてくるフレン。
理由は分からないけれど、彼女の瞳の先には失礼な発言をしたベールではなく、私が映し出されていた。




