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〝凡才の魔女〟ルーコの軌跡~才能なくても、打ちのめされても、それでも頑張る美少女エルフの回想~  作者: 乃ノ八乃
第四章 魔女のルーコと崩壊への序曲

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幕間 愚者達の会議と交差する思惑

 

「――――まさかあの小娘が生き残るとはな……」


 広い室内に高い天井、豪華な装飾品に長い卓上を囲うように並ぶ椅子、その中でも一際、大きく目立つ椅子に腰掛ける初老の男性……ルーコ達を自ら創り出した魔物の討伐に向かわせた張本人であるこの国の王、ジルドレイが大臣達を前に呟く。


「……おそらく運が良かったのでしょう。あの魔物は今までの実験の中で最高傑作でしたし、エルフとはいえ、あんな魔力の少ない小娘に倒されるはずがありません」

「そうだ、あれは最高位の称号持ちすらも屠れる可能性を秘めていたのだ。投入に当たって何か不具合があったのかもしれん」

「そもそも本当に倒されたのか?上手く隠して誤魔化した可能性もあるぞ」

「死体は確認できていないが、放った場所からいなくなったのは確かだ」

「……ならあの小娘が師である魔女共を頼ったのではないか?それなら説明がつくだろう」

「そうだ、そうに違いない!確かに最高位の称号持ちを屠れる可能性を秘めているといっても、あの魔女共は厄介な事に別格、流石に最高傑作といえども厳しかったという事か」


 ジルドレイ王の言葉にそれぞれ反応を見せる重臣達。それはどれも自分達が創り出した魔物がエルフの小娘なんかに敗れるわけがない、何かの間違いだ、魔女達が倒したんだ、という否定ばかりのものだ。


 紆余曲折あったとはいえ、実際はエルフの少女であるルーコが魔物を倒したのだが、彼女をただの小娘だと見下している彼等はその事実に気付く事ができない。


「…………ともかく、だ。事実がどうであれ、あの小娘が討伐に成功したと帰ってくる以上、それ相応の対応をせねばならん……業腹だが、まあ、それはいい。しかし、万が一にもあの魔物の正体に気付かれようものなら面倒な事になる」

「……それは流石に問題ないかと。仮に正体に気付いたとしても、我らとの関連性など想像もできないでしょう」

「そうですぞ、王よ。もし彼奴が正体に気付き、我らとの関連を疑おうと、証拠は何もないのです。むしろ、あらぬ疑いをかけたと処罰する良い口実になります」

「……それもそうか。まあ、あのような小娘が騒いだところで問題ない。癇癪でも起こして暴れようものなら騎士達に抑え込ませればいいだけか」


 重臣達の意見を受けて一考し、最終的に今回の件を些末な問題と決めつけたジルドレイ王はそのまま議題を変え、会議を進めていく。


 ここで些末な問題と決めつけた今回の件が自らの体制を終わらせるきっかけとなるなんて思いもしないまま、裏で動いている勢力にも気付かず、ジルドレイ王は破滅への道を突き進んでいくのだった。





「――――おい()()。お前が見た()()とやらは本当に当たるんだろうな?」


 無意味な会議の裏、王城のとある一室で剣呑な雰囲気が漂う中、若い男が椅子に腰掛ける女性へ訝し気に尋ねる。


「……あら?ここまできてそんな疑いの言葉を向けられるなんて思わなかったわ。もうすでに事態は引き返せないところまできているというのに」


 若い男が少し苛立っている事に気付いていながら、あえて挑発するような態度と笑みで言葉を返す女性。


 その様子から二人の関係が主従などではなく、対等以上なものであると窺える。


「……それは分かっている。どのみち決行するしかないってこともな。だが、事が事だけに慎重になるのも仕方がないだろ。それにアレを引きずり下ろす材料は揃えたが、戦力的にはこちらが厳しい。このままでは武力で制圧されて終わりだ…………まあ、お前が手を貸してくれるというならそんな心配は無用だが?」

「フフフ、それは無理な相談ね。助言はするけれど、私の力は私自身のためにしか振るわない……そうでないと、色々釣り合いが取れないもの」


 肩を竦めて笑う女性の返答を分かっていたのか、男は小さく溜息を吐きながら頭を掻き、苦い表情を浮かべた。


「……相も変わらず良く分からん信条だな…………結局はあの子に賭けるしかないって事か」

「不満かしら?実際に接触してみて納得したものとばかり思っていたけれど?」

「…………納得なんてできるわけないだろ。実力云々以前にあんな小さな子にこの国の未来を左右する事態を委ねるしかないなんて――――」

「国の行く末なら自分が背負うべきだって言いたのでしょうけど、それは貴方の我儘でしかないわよ?」


 ぴしゃりと言い放たれた女性の言葉に男は押し黙るしかない。


 何せ、女性から突きつけられた言葉は全て男の図星を突いていたのだから。


「…………そうだな。確かに俺の我儘だ……けどな、いくらそれが最良だからって国の行く末をあんな小さな子に背負わせて何も思わないほど無責任でいられるはずがないだろ」

「……ふふ、未来をただ受け入れる事を良しとしない……貴方のそういうところは嫌いじゃないわ。まあ、無責任でいたくないと思うのなら出来うる限り、あの子を助けてあげることね――――()()()?」

「……………………」


 からかうような物言いに対して何も返さず、王子様と呼ばれた男は女性を残して部屋を後にする。


「――――さあ、ここから待ち受ける現実を前に貴女はどう立ち向かうのかしら……()()()()()()()()?」


 一人、部屋に残された女性は窓の外を見つめて深い笑みを浮かべ、意味深な言葉を呟くのだった。


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