第26話 寝起きに人はどれほどの食事を取ることができるのだろうか? 俺はパンが一枚あれば十分だ。なのに食べ放題が始まっても困るだけなのである。どうするの、この量?
「ん……んんん?」
「おはよう、直くん」
朝目覚めると、凛に膝枕をされていた。
部屋は自室、いつの間に膝枕されたのだろうかと記憶を辿る。
しかしどれだけ深く記憶の海に潜り込んでも、答えは見つからなかった。
なるほど。
そういうことか。
これは眠っている間に凛が勝手にやったんだな。
「って、何やってんの?」
「え? 膝枕知らないの?」
「膝枕は知ってる! そんな算数知らないのみたいに聞くな。俺が聞いてるのは、なんでそんなことやってるのってことだよ」
「ん~だって直くんの寝顔が尊かったから」
ニヤニヤしながら凛はそんなことを言った。
「いや、そんなの答えになってないから」
勝手に部屋に入って来て勝手に膝枕をして……
まぁ凛みたいな美女にされて嫌なことはないけれど。
むしろ嬉しいぐらいだけれども。
しかし勝手にこんなことされたら困るな。
だけど俺は彼女に養われてる身分だから、大きく出ることもできない。
「……どうしたの? そんなに凛の顔を見つめて」
彼女に養われてなかったとしても大きく出ることはないな。
どちらにしても凛には敵わない気がする。
俺はため息をつき、甘い香りと程よい柔らかさを誇る膝から頭を上げる。
「ええ、もういいの?」
「もういいです」
あの膝枕は危険だ。
あれ以上やってもらっていたら、完全に凛に甘えてしまう予感がする。
凄まじい威力だな、膝枕って。
「ご飯、食べるでしょ?」
「ああ、そのつもりだけど」
「じゃあお兄ちゃんも呼んでやろっと。直くんもお兄ちゃんいた方が嬉しいでしょ?」
「まぁ、ね。でも、凛の朝食を食べれるなんて、樹はまた喜びそうだな」
「お兄ちゃんが喜ぶとかはどっちでもいいんだけどね。凛は直くんが喜ぶからお兄ちゃんを呼ぶだけ」
兄から妹の愛。
そして妹から兄に対する扱い。
果てしない差がそこにはあった。
これはツンとデレだ。
二人でツンデレ。
二人でツンデレだったら魅力なんて一つもないけれど。
しかし凛は俺にはデレてくれる。
ニコニコしながら俺と腕を組み、廊下を歩く。
これだけの美女と町を歩いたら、さぞかし目立つんだろうな。
「ああ、直くんと町を歩いたら、さぞかし目立つんだろうな」
「ははは。俺もそう思ってたところだよ」
「え、本当に? 以心伝心? 運命共同体? もしかして私たちって……赤い糸で結ばれてるぅううう!?」
「なんでそんな話になってるんだよ……いや、凛と一緒にいたら絶対皆振り向くだろなって話」
「だよねだよね。絶対振り向くよね」
こいつ、自分の可愛さを理解してるのかよ。
いや、可愛いけどさ。
「嫉妬で男に刺されないか心配だ」
「あはは……なんで直くんが男の人から刺されるの?」
「いや、だから凛みたいな美女と歩いてたら嫉妬されて」
「え? もしかして凛の話してたの?」
「……え? もしかして振り向くって俺の話してたの?」
凛は俺が女性から振り向かれると思っていたのか……
おれは逆で凛が男性から振り向かれると思っていたのに。
「そんなアホな話があるか。俺は誰の目にも映っちゃいないよ。至って普通。平々凡々な男だ」
「そんなこと無いって! 直くんは日本で言えば阿〇寛! ハリウッドで言えばジェイソン・ス〇イサム! インドで言えばア〇ミル・カーン! ちょっとやそっとの男じゃないよ!」
「なんでちょっと渋めばかりなんだよ……いや、カッコいいけどさ。それにアーミル・カ〇ンって誰?」
これはあれだな、俺のことを相も変わらず過大評価しているようだ。
そんなにいい男じゃないって、俺は。
「男の見る目を磨いた方がいいんじゃないか?」
「だからー、直くんはいい男だってば」
腕を組んでプンプンする凛。
嬉しいけど、ジェイ〇ン・ステイサムと並んでキャーキャー言われる自信はない。
俺はどう背伸びしても、やっぱりエキストラが精いっぱいだよ。
「そうだぜー、結構いい男だぜ、直巳は!」
「って、樹! いつ来たんだよ?」
「今来たんだよ。凛に呼ばれた瞬間に来たんだよ!」
パジャマ姿で登場する樹。
こいつは俺と違って、ハリウッドでも十分通用しそうな容姿をしている。
そんな奴に言われても、皮肉にしか聞こえないってものだ。
「と言うかお前、どこに住んでるんだよ? ちょっと流石に早すぎだろ」
「真下」
「真下かよ!」
真下ってことは三十二階に住んでるってことか。
樹もいい所に住んでるんだな。
でもそれも凛が払っている給料で家賃を支払ってるってことで……
いや、凛はどれだけ金持ってるんだよ。
想像するだけで寒気がする。
「直巳、あれ見てみろよ」
「どれ?」
直巳が指差す先――ルーフバルコニーの端の方に、なにやら梯子のような物が見える。
あんなの付いてたんだ。
「あそこから降りたら俺ん家だから、いつでも遠慮なく来いよ」
「あそこから来てるのかよ! 危なくないか?」
「凛の家に入れるなら、危ないぐらいなんてことねえよ」
大笑いする樹を見て、俺は呆れていた。
「ね、もう朝食の用意はできてるから食べよ」
「ああ、じゃあいただき……」
凛が用意したという朝食を見て俺は驚愕する。
もうあれだね、ホテルなんかで出てくる朝食バイキングみたいなものだね。
パン、ハンバーグ、チキンナゲット、フライドチキン、etc...etc…
どれだけ用意するんだよ!
俺こんなに食えないし。
と言うか、樹の腹が心配になってくる。
樹はなにか腹をくくったような表情をしており、俺はまた呆れ返っていた。
無理してお腹壊すなよ。
親友の心配をしながらも、俺は適度な朝食を取り始めるのであった。




