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〝凡才の魔女〟ルーコの軌跡~才能なくても、打ちのめされても、それでも頑張る美少女エルフの回想~  作者: 乃ノ八乃
第一章 幼女エルフの偏屈ルーコ

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第18話 成長とお姉ちゃんと真剣勝負(前編)

 

 模擬戦や魔物との実戦、時々の休みと日々を重ね、姉と初めてお菓子作りをしたあの日から約半年が経っていた。


「さて、ルーちゃん。準備はいい?」


 不敵な笑みを浮かべた姉がそう問うてくる。


「……もちろん。今日こそはお姉さまに一発食らわせるから」


 そんな姉の問いに私は手や足を伸ばしながら返し、大きく深呼吸をした。


 今、私と姉がいるのはいつも魔法の練習に使っている集落の外れ。姉との模擬戦、それもここまで学んできた全てをぶつける真剣勝負のためにここにやって来た。


 無論、普段の模擬戦も手を抜いている訳ではないのだが、いつもは姉が私に合わせているので練習の域を出ない。


 そんな中で今日は姉と本気でぶつかれるまたとない機会だった。


「ふふ……じゃあ、始める前に確認しておくけど、どっちかが降参か戦闘不能になったらその時点で終わり。魔法も体術も何でも有りって事でいい?」

「うん、大丈夫。全力でいくからお姉さまもそのつもりでね」


 互いに準備万端。視線が交差し、始まるのを今か今かと待っている。


「━━いくよ?よーい……始めっ!」

「っ!」


 始まりの掛け声とほぼ同時に強化魔法を使って駆け出した私は一気に姉の懐まで飛び込み、勢いそのままに右手を振り抜いて突きを繰り出した。


「おっと……」


 私の突きを片手で難なく捌いた姉はそのまま体をくるりと回転させ、反対側の手で反撃を返してくる。


やっぱり簡単に返されるよね……!


 反撃と同じ方向に飛んで威力を殺しつつ、受け身を取り、間髪を容れずに再び姉に向かって走り出した。


「ありゃ、ルーちゃんったら今日は押せ押せだね~」


 向かってくる私を見て嬉々とした表情を浮かべて迎え撃ってくる。


 姉との戦いにおいて重要なのは魔法を選択する余裕を与えない事だ。


 元々姉は殺傷能力の高い魔法を避ける節があり、それは真剣勝負であるこの場でも変わらない。


 多くの魔法が使える姉は無数の選択肢の中から殺傷能力の低いものを選ぶ事に思考を割くため、行動が僅かに遅れる。


 つまり、私が至近距離で攻撃を続けている間は強力な姉の魔法をある程度封じる事が出来るという事だ。


「ふっ!」


 身構える姉を前に今度は懐まで踏み込まず、届くぎりぎりの距離から横薙ぎに蹴りを放った。


 私の放った蹴りを姉はその場から一歩下がる事でかわした。


 蹴りを避けられた事で私は不安定な体勢のまま無防備を晒してしまう。


「隙だらけだよっ」


 当然、そんな隙を姉が見逃す筈もなく片手をこちらに向けて魔法を放とうとしてくる。


お姉ちゃんならそうしてくると思った……!


 蹴りの勢いを利用してその場で一回転、地面を擦るようにして足をつけて派手に土煙を起こした。


「わぷっ!?」


 土煙に一瞬怯み、姉が目を閉じた時に生じた僅かな隙。


 それを使って背後に回り、体勢を低くして突き上げるように姉へと飛び掛かる。


これなら……っ!?


 一撃当てられる。そう思って飛び掛かった筈なのに気が付けば私の身体は宙を舞っていた。


「っ……!」


 一撃当てられなかった事への動揺はない。当たるとは思っていたが、それと同時に姉なら避けるかもしれないという懸念もあったからだ。


 だから今、驚いているのは避けられた事にではなく、姉が何をしたのか全く見えなかった事に対してだった。


魔法……?いや、それなら受けた瞬間に気付くはず……。


 混乱する思考を抑えつけ、空中で身を翻して地面に着地する事に注力する。


「くっ……」


 着地する先を見定め、膝と身体を使ってどうにか落下の衝撃を散らすも、姉との距離がだいぶ離れてしまった。


まずい……!


 ここまで距離が開いてしまえば姉に魔法を選択する余裕を与えてしまう。


 こうなってしまえば強烈な魔法による蹂躙が始まる事を避けられない。


「━━〝水よ、礫となりて、撃ち放て〟『水の礫(アキュレット)』」


 もう幾度となく目にしたその魔法を前に思わず顔が引きつる。


「いくよ?」


 周囲に無数の水塊が浮き、姉の声と共に音を立てながら高速回転を始める。


「っ!」


 強化魔法を全開にして急ぎその場を離脱。そのすぐ後、姉の放った『水の礫』が怒涛の勢いで私のいた場所に降り注いだ。


相変わらずのとんでもない威力……やっぱり封じるべきだった。


『水の礫』の威力に辟易しつつ、追ってくる水塊の雨を円を描くように走りながらかわしていく。


 姉の『水の礫』はその威力故に近距離で使えば自分も巻き込んでしまう危険がある。


 そのため使うにはある程度距離が離れている必要があり、最初に強化魔法による接近戦を仕掛けたのは選択する余裕を与えない事の他に姉の『水の礫』を封じる意図もあった。


……前までの私ならこの弾幕相手に何も出来なかったけど、今は違う。


 足を止めずに低い姿勢で飛び、両の手を後ろに向けて一瞬、強化魔法を解除する。


風を生む掌(ウェンバフム)


 掌から小さな風の塊を生み出して圧縮、そしてその魔力によって無理矢理抑えつけられた風を一気に解放し、推進力に変えて加速した。


「わっ、ルーちゃん速~い!」


 水塊を生み出しては撃ち続けている姉がはしゃぐように声を上げる。


 いくら凄まじい威力でも、『水の礫』は基礎的な魔法。姉にとっては片手間で行使し続ける事が出来るのだろう。


━━っ右、左、下、左、上、右……!


 それに比べて今の私は風を生み出しては強化魔法を解除し、行使を終えると同時に張り直すという手順を繰り返しているため、余裕がない。


 加えて『風を生む掌』は効果こそ単純なものの、そこに至るまでの工程が複雑な分、集中力と魔力を大きく削るのでこのままだと先に私の方が力尽きてしまう。


だから早めに仕掛けていきたいところだけど……。


 目まぐるしく移り変わる視界、強化魔法と風の制御を常に要求される中で、姉に攻撃を加えるのは至難の技だ。


「っ……成長してるはずなのにいつも追い詰められてる気がする」


 強化魔法を扱えるようになったり、高速移動する手段を手に入れたりと確実に強くなっているにもかかわらず、姉が攻撃し、私がそれをひたすら避けるという戦いの構図は変わっていなかった。


「━━〝鳴り響く雨音、無数に落ちる鏃、形を成して降り注げ〟」

「二重詠唱……!?まずっ!」


 このまま撃ち続けても捉えられないと判断したのか、『水の礫』を維持したまま別の詠唱を始めた姉を慌てて止めようとするも、距離的に間に合わない。


豪雨の矢落とし(ビーアズロップ)


 呪文と共に『水の礫』とは別の水塊が上空に生成され、分裂。無数の鋭い鏃となって広範囲に降り注いだ。


「いっ!?」


 今まで見てきた中でも最大級に広範囲の魔法を前に思わず喉の奥から変な声が漏れてしまう。


こんな規模の魔法、どれだけ速くても絶対にかわしきれない……!


 一応、生成された順に降り注いでいるため、ある程度は避けられるが、いずれは絶え間なく降り注ぐ魔法の物量に圧されてしまうだろう。


「っ唯一の安全地帯はお姉さまの周りだけ……なら」


 体勢を変えて旋回、魔法を避けながら限界まで加速し、姉まで一直線に突撃する。


「〝風よ、集まり爆ぜろ〟━━」


 詠唱を口にしつつ、姉との距離を詰め、目前まで迫った瞬間、地面に向かって無詠唱で風の塊をぶつけた。


「っ!?」


 私がそのまま攻撃を仕掛けてくると思っていたであろう姉は驚きの表情を浮かべる。


たとえこの速度でも正面から仕掛ければ普通に反撃される。だから私が狙うのはお姉ちゃんじゃない━━


 地面に風の塊をぶつけた反動で真上に飛び上がった私は展開されている『水の礫』の先にある水塊目掛けて両の手を突き出した。


暴風の微笑(ウェンリース)


 風が音を立てて渦巻き、大きな塊となって水塊を押し退け爆ぜる。


 魔力による圧縮から解放された暴風は水塊を跡形もなく吹き飛ばし、その余波だけで周囲の木々を大きく揺らした。


「っ……『風を生む掌(ウェンバフム)』!」


 それだけ強い風圧を目の前、しかも何も支えのない空中でまともに受ければ当然吹き飛ばされる。


 私の位置からして地面に叩きつけられるのは目に見えているため、風で衝撃を緩和し、受け身を取って地面に転がった。


「……ありゃりゃ、私の魔法が吹き飛ばされちゃった」


 吹き荒れる風によって乱れた髪を直しながら、姉が軽い調子で口を開く。


 おそらく強化魔法で耐えたのだろう。私が起こした暴風の真下にいた筈の姉がその場から動いた様子はなかった。


「うんうん、私の魔法を吹き飛ばした判断やさっきの魔法を使った高速移動もそうだけど、ルーちゃんったら凄い成長してるね」


 姉は何度も頷き、嬉しそうに目を細める。魔法の練習を一緒に始めて約一年半、ずっと見守っていた姉にはそれだけ私の成長が顕著に映ったのかもしれない。


「……私からしたらそれでもお姉さまとの差が縮まってる気がしないけどね」

「ふふ~ん、それは仕方ないよ。だって私、お姉ちゃんだもん」


 得意げな顔をして胸を張る姉。いつもならこんな姉の態度に苛々が募るのだが、今回ばかりはあまりに的を得ているその言葉に納得するほかないだろう。


……ひとまず、あのかわしきれない飽和攻撃はなんとか凌げたけど、次はない。また攻勢に入られる前にこっちから仕掛ける。


 姉は同じ手を許してくれるほど甘くはないし、そもそももう一度さっきの攻防を繰り返すには魔力の残量が心許なかった。


「……それで、なんか仕切り直しみたいになったけど、まだ続けるの?」

「もちろんっ。きちんと決着がつくまでは終わらないよ」


 頭の中で次の算段を考えつつも、一応、尋ねてみると、姉は予想通りの返しをしてくる。


「もし、怪我しても私が全部治すから心配しなくても大丈夫。思う存分ぶつかってきて!」

「……そっちの心配はしてないけど……うん、じゃあ全力いくよ?」


 互いに口を閉じ、身構える私と姉。


 ここから再び姉との激しい魔法戦が始まろうとしていた。


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