幕間 神の存在を探る者達
アライアが神を世界から隔離して数日後、魔女達の力によって荒れ地と化した旧エルフの集落のある森へ三つの人影が足を踏み入れていた。
「――――おい、いつになったら着くんだ?いい加減、退屈すぎて死にそうなんだが?」
欠伸を噛み殺しながらそんな不満を口にするのはかつて〝死遊の魔女〟と共に街を襲った集団の一員である〝暴炎の拳王〟バーニスだ。
「はぁ……つい五分前にも同じことを聞きましたよね?もう少し我慢ができないのですか貴方は」
ため息を吐き、うんざりした様子で答えるのはバーニスと同じく、とある集団の一員……〝鏡唆の賢者〟ソフニル。
そしてもう一人――――
「――――まあまあ、こうも同じ景色だとそう感じるのも無理はないっスよ。ねえバーニスサン?」
かつてルーコ達と行動を共にしていた〝療々の賢者〟リオーレンがへらりとバーニスへ笑い掛ける。
「……ケッ、相も変わらず胡散臭い野郎だな。そのムカつくにやけ顔をとっとと引っ込めやがれ」
「ちょっひどくないっスか?どちらかといえばボクはバーニスサンを庇ったつもりなんスけど……」
「この人はこういう人ですよ。まあ、まだこちらに来て日が浅いですし、信用されてないという事でしょう」
大げさな動作を見せるリオーレンにそう言って肩を竦めるソフニル。
リオーレンが合流した時からの付き合いだったからか、どうやらバーニスよりは彼と打ち解けているらしい。
「だいだいよぉ、なんで俺がついてこなきゃならねぇんだぁ?調査ってんならお前ら二人で十分だろ」
「そりゃあ、護衛としてっスよ。この森は他よりも強力な魔物が出ますし……」
「あ?そんなのお前らで倒しゃいいじゃねぇか。ここの魔物が強ぇつっても、普通の奴に毛が生えた程度だ。腐っても最上位の称号持ちなら問題ねぇよ」
「……仮にも貴方だって組織の一員なんですから文句ばかり言ってないで真面目に取り組んだらどうです?そうじゃないなら――――」
「ガリストみたいに消すってか?そりゃ怖ぇこって」
いい加減、うんざりしたのか、語気を強めたソフニルの言葉をバーニスが鼻で笑って遮る。
彼にとって〝死遊の魔女〟ガリストは少し馬が合う同僚程度の認識だったが、それでも僅かに思うところはあったようだった。
「何を馬鹿な事を……ガリストさんは独断専行をして創造の魔女一行に返り討ちにされたんですよ。バーニスさんも知っているでしょう?」
「別に隠す必要はねぇよ。前々からガリストの奴の行動は目に余るってのは言ってただろ。返り討ちにあったてぇのは本当だろうが、何かを喋られる前にスズノ辺りが止めを刺した……違うか?」
問うてはいるものの、確信を持ったバーニスに対してソフニルは諦めたように再度ため息を吐いた。
「…………全く、その無駄に回る頭をもう少し別の事に使ってくれませんかねバーニスさん?」
「ケッ、やなこった。頭脳労働はお前らの領分だろ。俺は暴れられればそれでいい」
「はぁ……まあ、別段、期待はしてませんが、必要最低限の仕事はしてもらいますよ。今回の調査もその一環です」
「……チッ、面倒くせぇな」
「まあ、そう言わずに。そろそろ目的地が見えてくる頃っスから……ほら」
リオーレンの指す方向……そこには建物はおろか、草木の一本も残っておらず、ただただ荒れ地が広がっている。
「あぁん?ここが目的地だぁ?何もねぇじゃねえか」
「……ここが目的地には違いないですよ。大方、例の対象……エルフを管理する神と彼女達の戦闘で更地になったというところですか」
眉をひそめるバーニスにソフニルが答える。
その口ぶりから彼はここで何があったかを大まかに把握している様子だった。
「その神が暴れた可能性もあるっスけど、それを考慮しても、あの人達は相も変わらず化け物っスねぇ……情報ではこの戦いで創造の魔女は命を落としたそうっスけど……」
「ええ、詳細は不明ですが、この森を抜けて戻ったのはエルフの少女と絶望の魔女の二人のみ。おそらく、創造の魔女は彼女達を逃がすために殿を務めたのでしょう」
「……創造の魔女と絶望の魔女が揃っているってのに逃げるしかねぇってのは……それだけ神が化け物だったって事か」
かつての仲間に思うところがあるのか、リオーレンは声の調子を落とし、ソフニルとバーニスも神妙な表情を浮かべる。
直接、戦ったわけではなくとも、創造の魔女と絶望の魔女の実力を知っている二人は神という存在が以下に理不尽なのかを痛感していた。
「…………ここでぼーっとしていても仕方ないっス。早速、神の痕跡とやらを探しましょうか」
「そうですね……ほらバーニスさん。持ってきた計測器を設置してください」
「……面倒くせぇ。本当に意味なんてあんのかよ」
ぶつぶつ言いながらも言われた通りにするバーニス。
そして結局、日が暮れるまで調査を続けた彼等だったが、アライアが神を封じるべく命を懸けて創った空間に気付く事はなかった。




