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最終話 自分の進むべき道

「私は何が好きなんだろう……私も誰かの相談ばかり聞いてきたから、自分のことはよく分からない。どうしたらいいんだろう」

「もっと自分らしく生きてたら、自分の好きなことなんて見つかるわよ」

「自分らしく、か……」


 一尺八寸は俺を見つめ、そしてテーブルの下で俺の手を握る。

 え、なんでそこで握るの?

 それになんでそんな熱い視線を俺に向けてるの?


 すると一尺八寸が俺の手を握っているのに感づいたのか、凛がテーブルをバンと叩く。


「欲情するなら家を出て行ってほしいのだけれど」

「よ、欲情なんてしてないわよ」


 手を放し、咳払いする一尺八寸。

 凛はニコニコしているが目は笑っていない。

 黒いオーラがダダ洩れだ。


「直巳はヒーローが好きって分かって……スーツアクターの見方が変わったんだよな」

「ああ。昔の自分を殴りたいぐらいだよ。本当は熱い職業なんだぜって」

「その熱い職業には興味ないのか?」

「興味……?」


 そう言われると……確かに興味が無いわけではない。

 というのが本音かもしれない。


「できるわけないんだろうけど……興味はある、かな」

「直くん。人間なんだってできるんだよ。否定から始めたら何もできないけれど、できると信じたらなんにだってなれるよ。直くんなら尚更なんにだってなれる」

「お、俺を買いかぶり過ぎだ。どう考えても無理なものは無理だろ」

「そんなことないよ。まず凛のコネクションを使えば、普通の人よりは中に入り込めるだろうし」


 だから凛は何やってんだよ!?

 どんなコネクション持ってるの?

 なんでそんなコネクションがあるの?


 聞きたいことは山積みだが、聞いてもまたはぐらかされそうな気がする。

 ちょッと秘密主義なところがあるからな、凛って。


「でも俺、何もやってこなかったからな……って、なんでスーツアクターになる前提で話が進んでるんだよ」

「直くんってさ、体操部に入ってたでしょ? 高校と大学って」

「ああ。成績は何も残してないけどな」

「なら、普通の人よりは派手な動きもできるんじゃない?」

「まぁ、そうかな……」


 バク転もできるし、確かに人よりは動ける自身はあるけれど。

 だけど、そんなのスーツアクターを本職にしている人から見れば、遊びもいいところだろ。


「体力は自信なんてないぞ。そんな職業に就くほど――」

「体力なんかはやればつくよ。問題はそんなことじゃなくてさ、『点と点は繋がる』ってこと」

「点と点?」

「うん。不思議な話なんだけどね、直くんがスーツアクターになる未来が確定してるとして……過去を辿れば、そこに行き着くための出来事が無意識に行われていることがあるって話」


 俺は背筋が冷たくなる。

 そんな話あるか?

 だけど……少し納得する自分もいる。

 そのためにヒーローに夢中になって、体操部に入って……そして凛が俺にヒーローを再燃させてくれた。


 点と点が繋がる……

 俺は不思議な感覚に包まれていた。


「なんだか怖い話だけど……そんな気もするわね」

「い、いや……だからって、俺はスーツアクターになんてならないし、なるつもりもないぞ!」

「ならなくてもいいけど、なる方向に進んでみたら? そうしたらまた違う未来に繋がるかも知れないしね」

「……いや、だけどこんな歳から……」

「歳なんて関係無いから。言い訳を全部やめればなんになってなれるから」

「…………」


 凛の言ったことに、俺は何も言えなくなり、そしてぼんやりとスーツアクターになると言う夢が頭の中に浮かび始めていた。

 いや、でも……無理じゃないの?

 なんて葛藤し続ける。


「もし木更津くんに夢があるなら私、応援するわ」

「凛だって応援するし、全力でサポートするね」

「わ、私だって出来る限りのことをするわ。木更津君を癒してあげること以外はまだ思いつかないけれど……あ、でも甘えてもいいかしら?」

「ちょっとそれじゃ直くんの足引っ張るだけじゃん。あなたはもう家に帰って自分のことだけ考えててください。直くんのことは凛がぜーんぶ面倒みるんだから」


 俺の腕を引っ張り合いまた言い合いを始める二人。

 樹は凛に加担するため、口を挟もうとするがその勢いに硬直してしまっている様子。

 

 俺の日常はこれからもこんな風に続いていくのかな……

 それとも、夢に向かって歩き出すのだろうか。


 俺は胸を熱くさせながらも、二人の勢いに呆れるばかり。

 でもどちらにしても……楽しい毎日が続きそうだ。

 自分の好きなことを、自分の好きなひとたちと共有して、自分の好きなように生きて行く。

 それは凄く幸せなことで、こんなにもワクワクしている。


「もし俺が本気で夢を追いかけるって思えたら……その時はその、よろしく頼むよ」

「「もちろん!」」


 二人は同時に返事をしてくれる。

 それはどこまでも純粋な声で、純粋な返事。

 樹も黙って親指を立ててくれている。


 俺はショーケースの前に立ち、中で熱く輝くヒーローたちを見る。

 彼らは俺を応援してくれている……そんな風に見えた。

 

 これから俺はどうなって行くんだろう。

 ヒーローみたいに誰かに夢を与えられるようになりたい。

 そう考える自分が確かにそこにいた。


 すると凛が俺の隣に立ち、一尺八寸がこちらを見ていない隙に俺の頬に口づけをした。


「なっ!?」


 突然のことに俺は戸惑い、凛の笑顔をポカンと見つめる。


「直くんが夢を叶えた後は、次は直くんが凛の夢を叶えてね」

「ゆ、夢って……何?」

「分かってるくせに!」


 凛ははにかみながら、テーブル席の方に戻っていく。

 夢って……まぁ奥さんになりたいとか、そういうことなんだよな、と俺は察する。


 今は自分のことで精いっぱいではあるが……将来はそういうこともしっかり考えていかないといけないよな……


 俺は大きくため息をつきながら自席についた。

 将来のことを考え胸の高鳴りが収まらず、興奮した状態で食事会は始まる。

 きっとこれからもこの胸が熱くなる思いは潰えないのであろう。

 自分の進むべき道、やるべきことがぼんやりとだが定まるというのは、そんな予感を感じさせる。


 まだ将来のことはどうなるかなんて分からないけれど。

 これだけは確実に言えることがある。

 きっと俺は将来後悔しない生き方をしているだろうと。

 後悔した生き方は凛が許してくれないだろうし、自分が後悔しない道を選ぼうとしている。


 だから願わくば……自分の夢が叶いますように。

 そして自分の周りの人たちも幸せにできますように。

 目の前にいる美人二人を見つめながら、俺はそう思いを巡らすのであった。


 おわり

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初から一気に読みました! 話の展開的にまだ先はありそうな雰囲気ですね。楽しめました。
[一言] 完結お疲れ様でした!!
[一言] 追記。 すみません新作があった! いま気づきました。スミマセンでした。
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