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〝凡才の魔女〟ルーコの軌跡~才能なくても、打ちのめされても、それでも頑張る美少女エルフの回想~  作者: 乃ノ八乃
第一章 幼女エルフの偏屈ルーコ

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第1話 現状と願望とお節介なお姉ちゃん



「――――ルーコはあの子に似て利口だね。その歳で字どころか、本も読めるなんて」


聞こえる声音はいつも私を褒めてくれる優しいものだ。


「もう、お姉ちゃんは関係ないもん!それにもう子どもじゃないんだから本くらい読めて当然だよ!」


けれど、当時の私はお姉ちゃんと比べられるのも、子ども扱いされるのも嫌で素直に返せなかった。


「うん、そうだね。君は君だ。でも、まだまだ子どもだよ。僕も、君も、ね」

「?よくわかんないけど、先生は子供じゃないでしょ」

「ふふ、どうだろうね。さ、それよりも今日は何をしようか――――」


 そう言って笑うあの人の言葉の意味を理解したのはもう答え合わせができなくなってからの話だった。





「――――ふわぁ……いつの間にか寝ちゃってたんだ」


 日の当たる切り株の上、ぐっと背伸びをした私は大きな欠伸と共に目を覚ます。


 ここはとある大陸の辺境にある魔の森と呼ばれる危険地帯。


 獰猛な獣や凶悪な魔物が闊歩する魔境に佇む小規模なエルフの集落……私の生まれ育った場所だ。


 この場所は集落から少し外れたところにあるけれど、向こうの方には木造、あるいは魔法による石造りの家が建ち並び、そこに百人程のエルフが暮らしていた。


「……周りを見渡しても木、木、木、木……何でこんな場所に集落を作ったんだろ?」


 寝惚けながら改めて周囲を見回し、自分の置かれた環境を鑑みて思わずそんな言葉を呟く。


 エルフが森に住むこと事態は何もおかしくない。


 けれど、ここまで人里離れた場所に作る必要はないと思う。


「人が寄り付かない以前に自分達(エルフ)でさえこの森を抜ける事が出来ないのは論外でしょ……」


 ぶすっと不貞腐れたような顔で不満を呟き、こうなってしまった()()()の出来事を振り返る。



 それは私が五才の頃、一人のエルフが人間のいる町を目指して森を抜けようとした事があった。


 そのエルフは弓矢の腕も魔法の技量も集落の中で一、二を争う程の使い手でいつかここを出て外の世界を見たいといつも言っていた。


 そして自らの力に絶対の自信を持ち、意気揚々と集落を旅立ったエルフはその次の日にあっさりと戻ってきた。



━━━━物言わぬ死体となって



 おそらくは魔物に食い散らかされたのだろう。


 欠損や損傷が激しく、一目ではその死体が旅立ったエルフだとわからないほど凄惨な姿だった。


 そのエルフがどうして命を落としたのかはわからない。


 魔物にやられたのか、はたまた他の要因があるのか、結局詳しい事は謎のままだ。


 ただ普段からこの森で狩りをしているエルフがその辺の魔物相手に遅れをとるとは考えにくい。


 現に普段の狩りで死者はおろか負傷者すら出ていなかった。


 もし森に住む魔物に関する知識とそれに対応出来る力を有するエルフを惨殺できる存在がいるのなら他にも犠牲者が出ていてもおかしくない。


 にもかかわらず旅立ったエルフ以外に犠牲者はいないという事はその存在は普段エルフが狩りをする範囲外……つまり森の外側付近を縄張りにしているのだろう。


 死体を持ち帰ってきたエルフの話では狩りに向かい、いつも通り獲物を探すべく別れて散策していたら何かを引きずったような血の跡を見つけたらしい。


 それを辿った先で死体を見つけて持ち帰ってきた、との事だ。


 話をまとめると旅立ったエルフは森の外に向かっている途中で何かに襲われて負傷、必死に力を振り絞って逃げようとしたがあえなく力尽きたという事になる。


 もちろんこの推論は私の想像でしかないが、限りなく正解に近いと思う。


 と、また話が逸れてしまったが、つまり何が言いたいのかというと()()()()()()()()()()()()()という事だ。


 とはいえ、そのエルフ以降にここを出ようとした者はいないので絶対とは言えない。


 けれど、腕利きのエルフを惨殺できる何かがこの森に潜んでいるのは事実。


 運が良ければ遭遇せずに森を抜けられるかもしれないが、そんな一か八かで進むのは自殺行為に等しく、挑戦するような阿呆がいる筈もない。


 そのためエルフ達は実質この森から出る事が出来なくなっていた。


「あ、ルーちゃんこんなところにいた!」

「……私に何か用?」


 わざわざ見つからないように集落の隅っこにある岩の上で物思いに(ふけ)っていたのにと、目の前に現れた彼女を見て不機嫌を隠そうともせず応答する。


「ううん。別に用事はないよ?ただルーちゃんの姿が見えないなぁと思って探してただけー」


 そんな私の不機嫌な表情を物のもせずに接してきた彼女は一応、十歳上の姉に当たる人物だ。


 私が一人でいる時にこうやってちょくちょく話しかけてくる。


「ならもういいでしょ?私はここにいるから向こうにいって」


 用事ないなら話しかけてくるなと言わんばかりの突っ慳貪(けんどん)な態度を見せると姉は少し怒ったようにぷくぅっと頬を膨らませた。


「むぅ……ルーちゃんったらそんなに邪険にしなくってもいいでしょー。お姉ちゃんはルーちゃんが難しいお顔をしてるから心配なんだもん」

「私よりも一回り上なお姉さまが語尾にだもんをつけないでよ……」


 エルフの長い寿命から見ればまだまだ子供なのだろうけど二十歳にもなると体つきもさほど大人と変わらない。


 そんな姉が小さい子供のような態度と言葉を使うのは妹としてあまり見たいものではなかった。


「ぶー。お姉ちゃんだってまだ子供だからいいの!それよりもルーちゃん何か悩み事?お姉ちゃんに何でも相談して?」

「私の顔は元々こんな顔だし、特に悩み事もないから」


 頭痛を堪えるようにこめかみをぐりぐりしながらため息を吐いて岩から飛び降り、さっさとその場を離れるために歩き出す。


 別段、姉が嫌いというわけではない。しかし事あるごとに私を過剰に心配してくるその好意が苦手だった。


「……もしかしてルーちゃん森の外に出ようなんて思ってないよね?」


 先程までのふわふわした雰囲気と打って変わった姉の平坦な声色に思わず足を止めて振り返る。


「覚えてるでしょ?ここから出ようとしてあんな……あんな姿になったあの人を……」


 姉の指すあの人とは五年前に旅立ったエルフの事だろう。


 当時の私は知る筈もなかったが、姉はそのエルフと仲が良かったらしく見るも無惨な姿になった死体が()だと気付いたのも姉だったそうだ。


「……心配しなくても外に出るつもりはないよ。私だって死にたくないからね」


 この狭い集落の中での生活に嫌気がさしているのは確かだけど、死ぬかもしれない危険を犯してまで外に出ようとは思わない。


「そっか……そうだよね。良かった~。ルーちゃんはあの人とどこか似てるところがあったから、もしかしてって思っちゃった」


 心の底から安心したように胸を撫で下ろす姉の姿に少しの罪悪感を覚えながら私は再び背を向けて歩き出した。


「あっルーちゃん待っ……」

「ついてこないで。きちんと夜までには帰るし、いつものところに行くだけだから」


 引き留めようとする姉の言葉を遮って行き先と帰りの時間だけを言い残し、私は足早にその場を離れる。



「……今のところはだけどね」



 姉には聞こえないよう小さな声でそう呟いた。



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― 新着の感想 ―
(続きが気になる……! すごく丁寧で、読んでいて情景が浮かんできますね!) ここまででルーコの日常と、彼女が置かれた閉鎖的な環境、そして森の外に対する「憧れ」と「恐怖」がすごく伝わってきました。 お…
お久しぶりでございます(*´▽`*) エミエルこと、現在はミリィです☆彡 またこちらでもお世話になります! さてさて、また最初から見ないと内容を忘れてしまいましたので、改めまして読ませて頂きます('…
[良い点] 森から出られないエルフ。 悍ましい何かの影。 殺戮の匂い。 物語のポイントが好みです❤
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