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第27話 牛乳だと思いこんで口にしたらコーラだった。吹き出しちゃうよね。絶対噴き出しちゃうよね。それぐら照れる彼女には驚きました。飲み物を飲んでいたら確実に噴き出してたと思う。

 必死に朝食をかき込む樹。

 凛はそんな樹の方に視線を向けず、俺の方を見てニコニコしている。


「ねえ直くん。今日はどこに行くの? もしかして、あの女と会うなんてことはないよね?」

「あ、ああ。そんな予定はないよ」


 一尺八寸のことを話す凛の目は、少し闇が垣間見える。

 二人は仲が良くないらしく、どうも俺に会ってはほしくないらしいな。


「そうなんだ。良かった」


 カフェオレを飲む凛。

 俺はフライドポテトに塩を振りながら彼女との話を続ける。


「凛の予定は?」

「凛? 凛は大学に行かなきゃいけないんだよねぇ」

「大学か……」


 もう大学に通ってたのは三年も前になるのか……

 遠い目をする俺。

 凛はクスクス笑っている。


「まだまだ若いよ、直くんは」

「そうなのかな?」

「そうだよ。『若さとは、人生のある時期ではなく、心の持ち方を言う』なんて言葉があるぐらいだから、結局のところ、自分が若くないと感じたらそれはもう若くないってこと。だから直くんが自分を若いと思っているなら、それはもう若いってことだよ」

「心の持ち方か……」

「うん。だから直くんとデートしたいって思ったらそれはもうデートしてるようなものなんだよ」

「それは違う気がする。いや、絶対に違う」


 デートしてるって思ったらデートしてるって、意味分からないんだけど。

 まぁしかし、凛がもしそんなことをしたいと考えてくれていると言うのなら、俺は付き合いたいと考えている。 

 だって養っているのだから。


「でも凛がデートしたいって言うのなら、いつでも付き合――」

「じゃあ今日学校終わったらデートね! 約束ね!」

「え、あ、はい」

「きゃーきゃー! 今日は直くんとデートだぁ! やったやった! うわぁ絶対に楽しい一日にしよっ。あ、可愛い洋服買いに行かなくっちゃ」

「ふ、普通の服でいいんじゃない?」

「そんな! 折角の直くんとの初デートだよ? 結婚式でウェディングドレス着ないなんてありえないでしょ? それぐらい新しい服を用意するのは当然だよ」

「いやいやいやいや。そんな一一大イベントじゃないから。ただのお出かけですから!」

「ただのお出かけだとしても、凛にとっては最大級のイベントなの! 世界的有名なミュージシャンのコンサートより価値あるものなの!」


 ダメだ。

 凛の思考にはやはりついていけない。

 俺はいまだに頑張って朝食を食べている樹の方に視線を向ける。


「へ、平常通りの凛だぜ」

「へ、平常通りなんだ……」


 なんとかして止めておけよ、お兄ちゃん。

 あなたの妹さん、ちょっと変わった思考の持ち主ですよ?

 それに気づいてね。


「と、とにかく、学校終わった後でいいんだよな?」

「うん。直くんが良ければ学校まで迎えに来て欲しいなぁ」


 甘えるような表情をする凛。

 こんな可愛い顔で頼まれて、断る男なんているのか?

 

「別にいいよ。それぐらいお安い御用だ」

「やった! 今日はオシャレして学校行こっ」


 バタバタと自室へと向かう凛。

 樹は少し食べる手を止めながら話始める。


「いつもはラフな格好で学校行ってるんだぜ」

「そうなの?」

「ああ。別に可愛い恰好を見せたい相手もいないし、適当でいいって」

「ふーん。可愛い恰好を見せたいってぐらいには、俺は気に入られてるんだな」

「そういうことだ。凛のこと、頼むぞ」

「ああ。俺もお兄ちゃんとして、凛を楽しませてくるよ!」


 額に手を当て呆れる樹。

 

「そういう意味じゃないんだよ……」

「?」


 早々と着替えを済ませたのか、凛がリビングへと戻って来る。


 フリルの付いた白い服は、清純な印象を与え、膝上ぐらいまでの長さのスカートは下品さを一切感じさせなずに魅惑的。

 肩からかけている小さなショルダーバッグは誰もが見たことがある高級ブランドの商品。

 そのアイテム一つで、いっきに令嬢感が増す。

 どこかのお嬢様としか思えないそのたたずまい。

 飛び抜けた容姿をそれらがさらに魅力を引き出し、またその容姿が服装の魅力を引き出しているようだった。


「どうかな、直くん?」

「……控えめに言って可愛すぎ」

「…………」


 ボッと顔を赤くする凛。

 いや、余計可愛いんだけど。

 ちょっと惚れちゃいそうになるから止めて、そういう顔。


「な、直くんにそんなこと言われて嬉しいな……」

「い、いや、事実だから」

「…………」


 ピシューと煙を上げて真っ赤になる凛。

 するといきなり走り出し、家を飛び出て行ってしまう。


「お兄ちゃん後片付けよろしくー!!」

「あ、逃げた」


 樹は凛の方に携帯を向けて写真を激写している。


「片づけは任せとけ! 後、凛、お前のそんな顔を見れて俺も嬉しいぞー!」


 玄関の閉じる音が聞こえてくる。

 俺と樹は無言で視線を合わせ、そしてテーブル席につく。


「珍しいな。あんな凛の様子は」

「俺は初めて見るよ。あんな凛の様子は」

「そうなの?」

「そうなの。あんな顔をさせられるのは、お前しかいないんだよ」


 撮った写真を見ながらニヤニヤする樹。

 俺は一つため息をつき、コーヒーを口にするのであった。

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