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〝凡才の魔女〟ルーコの軌跡~才能なくても、打ちのめされても、それでも頑張る美少女エルフの回想~  作者: 乃ノ八乃
第四章 魔女のルーコと崩壊への序曲

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第156話 降り注ぐ豪雨と迫る死の予感

 

 何をどうするにしても一番厄介なのはあの魔物が放つ熱だ。


 その速度や攻撃の威力も厄介ではあるけど、常時身に纏っているあの熱のせいで姿を補足する事もままならないし、ニルさんの光の魔法然り、たぶん、私の風魔法も何かしらの支障をきたすと思う。


「――――悪い、助かった」


 吹き飛ばされていたトーラスがどことなく気まずそうに謝りながら考えを巡らす私の側まで早足で近付いてくる。


「気にしないでください……って言いたいですけど、流石に二度目は助けられる自信がないので気を付けてください」

「……ああ、分かってる。同じ轍は踏まない」


 今まで少なからず一緒に戦ってきたからこそ分かる事だけど、普段のトーラスならきっとあんな迂闊な判断はしない。


 おそらく一帯に掛けられている魔法がトーラスの思考に作用した結果の行動なのだろう。


……思ってたよりも魔法の影響が厄介かも……幸い私にはあんまり影響がない事と、あの魔物が想像を絶する程の強さじゃない事が救いかな。


 速度も熱も厄介だし、圧倒的に強い事に変わりはないものの、今まで戦ってきた相手と比べて絶望する程でもない。


 そもそもこうして考える余裕がある時点で十分に対応が可能だという事の証明であるともいえた。


 とはいえ、熱が厄介なのは変わりない……なら――――


 魔物が様子を窺っている今の内に手を打つべく、銃杖を斜め上に掲げて呪文を口にする。


「〝垂れ込める暗雲、重く枝垂れる葉、降り注ぐ雨粒は全てを洗い流す〟――――『洗流の豪雨(シュロートキュレス)』」


 撃ち放ったその魔法は攻撃のためのものではない。その効果は暗雲を発生させ、激しい雨を降らせるだけ……けれど、この場においてこれ以上に最適な魔法はなかった。


 少ない私の魔力を多大に消費して生み出された暗雲はあっという間に一帯を覆い尽くし、ごろごろと唸って轟音を響かせながら、ぽつり、ぽつりと雨粒を落としていく。


 そしてそれはすぐに絶え間ない豪雨へと変わり、私達と魔物を呑み込み、降り注いだ。


「グルゥッ……?」


 いくら激しいといっても雨は雨、攻撃性の全くない魔法を前にさしもの魔物も困惑しているものの、私の狙いは上手くいった。


 降り注ぐ豪雨は滴る度に蒸気を上げて魔物を覆う熱を奪い、消えかけていたその姿を露わにしていく。


……範囲を拡げるために魔力を半分以上費やしたけど、これであの魔物を見失う事はなくなった。これでトーラスさん達の攻撃も通りやすくなるはず。


 今回は私一人で戦っているわけじゃない。だから私が直接敵を倒さない……仲間に任せるという選択も間違いではないだろう。


「……なるほど、雨で熱を冷やせば姿を隠す事はできない……雨粒での視界不良を差し引いても効果は覿面(てきめん)ですね」

「よし……これならいくら速度が早かろうと戦いようはある」

「……だからって突っ走るなよトーラス。やるなら連携で、だ」


 豪雨の意図を察した三人がそれぞれ攻勢に出るべく構える中、私もそれを支援するために銃杖で再度、魔物へ狙いをつける。


「まずは速度を制限する――――『北風の戒め(リヴェンカース)』」


 撃ち放ったのは強力な冷気を孕んだ拘束魔法。本来ならこの魔法は対象を凍てつく風で縛り、体温を奪って詠唱不全、または抵抗力を失わせる対人効果の高いものだ。


 巨大な魔物に使う場合、この魔法単体での効果は薄いけど、豪雨で対象を含め、辺り一面が水気に満ちている今、冷気を孕んだその一撃は多大な影響を生む。


「ガッ……!?」


 氷結の軌跡描きながら無数に枝分かれ、対象を絡めとらんとするその魔法は魔物だけでなく、その周囲も巻き込んで凍らせ、あっという間に一帯を冷気の渦で呑み込んだ。


あ、思ったよりも威力が出ちゃった……


 冷気で動きを鈍らせて支援するつもりが、豪雨の影響は思いの外、強力だったようで、トーラス達が攻撃するよりも前に魔物を氷像へと変えてしまった。


「……おいおい、こりゃ俺達の出る幕はなかったんじゃないか?」


 氷像と化した魔物を目にしてウィルソンが呆れたように頭を掻く。


「…………このくらいで終わってくれるなら助かるんですけどね」

「何を…………っ!?」


 厳しい表情を浮かべたニルの言葉にトーラスが怪訝な顔をしたその瞬間、氷像に亀裂が走り、爆発的な熱量を秘めた()()()が飛び出した。


「ガアァァァァァッ!!」


 降り注ぐ豪雨をその熱で水蒸気に変え、背に二対の炎翼を広げた魔物が咆哮を上げる。


 その姿は先程までとは異なり、全身の毛を真っ赤に白熱化させ、口腔から僅かに炎が噴き出していた。


「あれはまるで……ううん、今はそれよりも警戒を――――っ!?」


 炎翼に既視感を感じながらも、魔物の動向を窺っていた私の視界が熱気と赤で埋め尽くされる。


 正直、寸前のところで気付き、かわせたのはほとんど偶然だった。


 あとほんの僅かでも遅れていたら私の頭は丸焦げになって即死していただろう。


「っ!」


 とはいえ、まだ私に迫る脅威は去っていない。今の一撃はあの炎翼を触手のように伸ばしてきたものだったが、そこから槍のように無数の炎が襲い掛かってくる。


っやば――――


 転がるようにそれをどうにか避ける事には成功したけど、体勢は最悪。雨によってぬかるんだ地面を転がったせいで泥だらけになり、動きにも少し支障をきたし始める。


「『風の――――』」


 そんな中でもどうにか魔法を使って現状からの脱出を試みるが、炎翼の連撃は詠唱を許さず、現象が成る前に霧散してしまう。


「っ!」


 息つく暇もない猛攻に私は避け続ける事しかできない。


 このままだとすぐに魔力、あるいは体力限界がきてしまい、避けきれなくなってしまう。


 かといって魔力を惜しみ、強化魔法を解こうものなら一瞬で炎翼に呑まれる……兎にも角にも、私一人の力で脱出するのは現状、不可能に近かった。


「グルルルルァッ!」


 咆哮と共に連撃は激しさを増し、一撃、一撃をかわす度に限界が近付き、掠った炎が肌と髪を焦がす。


死――――――――


 どうやら現状からの脱出よりも早く、私の反応限界がきたらしい。


 目の前に炎翼が迫っている事には気付けても、私の身体は動かず、寸前まで近づいてきている死をただただ眺める事しかできなかった。


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