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〝凡才の魔女〟ルーコの軌跡~才能なくても、打ちのめされても、それでも頑張る美少女エルフの回想~  作者: 乃ノ八乃
第五章 魔女殺しの魔女ルルロア

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第222話 魔女殺しの魔女対暴炎の拳王


 加速と強化魔法、そこに加えて放つ工程の最中に風を乗せて速度と威力を底上げして放った一撃。


 それは先程戦ったランドワームの巨体だろうと吹き飛ぶ威力を秘めている。


「――へぇ、なかなかいい一撃じゃねぇか」


 しかし、巨大な魔物を吹き飛ばす一撃をまともに受けたはずのバーニスは効いた素振りどころか、その場から一歩も動く事すらなかった。


 普通、どんな頑強さを持っていようと、あの威力の打撃を受ければ吹き飛ぶなり、後退るなりをするはずなのだが、やはり一筋縄ではいかないようだ。


 とはいえ、効かない事に動揺して呆ければ反撃を食らうのは目に見えている。


 バーニスが行動を起こすよりも早くその場から飛び退いた私は銃杖を抜き放ち、大まかな狙いだけつけて引き金を弾いた。


 瞬間、バーニス目掛けて無数の魔力弾が放たれ、激しい音と共に地面を揺らし、土煙を巻き上げる。


 無論、この程度でバーニスを倒せるとは思ってないし、巻き上がった土煙で視界を悪くする事も理解している。


 けれど、これはあくまでバーニスを満足させるための戦いであって殺し合いじゃない。


 なら本気で戦っても、全力で戦う訳にはいかないだろう。


 案の定、爆炎が土煙を払い、中から口の端を吊り上げたバーニスが姿を現した。


「……仮にも〝魔女〟対〝拳王〟の戦い。まさか卑怯なんて言わないでしょ?」

「ハッ、上等。魔法だろうとなんだろうと好きに使えぁいい。使う暇があるならなぁ!」


 多少なりとも挑発になればと放った言葉を軽く受け流したバーニスは強化魔法を纏い、私との距離を一気に詰めようとしてくる。


 私も強化魔法の練度にはそこそこ自信はあるものの、拳王相手にまともな接近戦をしようとは思わない。


 だから距離を詰められる前に再度、飛び退き、逃げる形で走り回った。


……流石に強化魔法での追いかけっこは分が悪いか。


 じりじりと距離を詰めてくるバーニスを見てそんな事を思いつつも、周囲を確認して立ち回りを考える。


「おいおい、逃げるだけじゃぁ満足できねぇぞ魔女殺しぃ!」


 自らの足元に爆炎を発生させて加速したバーニスが一瞬でこちらに肉迫。その勢いのまま爆炎を纏った拳が私に向けて振り下ろされる。


 食らえば強化魔法ごと圧し潰される威力の拳をまともに受けるわけにはいかないと、風の魔力弾を射出してその場をどうにか離脱する事に成功した。


 私が避けようとお構いなしに振り抜き、地面に拳を激突させるバーニス。凄まじい音を立てて地面が砕け、まるで隕石でも落ちた後のような惨状を地に刻んだ。


ただの打撃でこの威力……攻撃力だけなら今まで出会った最上位の称号持ちの中でも上の方だ。これを相手に満足させるのは骨が折れそう。


 爆炎こそ纏っているものの、あれはバーニスにとってただの通常攻撃でしかない。たぶん、威力的には私が放つ単一の魔術と同等。


 そんなものを特に制約もなく放ってくるだけでも厄介なのに、並大抵の攻撃を通さない防御力もあるのは理不尽が過ぎるだろう。


「――――『穿つ風弾(ピアーズウェスト)二重(デュアレ)』」


 体勢も整わない中、空中で狙いをつけた私は短く呪文を口にし、引き金をひく。


 放ったのは『一点を穿つ暴風(ピアートウェストリア)』を簡略化した魔法。元の物と比べれば貫通力は劣るが、使い勝手が良く、なにより魔力消費が少ない。


 二重で放たれたソレは銃弾程の大きさながらも、十分な威力を孕んでおり、まっすぐバーニス目掛けて飛んでいく。


「チッ、しゃらくせぇっ!」


 普通なら視認する事も困難な速度の風弾を視界に捉えたバーニスは舌打ちしながらも、全身に炎を漲らせる。形状を考えれば貫通力に秀でた魔法だという事は分かりそうなものだが、気付いてなお、避けるではなく、受け止めるつもりなのだろうか。


「……生憎とそれで防げるような魔法じゃない」


 着弾し、激突し合う炎と風。一瞬、均衡したかに見えたが、流石に貫通力に秀でた魔法と咄嗟の防御行動では私の方が勝っていたようで炎を貫き、バーニスの身体へと届いた。


「ぐっ……おおぉぉぉぉっ!!」


 最初の掌底では微塵も動かなかったバーニスの身体が魔法で押し出され、じりじりと後退していく。本来ならあっという間に身体を貫通するはずなのだが、バーニスは雄叫びと共に抗い、一歩踏み出して爆炎を吐き出して私の魔法を吹き飛ばした。


 いくら『一点を穿つ暴風』より劣ると言っても、その貫通力はランドワームの外皮だろうと容易く打ち破る。


 そんなものを強化魔法を纏っているとはいえ、ほとんど生身の腹筋で耐えて吹き飛ばすのは予想外だった。


「……死にはしないと思ってたけど、流石にそれは化け物が過ぎる」


 私の思わず漏れてしまった感想が聞こえたらしく、プッと口の中の血を吐き出して軽く息を吐いたバーニスが楽し気に笑みを浮かべる。


「ハッ……よせよ、まだまだこの程度じゃねぇだろ?俺が戦いてぇのは〝創造の魔女〟を殺したっていう〝魔女殺し〟だ。真偽がどうであれ、お前も魔女なら使えんだろ?出せよ〝醒花〟を」


 拳を打ち鳴らしたバーニスは最上位の称号である魔女の切り札〝醒花〟を使えと挑発してくるが、あんなものを使えば確実に殺し合いになる。


 想定されるのは〝醒花〟による一方的な蹂躙……ではない。種類にも寄るだろうけど、私の〝醒花〟ならバーニスを殺さずに制圧する事もできる。


 けれど、それは私だけが醒花を発動した場合だ。バーニスもまた、魔女と同じく最上位の称号である拳王……醒花と同等の何かを持っているだろう。


 そして私が醒花を発動すれば対抗してその何かを使うのは必至。そうなれば余波だけで村ごと吹き飛びかねない殺し合いが始まってしまうのは目に見えていた。


……挑発には乗らない。でも、このまま単調に魔法を撃ち続けても悪戯に魔力を消費するだけ……醒花を使わないにしても、何かしらの札を切る必要がある。


 仕方がないと割り切り、見せても影響の少ない手札を考えつつ、使おうとしたその時、少し離れた場所から凄まじい魔力が立ち昇る。


「「っ!!」」


 感じた魔力に私とバーニスが同時に振り向くと、そこには異様な圧力を放ちながら鋭い視線をこちらに向けるソフニルの姿があった。



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