第215話 生魔創操とベールの実力
「……なるほどね。やっぱりそういう系統の能力だった訳だ」
突如として現れたその魔物……ランドワームを前に小さく呟くベール。おそらく、ヨージの能力に予め見当をつけていたであろう彼女は今の流れからその正体を確信したのだ。
私も予測こそついていなかったが、それでもヨージの特異能力とやらが魔物の使役や召喚に関するものだというのは分かった。
「奇しくもというか、あながちというか、討伐対象は間違ってなかったのか」
思えば魔物の討伐依頼が嘘だったと発覚した時点で、子供がランドワームの特徴を挙げた事に違和感を覚えるべきだった。
確かにランドワームは厄介な魔物だし、その生態として砂漠地帯に生息している事もそこそこ知られている。
けれど、知られているというのはあくまで冒険者たちの間の話だ。
当然、砂漠のない小さな村で育った子供がランドワームの事なんて知っている訳もなく、まして、その姿や脅威をギルドの冒険者たちに伝えるなんて、嘘だとしてもできるはずがない。
直接、その脅威を知っている訳でもなければ。
「ある程度察しているようだから教えてやろう。俺の特異能力は【生魔創操】。魔物の調教と改造、収納と……まあ、色々できる便利なチートってやつだ」
「ちーと……?」
「向こうの世界の言葉だよ。語源は知らないけど、凄いというか、ずるいというか、まあ、とんでもないって意味だったと思う」
意味が分からず首を傾げる私にベールがそう教えてくれる。
つまり、要約すると、魔物に関するとんでもない能力……たぶん、魔法陣からランドワームを召喚?したのも能力の一つだろうけど、そこまでいうからには出てくるのが一匹だけではないだろう。
「ああ、こっちの世界では浸透してない言葉だったか。正確に言えば違うが、概ねその意味であってるよ。じゃあ、理解したところで……この能力をとくと味わえ」
問答は終わりと言わんばかりにベールへ手掌を向けたヨージ。
それを合図に複数の魔法陣が展開され、元々召喚されていた一匹と合わせて合計五匹のランドワームがベールの前に立ちはだかる。
「……ま、一匹なわけないよねぇ。ひとまず……様子見、かな」
迫るランドワームを見据えたベールは特に慌てた様子もなく呟くと、再び水塊を生成し、今度はそれを流動させ、周囲へと展開する。
破落戸を窒息させた時とは違って形状を変えた水塊は常に流動しており、その速度は比にならない。
おそらく、塊のまま撃ち出せば最低でも私の撃ち出す『水の礫』くらいの威力はあるだろう。
ベールは制御下にあるソレをランドワームに向けて操り、先手必勝と言わんばかりに攻撃を仕掛けた。
「キュルルルル――――」
水流の速度と形状を見るにあれは触れたものを切り裂く魔法だと思うが、ランドワームはそれに気付いていないらしく、先程と同様にその大きな口で呑み込もうとする。
しかし、窒息での制圧が目的だった水塊とは違い、そんなものを呑み込もうとすればただでは済まない。
案の定、呑み込もうとした個体は水の刃によって口内から切り裂かれ、血飛沫を吐き出して倒れる。
本来ならランドワームの硬い表皮は並の攻撃を通さないが、身体の中まではそうもいかなかったらしい。
「やっぱり細かく指示を出さないと駄目か。使い勝手は悪くないが、この手の魔物は知能が低くて面倒だな」
早くも一匹倒されたというのにヨージは微塵も慌てた様子はなく、冷静に状況を分析している。
たぶん、一匹や二匹やられようと、いくらでも替えは効くのだろう。
それにヨージは自分の能力を魔物に関する色々と言っていた。
なら自身の使役している魔物の傷を癒す術くらいある筈……そう思っていた矢先、ヨージが倒れた個体に手を翳すと、切り裂かれた傷が徐々に治り始める。
「このくらいの傷なら意味はない、と……それじゃまずはどこまでの損傷なら治せるかの検証だねぇ」
水流を操り、加速させたベールはたった今、回復したばかりの個体を狙って再度、攻撃を仕掛ける。
その速度は最初の一撃よりも速く、再びその個体の口内に侵入して内側から切り裂いた。
「……面倒だから何度も壊すなよ。まあ、いくら壊そうと大した負担にはならないが」
頭を掻きながら顔を顰めたヨージは面倒そうにもう片方の手を動かし、残るランドワームに指示を出してベールへと突撃をさせる。
逃げ道を塞ぐように四方から周囲の家屋を破壊しつつ迫るランドワーム。攻撃に水流を使っていたベールにはそれを防ぐ手段はない。
だから必然的に上へと逃れるしかないのだが、そんな事は誰だって予想がつく。
「上にも魔法陣……逃げてきたところを召喚した魔物に襲わせる算段か」
私は子供の治療のため、巻き込まれないように距離を取っていたので気付いたが、迫るランドワームへの対処に追われているベールにその余裕があるのかと聞かれたら正直、分からない。
……流石に丸呑みにされてからじゃ助けられないし、この辺りが限界だろうね。
気付かず、そのまま強化魔法か何かを使って上に逃れた場合、召喚された魔物の餌食になる事は確実……そうなった時に備え、いつでも助けに入るつもりで成り行きを見守るが、結果的に言えば私の出る幕はなかった。
「ふーん、四方から逃げ道は上しかない……ここまであからさまだと逆に罠じゃないかと思っちゃうよね〜」
緊張感のない間延びした声、今まさに襲われようとしているとは思えない態度だが、裏を返せば彼女にとってこの状況はその程度だという事だ。
言動から見ておそらく、空中に展開された魔法陣の存在に気付いている様子のベールは迫るランドワームを見回してからぱちりと指を鳴らす。
瞬間、四方それぞれから向かってくるランドワームの真下からまるで間欠泉のような鉄砲水が噴き出し、その巨体を宙へと浮かせる。
「「「「キュルッ!?」」」」
突然の出来事にランドワーム達は訳も分からず打ち上げられ、ベールという目標を見失い、一時的に動きを止めた。
「――――これで仕上げかな」
片手を真上に掲げて呟くと、その隙を待っていたと言わんばかりに展開していた水流が渦を巻いて集まり、頭上の魔法陣に向けて凄まじい勢いで射出される。
その様はまるで天を突かんとする槍のように鋭く、すでに魔法陣から頭を出し始めていた六匹目のランドワームをいとも容易く射貫いた。




