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第0話 旅の終着点



━━私の人生、一体どれだけの間違いを重ねてきたのだろう。



 重苦しい灰色が広がる曇天の空の下、箒片手に泥塗れになって転がりながらふと、そんな事を考えてしまう。



━━身体だけじゃなくていよいよ精神の方も追い詰められてきたのかな。



 今の私は絶望的なまでの力の差を見せられてぼろ雑巾のように打ち捨てられた哀れな美少女エルフだ。


 白く輝く自慢の髪は汚れてくすみ、特徴である長い耳は片方が欠け、端正と呼べる顔立ちも今は泥と疲労で酷い有り様になっている。



━━ああ、折角の美少女が台無しだなぁ……なんて思ってみたりして……。



 もう自分が少女と呼べるような年ではない事を理解しながら誰にも聞こえない冗談で一人、自嘲の笑みを浮かべる。


 思えば本当に後悔だらけの人生だった。


 エルフの中でも魔力量は平均で、魔法の腕も天才と呼ばれるような人達と比べれば大した事なく、頭も多少は回るけど、飛び抜けて良いという訳でもない。


 才能も力も足りないのに分不相応な選択肢に手を伸ばして大切な人達を幾度も失ってきた。



━━いつだって代償は私以外の命……本当に愚かで醜い。



 ここまで生きてきた数百年、選択を間違えるその度に誰かが犠牲になり、いつも最後は私だけが生き残ってしまう。


 まるで呪われているかのように。


 いや、まるでではなく本当に呪われているのかもしれない。何せ対峙している相手が相手だ。


 私がその存在を認めなくてもその名に足るだけの力は持っている。



━━駄目だね……こんな事を考えている場合じゃないのに……



 絶望的な差を少しでも埋めるため、戦いに専念しなければならない事は分かっている……でも、どうしたって暗い考えが溢れるのを止められない。


 昔からいつもそうだった。追い詰められると後ろ向きな事を考えてしまう……変わらない私の悪癖の一つだ。



━━あ、まずい……



 遥か上空、視界を埋め尽くす数の隕石群。その全てが大地に向かって降り注ぐ。


 天変地異かと見紛う程の規模、私一人を消すためだけにこれをぶつけてくるというのだから本当に馬鹿げている。


 地形を変え、衝撃と轟音だけで大地を壊すそれに対して私ができたのは箒で飛んで逃げる事だけ。


 それも残ったほとんどの魔力を使っての全力飛行……もう後がない。



━━それでも私はまだ生きてる……生きてるなら終わりじゃない……っ!?



 そう思い、顔を上げて前を向いたその瞬間、私の心をへし折らんと再び隕石群が生成されようとしているのが見えてしまった。



━━やっぱり本当に馬鹿げてる。こんなものを連続で放ってくる相手も……それにまだ向かって行く気でいる私も。



 箒の柄を握り締め、絶対に俯くものかと前を向き続ける。



━━この選択もたぶん間違いなんだと思う。けど、今度ばかりはそれでも構わない……だってこれが最後で賭けられるのは私の命だけなんだから。



 ここで折れるくらいなら初めから立ち向かおうなんて思わない。


 大切な人達の犠牲を呑み込んででも生きてきたのはこの時のため……暗い思考が溢れようと、絶望を見せつけられようと、私は諦めるという選択肢を選ぶ訳にはいかない。


 隕石群を見据え、自分とその先に向けて宣言するように言い放つ。



「絶対に助ける━━━━たとえそれが貴女の想いに背いているのだとしても」



 これは才能も力も足りない愚かな魔女……〝ルルロア・アルラウネ・アークライト〟が醜く足掻く軌跡の物語。



 間違いと後悔だらけの旅路を綴った果てまで続く始まりのお話だ。



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