エイプリルフール企画 ルーコの夢想外伝④ エルフの美少女魔法使い、お城に乗り込もうとする
エイプリルフールは過ぎましたけど、区切りのいいところまでは続きます。
もう少しお付き合いください。
商人風の男によるとこの王都もほんの一年前までは活気にあふれていたらしい。それがこうなったのは前王がなくなった事に起因する。
なんでも前王は病気や寿命ではなく、何者かの手によって暗殺されたようで、しかもその死に様が玉座に座ったまま苦悶の表情を浮かべたものだった。
無論、それだけなら暗殺が大事とはいえ、犯人を捜して見つけ、次の王を据えれば済むだけの話だったのだが、そこでさらに事件が起きた。
次の王……前王の弟が王位に就いて数日、彼は玉座に座ったまま原因不明の死を遂げる。次も、そのまた次も就任して数日で玉座に座ったまま原因不明の死が続き、誰も王様になりたがらなくなってしまった。
当然、そんな事態になる前に玉座自体を処分してしまおうとする動きもあったが、処分を決行しようとしたもの全員が非業の死を遂げてしまい、誰にも手を出せない状態が続いた。
王の不在、そんな状態が続けば公務が滞る。家臣たちがいかに奮闘しようとトップの不在はいかんともしがたく、次第に回らなくなり、様々なところで不備が発生、影響は町にも及び、治安も悪化の一途を辿った。
そして不在のまま一年が過ぎ、今に至る、との事だ。
「――なるほど、つまり王になれば原因不明のまま玉座で死んでしまうため、それを恐れて誰もその座に就かないままの現状がこの有様、というわけですか」
「……ああ、衛兵や役人もいるにはいるけどね。もうみんな真面目に仕事しちゃいない。だから必然的に治安が悪化するんだよ」
王になれば死ぬ、いや、この場合は座って死んでいる事から、玉座の呪いとでもいったところか。
まあ、呼び方は何でもいいが、少なくとも何人もそうやってなくなっている時点で偶然ではない事は確かだろう。
「……ふむ、話を聞く限りだとその玉座にいわくがありそうですけど、処理はともかく、座らないようにして誰かが王になればよかったのでは?」
「……確かに玉座に何かがあるんだろうけどね。座らなければ大丈夫という保証はないんだ。そんな中で誰がなりたいなんて言うと思う?」
言われてみればそれもそうだ。話の流れから玉座を原因としていた彼女だったが、結局のところはそれらは不明のまま、男の言う通り大丈夫という保証がない以上は誰もなりたがらないのは無理もない。
「あれ?でも変じゃないですか。次もそのまた次の人も玉座に座って亡くなっていたんですよね?最初の一人はともかく、そんな椅子に座ろうなんて普通は思わないんじゃ……」
「……そうだね。実際、初めの不審死以降に王になった者は玉座を気味悪がって座ろうとはしなかったよ。でも、死ぬときは決まって玉座の上……誰かが運んだのか、自分の意思なのか、それは分からないけどね」
まるで見てきたかのように語る男へ一瞬、胡乱な視線を向けるも、すぐにそれを戻し、話を続ける。
「うーん……仮にそれがどっちだったとしても、第三者の介入がなければ成立しない話ですねぇ……暗躍してる誰かがいるのか、はたまた魔法、呪法の類が玉座にかかっているのか、もしくは前王の怨念……いや、それはありませんね」
「えっと……お嬢さん?」
答えを求めるわけでもなく、独り言をぶつぶつと呟く彼女に男は困惑した様子で声を掛けた。
「……ま、なんにしてもその玉座に興味がありますね。せっかくですからから観光がてら見に行きましょうか」
「は……何を言って……」
意味が分からないといった表情で絶句する男を他所に彼女は踵を返して町の中央……そこに見える大きな城に向かって歩き出す。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!観光って城に行くつもりかい?確かに今は衛兵や役人が真面目に仕事はしないと言ったが、王城の警備は別……不法侵入すればその時点で殺されるよ」
歩き出した彼女に男は言葉を尽くし慌てて止める。男の視点からすれば自分が色々話したせいで見知らぬ少女が無謀な行動をしようとしているのだから止めようとするのは当然か。
確かに男の言っている事は至極まっとうな意見だ。王不在といえど腐っても国の中央、その警備は厳重なのは想像に難くない。
「?それくらいは分かってますよ。流石に不法侵入はしません……ただ正面から入ってそこまで通してもらうだけです」
「…………人の話を聞いていたかい?というよりどうして通してもらえると?普通に止められるし、下手をすれば怪しまれて捕まるよ」
頭痛をこらえるように目元を抑え、呆れ交じりのため息と共にそう言う男に対し、彼女はにっこりと笑い、返す。
「問題ありませんね。まさかこんな可憐な美少女にいきなり乱暴な事はしないでしょうし、それでも私を無理矢理捕まえようとするなら押し通らせてもらいますよ」
「押し通るって……相手は精鋭の騎士だよ?仮にそんな事ができたとしても国中に指名手配されるのが目に見えているだろう」
変な自信に満ちている彼女へ男はますます呆れ、さらに大きなため息を吐いた。
「無論、分かってますよそんな事は。観光とは言いましたけど、興味本位だけじゃなくメリットがあるからこそ行くんです」
「メリット……?それは一体…………」
男が首を傾げて問い返すも、彼女はそれに答えず、そのまま城の方に向かい始める。
「――――心配しなくても観光ついでに問題は解決しますよ。だからまあ、その覚悟をしておいてくださいね」
そして一度だけ振り返った彼女は薄く微笑むと、見知らぬはずの男へ意味深な言葉を言い放って再び歩き出した。
王のいない城を守り囲む大きな城壁と門。聳え立つ壁はよじ登る事はもちろん、箒で飛び越える事も難しいほど厳重に警備されており、門の前にも警備の詰め所と常駐の門番がしっかり守っているのが見える。
「ふむ、王城の警備は別というのは本当みたいですね。雰囲気もこの辺は町とは大分、異なりますし……正直、城の警備にここまでの人員を割けるなら町の治安維持に人を回した方がいいとは思いますけど」
畑違い、もしくはこの非常時だからこそ警備に人員は必要と言われればそれまでかもしれない。しかし、このままの状態が続けばいずれ王都は立て直せない程に衰退してしまうであろう事を考えればそんな事も言ってられなくなるだろう。
(まあ、問題自体は私が今から解決しますし、知ったこっちゃないといえばそれこそ、それまでですけど……)
不審死の問題が解決してしまえば後は誰かが王の座に就き、現状を打開する筈だ。
問題があるとすれば解決してなお、誰も王になりたがりそうにないという事だが、彼女の思惑通りに動けばそれもどうにかなる。
もっとも、それは全てが上手くいけばの話だけれど。
「……さて、すんなりと通してくれればいいんですけど」




