第214話 楽園の選民と特異能力
「……あん?……ああ、なんだ。連れてくるのは連れてきたってわけね」
「うぅ…………」
呻く子供から目線を外し、こちらへ睨めつけるような視線を向けてくる男。
おそらく、この男があの子を吹き飛ばした張本人だろう。
正体も目的も不明だが、ここまでの行動や言動を見る限り、碌な人間ではなさそうだ。
「貴方は誰?ここで何をしているの?」
そんな男に対して私は疑問を並べ立てる。
これで素直に答えるとは思わない。少しでも情報を吐いてくれれば良いくらいの気持ちで尋ねたのだが、男は予想外に饒舌で、聞いてもいない事まで口にし始めた。
「いいよ、知りたいなら教えてやる。俺はヨージ。神から〝特異能力〟を授かった転生者にして、同じ志を持った者達が集う組織……《楽園の選民》の一員。そしてここで何をしていたかは――――」
「支配と実験、でしょ。くだらない」
自らを転生者と名乗るヨージの言葉を遮り、ベールが低い声音で吐き捨てる。
彼がべらべらと語った情報は中々に聞き捨てならないものばかりだった。
転生者、特異能力、楽園の選民、気になる要素はいっぱいあるけど、それよりも今はベールの言葉の方が気になる。
「どういうこと?」
「……コイツはその特異能力とやらの力を使って村人を恐怖で支配。子供を使って冒険者を誘き出して能力の実験台にしようとしていたんだよ」
まだあの転生者……ヨージがどんな特異能力とやらを持っているか分からないのにも関わらず、断言するベール。
ここまで見聞きした情報に差異はないはずだが、どこからその結論に至ったのか、私には分からなかった。
「あの転生者の能力を見た訳でもないのにどうして言い切れるの?状況から見てこの村が支配されてるのは分かるけど……」
「簡単だよ。転生者、それも子供に対してあんな事をするような奴は自分の能力を誰かに試したくて仕方がない。なら支配したこの村を実験場にする事は容易に想像できる」
まるで前例でも知っているかのような口振りは不思議と説得力はあり、確かにその通りの人物像ならやりかねないとは思う。
実際、この後のヨージの行動を見れば彼女の言った事は正しかったのだと分かった。
「……人の話を遮って随分と好き勝手言ってくれる。ま、否定はしないが」
「じゃあ本当に村の人を……」
「ああ、とはいえ、まだそこまで検証は終わってない。だから俺をここでどうにかすれば村の連中は助かるんじゃないか?まあ、できればの話だけどな」
こちらを見下すような視線と共にいやらしい笑みを浮かべたヨージは余裕綽々と言った様子で腕を組む。
余程、自身の能力に自信があるのか、あるいは私達がたった二人だからと甘く見ているのかもしれない。
……依頼はあくまでランドワームの討伐。彼女との約束もそれが前提……手を出さないとは言ったけど、依頼自体が冒険者を誘き寄せる罠だったのならそれも無効のはず。
相対した以上、このまま見過ごせないし、向こうも私達を逃がすつもりはないだろう。
性格を読んで行動を言い当てたのは凄いとは思うが、能力自体は不明のままだ。
不確定要素が多く、ベールの実力は未知数とくれば、私が前に出て戦った方がいい。
そう思い、一歩踏み出そうとしたのだが、ベールが片手を上げてそれを制してくる。
「……どういうつもり?まさか手を出すなとでも?」
「うん、そのまさか。そもそも今回、ルーコちゃんは手を出さない約束でしょ?」
「それはあくまでランドワーム討伐の話。現状はもう…………」
「変わらないよ。あの子からの依頼は村を救う事……魔物だろうと転生者だろうと一緒。だから私があの転生者を倒したら約束は果たしたって事でいいよね?」
いつもの態度は鳴りを潜め、ヨージから視線を外さないまま、真剣な表情で私に問う。
「……無理だと思ったらその時点で手を出すから」
「おっけー……それじゃあ、あの子をよろしくね」
駄目だと言ったところでたぶん、ベールは止まらない。なら好きにさせて、危なくなったら手を出せばいい。
それに約束を基準に考えるのなら私にとっては悪くない状況ともいえる。
まあ、魔物からの被害だろうと、転生者からの被害だろうと、それを受ける村人からすれば堪ったものじゃないだろうが。
ベールが動くのと同時に私は痛みに呻く子供へ駆け寄り、そのまま抱えて距離を取る。
幸いというか、最初からどうでもいいのか、ヨージは私が子供を連れていく際もちらりと一瞥するだけで何もしてこなかった。
……私達という獲物がいるなら子供くらいどうでもいいって事か。妨害されないなら面倒がないし、私にとっては問題ないかな。
そんな感想を抱きながら様子を見つつ、治癒魔法を使って子供の傷を癒していく。
「やる気満々か。俺としては抵抗しないでくれた方が助かるんだが」
「……聞くだけ無駄だと思うけど、一応聞いておくよ。なんで?」
「そりゃ……使う素体はなるべく完品で手に入れたいからに決まってるだろ?」
「そんな事だろうと思った――――」
短い応答の後、ベールは中距離を保ったまま腕を振るい、破落戸達に使った水の魔法を放つ。
速度はないが、無数の水塊が命中するまで相手を追いかけ、口を覆って窒息させる恐ろしい魔法。それに対してヨージは余裕の笑みを崩さず、その場を動く気配もない。
単純に見ただけでは水塊の脅威が分からないのかもしれないが、それでも敵が魔法を放ってきたのなら警戒するなり、対策を講じるなりするのが普通。にもかかわらず、何もしないというのは余程の馬鹿か、あるいはそれだけ自分の防御に自信があるか、だ。
「――――〝召集・ランドワーム〟」
迫る水塊へヨージがそのたった一言を口にした瞬間、地面に魔法陣が生成され、そこから薄い土色の表皮を持つ巨大な魔物が現れる。
「キュルルルルル――――」
生き物の口から出たとは思えない鳴き声を発したソレはその巨体に似つかわしくない俊敏な動きで漂っていた水塊を全て呑み込んだ。




