来し方行く末・ウサギサイコロ
なろうラジオ大賞3参加作品です。泉鏡花風な作品を目指したつもりです(あくまでつもり)。
新宿南口から、都庁方面へ向かう交差点を渡る。
カメラ屋で新作ゲームでも見るか。やることは、たくさんあるのだが。
交差点の途中、目の前を白い物体が走る。
犬? それとも猫か? いや耳がピンと立っている。
ウサギだ!
新宿の交差点で、ウサギ?
俺は思わず後を追う。
渡り切った交差点先、白い生き物は右手に曲がる。
つられて俺も、角を曲がる。
「ようこそ、おいでませ~~」
なぜかそこには、バニーガールのお姉さんが、プラカードを持って立っていた。
白いレオタードに、白いお耳。ケツはデカいが胸はない。
プラカードにはこうあった。
『来し方行く末・ウサギサイコロ』
ウサギ、サイコロ?
のぼり旗がバタバタとなびき、その奥に鎮座する白い生き物。
耳は長く、顔はどう見ても、ウサギそのもの。
しかし、人間の子どもよりも大きな体高。
着ぐるみか。
「本日は、絶賛無料公開中。お前様の行く末を、占ってしんぜよう」
さあさあ、とバニーガールに導かれ、俺はウサギの前に座った。
「ええと、君は、スズキくん。年齢は二十一。ほおほお卯年生まれね」
ウサギはなぜか、俺の個人情報を知っている。
新手の詐欺商法か?
俺の不信感など意に介すことなく、ウサギは「ほれ」といって、立方体を渡す。
一辺が五十センチはありそうな立方体。
「何これ?」
「サイコロ。このサイコロで、君の来し方行く末を占うのじゃ――」
そう言われても、サイコロに数字はなく、それぞれの面にイラストが描いてある。
くるくる回して六面を見る。
ウサギの全体像
ウサギの目
ウサギの耳
ウサギの口とひげ
ウサギの足
ウサギの尻尾
「ほれほれ、早う早う」
仕方なく、俺はサイコロを投げた。
何回か転がって、止まったサイコロを見たバニーガールが叫ぶ。
「大当たり~~あなたの運勢は『ウサギの足』!!」
その結果に、ウサギ占師は頷いた。
俺には当然、意味不明である。
「うんうん。来年、いいことあるぞよ。まず就職に必要なのは、スタートダッシュじゃな。
あとは、たまに実家に帰るとよろし」
えっ?
俺は少々驚いた。
『お前は取り組みが遅いからダメなんだ』
家族から、よく言われたセリフ。
そんなお説教が面倒で、ここ数年実家に帰っていない。
「お前様の婆様が、心配しとるからな」
ばあちゃん?
ばあちゃんが?
俺の行く末を心配し、神社参りをしているばあちゃんの姿が、一瞬浮かんだ。
風が吹く。
気が付けばウサギ占師もバニーガールも消え、俺の手には実家のそばの、神社のお守りが入っていた。
ウサギサイコロで占った時の意味
ウサギの全体像が出たら、服装に注意しよう。中吉。
ウサギの目が出たら、もっと視野を広げよう。小吉。
ウサギの耳が出たら、人の話をよく聞こう。小吉。
ウサギの口とひげが出たら、歯医者に行こう。吉。
ウサギの足が出たら、ラッキーチャンスを逃すな。大吉。
ウサギの尻尾が出たら、諦めも必要。末吉。