南佐の歩 第四章 第二話 止まない雪
合同慰霊会に出席した伊澤は焼香を済ませた後、岡っ引きの柾に橘への言伝
を残して、気がかりだったざくろ丸への聴取を適当な理由を付けて行う事に
した。
地下闘駒場にざくろ丸がいた事は公にはなっていないが、当日の対局に現れ
なかった事で奉行所から呼び出しがあるのは確実だ、しかし、あれだけの犯
罪を犯す輩に抜かりがあるとも思えない、「アリバイ」対策は万全だろう。
更には天城の将棋祭りに堂々と参加する肝の太さには驚かされる。
たまたまマサが亀戸天満宮境内の監視を気まぐれにしろ行ってなければ、先
手を打っての小橋分家訪問は出来なかった。
しかも慰霊会の会場に来ていた小次郎が、ざくろ丸は分家道場にいる筈だと
教えてくれた。 何にせよ他の同心に先んじて聴取出来るのはありがたい。
人形町の分家まで20分程の道すがら、焼香帰りの遺族たちに会釈をしなが
ら、足早に歩みを進める。
それにしても今日は気温が上がらない、鉛色の空からは今にも雪が落ちてき
そうだ。
腕組をしながら袖に忍ばせた懐炉を握りしめる。
『今日、明日にでも京都に発つってたか・・
奉行所に手形を取りに行ってはいねえみたいだから事前に準備していたっ
てとこだな、どこまでも用意周到って訳だ。」
玄関先に着くと、何やら道場が騒がしい。
悪い胸騒ぎがして慌てて道場に上がり込んだ。
道場の上側、床の間の前に数名の棋士たちが、誰かを抱え込んで立たせよう
としている、住み込みの女中が、その脇で顔面蒼白になって震えていた。
ーざくろ丸ー 髪が白くなっていて直ぐには気付けなかった、
「おい!一体全体、何の騒ぎだい!
俺は、南町同心、伊澤って者だ! 事情を聞かせてくれ!」
皆が一瞬驚きの表情を浮かべるも、それどころでは無い様子、
ざくろ丸の口から血が滴り落ちて、手当に急を要する事は一目瞭然だ。
「手前ら、そこにざくろ丸を寝かせて体を温かくしておいてくれ!
直ぐに医者を呼んで来るからよ!いいか、動かすんじゃねえぞ!」
伊澤は直ぐ様、表へ飛び出した、
『こいつは不味い事になった、ざくろ丸に死なれちゃ黒幕の正体も闇に葬
られちまう・・
絶対に助けねえと、』
伊澤は直ぐ様に表へ飛び出し、脱兎の如く駆け出した。
心の中で何かが叫んでいる。
この事件には関わるな、命あっての物種だ
お前には妻も子供も、母親までもいるじゃあないか
医者を呼んで、助けて、その後はどうする?
ざくろ丸を追い詰める何か証拠でもあるのか?
『ええい、黙れ!黙れ!
・・・・俺はいつからこんな情け無え男になっちまったんだ、
十手をもらった時に誓った筈だよな、悪を打つって!
だから、神様、天神様、俺に勇気をくれよ・・・・』
すれ違う何人かと肩口がぶつかる、よろめきながら一番近い医者の所へ駆け込
んだ。
引きずる様に医者を連れ出して、二人一目散に小橋分家の道場へ戻った。
「はあ、はあ、医者だ、医者を連れて来たぜ!
ざくろ丸に手当を! あ・・・・・」
その場にいる棋士の皆が伊澤の顔を見て目を伏せた。
医者が息を落ち着かせながら、ざくろ丸の元へ行き、三兆候死を確認する。
医者は伊澤に向き直り、首を横に振った後、ざくろ丸に手を合わせ瞼をそっと
閉じてやった。
本来ならば直ぐにでも検死に回すべきだが、伊澤は医者に頼んで死因が何なの
か調べてもらう事にした。
医者によると、毒を飲んだのではないかとの見解で、詳しくは奉行所の検死医
に調べてもらってくれと言い残し、患者を待たせているからと、足早に帰って
行った。
応援を呼ぶ為、棋士の一人に頼んで最寄りの詰所に行ってもらい、先に簡易的
な取り調べをする事にした。
実況見分の為に、現場の保全を皆に周知徹底させる。
調べによれば、ざくろ丸が帰って来たのは正午を少し回った頃だと言う、ざく
ろ丸は昨日の件を皆に謝罪した後、京に行く支度を始め、身の回りの物を整頓
して後日、海運で京に送る段取りを付けた様だ。
それから出立前の挨拶を兼ねて、道場で送別会をしている最中、急に血を吐い
たとの事。
道場に詰めている二名以外は、外弟子の三名が朝から対局に来ていて、この三
名以外の来客は無く、道場外の人間が毒を盛ったとは考えづらい。
自殺の線も無きにしも有らずだが、京に発つ段取りを打ってから自殺する意味
は無いので、他殺が濃厚だろう。
となれば、この場にいる者全員が容疑者だ。
・・だが動機は何だ、毒殺を衆人監視の元に実行するなど、余程慣れている者
でなければ出来る芸当じゃあない。
伊澤がふと、棋士の一人に目を遣った、確か詰めている棋士で安藤とか言った
名の青年だ。
室温は真冬のそれだが、額に汗が浮いている、目線も心なし泳いでいる様にも
見えた、明らかにおかしい。
「よう、お前さんよ、お前さん、ちょっと聞きてえ事があるんだが・・」
安藤は慌てて裏口に駆け出した、
「くぉらっ!待ちやがれええい!」
伊澤が直ぐさま後を追う。
廊下を走りながら皆に、応援が来るまで道場に待機しておいてくれと叫んだ。
「はあっ、はあっ、はっ、待ちやがれってんだ!この野郎!」
流石は手練れの同心と言う所か、袋小路に追い詰めた。
じりじりと距離を詰める。
「ま、待ってくれ!は、話を聞いてくれ!はあ、はあ・・」
「取り敢えず話は聞いてやるが、一旦道場に戻って現場検証させてくれや、
話はそれからだぜい。」
「わ、分かった、全部話すよ、俺は頼まれただけなんだ、無理やり・・」
「ああ?頼まれただあ?一体誰にだよ、」
伊澤はその瞬間、背後に人影を感じて振り返った。
そこには艶やかな着物を着た幼女が立っている。
「おじさあん、何してるのお?」
刹那、我が子と容姿が被って見え、つい緊張を解いた。
「ん、ごめんなお嬢ちゃん、俺らは大事な話をしてた所さ、
ちょこっと、あっちに行って貰えねえかい?な、ほれほれ。」
「ええ~、少し遊んでよお~、ヒマなんだもん。」
「ほら、駄々こねてねえで、あっち行った、ほれ」
背中に手を回して、回れ右させようと体を近づけた時、伊澤は腹部に鋭い
痛みを感じた。
体が痺れて力が入らない、膝から崩れ落ちた。
声を出そうにも掠れて声にならない。
『な、何だこいつは・・刺されたのか・・この娘に・・
いけねえ、内臓が不味い事になってやがる・・
だが、何で俺が刺されるんだ・・・・?
いや、違うだろ!狙いは安藤か!』
「に、逃げろ・・安藤・・!」
声にならない声を必死に張り上げて叫んだ。
「逃げろおおおお!」 伊澤が幼女にしがみついて動きを封じる。
安藤は、何が起こったのか分からない、只、伊澤の必死の叫びがのっぴきなら
ない事態だと理解した。
「ひいいいいい!」
壁伝いに逃れようと背中を戸板に擦り付けながら駆け出した。
「あはっ、無駄ですよ~。」
幼女の左手が黒い鎌に姿を変えた。
一瞬で安藤の首が、くの字に折れる、無情の血しぶきが辺りに飛び散った。
「あ、ああ、あ・・何て・・事を・・しやがる・・」伊澤は意識を失った。
「ざあ~んねんでした。 余計な正義感出しちゃってえ~、
このまま冷たくなっちゃえばあ~、きひひ。」
幼女は背後に異常な殺気を感じて振り返った。
砂塵を纏って白い物体が突っ込んで来る、白金の爪が幼女の喉元をかすめた。
「ちょっとお~、危ないじゃない、」
幼女がひらりと体を入れ替える。
沙羅が伊澤の傍らに素早く体を寄せた。
「メスガキの分際で人様を手に掛けるなんて、随分と生意気に磨きが掛かって
いますわね、ミカ、
その悪戯、万死に値しますわ!」
「暴凶狼・・あんたマジ最悪よね、いっつも良いところで出てきちゃって!
でも今日ばかりは、ちょっと遅かったみたいねえ~
あたしに構ってると、そいつ死んじゃうかもね~、ききき。」
ミカは沙羅に向いたまま、じりじりと後退し、通りに出ると「きゃあああ!」
と叫びながらどこかへ消えて行った。
ミカの声が野次馬を呼ぶ、一人、二人と恐る恐る覗き込んで来た。
慌てて、沙羅は半獣の姿から人型に姿を変える。
「ちょっと、あなたたち!直ぐに医者の所へこのお方を連れて行って
下さいまし! 急いで!」
だが野次馬は皆尻込みして動けない、顔を見合わせて誰彼に押し付けようと
するばかりだ。
「もう結構ですわ!!」
沙羅は素早く伊澤をおんぶして、人混みの間を引き裂く様に駆け出す。
結果的にだが、野次馬に任せていたら確実に伊澤はあの世行きだった、
この時代の医療では助かる者も助からない。
近くではないが沙羅の足で5分程の場所に蔵人のアジャスターが緊急時に使
用するセーフハウスがある。
『セーフハウスNO.7・・あそこなら止血剤と血液がある・・
急いで手当しないとですわ!』
3っつ目の辻角を曲がって、最後の直線を200m行った先がセーフハウス
だが、沙羅は嫌な予感に襲われていた。
『ミカが、素直に逃がすとは思えませんのよ・・
仕掛けるならこの辺りが・・!?』真上から世里の声がする。
「沙羅っちいいいいいい!躱してええええ!」
「何ですの!世里!躱す?!」
咄嗟に右へ50cm程体を傾けた。
瞬間、沙羅の左足が太ももから吹き飛んだ。発砲音が遅れて届く、
ミカの狙撃を受けたのだ。
もんどりうって沙羅が伊澤を背にしたまま転倒する。
ミカが1km程離れた火の見櫓で舌打ちをした。
「ちいいいいっ!アホウドリが邪魔しやがってからに!」
すかさず2撃目の準備に入った、覗き見る遮蔽物透過スコープが沙羅の背中に
ぴたりと照準を合わせる。
「逝っちゃいなよ、ワンコちゃん。」
バレットのマズルブレーキが爆炎を吹いた。
息せき切って帰ってきた小次郎は、台所に駆け込んで水を柄杓でごくごくと
飲んだ。
まだぜえぜえと呼吸は乱れてるが、今の状況を伝えようと必死に言葉を探す。
「ざ、ざくろ丸の屋敷、ほ、本所の分家だ、そこで毒を盛られて倒れて・・
顔が死人みたいに土色になって、ああ、もう仏か・・
只、まだ話はあるんだ、い、伊澤の旦那が誰かに刺された、って、
で、ほら、あの、ああっもう出てこねえ、ああ、安藤だ、あの安藤が首を切
られて死んじまったって、、・・色々あり過ぎてわかんねえよ!もう!」
「小次郎さん、落ち着きなって、大事が起きてんのは分かったぜ、
とりあえず状況を整理しなきゃな、
ほら、大きく深呼吸しなよ、で、ゆっくりで良いから順を追って説明してく
れると助かるぜ。」
小次郎は、2,3度大きく深呼吸すると将棋盤の前に皆を集めて口を開いた。
「先ずは、帰りの道中に伊澤の旦那に会ったところから話すぜ、
俺たちは、帰りながら正月の祭りの話で盛り上がってた訳だ、不謹慎だが
しめっぽいのも芳賀の野郎は嫌いだと思ってね、
そこに後ろから話を聞いてた伊澤の旦那が、ざくろ丸の所在が知りたいっ
てんで、今朝からの顛末を話してやったのさ。
そしたら今から分家道場に向かうって言うじゃねえか、なんかきな臭い感
じはしてたんよな・・・
で、こっから先はその後、深川の医者から聞いた話だ、
そいつがえらく慌てて走ってるもんだからすれ違いざまにぶつかっちまって
そこまで慌てて走る理由を尋ねたら斯く斯く云々(かくかくしかじか)って、
俺たちはざくろ丸の訃報を確かめに、一旦分家の方に戻る事にしたんだが、
本当にざくろ丸の奴は逝っちまってたぜ・・。
なんか応援の同心の話じゃ伊澤の旦那は安藤とか言う棋士が現場から逃げた
ってんで後を追って飛び出したっきり戻ってなかったんだ。
追って半町ほど行った先で誰かに刺された、っつう話さ。
あまりにも突拍子の無え話だから俺も今、半信半疑って所だぜ。」
「小次郎さん、伊澤さんは死んじゃいねえんだよな?」
「・・・・・分からねえ、本所の同心・・誰だったか・・
名前は忘れちまったが、そいつからぱぱっと聞いただけなんでよう、
・・細かい事は現場に行くっきゃねえ!
ああっ、升平を忘れてたぜ、あいつは走ったせいで横っ腹が痛くて一丁手前
で一休みしてる。
俺はこれから伊澤さんが刺されたっつう深川まで行って情報を集めて来るぜ
皆はここで待っててくれよ、絶対に動かねえでくれよ、絶対にだ!」
そう告げると小次郎は脱兎の如く駆け出して行った。
残された皆が顔を見合わせて何か話をしようとするが言葉が見つからず、黙り
こくったまま時は過ぎる、やがて業を煮やした志津が女子3人を台所に引っ張
って行き、夕餉の支度を始めた。
「お腹が空いてちゃ元気がでないもんね、伊澤さんなら大丈夫さね、あの人の
体は頑丈そうだからさ、ほらほら、寒いんだから元気だして動くんだよ、
さあさあ声出して、声出して。」
只、ポナンザとエルモには他人事ではない、何か大きな陰謀のさ中にいる気分
だった。
作り笑いで胡麻化してはいるが、自責の念は拭いようがない。
そこに二人の雰囲気を察した惣次郎が背中をぽんと叩いて声をかける。
「俺は何があっても二人を信じるし、絶対に守ってやるから安心しな。」
そう言って優しく微笑むと、道場に戻って行った。
「南佐っち・・惣ちん男前やな・・惚れ直したぜ。」
「当たり前でしょ、私たちの旦那様なんですから、うふふ。」
「そりゃそーだ、あはは。」
やっと笑顔が戻った二人を見て深く安堵する志津だった。
二撃めを予感した沙羅は本能的にビーストモードになり、体毛を硬化させた。
カーボンファイバーの毛とケプラー並みの表皮が沙羅を覆う、
瞬間、辻角の研ぎ屋の塀が吹き飛ぶ、弾丸が沙羅の背中に着弾した。
対物ライフルの弾ぐらいなら防げると思った沙羅をあざ笑うかの如く、弾丸が
着弾部位を破壊していく。
「ぎゃん!」『・・これは対アジャスター用の弾丸?!
・・・・・・・抜かりましたわ・・』
行動不能を示すアラームが電脳内に鳴り響く。
『まったく・・うるさいですわね・・世里・・後は任せますわ・・』
「きゃーははは、もう一発、もう一発、」
素早くミカが三撃めを装填しスコープを覗くと、真っ黒で何も見えない、
慌てて外に視界を移すと、大きな鉤爪の足が、バレットもろともミカを吹き
飛ばした。
「させっかよ!クソメスガキ!」
世里の攻撃をまともに食らったミカは12m程の櫓から宙を舞う。
「糞があああああああ!」
追い打ちを掛ける様に世里が、自由落下状態のミカにパイルバンカー状の矢羽
根を打ち込む、腹部と首元にめり込んだ矢羽根はミカの背中まで達した。
『ひ、ひあっ!受け身が取れないって!』
通りの真ん中に激しく転がり、のたうち回りながら通行人に助けを求めるが、
皆、怖気づいて近寄れない。
『カイ様・・・助けて・・ カ、イ、・・さ、ま・・』
ミカはうつぶせになったまま動かなくなった。
ミカの顔に一粒、一粒と雪が舞い落ちていった。
世里は矢羽根の着弾を確認した後、直ぐに沙羅と伊澤の救出に向かった、
路地に入ってすぐの所で撃たれたので、大通りから丸見えになっている。
その辺りの住人や通行人が何事かと集まり始めていた。
人型になって運ぶには目立ちすぎる、滑空しながら脚部にパワーを集中させ、
タッチ&ゴーで二人を攫った。
「やりぃ!沙羅ちゃん!・・・・・・
!・・・・・生きてる?返事してよ!沙羅ちゃん!」
体の7割程が獣化したまま、沙羅は行動不能になっていた。
世里の脳裏に黒々とした暗雲が立ち込める。
伊澤を空中から放り出せば最速で高尾山に向かえるが、高尾山に着いたとて
沙羅の治療が間に合う保証は無い、このままでは二人揃ってお陀仏だ。
世里は高尾山行きを諦め、沙羅が伊澤を治療する予定だったセーフハウスに
身を翻して急降下した。
セーフハウスの屋根が大きく開いて世里を迎え入れた。
二人をそっと床に下ろして、人型に姿を変えコンソールに浮き上がったキー
を素早く操作する。
せり上がってきた2台の寝台に二人を寝かせ、体の状態をスキャナで確認し
た。
沙羅は生体反応が微弱ではあるが、復活の可能性がある。
伊澤の方は完全に心肺停止、最先端の医療技術をもってしても蘇生は不可能
だ。
すぐさま沙羅の治療に取り掛からねばならない、沙羅をビーストモードに切
り替えるためにうつぶせにしようと手を伸ばした時、沙羅が人型の口で世里
に何かを囁いた、囁く毎に口から血が溢れてくる。
「沙羅ちゃん!もう喋っちゃダメだってば、人型を解除しないと死んじゃう
よ!」
沙羅がうつろな目で伊澤を見ている、世里は首を横に振った。
「世里・・私を・・人型にして・・下さい・・な・・」
「沙羅ちゃん!今、人型に戻したら一気に出血して死んじゃうって!」
「私・・どうかしていますわね・・伊澤さまの・・供をしている内に・・
人として・・伊澤様と過ごしてみたい・・なんて・・
ここで、獣化したら、優奈みたいに・・もう人として・・
生きれない気がしますわ・・
だから・・世里・・お願いしますわ、
最期は人として・・死なせて下さいな・・」
「嫌だよ!そんなの間違ってんじゃんよ!人間ごときをかばって死ぬなんて
可笑しいよ!」
沙羅が力を振り絞り、手だけを人型に変えて世里の手を握った。
「・・お願いですわ・・」
世里は泣きながら沙羅のビーストモード強制解除キーをひねった。
世里が頭からゆっくりと人型に戻り、大腿部から血が一気に吹き出す。
「ありがとう、です・わ・・」
「ひ、ひぐっ・・バカだよ・・ほんっとに皆バカだよ・・」
激しい慟哭が部屋中に響く。
ひとしきり泣いた世里は、真っ白になった沙羅を慈しむ様に死体袋に納め、
伊澤の死体を一旦セーフハウスで保管する段取りを打った後、しっかりと袋
を足に固定して高尾山に向けて飛び立った。
深々と降る雪は止む気配を見せず、世里の悲しみの様に降り続くのだった。
続く




