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〝凡才の魔女〟ルーコの軌跡~才能なくても、打ちのめされても、それでも頑張る美少女エルフの回想~  作者: 乃ノ八乃
第五章 魔女殺しの魔女ルルロア

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第216話 観察と挑発と特異能力の真価


 ランドワームの体液と水流の飛沫が混じり、疑似的な雨となって降り注ぐ中、ベールは残った水塊を傘にしながら仕留めた個体を(つぶさ)に観察する。


「……一匹目と違って再生が始まらない……一個体ずつしか回復できないか、もしくは損傷が激しいからか……いや、まだ術者が傷を認識できていないからって可能性もあるかな」


 普段のおちゃらけた様子とは違い、真面目な顔をしてぶつぶつと呟く様は、着ている白衣も相まってどこか危ない研究者を彷彿とさせる。


 時間にしてみれば数秒、その短い間に観察を終えたベールは降り注ぐ雨から自身の魔力が込もった粒を回収して水流を再構築、そして再び槍の形状を取って無防備を晒している他の個体へそれを放った。


 指示も届かず、混乱からも抜け出せていないランドワームに水の槍を避けられる訳もなく、あっさりと口内を刺し貫かれる。


「チッ……いつまで呆けているつもりだ!さっさとあの女を仕留めろ!」


 展開したランドワーム達が立て続けにやられた事で流石に苛々が溜まっているらしく、少し声を荒げながら新たな指示を下すヨージ。


 彼の目的は子供を使って冒険者を呼び込み、能力の素体にする事だったはずだが、頭に血が上ってそれも失念している様子だ。


……転生者というからには見た目通りの年齢じゃないと踏んでいたけど、思ったよりも大人って訳じゃないみたい。


 多少の不利ですぐに感情を乱し、本来の目的を見失ってしまう……それに加えて能力をひけらかし、自分の力を誇示して他者を見下す精神性は大人というより、子供の方が近いと言える。


「あれぇ?素体にするんじゃなかったのぉ?ちょっと思い通りにいかないからって癇癪を起すなんて……まるで子供みたい」


 ベールも同じことを思ったのか、まるで挑発するような口調と表情でそこを突く言葉をぶつけると、ヨージは顔を真っ赤にして怒気を露わにする。


「ッ俺を馬鹿にしてただで済むと思うな……!」

「本当の事を言っただけなんだけど……もしかして図星だったのかなぁ?」

「ッ殺す……!」


 煽りを受け、殺意と共に怒りの込もった言葉を吐いたヨージは出した指示を取り下げ、残ったランドワームを自身の周りに集めた。


「何を……」

「混ざれ!《混制融合(フュージョン)》!!」


 私が何をするつもりだと尋ねるより早く、ヨージはその鍵言を叫ぶ。瞬間、集まってきたランドワームが空間ごと、ぐにゃりと歪み、やがて一つになっていく。


「……ま、魔物関連の能力ならそれくらいはできるよねぇ」


 明らかに異常な光景だが、ベールは取り乱すことなく、それだけ呟き、混ざり集まっていくランドワームへ静かな視線を向ける。


 ぐちゃぐちゃ、ぐちゅぐちゅと気味の悪い水音を立てて混ざり合い、姿を変貌させるランドワーム。やがて少しずつ流動する身体を安定させ、単体の時とは比べ物にならない程の威圧感を纏い、その姿を現した。


「ククッ……俺の特異能力(ギフト)はただ魔物を操るだけだとでも思ったか?やれっ()()()()()()()()()!」


「キルるルルる――――」


 ヨージの得意げな笑いに応え、不気味な鳴き声を上げた()()は元の魔物であるランドワームの面影こそ残っているものの、大きさは比べものにならないほど大きい。


 目算で三倍以上の体躯、全身を黒い鱗のような外皮に覆われ、大きな身体に見合った口の中はびっしりと鋭い歯が並んでいる。


「ギガントリルワーム……これが特異能力(ギフト)の力……」


 変貌したのは姿だけでない。戦ってはいないけど、感じる圧力は単純に残ったランドワームを合わせただけのものとは思えなかった。


「キルるるルル――――!」


 指示を受けたギガントリルワームがその巨体からは予想もつかない速度でベールに襲い掛かる。


 それに対してベールは展開していた水流で迎撃と防御を行おうとするも、強化された外皮とその巨体故の突進力には通じず、全て弾かれてしまう。


「っ間に合わな――――」


 防御を突破された以上、ベールは無防備を晒す他ない。このままだとあの巨体に圧し潰されてしまうと、助けに入るべく強化魔法を発動させるが、距離的に間に合わず、ベールのいた場所をギガントリルワームが通り過ぎる。


「クク、アッハッハッハ……ざまあないな!俺を馬鹿にするからだ!あれだけ余裕ぶっていても、ギガントリルワームの前には所詮無力なんだよ!!」

「キルるるルル…………」


 舞い上がる砂煙と惨状を目にして勝ち誇った高笑いを浮かべたヨージはその嫌らしい笑みのまま、私の方へ視線を移した。


「……っと、つい殺ってしまったが、仕方ない。もう一人いるし、またアレを使って馬鹿な冒険者を釣ればいいか」

「…………次は私の番って言いたいんだろうけど、()()()()()()()()()()

「あ?何を――――」


 魔力と気配を感じて口にした私の言葉にヨージが疑問符を浮かべた瞬間、その頬の横を凄い速度で何かが掠める。


 その正体は水の魔法……そしてそれを放ったのは――――


「……当てるつもりだったんだけど、ちょっと狙いがずれたかな」

「ッ貴様……!なぜ生きている!!」


 ギガントリルワームから少し離れた位置、砂煙で死角になっている場所から魔法を放ったのは先程、圧し潰されたかに見えたベールだった。


 砂埃で衣類や髪が汚れているものの、彼女に目立った怪我はない。


 巨体が重なって見えなかったが、おそらく圧し潰される直前に飛び退いて回避、舞い上がった砂煙に紛れてヨージが油断した瞬間を狙って水魔法を放ったという事だろう。


「さあ、なんでだろうねぇ。というか、さっきまで勝ちを確信して高笑いしてたのに実は倒せてませんでした~ってすっごく恥ずかしいよねぇ……ねぇねぇ、今、どんな気持ちぃ?」


 動揺するヨージに対し、ベールはたっぷり嫌みと含みを込めた笑みと共に煽る言葉を並べ立てる。


 それはもちろん、冷静さを奪うための挑発なのだろうけど、それ以上に相手の心を圧し折ってやろうという私怨が見え隠れしていた。


「……運良く避けただけなのが余程嬉しいらしい。だが、そう何度も続くと思うなよ!」

「そういうのは私に傷の一つでも言った方がいいと思うけどねぇ?」

「ッギガントリルワーム!!」


 舌戦では勝てないと判断したのか、それとも言葉より先に暴力に訴えたのか、あるいはその両方か。


 何せよヨージは会話に応じる余地もなく、ギガントリルワームをけしかける。


 さっきは上手くかわす事ができたかもしれないが、巨体から繰り出されるあの速度は厄介だ。


 それに強固な外皮は変わらず並の攻撃を弾くし、口の中にびっしり生えた鋭い歯を見る限り、先程のように中から魔法を使っても通じないだろう。


 やはりというべきか、ベールはかわすのが精一杯の防戦一方、水流の防壁もまったく意味を為していなかった。


 挑発は意図として見れば成功はしているが、結局のところ、ギガントリルワームをどうにかしなければ何の意味もないし、現状、彼女の持つ手札では攻撃も防御もまるで通じていない。


 このままでは(じき)に避けられなくなるのは目に見えて明らかだった。



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