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〝凡才の魔女〟ルーコの軌跡~才能なくても、打ちのめされても、それでも頑張る美少女エルフの回想~  作者: 乃ノ八乃
第四章 魔女のルーコと崩壊への序曲

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第184話 衝撃の言葉と覚悟の痩せ我慢


「――――さて、契約の内容も話した。これで消される理由も分かっただろう。ここでお前を処分すれば私にとっての煩わしい枷がなくなるという事だ」


 質問はもう終わりだと話を切り上げようとする自称神。このまま呆然としているだけでは殺されてしまうのに、何も良い考えが思い浮かばない。


「……私を殺してそれからどうするの?」

「どうもしない。エルフがいるのはこの森に限った話じゃないが、他は()()()だからな。不穏分子が現れれば別だが、お前には関係ないだろう?」


 苦し紛れにぶつけた疑問に淡々と答えた自称神は無表情のまま片手を上げる。


 殺気も何も込められていないけれど、その行動一つで容易く私は殺されてしまう。


「…………契約を交わした後、お姉ちゃんはどうなったの?まだ貴方の中に意識は残ってるの?」

「さあ?契約を交わした後は自由に私が身体を使っているのは確かだが、意識が残っているかどうかまでは分からないな。まあ、今まで表に出ていない以上、可能性は低いとは思うが」


 自称神はそう言って小首を傾げる。


 無表情ながらも、お姉ちゃんの顔をしているだけあって可愛らしい仕草に見えるけど、その奥に潜む悍ましさのせいで恐怖しか感じない。


「っ……神を自称する割に分からない事があると?」

「神が全知全能なんていうのはお前達の勝手な妄想だよ。そもそも全知はともかく、全能なんて矛盾だらけの代物は神だろうと何だろうと実現は不可能だ。それも分からないほど()()()()もいるにはいるがな」


 絞り出した挑発的な言葉に短く嘆息し、自称神は答える。


 その言葉から察するに神というのは目の前の存在だけではなく、複数いるのだろうけど、どのみち今は関係のない話だ。


 重要なのはお姉ちゃんを元に戻せるか否か……自称神をあの身体から追い出せるかどうか。


 幸い、自称神にもお姉ちゃんの意識が無事かどうか分からないのならまだ望みを捨てるのは早い。


 だからお姉ちゃんを助けるためにも、まずはどうにかしてこの状況から抜け出さないといけない。


 見えた微かな希望に縋り、絶望に呑まれそうになる意識を奮い立たせて思考を回す。


 この距離だと詠唱どころか、呪文を口にした瞬間に止められる。


 無詠唱もできなくはないけど、威力、効力が大幅に落ちる以上、アレには通じない。


 かといって、強化魔法だけで振り切れる気はしないし、そもそも単純な速度でどうにかなるなら最初の時点で捕まったりはしないと思う。


 あれも駄目、これも駄目と考えては否定を繰り返すが、良い案は思いつかない。


 いつもなら考えた末に何かしらは打開策が見えてくるのに、今は過ぎる時間と迫る死から、ただただ焦りと不安しか浮かんでこなかった。


「……どうしても私を殺すの?自分で言うのもあれだけど、私は天才でも何でもないし、放っておいたところで問題はないと思うけど」

「ああ、殺す。才能がどうという話ではない。そんなものはエルフの膨大な寿命があればどうとでもなる。問題はその好奇心の方だからな……というか、お前も本気で聞いているわけではないだろ?」


 自称神の言う通り、こんな疑問をぶつけるだけで見逃されるなんて微塵も思っていない。


 会話を長引かせて少しでも時間を稼ごうとしたのだが、どうやらそんな魂胆は容易く見破られてしまったらしい。


「…………別に本気で疑問に思ってなかったわけじゃないよ。実際に気になっていたし、そこまで躍起になって私を殺す必要があるとは思えなかったから」

「……好奇心云々以前に私を縛る契約条件にお前が含まれている以上、殺そうとするのは当然だ。見逃したところで利もないしな」

「そう……どうしても殺すと?」


 何も思いつかないまま途切れそうになる会話を繋ぎ止めるために再度、問い直すも、自称神は鬱陶しいと言わんばかりに目を細める。


「くどいな。いくら時間稼ぎしたところでもう()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と理解したらどうだ?」


「……それはどういう意味?現状、今の私が手も足も出ないのは確か――――」

「お前は今まで窮地に陥る(たび)、その状況を打開する何かを思いつき、生き残ってきた訳だが、それが全部自分の内から湧いて出るものだと本気で思っていたのか?」


 思わぬ問いに一瞬、頭の中が疑問符に埋め尽くされる。


「何、を…………」

「簡単な話だ。契約はお前の安全と命の保証、さっきも言った通りそれは私の関与しない場合でも適用される。そしてそれは状況に応じ、様々な形を以ってお前を助けた筈だ。力の及ぶ範囲なら閃きを、足りなければ私自身が成り代わったりな。覚えがあるんじゃないか?」

「ッ…………」


 ようやく絞り出した言葉を断ち切るように投げ掛けられる指摘に私は思わず言葉を詰まらせる。


 確かに思い返せば今まで窮地の場面で不自然なくらい打開策が浮かんできたし、この間の戦いでも、確実に殺されたと思ったのに気づけば相手の方が瀕死になっていたなんて事もあった。


 でも、だからといって今までの幾度となく窮地を乗り越えてきたのが全部自称神のおかげだなんて思えないし、思いたくない。


「その反応を見るに自覚はあったようだな。そもそも、お前も言っていた事だろう?自分には才能がない、とな。そんなお前が自身よりも強く、才能がある相手を実力で倒せたと?」

「そ、れは…………」

「ああ、全部が全部、契約のおかげとは言わない。実際に戦っているのはお前自身、成り代わったのも一度切りだからな。だが、土壇場での閃きがなければ死んでいたのも事実だと気付いている筈だ」


 突きつけられた確証のある言葉を前に私は何も言い返す事ができない。


 だって私が凡人なのは本当の事で、それでも格上に勝ち、生き残ってきたのは閃きのおかげというのも事実だから。


 必死にもがき、足掻いてきたこれまでの道程が神を自称する得体の知れない何かのおかげだなんて事実だったとしても到底受け入れられるものではない。けれど――――


「っ…………貴方の言った通りだとして、それは私が諦める理由にはならない。なんと言われようと、可能性があるのなら退く気はないよ」

「それはただの思考停止だろう?現実、事実から目を逸らしているだけの逃避だ」


「……それの何が悪いの?逃避だろうと何だろうと、絶望して足を止めるよりはずっと良いでしょ」


 さっきまで動揺で立ち止まりそうになっていた事を棚に上げて私は無理矢理、口の端を歪めて笑う。


 当然、打開策なんて思いついていないし、自称神の言葉が本当なら奇跡のような閃きも湧いてこないのだろう。


 だからこれは痩せ我慢だ。


 殺されるつもりは毛頭ないけど、たとえ死ぬのだとしても、諦観したままは嫌だという意地の下、私は咄嗟に浮かんだ一か八かの賭けに出た。



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