第226話 拗れる関係と寝惚け頭の後悔
あけましておめでとうございます。
今年もルーコちゃんの応援をよろしくお願い致します♪
「…………は?」
私の言葉に表情の抜け落ちたベールの口から唖然とした声が漏れる。おそらく、あまりの衝撃に情報の処理が追い付いていないのだろう。
正直、自分でも何を言っているんだろうとは思う。でも、私の負担を減らし、問答無用でイストを巻き込むにはこの方法が一番効率がいい。
昨日は疲れていて頭が回らなかっただとか、やけくそになったとかでは決してない。これはきちんと真面目に考えて至った方法だ…………たぶん。
「だから、ね。私は貴女との約束を守りたいんだけど、この人がなんていうか……」
「いや、俺は――――むぐっ!?」
嘘だとばれないよう何かを言いかけたイストの口を塞いだ私は表情には出さないよう気を付けつつ、ベールの様子を窺う。
私とイストのやり取りを他所にベールは俯き、聞き取れないくらいの声で何かをぶつぶつ呟いていたかと思えば突然、がばっと顔を上げ、光のない暗い瞳でこちらに視線を向けてくる。
「ねぇ、ルーコちゃん。私の耳がおかしくなっていなければルーコちゃんとその男が将来を誓い合ったって聞こえたんだけど……?」
「そう言ったつもりだよ?」
「…………そう、聞き違いじゃないんだ……じゃあ、仕方ないね――――もうソレを殺すしかないかな」
言い聞かせるように呟いたベールは一変、目を見開き、白衣の裾に手を入れ、今にもイストへ襲い掛かりそうな勢いで殺気立つ。
「っ……ぷはっ……ちょ、待て、まさかとは思うけど、ここで暴れるつもり?ってか、俺は――――」
「私の大事な人を殺しちゃ駄目。そんな事をしたら私は貴女を許せなくなる」
余計な事を言いそうになったイストの口を再度塞ぎ、なるべく真剣味を帯びた表情を作ってそう言い放つ。
常に無表情を作るようになってから結構経つため、上手くできていたかは分からないが、少なくともベールには伝わったらしく、彼女はまるでこの世の終わりを目撃したような表情を浮かべていた。
「そ、んな……それじゃあ、ソレは殺せない……っこの…………ぜ、絶対、私は認めない……認めないんだからぁ!!」
涙を流しながら捨て台詞のようにそう叫んだ彼女は踵を返し、勢いよくギルドを出て行ってしまった。
「おお……よく分からないけど、勝手に逃げてった。これは予想外」
どうなるか未知数な作戦だったけど、思いの外、良い結果になった。このままベールが打ちひしがれて帰ってこなければパーティを組まなくても済むかもしれない。
「…………で、結局さっきの茶番は一体何なのか、いい加減教えてくれない?俺はいつお前と将来を誓い合ったわけ?」
大きなため息の後、半眼でこちらを睨みながら尋ねてくるイスト。もう作戦としては上手くいったので喋ってしまっても問題はないだろう。
「……さっきの子、ベールがパーティに入れてくれってしつこいから無理難題な依頼を条件にしたら達成されて逃げられなくなった。だからどうせ逃げられないなら私の負担を軽くするために道連れ……もとい、仲間を増やそうと思って」
「……本音が漏れ出てるんですけど?それに仲間は作らないんじゃなかったっけ?」
「…………報酬はもちろん払う。今回は長期でパーティを組むからそれ相応の額も出す。確かに道連れの意味合いもあったけど、貴方の力が必要なのは本当。だからお願い」
イストの問いに答えないながらも、誠意を持って本当の事を口にする。無論、厄介なベールの面倒を押し付ける腹積もりなのも本当だ。
けれど、それ以上に神聖教国での情報収集にはイストの能力が有用……というより、必要不可欠。
少なくとも、エルフである私がむやみに歩き回って探すよりはずっとマシだろう。
「……普通に頼むならともかく、こんな騙し討ちみたいなやり口をされて頷くわけ――――」
「…………だめ?」
今の私らしくはない懇願するような声音と表情をできるだけ繕い、イストの両手を握って小首を傾げる。よくは分かっていないけど、色々な人を見てきた中で、こうすればお願いを聞いてくれやすくなると学んだ。
実践するのは初めてだけにどういった反応を取られるか分からない中、イストの様子を窺っていると、彼は少しの沈黙の後、大きなため息を吐いてからゆっくり口を開く。
「…………きちんと報酬は払ってくれ。料金は終わった後でもいいけど、経費は払ってもらうから。それと、目的と俺の役割はちゃんと明確にすること……分かった?」
「えっと……それはつまり、受けてくれるってこと?」
上目遣いで尋ね返すと、イストは誤魔化すように明後日の方向を向き、がしがしと頭を掻きながら答えた。
「……アイツもパーティに入れるならきちんと説明しておいてね。流石にあの調子じゃ後ろから刺されかねないし」
「…………それは……たぶん、無理……かも」
「え、いや、無理って…………」
イストが私へ問い返そうとしたその瞬間、再びギルドの扉が勢いよく開き、そこにはさっき走って出ていったはずのベールの姿があった。
結構な勢いだった事もあり、ギルド内にいた冒険者達の注目がベールへと集まる。
「――――私の目の黒い内はルーコちゃんに手を出させないから!ルーコちゃんは私が守る!」
びしりと効果音でも出そうな勢いでイストを指さしたベールはギルド中に響く声でそう宣言する。
当然といえば当然なのだが、この注目されている状態でそんな行動と宣言をすればギルド中に騒動が知れ渡る。
いや、知れ渡るだけならともかく、私達の関係を邪推し、尾ひれの付いた噂が広まっていくだろう。
図った訳じゃないけど、こうなってしまった時点でもうイストは逃げられない。
私がそうなるよう仕向けたとはいえ、元々、話の通じないベールに何を言ったところで誤解は解けないと思っていたが、これでは余計に難しいだろう。
「……もしかして物凄く面倒くさい状況になった?」
予想以上に厄介な状況を前にした私は心の中でイストに謝りつつ、これから先、疲れた頭で考えるのは絶対に止めようと心に誓った。




