第148話 始まる謁見と魔女達の権威
大きな扉を潜り、足を踏み入れた謁見の間。思っていたよりも広く、天井の高い室内の中心、赤い絨毯の上を進んだ先の豪華な意匠の椅子に座る初老の男性……おそらくはあれこそがこの国を治める王なのだろう。
「――――此度は特例試験において決まったルルロア・アルラウネ・アークライトの魔術師認定をここに執り行う」
周囲の好奇と嘲る視線を受けながらも、王と思われる人物の前まで進み、跪くと同時に私達をここまで案内した恰幅の良い男が響く声でそう宣言する。
王の横に立って司会のような役目をしているところを見るに、どうやらあの男は思っていたよりも高い地位の人物だったらしい。
「ではルルロア・アルラウネ・アークライトよ、我が王のお言葉を心して拝聴するように」
男はそう言うと、王へ頭を下げて一歩後退り、少しざわついていた周囲も口を噤んで、謁見の間が静まり返った。
「…………ふむ、お前が件のエルフか。なるほど、確かに幼いな……まあ、色々疑念はあるが、合格は合格。ブレイバニル王国、国王……ジルドレイ・ユートピア・ブレイバニルの名において、ルルロア・アルラウネ・アークライトの魔術師昇格をここに承認する」
ねめつけるような視線と共に国王……ジルドレイ王が片眉を上げながらも、そう宣言する。
……これって何か答えた方がいいのかな?でも、王様の態度からして良くは思われていないだろうし、下手には返せない……どうしよう
初めての事でどうしたらいいか迷っていると、周囲の貴族と思わしき人々が次から次へと手を叩き、謁見の間に拍手が溢れた。
「……さて、晴れて魔術師となったルルロアよ。薄々、感じているだろうが、ここにいる皆、お前の実力に疑念を抱いている。いくら実績があり、炎翼の魔術師に認められようと、その幼さは流石に……と、な。そこで――――」
「――――おい、さっきから聞いていれば自慢の弟子に対して随分な物言いをしてくれるなぁ、あ?」
侮り、侮蔑、蔑み、そう言った悪感情の滲み出る言葉をかけてくるジルドレイ王へここまで黙って聞いていたレイズが怒気の込もった声を上げる。
おそらく謁見の間に入ってからずっと我慢していたのだろう。表情こそ笑顔を浮かべているものの、明らかに爆発寸前、今にも戦斧を取り出して暴れ出しそうな勢いだった。
「っ貴様!王に対して何たる口の利き方を……!衛兵!そいつをつまみ出せ!!」
恰幅の良い男が顔を真っ赤にして叫び、指示を出すが、衛兵達はレイズから放たれる殺気に近い怒気で怯んでしまい、動けない。
もしレイズがその気なら衛兵なんて一瞬で薙ぎ払える。傍若無人の権化ともいえるレイズがあえてそれをしないのは私の顔を立ててくれてるのかもしれない。
けれど、こうして声を上げた以上、我慢の限界が近いのだろう。いつもレイズの行動を止めるノルンが何も言わない辺り、我慢の限界なのは彼女も同じという事か。
目の前の一色触発な状態を前にそんな事を考えていると、ノルンよりも後ろに控えていたアライアが衛兵とレイズの間に立った。
「…………何のつもりだアライア。まさかとは思うが、止めるつもりじゃないだろうな?」
鋭い視線を向け、レイズはアライアへとそう尋ねる。
王や国の重鎮のいる謁見の間で暴れるというなら止めに入ってもおかしくはないと思うが、どうやらそういう訳ではないらしく、アライアはレイズに目配せをすると、口の端を上げ、恰幅の良い男の方に視線を向ける。
「――――謁見の間、王様の前、衛兵を差し向ける理由もまあ、分かるよ。でもね、ルーコちゃん……ルルロア魔術師に対しての言動や周囲の態度はないんじゃないかな?いくら王や大臣といった上の立場でも……いいや、上の立場だからこそ、どんな相手だろうと相応の余裕や態度を見せるもの。そういう意味で貴方達は上に立つ者として失格だよ」
恰幅の良い男だけでなく、周囲の人間に向けてそう言い放ったアライアに敵意の込もった視線が集まる。
たぶん、アライアの指す上の立場の人達が、偉い自分達に向かって説教めいた言葉を吐くお前は何様だ、という憤りの込もった視線なのだろうけど、そういう考えに至る時点で自分達が当てはまっていると証明しているようなものだと思う。
「…………王である余の前で堂々と講釈を垂れる阿呆は誰かと思えばなるほど、その赤い髪と風貌……貴殿は創造の魔女か」
「ええ、こうして直接お目にかかるのは初めてですねジルドレイ王。私が創造の魔女アライア。そしてこっちで怒気を振りまいているのが絶望の魔女レイズです。今日はルルロア魔術師の師としてこの場に参りました」
ぴくりと片眉を動かし、反応を示したジルドレイ王へアライアが丁寧に自己紹介をしたその瞬間、恰幅の良い男を含めた周囲の人間がざわざわと騒ぎ始める。
「創造の魔女と絶望の魔女だと……?」
「まさかあの二人が……?」
「本物なのか……?」
「というか、あの小娘が創造の魔女と絶望の魔女の弟子……?」
どうやら二人が魔女だと初めて知ったらしい周囲の反応は驚きと恐れの二つ。
創造の魔女であるアライアはともかく、絶望の魔女であるレイズの評判は恐ろしいものばかり、権力の通じない暴力を前に恐れ戦いたのかもしれない。
「――――静まれ。そうか、創造と絶望、二人の魔女を師に持っていたなら炎翼の魔術師に認められた実力も頷ける。それならやはりちょうど良い」
「ちょうど良い?それはどういう意味だ」
ざわつく周囲を黙らせ、静かながらも響く声でそう口にするジルドレイ王に対してレイズが問い返す。
「……先程、貴殿が遮った話の続きだ。此度、新しく魔術師に就任したルルロアへ一つ、国からの依頼がある」
「国からの依頼……ですか?」
ジルドレイ王の言葉に、ここまで状況のまま流され、黙っていた私は恐る恐る問い返した。
「そうだ。本来なら炎翼の魔術師に頼む予定だったのだがな。どうにも体調が優れないようで今は動けん。だから今回、実力を測る意味も兼ねてルルロア魔術師に依頼をこなしてもらおうと相成った」
炎翼の魔術師……グロウの体調が優れないというのは心配だけど、それより、私は依頼の内容の方が気になる。
魔術師という位に任せる程の依頼を今の私にこなせるだろうか、そして国からの依頼な以上、断れないのではないか、そういった不安が頭の中を駆け巡った。
「……なるほど。確かに炎翼の魔術師殿が受ける筈だった依頼をこなす事ができれば実力を示すのには充分……しかし、ルルロア魔術師にも都合があります。まさか事情を考慮せずに受ける事を強制するおつもりですか?」
「いいや?無論、断る事は可能だ。しかしいいのか?実力を示し、国の信頼を得る絶好の機会を逃す事になる。まあ、決めるのはルルロア魔術師自身だが」
私の考えを汲み取ってくれたかのようなアライアの問いに対しての答えは何とも言えないもの。
断る事はできるが、ここで示さなければ国は私を魔術師として相応しいと認めないと暗に告げているジルドレイ王の言い回し的に半強制みたいなものだろう。
もちろん、依頼を突っぱねるという選択肢自体はあるものの、もし仮にここで断れば魔女への道は遠のいてしまうのは目に見えているため、私にそれを選ぶ余地はなかった。




