第228話 神聖教国と受けるべき依頼
〝神聖教国〟……ここでもまたその名前が出てくるとは思わなかった。
なし崩しとはいえ、ベールとパーティを組み、イストを道連れにしようとした理由の根幹にはこの国の存在があり、私の知りたい情報……神についてを知るために向かわなければならない場所でもあった。
「……神聖教国、これまた物凄く面倒くさい名前が出てきたもんですね。確認なんですけど、ギルドマスターはあそこがどういう国か知っててエルフである凡才の魔女に依頼を出してるんですよね?」
「…………ああ、もちろん、分かってる。あの国が人間至上主義の集まりだって事は、な。その上で依頼を出してるんだ。他でもない〝凡才の魔女〟に」
ギルドマスターが相手だからか、いつもと違い、敬語を交えつつ、僅かに棘のある言葉をぶつけるイスト。
その様子からもしかして私の事を心配してくれてるのだろうかと思ってしまう。
「ちょっと?話が見えないんだけど?」
「……ややこしくなるからベールは黙ってて。後から要約して教える」
「…………いや、流石にそこまでしてもらわなくても分かるから!私が言いたいのはギルドマスターの意図の話で――――」
はいはいとベールの言葉を聞き流し、口を塞いで大人しくさせる。
その際にベールの息が異様に荒くなって少し気持ち悪かったけど、仕方がないのでそれは我慢する。
「話を続けるぞ。エルフである凡才の魔女にどうしてこの依頼を出した理由だが、単純に実力の問題だ。さっきも言ったようにあそこは転生者の治める国で、所属する信者もその恩恵を受けているからな」
「……つまり、最悪の想定をした場合、その全部を敵に回して勝つないし、逃げ切るだけの実力が必要だから凡才の魔女に依頼したんですか?」
「ああ、今、この街にそれだけの実力を持っている冒険者は凡才の魔女しかいない。時間が経てば経つほど情報を得難くなる以上、他に選択肢はないって訳だ」
消去法と言えば聞こえは悪いかもしれないが、ギルドマスターの言っている事は理に適っている。
亜人差別の横行しているとはいえ、相手は曲がりなりにも国……言及はしなかったけど、時間云々の前に応援は望めないだろう。
私はエルフではあるけど、見た目の上では耳くらいしか人間との違いはない。
それも片耳が欠けているから特徴を隠しやすいし、実力も問題ないとなれば私に白羽の矢が立つのも当然だ。
問題はこの依頼を私が受けるかどうか。
元々、神についての情報を集めるために向かおうとしていたからそのついで……と、言葉にすれば簡単に聞こえるが、そう上手くはいかない。
単純に収集すべき情報が増えるという事はそれだけ身元を晒す危険が大きくなる事に繋がる。
情報収集の基本は人に聞いて回るか、本や書類、資料を探してみる、あるいは情報を握ってそうな相手を見つけてそれを吐かせる、なんて方法もあるけど、どうしたってそれなりに目立ってしまう事は避けられない。
神についての情報だけを求めるならこれを受ける必要はない……でも、これはイストの受けた依頼の延長線上にあるものだ。
成り行きとはいえ、イストとパーティを組むのなら依頼を受けるべきなのも事実。
様々な危険性はあれど、ギルドマスターが言った通り、最悪の場合、魔女としての力の全てを使って切り抜ければ問題はないだろう。
頭の中を整理し、依頼を受けるべきかどうか……受けたいかどうかを考えた末、結論を出した。
「……分かった。その依頼を受けるのは構わない。でも、今回は私一人じゃなく、ここにいるイストとベールと一緒にパーティを組んで事に当たるけど、問題はない?」
「…………問題がない、とは言いきれないが……そこは仕方ないか。元々、イストの奴に頼んでた依頼から出たものでもあるしな。そっちの嬢ちゃんは……まあ、うん、大丈夫だろ」
「その根拠のない大丈夫はどっからくるんですか……」
「あん?何、もしかして私に文句があるの?」
「…………別にアンタに言ったわけじゃないし、文句がある訳でもない。大体、パーティに関してどうこう言う立場じゃなからね、俺は」
噛みついてきたベールの言葉を軽く聞き流し、私にじとーっとした視線を向けてくる。
たぶん、言外に面倒な事に巻き込みやがってという恨みが込められていたのだろうけど、私は素知らぬ顔で気付いていない振りをした。
「……随分と愉快なパーティだな。凡才の魔女?」
「もしかして皮肉?依頼を受けるの止めにしてほしいの?」
「おっと、悪い悪い。それは勘弁してくれ」
軽口を叩くギルドマスターをそう言って黙らせ、ちらりと左右に視線を向けて思わずため息を吐く。
皮肉なんていわれるまでもなく、このパーティがでこぼこだらけの歪んだものだというのは私が一番分かっている。
そもそもが無理矢理、パーティを組んできたベールと、その盾にしようとして無理に巻き込んだイストの二人だ……上手くいくなんて微塵も思ってなかった。
けれど、まさかここまで二人の相性が悪いだなんて予想できるはずないだろう。
もちろん、イストを巻き込むために多少、私が拗れさせてしまった部分はあるけど、ここまで仲が悪い理由は流石にそれだけじゃないと思う。
「…………話が終わったなら依頼内容の擦り合わせをしたいんだけど、問題ない?」
「ああ、とはいっても、内容はさっきも話した通りだ。それと、相手が相手だけにギルドとしても大っぴらにはできない。万が一、依頼先で何が起こっても自己責任で頼む」
「何、それ。凄く勝手な話じゃない?ふざけてるの?」
私の言う通り、ここまでずっと黙っていたベールが不機嫌を隠そうともしない声音で口を出した。
話の流れからベールが黙っていないとは思ったけど、その様子から思いの外、怒っているようだった。
「……勝手なのは重々承知だ。それでもギルドとしてはそう頼むほかない」
「はぁ?だから――――」
「ベール、そこまでにして。ギルドマスターにも色々な事情がある。その辺りを分かったうえで私は依頼を受けたから」
ギルドマスターに詰め寄りそうな勢いのベールを制し、落ち着かせるために言葉を続ける。
「……仮の話、もしも神聖教国で私が捕まったとして、誘拐された人達がこの国に買われたかもしれないからそれを調査する依頼を受けたと知られ、ギルドがそれを認めた場合、どうなると思う?」
「それは……」
冷静になった頭で考え、結論に至ったのか、言葉を詰まらせるベール。
普段はおかしな行動や言動が目立つが、彼女は馬鹿じゃない。少し考えればギルドがどういう立場にいるか、すぐに思い至るだろう。
「……まあ、普通に考えたら抗議、ギルド連盟、あるいは所属する国と神聖教国の衝突、最悪の場合は戦争、なんて事もあり得るんじゃない?」
その様子を見かねたのか、小さいため息を吐きながらも、イストがベールの代わりに答える。
「イストの言う通り、私が関係性を吐いてギルドがそれを認めてしまうと大変な事になる。だからこその自己責任ってこと。ま、万が一にも捕まらなければ良いだけの話だけど」
結局のところ、ギルドマスターの話は保険でしかない。要は依頼を達成すればきちんと報酬が支払われるし、失敗したらそれまで、というだけの話だった。




