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〝凡才の魔女〟ルーコの軌跡~才能なくても、打ちのめされても、それでも頑張る美少女エルフの回想~  作者: 乃ノ八乃
第四章 魔女のルーコと崩壊への序曲

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第181話 待ち望んだ再会と残酷な現実


 結局、全ての家屋を回ってみたものの、特にこれと言った手掛かりは見つからず、書庫で少しだけ本を読んでいた事もあり、気付けば大分、日が傾いていた。


「……もうこんな時間。こうなったら今日はここに一泊しようかな。自分の部屋はあるわけだし」


 誰もいない集落で一人過ごすのはあまりに不気味ではあるけど、それでも長い間過ごしてきた故郷だ。一晩くらいなら問題はない。


 手掛かりは見つからなかったけど、回ってみて分かったのはみんながいなくなってそれなりに時間が経っているという事……家具や床に薄く積もった埃が何よりの証明だった。


……そうなると、やっぱり集落全体で大掛かりな引っ越しをしたって可能性が高い。時期的には私がここを出てすぐってとこかな。


 事の顛末を知らないため、どんなやりとりがあったのか分からないが、あの後、長老とお姉ちゃんが激しい戦いを繰り広げたのは確かだ。


 その勝者が誰かは知らないし、私はお姉ちゃんが負けると思わない。


 でも、その結果、もしくは私が集落から外の世界に出たという事実が集落の現状に関わっているのは確か。


 外の世界に情報が漏れるのを危惧してか、もしくは他の理由があるのかは定かじゃない。


 けれど、そうでもなければずっと何も変わらず、緩やかな時間が流れるだけだったエルフの集落から人が消えるなんて事が起きるわけがないだろう。


「……明日、集落の周りを探してみよう。たぶん、新しい引っ越し先も森の中にはあるだろうから」


 流石に日が暮れてからの散策は危険……というより、効率が悪い。ならしっかり睡眠を取って次の日、探すべきだ。


 そう決めた私は自分の家の方へ足を向ける。保存食を多少は持ってきたから食料は大丈夫だとか、寝る前に軽く掃除しようかなだとか、考えながら歩いていると、不意に気配を感じて思わず足を止めた。


さっきまで誰もいなかったはず――――


 気配のする方……建物の上へ目を向けると、そこには屋根に腰掛ける美しい女性の姿があった。


「――――なにやら人の気配がするときてみれば、これは思わぬ……いや、()()()()来客だな」


 文字通りの上から喋りかけてくるその声は酷く懐かしいもの。私はその声の主に、会いたくて、アライアの言葉に背いてまでここへ帰ってきた。


「――――お姉ちゃん」


 綺麗で、強くて、たまに天然で子供っぽいところもあるけれど、優しい……それが私の憧れた大好きなお姉ちゃんだ。


 あのお姉ちゃんが負けるはずない、絶対に生きていると信じていた。


 でも、こうしてその無事を確認できたことで私は無意識の内に安心していたらしい。


 後から考えればこの時点で違和感を感じ取る事ができたかもしれない。


 まあ、それが()()に影響を及ぼしたかといえば、否なのだろうけど。


「……お姉ちゃん、か。なんともまあ、憐れな事だ。実の姉と()の区別もつかないとはな」

「…………え?」


 たぶん、私がそれをかわす事ができたのは偶然だ。


 言葉の意味を確かめようと少しだけ前に踏み出した瞬間、さっきまで私の頭があった場所を何かが通り過ぎ、先の地面に深々と穴が空いていた。


今、一体何が……お姉ちゃんに……攻撃……された……?


 理解が追い付かず、放心状態で固まる私を他所に、屋根の上に腰掛けていたお姉ちゃんはそのまま飛び降りると、音もなく着地する。


「つくづく運の良い奴だなお前は。いや、今回に関しては悪いというべきか?今の一撃で死んでいれば残酷な真実を知らずに済んだのだからな」

「残酷な……真実……?お姉ちゃん何を言って――――」

「……最初に正しておくと、私はお前の姉ではない……正確に言えばこの身体は紛れもなくお前の姉のものだが、中身が違うと言った方が正しいか」


 お姉ちゃんの顔と声で明かされるのは予想だにしない事象。


 お姉ちゃんだけど、お姉ちゃんじゃないと言われても、(にわ)かには信じられないし、信じたくなかった。


「い、意味が分かんない……お姉ちゃんはお姉ちゃんでしょ……?そ、そっか、私をからかってるんだ……何も言わず勝手に森の外へ行ったから怒ってるんだよね?そうだよね?」

「……本当に憐れだな。いくら否定しようとお前自身が感じている筈だ。目の前にいるのが姉ではないという事実を、な」


 淡々とした声音で冷たい現実。彼女の言う通り、目の前の人物がお姉ちゃんではないと、私の直感が告げている。


 でも、それは気のせいだと、私の直感なんて当てにならない、そう思い込もうとしていた。


「っなら……!お姉ちゃんの姿をした貴女は何だっていうの!?本当のお姉ちゃんはどこ!?」

「答える義理はない……と、言いたいところだが、お前には知る権利がある。一つ一つ教えてやろう」


 激情に駆られて問いを投げつける私に対して、お姉ちゃんの姿をした何かは無表情なまま、言葉を続ける。


「まず私は何かという問いだが、分かりやすくいうなればお前達の言うところで()という存在……そしてお前の姉と契約によって結びつき、この身体を動かしている」

「神……?契約……?一体――――」

「以前の契約者はお前が長老と呼んでいたエルフだ。ここまで言えば多少なりとも察しがつくのではないか?」


 被せるように放たれたその言葉に私は思わず押し黙る。神だとか、契約だとか、はっきり言って理解が追い付いていないけど、目の前の存在が何を伝えたいのか、薄っすらと察する事ができてしまった。


 契約の内容は分からない。


 でも、以前の契約者が長老で、今の契約者がお姉ちゃんって事はあの戦いの末に何かが起こったという事……そして、それが全て私に起因するという事は分かった。


 だってあのお姉ちゃんが何かを決める理由はそれしかないのだから。


「……貴女がなんなのか、言っている事も全然分からないけど、少なくともお姉ちゃんの身体を乗っ取った何かだって事は理解した。お姉ちゃんがそうなってしまった理由が私にあるって事も」

「ほう……そうか。で、理解したならどうする?」


 お姉ちゃんの顔でらしからぬ無表情を貼りつけたままの何かを見据え、決意と共に口を開く。


「――――お姉ちゃんを返してもらう。たとえ力づくになったとしても」


 得体が知れない相手。それも中身が違うとはいえ、お姉ちゃんを相手にするという覚悟を胸に私は銃杖を抜き放った。


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