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〝凡才の魔女〟ルーコの軌跡~才能なくても、打ちのめされても、それでも頑張る美少女エルフの回想~  作者: 乃ノ八乃
第四章 魔女のルーコと崩壊への序曲

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第186話 〝無限の醒花〟対〝神を自称する者〟


 魔法を無効化する自称神に対し、私の打った手は単純明快。


 その足元を狙って土魔法を使い、辺り一帯を容易くに呑み込むほどの巨大な落とし穴を生成しただけ。


 ただし、無限の魔力を使って生成したそれは大きいだけでなく、かなりの深さになっており、ただ落ちるだけでも致命傷を負う事は必至だ。


「…………なるほど、魔法が通じないなら物理的な手段という訳か」


 落下しながら呟く自称神だったが、その声音はあくまで平坦。おそらく、自称神にとってこの程度は何でもないのだろう。


 まあ、私としてもただの落とし穴が通じるとは思っていない。


 巨大な落とし穴はあくまで下準備。私の策はここから始まる。


「〝落ちろ、天の雫〟――――『清雲の落涙(ピューアクロップ)』」


 醒花状態で初めての詠唱と共に放つこれは今までのものとは一線を画する魔法だ。


 別に凄い威力があるだとか、恐ろしい概念が付与されているだとか、そんなものではない。ただ、この魔法は()()()()()()()()()


 今まで過剰な威力で間接的に雲を散らしたり、吹き飛ばしたりはしたけど、魔法そのもので天候を大きく変えた事はない。


 狭い範囲でなら天候に影響を与える魔法もあるし、使った事もある。


 でもこの魔法はそれらとは全くの別物。魔力に物を言わせて巨大な暗雲を創り出し、大気中の水分を吸収して雨を降らせる。


 効果としてはそれだけだが、その他の魔法とは規模が違う。


 呪文を唱えた瞬間、立ち込める暗雲から雨粒が零れ落ち、次第に激しさを増して自称神が落ちた大穴に降り注いだ。


「これは――――」


 豪雨と表現する他ないのだろうけど、その降水量はまず自然ではありえない。


 降り注ぐ雨は一分も経たないうちに大きな穴の中を水で満たしていく。


「……お姉ちゃんの身体を使っている以上、呼吸は必要でしょう?たとえ魔法が効かなくても水自体は防ぐ事ができない」


 無論、自称神もただ落ちて溺れるだけではないだろうが、仮に空を飛べたとしても、降り注ぐ洪水のような質量は脱出する事を許さない。


……これは死遊の魔女ガリストみたいな殺せない相手や攻撃が通じない相手が出てきた時のために考えていた手段だけど、魔力の問題で実現できなかった。


 巨大な穴も、降り注ぐ洪水も、私が本来持っている何倍もの魔力量が必要なのだが、醒花状態なら問題ない。


 無限の魔力は尽きる事を知らずに相手の息が途切れるまで水は降り注ぎ続ける。


加減はしてないし、倒すつもりの策だけど、お姉ちゃんごと窒息死させてしまったら意味がない……だから――――


「――――中々に面白い手だ。存外、お前もやるものだな」


「っ……!?」


 聞こえる筈のない鮮明な声に私は思わず目を見開く。


 自称神は穴の底で水の中。そんな深い場所、ましてや水中で声を発したとしても、私まで届くわけがない。


 脱出される可能性も視野には入れてたけど、それにしたって水から這い出る必要がある以上、私の視界には入る。


 だから綺麗に声だけ聞こえるこの状況はあまりにも異常だった。


「確かに魔法が効かなくとも、生物の形を取っている以上は水という存在は無視できない。故にお前の考えは正しい」

「ッ一体どこから…………」


 喋り続ける声の出処を探すも、その姿は見当たらない。


 まさか水の中のまま喋っているわけではないかと、荒唐無稽な想像をしそうになったその時、頭上に気配を感じた私は弾かれたように空を見上げると、何の感情も乗っていない瞳でこちらを見下ろす自称神の姿があった。


「だが、想定が足りていないな。長老と私の結びつきを知っているのならその可能性を考慮すべきだった」


 驚く私を他所に自称神は空中に浮いたまま、講釈を垂れるようにこちらの浅慮だと指摘してくる。


「何を……」

「気付かないか?途中で気を失ったとはいえ、お前は長老と姉の戦いを見ていただろうに」

「長老とお姉ちゃんの…………あっ」


 言われて思い出すのはお姉ちゃんの猛攻を受け、平然とそれを避けて見せた長老の姿だ。


 どうやって避けたか正確には分からないが、長老が一瞬で別の場所に移動した事は確か。


 あの時は凄まじい速さで動いたのだとばかり思っていたけど、自称神の口ぶりと、現状を鑑みるにその推測は外れていたらしい。


「ようやく思い至ったようだな。その推察通り、私が使ったのは俗に瞬間移動と呼ばれるものだ。まあ、多少の物珍しさはあれど、人にも扱える技術の範疇だろう?」


「……お姉ちゃんの顔で、その無表情のまま私に問いかけるのは止めてくれない?思い出が汚れるから」


 気付けたかもしれないと言われれば確かに可能性はあった。


 でも、あの時の不明瞭な記憶と詳細の分かっていない長老の回避手段からその脱出方法を考慮に入れろというのは無理があるし、それを問いかけのように指摘してくるのは思うところがある。


 そしてなによりも、頭にくるのは私の大好きなお姉ちゃんの顔で、声で、さも当然のようにそうしてくる自称神の存在だ。


「思い出が汚れる、か。その感性は理解しかねるが、問答が気に入らないのなら早々に決着をつけるとしよう」


 そう言って動き始めようとする自称神に対して私は口の端を吊り上げ、開いた片手を向ける。


「理解してもらおうなんて思ってないから結構。それと、()()()()()()()()()()()()()


 宣言と共に空から降り注ぎ、巨大な穴の中に溜まっていた膨大な水がうねりをあげて立ち昇り、自称神を囲うように球体を描いていく。


「先程のやりとりをもう忘れたのか?いくら水で囲み、窒息させようとしても瞬間移動がある限り無駄だという事を」


 無表情ながらも少し呆れた様子を見せる自称神。もちろん、さっきの今で瞬間移動の事を忘れるわけがない。


 ここからの策はそれを織り込んだ勝算のあるもの。瞬間移動は想定外だったけど、脱出される可能性を考慮していた上での次善策ならまだ対応できる範囲だ。


「……ただ窒息させるだけならさっきと同じ。でも、これなら?」


 球体を維持しながら急速にうねりをあげた水が自称神の周囲を満たすと同時に、私は抜け出されるよりも早くその鍵言を口にする。


――――『醒氷絶花(ティールフレワリス)


 呪文と共に開いた片手を握り締めたその瞬間、中にいた自称神ごと球体内の水分が一瞬で凍りついた。



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