第227話 呼び出しと報告と新たな依頼
どうやらベールの宣言は奥にいたギルドマスターにも伝わっていたらしく、あの後、私たち三人はすぐに二階の応接室へと連れていかれた。
騒ぎはしたものの、特別、物を壊したり、暴れたりしたわけでもないのにギルドマスター直々に連行してくるのは少し大袈裟に思える。
もしかしたら先日の報告を直接聞きたかったのかもしれないが、だとするとイストまで一緒に連れていく必要はないだろう。
そんな疑問を浮かべながらベールとイストに挟まれる形で座り、ギルドマスターの話を聞いていると、その理由はあっさり明らかになった。
「――――という訳で、だ。昨日の依頼と村や転生者の件での聞き取りと共に、同じく、昨日の誘拐の件でも聞き取りが必要でな。さっきの騒動ついでに三人とも来てもらった」
「……イストはともかく、ベールも?あんな戦いの後でそんな事件にまで首を突っ込んでたの?」
「ん~……だって結局、検体は逃がしちゃって消化不良だったし、せっかく丁度いい獲物を見つけたと思ったらそこの男に邪魔されてイライラが溜まったからつい、ね」
「……そんなノリで人の依頼に干渉しないでほしいんだけどなぁ」
横でため息を吐くイストとは対称的に全く悪びれる様子もないベール。最初、顔合わせした時に二人の反応が少しおかしかったのはその件で色々あったからなのだろう。
それからまず昨日の時点で概要だけ報告している転生者の件を先に報告。
ベールは特に口を挟まなかったため、主に私が話し、ギルドマスターが疑問に思った部分を尋ね、それに答えるという形だ。
ただ私にとってはあった事を並べ、答えるだけなので真新しい情報がある訳でもなく、淡々と報告を終えた。
転生者については各地で問題を起こしているようで、各ギルドや国機関にとって悩みの種になっているらしい。
とはいえ、そんなギルドマスターの愚痴を聞いたところで仕方ない。早々に愚痴を打ち切らせ、誘拐事件とやらの報告を進めさせた。
関わっていないので報告を聞いているだけだったが、ところどころでベールが口を挟む……もとい、突っ掛り、イストがそれを辟易しながらも上手くいなして続けるというやり取りが繰り広げられるのを目にした私はもしかしてこの二人はとても相性が悪いのではないかという懸念が浮かんでくる。
まあ、そこはパーティを組むからといって無理に仲良くする必要はないからそこまで気にする必要はないと割り切るしかないか。
そんな事を考えている内にイストの報告も終わったようで、全てを聞き終えたギルドマスターが難しい顔で腕を組み、短いため息と共に口を開いた。
「……ったく、転生者の問題だけでも頭が痛いってのに、面倒ごとばかり起きやがる」
「ギルドマスターって大変だね~まあ、でも、私とルーコちゃんのおかげでひとまずの問題が解決したんだから良かったんじゃない?」
「……誘拐事件の方は関わってないし、イストの功績が大きいと思うけどね」
相槌でもないけれど、ベールの言葉にそう付け加える。実際、話を聞く限り、ベールの介入がなかったとしても、イストが隠れ家を発見した時点でギルドに報告するだけで結果は変わらなかったと思う。
むしろ、ベールが誘拐犯の男達に突っ掛った事で勘付かれてしまう可能性の方が高かったはずだ。
ここでそれを口にしたところで喧嘩の火種にしかならないからあえて指摘をしようとは思わないけど。
「それなんだが、転生者の方はともかく、誘拐事件の方は解決したって言いきれない」
「ん~どうして?私と一応、そこの男もだけど、二人で中にいた誘拐犯共は制圧したはずだけど?」
「……ああ、お前らのおかげであの場にいた誘拐犯共は全員取り押さえる事が出来た。詳細がまだだが、尋問で誘拐した人達の行方に取引先も分かってきた。だが――――」
「その取引先とやらに問題があった、ってところじゃないですか?大方、そういう趣味を持った上流階級か、それとも他の国、とか」
イストの言葉にギルドマスターが苦々しい顔で頷く。
なるほど、そういう事情ならその表情も納得だ。ただの誘拐事件だと思ったら思わぬ大物を引き当てたのだから。
「……その通りだ。元々、ただの誘拐事件にしてはあまりにも手掛かりが掴めなかったんで裏に何かあるたぁ思っちゃいたが、思った以上に厄介でな。たかだか一ギルドで対処するには相手が悪過ぎる」
「このギルドだけで対処が難しいなら他のギルドと連携するなり、国と協力するなり、やりようはあるんじゃないの?」
「無論、その辺りの対応にはすでに乗り出しちゃいるが、なにせ相手が相手だ。そう上手くいくかどうか……」
「……回りくどい言い方は止めた方がいいですよ。それだけ勿体ぶった言い方、それもこの場で話をするって事は何か頼みでもあるんじゃないですか?」
「え、そうなの?興味ないから全然、気付かなかった」
「……ちょっと黙ってて。話が拗れそうだから」
私も回りくどい言い回しに何かあると思っていたからこそ、ベールを黙らせ、先を促した。
「…………そうだな。結局、話さない事には始まらん、か。イストの言う通りだ。ギルドからお前ら……というより、凡才の魔女に依頼をしたい。内容は誘拐された人達の行方の捜索、情報だけでも構わない。できれば証拠まで掴んでくれるとありがたいが……どうだ?」
どうだ、と言われても、私にはやる事がある。
これからも活動していく上でなるべくギルドからの依頼は受けておいた方がいいのは分かってるけど、単純な討伐と違って情報収集は時間が掛かるからおいそれと頷く訳にはいかない。
「……行方の候補は?流石に何もない中で探す程、私も暇じゃない」
「いや、もちろん当てもなく探せなんて言わない。頼みたいのはとある国での情報収集だ」
「とある国、ねぇ。その男の言葉じゃないけど、勿体ぶってないでさっさと行ったら?」
「お前らな……まあ、いい。調査に行ってもらいたいのは現在、勢力を拡大し始めている新興国……転生者の治める国――――神聖教国だ」




