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〝凡才の魔女〟ルーコの軌跡~才能なくても、打ちのめされても、それでも頑張る美少女エルフの回想~  作者: 乃ノ八乃
第一章 幼女エルフの偏屈ルーコ

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第15話 お休みとお菓子とお姉ちゃんの悪戯

 

 木々の隙間から差す日差しが窓枠によってさらに枝分かれし、部屋の中、ひいては寝ている私の顔に直撃した。


「うぅ……まぶしい……」


 日差しから逃れるように布団の中に潜った私は体を丸めて目を閉じ、もう一度惰眠を貪ろうとする。


 お説教を受けた日から一月(ひとつき)、日々、姉との模擬戦や魔物との実戦を重ねてきた中で、今日は久しぶりの何もない日だった。


せっかくれんしゅうがないんだからもうすこし……。


 寝惚け半分にそんな事を思い、再び意識を微睡みの中に沈めていく。


「ルーちゃん~!朝だよ~!!」


 私の意識があと一歩で深い眠りにつかんとしていた瞬間、姉が大きな声を上げながら勢いよく部屋の戸を開け、中へと踏み込んできた。


「………………」

「あれ~まだ寝てるの?ルーちゃんってば~?」


 頭まですっぽりと布団の中に入っている私に対して、姉は呼び掛けつつ、体を激しく揺すってくる。


「………………っうるさーい!今日は何もないんだからもう少し寝かせてよ!」


 止める気配のない揺さぶりに微睡んでいた意識がすっかり覚醒してしまい、惰眠を貪るという崇高な目的が邪魔された怒りから、私はその原因に向かって思いっきり文句をぶつけた。


「おお~ルーちゃんやっと起きた。おはよう」


 私の文句なんて聞こえてないかのように平然としている姉に苛々がさらに募り、頭に血が上って顔が引きつる。


「おはよう、じゃないでしょ!ねぇ、もしかして私が怒ってるのわかっててわざと無視してるの?だったら流石にそれはどうかと思うよ!」

「まあまあ、ルーちゃん落ち着いて」


 寝起きな事もあって自制が効かず、普段よりも感情的になっている私を宥めるように制した姉はこほん、と咳払いをしてから腰に手を当て、話し始めた。


「もちろん今日の練習がお休みなのはちゃんと覚えてるよ。だからルーちゃんを起こしたのには別の理由があるの」

「…………別の理由?」


 不機嫌を隠そうとせず、しかめっ面のまま返すも、特に気にする素振りも見せずに笑顔を浮かべた姉がその理由とやらを口にする。


「━━ルーちゃん。今日は私と一緒にお菓子作り、しよっか?」

「……はい?」


 あまりに唐突な提案に寝起きの頭が追い付けず、私の口から呆けた声が漏れた。




 あの後、結局姉に押し切られる形で連れ出された私はお菓子作りのための材料探しとやらで集落のすぐ近くにある小さな池の(ほとり)まで来ていた。


「せっかく今日は惰眠を貪ってからゆっくりと本を読もうと思ってたのに……」


 材料になる草花を探しながらぶつくさと文句を垂れ流す。


 姉との練習が始まる以前、一年とちょっと前くらいまでは毎日惰眠を貪ろうが、本をどれだけ読もうが、自分の自由だった。


 それが今ではほぼ毎日、何かしら姉との予定が入っている。


 もちろん今日みたいに何もない日もあったけど、その時は姉に誘われて料理をしたり、裁縫をしたりして過ごすか、自主練習に充てていたため、のんびりだらだらする機会がなかった。


「自主的に私が何かするなら良いけど、こうやって半ば無理矢理付き合わせるのは止めてよね全く……」


 姉への文句は止まる事なく、探している間に聞こえるのも厭わない勢いで続く。


「ルーちゃん~そっちは見つかった~?」


 そんな折り、手に持った籠の中に色とりどりの(きのこ)をいっぱい抱えた姉が間延びした声と共に駆け寄ってきた。


「……まだ何も。お姉さまの方は……いっぱい採れたみたいだね」


 籠をいっぱいの茸に視線を向けながら半ば呆れたように返すと、姉は何故か得意げに胸を張っていた。


「うん、茸自体は普段の料理でも使ってて、よく採りに来てたんだ~。それに最近は魔術の勉強の合間にそういう本も読んだからだいたいどの辺に生えてるか分かるようになったの」

「そういう本……ああ、確か食用の植物や茸を纏めたのがあったね」


 魔法の類いで写し取られたものでなく手記のような形式で書かれていて、この森に生息している植物や茸の種類についてが主な内容の本だ。


 その内容から察するにこの本の著者はここに長く滞在、あるいは住んでいた者だろう。


 作者が今もここにいるとは思えないが、本を読まない他のエルフ達にも一部、知識が伝わっているので、もしかしたら私が生まれるよりもずっと前にここの誰かが書いた可能性も僅かにある。


 と言っても、その可能性より交流があった時に滞在していた人間が書いた確率の方が高いだろうけど。


「そうそれ!ルーちゃんも読んだ事あるの?」

「私はあそこの本を全部読んだからね。まあ、そこまで興味があった訳じゃないから内容はうろ覚えだけど」


 一度か、二度、読んだためある程度は把握しているが、流石に記載されている全ての種類は覚えていない。


 これがあったら便利だなとか、この毒は危ないなとか、自分にとって必要な情報だからそれが印象に残ってたくらいだ。


「全部って、あんなにいっぱいの本を?」

「うん、お姉さまと魔法の練習を始める前はほとんど毎日通って読んでたから量的にはむしろ足りないくらいかな」


 本を読み解くのも一苦労の姉からすれば驚くかもだけど、たぶん私みたいにずっと読んでいたら自然とそうなってくると思う。


「そ、そうなんだ……流石ルーちゃんだね」

「別にそんなに凄い事じゃないよ。全部って言ってもただ読むだけなんだから誰にだって出来る」


 少し引き気味にそう言う姉に対して唇を尖らせ、不服そうに返す。


「ううん、そんな事はないと思う。ただ読むってルーちゃんは言うけど、慣れない人からすればずっとは読めないし、続けられないもん」

「そうかな?読んでれば慣れてくし、続くと思うけど……」


 最初に文字を教えてもらう過程で本を読み始めた頃はわからない事はあっても、読むのが続かないって事はなかったから、私にはその気持ちがわからなかった。


「そういうものなの。ルーちゃんだってさっき興味がないからうろ覚えだって言ってたでしょ?それと同じようにやっぱり興味がないと続かないんだよ」


 確かに私は最初から本を読んで面白いと感じてたから続ける事が出来たと言われればそうかもしれない。


「じゃあお姉さまもあの本みたいに興味のある本なら読み続けられるってこと?」

「たぶんね。他にも料理に関する本や衣服の装飾技法の本とかも読めたから大丈夫だと思う」


 なるほど、魔術の勉強のため一緒に書庫へ行ってはいたが、私が解説のために本をまとめ終わるまでは別行動だったので、姉が魔法関連以外の書物をそんなに読んでいるなんて思わなかった。


「もしかして今回のお菓子作りも本を見てやろうと思ったの?」


 唐突な提案の要因として、姉が読んだ植物や茸について書かれている本と同じ作者が書いたであろうお菓子作りに関する本があった事に思い至り、尋ねてみる。


「そうだよ。ここにある植物や茸を使ったお菓子の作り方が載ってる本を見てからずっと作ってみたいって思ってたんだ~」


 にへら~と笑ってそう答え、籠の中の茸に目を向ける姉。


 というのもここの集落のエルフ達が作れる料理の幅が狭く、ことお菓子のような嗜好品の類いはさらに少ない。


 原因としてはおそらく外との交流がなくなってしまった事やエルフの特性上、誰も料理やお菓子の幅を広げようとしない事が挙げられる。


 例外である私やあの人はそもそも料理やお菓子を作る習慣がないし、それらを趣味として作る姉も流石に一人で何の指標もなしに新しいものを作るのは限界がある。


 一応、随分と前に長老も一度だけ作ってくれた事があったけど、それ以降は見たことがない。


 だからこそ姉は新しく本で知ったお菓子の作り方を試したくてうずうずしているのだろう。


「ふーん……ん?そういえばお菓子の材料ってこの辺の植物や茸だけでいいの?」


 そんな事を考えつつ、姉が読んだお菓子に関する本の内容を朧げながら思い浮かべていると、その材料の中に不穏なものが混じっているのを思い出した。


「えーと、それだけで作れるのもあるんだけど、今回作ってみようと思ったお菓子には他にあと一つ必要な材料があるんだよね」


 案の定、姉はここにあるものの他にも必要なものがあるという。


 さっきの本と同様にそこまで興味がなかったので、載っているお菓子について詳細を全て覚えているわけではないが、それでも姉が求めている材料についてはひしひしと嫌な予感がしていた。


「…………その必要な材料って?」


 大丈夫、必要なの材料が私の考えているそれと決まった訳じゃないと、心を落ち着けながら恐る恐る聞く私に姉はにっこりと微笑んだ。


「うん、それはね。この池の少し先にいる植物型の魔物から採れる甘い蜜なんだ」


 たぶん私が全力で嫌がるとわかってたからこそ、あえてここまで言わなかったのだろう。


 姉は作戦成功と言わんばかりに満面の笑みを浮かべてそう言い放った。


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― 新着の感想 ―
お疲れ様です! 姉妹のやり取りがとても可愛らしくて、終始ほっこりしながら読めました。 何気ない日常の会話の中に性格の違いが自然に出ていて、二人の関係性がよく伝わってきます。 最後のオチも微笑ましくて、…
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