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〝凡才の魔女〟ルーコの軌跡~才能なくても、打ちのめされても、それでも頑張る美少女エルフの回想~  作者: 乃ノ八乃
第一章 幼女エルフの偏屈ルーコ

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第20話 お姉ちゃんへの隠し事と大きな違和感

 

 姉との真剣勝負から一月、私はあの魔術の改善点を探る一方で、少しずつ森の外に出るための下見の準備を進めていた。


「うーん……やっぱりお姉ちゃんには内緒にしておかないとまずいよね……」


 書庫の中で一人、うんうんと唸りながら考えを巡らせる。


 いくら下見でその日の内に戻るつもりであっても、森の外に向かおうとしている事が姉に知られれば、絶対に止められるだろう。


あの模擬戦以降、一緒に練習する頻度は減ったから下見をする機会はあるけど、万が一、外に出ようとしている事がお姉さまに知られれば、今まで以上に私から目を離さなくなる……。


 そうなってしまえば下見どころの話ではなくなってしまい、身動きが取れなくなってしまう。


「……それに問題はお姉ちゃんの事だけじゃない。外に出るって事はあの人を惨殺した魔物と鉢合わせるかもしれない」


 今まで何度も他のエルフ達の狩りに同行して魔物を倒してきたが、そこまで手に負えないという魔物には出会わなかった。


 もちろん強いと思う魔物がいなかったわけではなく、何度も危ない目にあったり、苦戦したりはしていたのだが、それは練習のために戦わざる負えなかったからで、逃げる事に専念すれば容易に逃げられた筈だ。


「私はあの人の実力を全部知ってたわけじゃないけど、少なくとも狩りに出ていたエルフ達よりもずっと強かった……」


 当時、あの人がこの集落で一、二を争う使い手だと言われていた事に間違いはない。


 今の姉や長老みたいな規格外の強さとは言わないけど、それでも強かったのは確かだ。


 仮に油断してその辺の魔物に不意打ちを受けたとしても、あの人なら充分に対処出来ただろう。


 そんなあの人が惨殺されたという事はそれだけ強い魔物が確実に存在するという事に他ならない。


「今の私の実力があの人と比べてどうなのかはわからない……でも逃げる事に関してはたぶん私の方が(まさ)ってる」


 私との練習では教えなかっただけであの人も強化魔法は使えたと思う。


 だからその点では私とあの人は同じだ。


 けれど、私には姉の魔法から逃れるために編み出した移動方法がある。


 あれを使って逃げる事に専念すれば、たとえ姉からでも逃げる自信がある。


「だから最悪その魔物と出くわしても大丈夫だとして……決行は次の休みの時、準備もあまり大荷物だと気付かれるから最低限で……」


 問題を整理し、頭の中で下見に必要なものを吟味していく。


日帰りとはいえ、万が一に備えて水や保存食を少しは持っていくべきだけど……。


 当日、姉には一日書庫に籠るからと言えばお昼のためと水や食料を持っていっても不自然には思われないだろう。


 ただその場合だと姉が様子を覗きにきたり、お昼を持ってくると言い出すかもしれない。


「……まあ、それは理由をつけて来ないように事前に説得するしかないか」


 ひとまず、大まかな方針は決まった。後は外に出るための道順を確認するために集落周辺の地形が載っている本を取り出し、目を通す。


「あの人もこれを参考にしてたけど、そこまで正確じゃないから進む方向くらいしか決められない……ん?」


 本に目を通しながら頭を悩ませていると、不意に喉の奥に何か引っ掛かったような違和感に襲われる。


なんだろう……この違和感、特におかしいところなんてないのにどうして━━


 今まで読んだ時には感じなかった違和感に思わず首を傾げ、(ページ)を注視する。


「……あ、そっか!これ、あの人が見つかった方向と旅立った方向が逆になってるんだ」


 その後の記憶が衝撃的過ぎて正確に覚えているわけではないが、確かあの人は私が目星をつけた方向と同じところから出発した筈だ。


 にもかかわらず、あの人の死体が発見されたのは出発した方向とは反対にある狩場の近くだった。


 もちろん、魔物がそこまで死体を持ってきた可能性やあの人が出発した方向を私が記憶違いしていた可能性もあるが、どちらも可能性としては低い。


 わざわざ魔物が真反対にある狩場まで死体を運ぶと思えないし、記憶違いにしても外に向かう分かりやすい道はそこだけ。他にも行けない事はないが、敢えて分かりづらい道は選ばないだろう。


「かといって死体を持ち帰ったエルフが嘘を言うわけもないし……うーん……」


 当時は疑問にも思わなかったが、よくよく考えてみればあの人の死には色々不自然な点が多い気がする。


……ここまでくると前に私が立てた推測も間違いだらけだったかもしれない。


 状況の不自然さを考えるとあの人が魔物から逃げた末に力尽きたのではなく、()()()()()()()()()()()()()あの場所に死体を運んだという方がしっくりくる。


「っ……!」


 そこに考えが行き着いた瞬間、背筋に冷たいものが落ちたような感覚が走り、思わず持っていた本を取り落としそうになった。


 もし、この推測が正しいとしたら誰かがあの人の死に関わっているという事になる。


 あの死体の有り様からして、その誰かがあの人を殺害したとまでは言わない。しかし、発見された状況と見つけたエルフの話を鑑みれば誰かが死体を運んだという可能性は大いにあり得る。


……もう一つ、可能性としては私達と同じような知能を持った魔物がいるっていうのだけど……それはないだろうし、あったとしてもわざわざ死体を運ぶ意味がないからね。


 そんなほとんど有り得ない可能性よりは第三者が介在していると思った方がいいだろう。


 そうなるとその第三者が誰かという話になるのだが……。


「…………これ以上は考えても仕方ないか。ここで悩んでも答えが出るわけでもないし、もしかしたら私の思い過ごしかもしれないしね」


 他に誰もいない静まりかえった書庫の中に私の独り言がやたらと大きく響いた。



 一通り計画を立て終え、後は直接準備を進めるだけになったところで、参考にしていた本をしまい、軽く掃除してから書庫を後にした。


「さてと、とりあえず今日出来る事はやったし、後は前日に持っていくものを用意するだけだね」


 軽く首を解して肩を回してから伸びをする。


 一先ず予定していた下調べは終わったが、まだ日が高く、家に帰るにもまだ早い。


「思ってたよりも早く終わったけど、どうしよう……」


 普段なら本を読んで過ごすところだけど、掃除して出てきた手前、戻るのも気が進まない。


「うーん……せっかくだから一人で練習でもしようかな」


 休みとはいえ、他にする事もないし、外に向かう以上は少しでも腕を上げておくに越した事はないだろう。


「……そうと決まれば早速あそこに行こっと」


 少し大きな声でそう呟いてから村の外れにあるいつもの空き地に足を運んだ私は、周りに誰の気配もないことを確認してから練習に取り掛かった。


「まずは魔力のある内に……」


 強化魔法を発動させて意識を集中、同時に魔法を発動させようと試みる。


落ち着いて……強化魔法を維持したまま、魔法を……っ!


 魔法を発動させようとした瞬間、強化魔法に回していた魔力の制御が効かなくなり、さらには使おうしていた魔法の制御まで儘ならなくなってしまった。


「っ……やっぱり無理か」


 強化魔法とその他の魔法の併用、これは自分が出来ない側だと気付いてからも挑戦はしていた。


 けれど何度挑戦してみても一向に出来る気配がせず、その上、魔力に余裕がある時でないと反動を抑えきれないため、おいそれと練習も出来ない。


「……こればかりは仕方ないね。今は出来る事を伸ばしていくしかない」


 併用が出来ればやれる事の幅が大きく広がるのだが、無い物ねだりをしてもしょうがない。出来ない事は工夫してどうにかする。


「〝命の原点、理を変える力、全てを絞りかき集める……先はいらない、今ほしい、灯火を燃やせ、賭け進め〟━━」


 全身の魔力を感じながら詠唱と共に集束させ、圧縮。後は解放するだけで『魔力集点(コングニッション)』が発動出来る状態で止める。


詠唱の速度は上がった……でもやっぱりまだ実戦じゃ使えない。


 いくら詠唱が速くなっても、集中力が必要で動けないという点は改善できていないし、使用時の意識の遅れについてもまだ解決法は思いついていなかった。


「ふぅ……本当なら使いながら改善していきたいけど、他の魔法も練習したいからここまでかな」


 この魔術は全開で使うともちろん魔力切れを起こして倒れるのだが、集束させる魔力の量を抑えてもごっそり削られ、なおかつ効果も大した事がないという欠陥も抱えている。


 そのためこの魔術の練習をするとなると必然的に他の魔法の練習が出来なくなってしまう。


一応、私もエルフだから魔力は多少なりとも多い筈なんだけど……。


 飛び抜けているとは言わないが、私も平均くらいの魔力量はある。


 種族的に魔力量の平均値が高いエルフの中で平均というのは他に比べて多いという事だ。


 それなのに姉と戦っているとすぐに魔力が尽きるし、私の魔力量ではおいそれと使えない規模の魔法が必要になってくる。


まあ、それは私が……というよりはお姉さまの魔力量が異常なんだろうけどね。


 他を知らないのでなんとも言えないが、姉は少なくともこの集落の中では飛び抜けた魔力量を持っているため、そこに差が出てくるのは仕方ないのかもしれない。


「それを考えると、やっぱり防御よりも回避に専念するのが私にはあってる気がする……」


 魔力量に差がある以上、姉の魔法を防御魔法で防ぎ続ければ私が先に削りきられてしまうので、防ぐよりも避ける方が正しい。


 もちろん、回避し続ける事にも魔力は多大に削られるだろうけど、こちらの方がまだ反撃する機会もあると思う。


「……とりあえずお姉さまの魔法を想定して━━〝水よ、礫となりて、撃ち放て〟」


 右手を上に掲げて詠唱し、上空に水の塊を生成する。


後はこれにもう少し魔力を込めてから自分でも分からないよう無差別に……。


 時間を掛けて水の塊に魔力を込めて姉の魔法に近い威力を再現しつつ、放った後、すぐに強化魔法を発動出来るように準備する。


━━『水の礫(アキュレット)


 大きさがある程度になったところで呪文と共に水の塊を解放し、威力と速度を持った魔法の雨を無差別に降らせる。


「まだお姉さまのには及ばないけど、練習ならこれくらいで……!」


 すぐさま強化魔法を発動させ、最小限の動きで降り注ぐ水の礫を避け続ける。


「まずっ……!?」


 順調に魔法をかわしていたその時、避けた拍子に礫の一つが直撃しそうになった。


「っ……!」


 その場から大きく飛び退き、直撃する寸前のところでなんとか避ける事には成功したものの、追撃のような形でさらに礫が降り注ぐ。


「わっ、とっ!?」


 体勢が崩れたまま避けた事で足がもつれてしまい、さらに飛んできた礫を地面を転がって避ける羽目になってしまった。


 ごろごろと空き地の隅まで転がり、魔法の効果範囲外に出て水の塊がなくなるまでやり過ごす。


「ぅ……どうにか避けられたけど、泥だらけになっちゃった」


 ぎりぎりまで追い込まないと練習の意味がないと思ってたけど、まさか自分の魔法でここまでになるとは……。


「うぺっ……うぅ……口の中がじゃりじゃりする~……」


 立ち上がって泥を払い、転がった拍子に口に入った砂利を吐き出した。


 このやり方で練習をするようになったのは一月前の姉との模擬戦以降で、まだ数回しか出来ておらず、今みたいに避けきれなくなる事が多々あった。


「……今日みたいにごろごろ転がって避けたのは初めてだったけど、毎回かわしきれてない……頑張らないと」


 自分ので撃って自分で避けるという事で負担が掛かっているものの、威力や速さ自体は姉の魔法に及んでいない。


 つまり、ここで自分の魔法を難なくかわせるようにならなければ、姉の魔法を避けながら反撃するなんて不可能だという事だ。


「……よし、もう一回、今度は全部避けきる」


 結局、その日は、時間を掛けて『水の礫』を生成し、避け、失敗したらもう一度、という練習を日が暮れるまで繰り返し、泥だらけになりがら帰路に着く事になるのだった。


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