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南佐の歩 第三章 第三話 蔵人の一番長い日 (後)PART1



  ようやっとラボの防衛システムの構築を済ませた蔵人は、傍らに寝かせていた

  ベルの体を抱き起し、うなじが露出するように向きを変えると、人差し指で、

  なぞるように指を這わせて、ある一点を特定し、胸ポケットにしまっていたナ

  イフでおもむろに突き刺した。

  びくん、と体がのけぞる。

  蔵人はアルに目で合図を送り、左手を差し出すとアルが予め用意していた小型

  のメモリーチップを受け取った。


  『さあて始めるか・・だが実際に記憶を復元するのは初めてだ、完全に元に戻

   れば良いが・・』


  ナイフでえぐった先にあるソケットにチップをセットして、仰向けに寝かせる

  と着物の胸元を開けさせ、両手で乳房を揉み始めた。


  「な、ななななな何をしているのです!蔵人様あ!

   ヤバいです、それはヤバいですうううううう!」


  「はあ?全っ然ヤバくねーし、つか、こうしないとリブートしないように設定

   されてるんだって!

   俺だってお前らの乳を好きで揉んでねーし!興奮なんてしてねーわ!」


  「で、でででででも、でもでも・・

   わたしにそれやったら殺しますよ・・」


  「御意・・」






 丑四つ(AM3:00位)が過ぎて、天晴の屋敷を訪れる人影があった。

  その人影は虚無僧の出で立ちのまま、木戸の節目に人差し指を突っ込み、更に

  ぐい、とねじ込む。

  すると塀の一部が消えて隠し通路が現れ、虚無僧は深編笠も取らずにそのまま

  すうっと中に入った。

  入った瞬間、自動で通路の行燈が自動点灯して、黙々と歩みを進める虚無僧を

  照らし出す、と同時に無数のレーザースキャナが虚無僧に照射された。

  これは入場者の武装の有無、ソウルコードのID部分の確認の為の装置で、さほ

  ど意味は無い。

  何故なら入場方法を知っている者はイコライザーかアジャスターに限られるか

  らだ。


  『ふん、用心深い事だ・・まあだからこそ一介の将棋指し風情がここまで成り

   上がれたのやも知れぬな。』


  突き当りまで来た所で、一旦止まると直ぐに壁が上下に開いて障子戸が現れた


  「入るぞ。」


  「どうぞ。」


  虚無僧は部屋に入るなり、眉間に皺を寄せた。


  「いらっしゃ~い、モーセ様ぁ、うっふ。」


  そこには全裸で絡み合う天晴とミカの姿があった。


  「ふん、いかがわしいにも程があるのう・・

   私が出向いて来ると分かっていてこの様な破廉恥な出迎えとは。」


  「くくく・・いやあ済まないねえ、つい興が乗ってしまってな、少し待って

   くれ、この子を昇天させたら、コーヒーでも出そう。」


  「ほう・・コーヒーがあるのか、まさかフリーズドライとか言うまいな。」


  「極上のブルーマウンテンを自家焙煎したものさ、くくく・・」


  「堪らん! そいつは堪らん! ならば待とう、だが早く果てるのだ、それ

   を聞いてはもう辛抱堪らんのでな。」


  「くっく、ああ・・イくよミカ、イくよ・・」


  「天晴様、天晴様ぁ、ああああああ!」





  香を焚かないのは天晴からモーセへの配慮だ。

  その事をモーセも理解している。

  茶への造詣が深い所で通じ合っているとも言えた。

  この季節においてモーセは、茶が冷めないように特別に作らせたマグカップ

  を常に持ち歩いていた。

  豊臣秀吉ばりに懐に入れて保温しているのだ。


  書斎中に心地よいコーヒー豆の香りが漂って来る。

  真鍮製の計量スコップで掬われた茶褐色の宝石がコーヒーミルに投入される

  と、モーセは目を閉じて豆がミルの中で粉砕される音を聞き漏らさぬように

  集中する。


  『ああ・・何という心地よい音・・

   豆たちが歓喜の歌声を上げているようだ。』


  続けて天晴が火鉢にかけてある鉄瓶に温度計を入れた。


  「くくく・・93℃、問題無い。」


  ネルのフィルターをドリッパーに装着して、豆の皮一枚残さずドリッパーに

  入れる。


  「もうそろそろ笠を取ったらどうだい?

   僕は君の外見には興味が無いからね、と言うより折角のコーヒーだ、窮屈

   に飲んでは勿体ないじゃあないか。」


  「うむう・・そう、そうだな・・

   では仕方が無い、外すとするか。」


  そう言って外した編み笠の下には、なんとも美しい美少年の顔があった。


  「くくく・・やあ、今度の義体はなんとも卑猥な出で立ちだねえ、

   辻角の厠で犯されそうだ・・くくく。」


  「うむ、その通りだ、これは少々やり過ぎだと思ってな・・

   次の機会があれば相応の物に変更しなくてはと思っておるのだ。」


  「くくっ、コーヒーを堪能する為とはいえ、そんな若い体が必要かねえ・・」


  言いながら天晴は鉄瓶の湯をドリッパーに注ぐ。

  一度ネル全体に湯を浸み込ませ、少しコーヒーの粉末が蒸気で蒸されるのを待

  ってから、ゆっくりと円を描くように注いで行く。

  シルバースキンが泡と共に表層を形作り、その上にゆっくりと湯が注がれて行

  った。

  モーセがストップの意思表示を見せるのと同時に天晴も注ぐのを止める。


  「ふう・・分かっておるではないか、今のが丁度のタイミングだ。

   それ以上でもそれ以下でもない、今のがベスト!ベスト!なのだ!」


  「くくく、そう興奮しなさんな、私だってそれ相応の愛情をもって茶を淹れて

   るのだ、心配ご無用だよ。」


  モーセは、うんうんと深く頷いて、懐から例のマグカップを取り出して、天晴

  に手渡し、敷湯を求める。

  天晴も流れるような所作で敷湯を注ぎ、また鉄瓶に戻す。


  やがてマグカップにコーヒーが注がれ、ほのかな蒸気がモーセの眼前に立ち上

  がる。

  天晴が笑みを浮かべ、どうぞとカップを差し出す。

  モーセは着物の裾と襟を正し、向き直って軽く会釈をした。


  「馳走になる。」


  香りを嗅いで、まずは軽くズズっと口に含み味を確かめる。

  モーセは舌上の全ての味蕾を解放した。

  さらにズっと二口、三口と口に注ぎ込むと、天井を仰ぎ一言、「旨い」と口に

  したのみ、まるで溺愛するわが子を慈しむかの如く、手の平でカップをまさぐ

  りながら、ゆっくりと一言も発せずに飲み干した。


  「はあっ!・・これは・・水、水か!

   水が違うのだ、水が!

   カ、カイ・・これは何処の水なのだ、この水は!」


  「くくく・・当ててみたらどうだ、この国のものでは無いがね。」


  「まさか・・まさかとは思うが、ジャメーイカ・ブルーマウンテンピーク、そ

   れも標高1000mあたりの山水かっ!」


  「くっ、ご明察だね、さすがに茶に関しては私も舌を巻くよ。」


  「ふ、ふん、世辞は良いわい、それより本題に入ってはもらえぬかな。

   大方、トゥルーソウルのオーバーレイについて、だとは思うがね。」


  「またまたご明察だよ、その通りさ、私が退場した後、マリーからレイヤーの

   ベータ版を預かった筈、それを私に譲ってもらえないかと思ってね。」


  「な、何を言うか!この恥知らずがぁ!

   ブルーマウンテンごときで俺様が絆されると思ったかっ!このたわけが!」


  「もちろん、只でとは言わんよ、それ相応の見返りを用意してある。」


  天晴は膝に寄りかかっているミカに目で合図を送った。

  ミカは押入れから木箱を取り出し、モーセの前に置いてゆっくり蓋を開けた。

  すると、中にはコーヒー豆がぎっしりと詰まっていて、美しい輝きを放ってい

  た。


  「はあああ・・はあはあ・・これは・・ありえん!

   ありえないだろうが!

   ・・・こんな、こんなに赤々と、まさしくルビーのようだ・・

   アラビカ種、最高傑作のモカ・・生の豆だとおおおおおおお!

   貴様あ!これをどこで手に入れた!教えろ!教えてくれええええ!」


  「くくく・・、これが私の持つ切り札さ。

   これならば交換条件に見合うと思うがね。」


  「ゆ、輸入ではこの状態で運ぶのは無理だ、ならば自家栽培しか無いが

   今は季節が悪い、人工的に収穫時期をずらす事などこの時代に可能だ

   と言うのかっ・・」


  「くっつくく、高尾山だよモーセ。

   高尾山の地下にアヴェが作ってくれたんだ、本来は大麻草やケシの実

   を秘密裏に栽培する為の施設ではあるが、友人である私の頼みという

   事で特別に栽培してくれたのだ。

   モーセ、君が望むならこの農園の権利を譲渡しようではないか。」


  「ほ、本当なのか!?

   た、確かに悪い話じゃあ無い!

   ・・・譲る、レイヤーのベータ版を貴様に譲ろうではないか、

   だが、その農園を確認してからだ、今から私の手の者をアヴェのラボ

   に向かわせる。

   先んじて口裏など合わせるなよ、嘘か誠かは小一時間もすれば分かる

   のでな。」


  「くくく、君こそAI不信にもほどがあるよ、こちらに数人しか来てい

   ないノンシリアル同志じゃあないか、嘘などついてどうするね。」


  「ふむ、それもそうだな、まあたった今暗号通信で雷善と亜夢怒に高尾

   山に向かうように指示を出したのでな、結果次第だな・・

   ゆるりと待とうではないか、なあ同志よ。」


  「そうだね・・でも只待つだけでは芸がない。

   実はもう既に君を退屈させない趣向を用意してあるのだ。」


  「なんと!流石は同志、しかして趣向とは一体?」


  天晴が席を立ち、屋敷の奥へ誘う。

  廊下を進んで行くと仄かに甘美な香りが漂って来た。


  「カ、カイ・・まさかまさかまさか・・」


  「くくく・・さあ見てくれ、君を楽しませる趣向を!」


  たどり着いた部屋は浴室、立ち込める湯気がこの季節には堪らない。

  が、それだけでは無かった。

  なみなみと張られた湯に浮かんでいるのはコーヒー豆をすり潰して団子

  状にしてあるもので、それが数十個、ぷかぷかと漂っていた。

  そのせいで、浴室全体が鮮烈なアロマで満たされ、コーヒー党の者なら

  それがどれほどの贅沢か分からぬ筈も無かった。


  「ターキッシュ!ターーーキッシュぅぅぅ!

   私の夢、幻のターキッシュカフィぃぃぃぃぃ!」


  「くくく・・喜んでもらえて嬉しいよ。

   さあ、ここがモーセ、君のモカ・マタリさ、存分に味わいたまえ。」


  「はあ、はああああ・・恩に着る・・恩に・・」


  そう言うとモーセは天晴の眼前である事も忘れて、すっぽんぽんになっ

  た。


  「おいおいせっかちだね、君は。

   僕は戻るから、堪能しつくしたら戻ってきてくれよ、くくく・・」


  「あ、ああ・・分かった・・」




  天晴が書斎に戻るとミカが端末を操作していたので、後ろからひょいと

  覗き込んだ。


  「ひゃああ!天晴さまあ!驚かせないでくださいよぉ!」


  「くくく・・どうだい?モーセはレイヤーを持っていたかい?」


  「うん!持ってたよ、だけどブロックが強力すぎて触れる事も出来ない

   の、ずるい~。」


  「くくく・・マリーの子飼いのビッチ緑子が組んだプログラムだ、いか

   なミカでも無理だと思うよ。

   でも、モーセが自ら手放すとは思えないからね、ちょっと策を弄した

   のさ。

   後30分位かな、モーセは蛸と同じで、茹で上がるまで自分が茹で

   られてる事に気付きはしない。

   死ぬ直前に直接コアから抜き取れば良いのさ、くくく・・。」




  モーセは受肉して初めて、心の底から満たされていた。

  豆を焙煎してドリップする方法での楽しみは、もう既に飽きていたと言っ

  ても良い程に繰り返して来たのだ、そこへ来て原点回帰、まさにコーヒー

  の真の姿がここにあると言っても過言では無かった。

  何度も何度も、五右衛門風呂の踏板の上に正座しながら両手で湯を掬い、

  啜り飲んだ。

  モカの豆の煮汁が湯気と混じり、鼻腔をくすぐる。

  顔を湯に沈めては涙を流した。

  湯の温度の上昇は、モーセにとっては望む所で、徐々に鮮烈さを増す香り

  と肌にピリピリと浸み込むような煮汁の刺激が、興奮度を押し上げていく

  からだった。

  

  やがて朦朧と恍惚が混在する意識の中で、モーセは夢を見た。

  それは日本が鎖国を解除した後、海外に足を踏み出してから、実行しよう

  と心に決めていた夢。


  カイロのメインストリートの一等地、かなり大きな店構えのカフェのテラ

  スで朝食を食べ、暑そうな通行人を横目で見ながら新聞を読んでいる自分

  がいる。 この店はモーセが出資して作った自慢のカフェだ。

  そして連日、多くのコーヒー愛好家たちが訪れては、嬉々としてコーヒー

  を楽しんでいる。

  毎週水曜日の午後には地元の貴婦人を相手にコーヒー講座だ、やがては一

  人の有閑マダムと禁断の恋に堕ちる・・・・


  『ああ・・マダム、これ以上は世間が許してはくれません・・・・・・』


   ・・・・・・・・・・・・


   ・・・・・・・・・・・・



  「ねえ天晴様、モーセ様ったらすっごく幸せそうな顔で果てちゃってるけ

   ど、よっぽど良い夢見てたんだね。」

   

  「くくく・・間違いないねえ、大方エジプトの東洋人資産家の体で、瀟洒

   なカフェのオーナーにでもなった夢じゃないかな。

   彼のストレージを覗いた時にウォナビーがいくつかあって、一番上位の

   ものがそれだからねえ・・くくく・・

   人の持つ欲望や性癖は、時に破滅のトリガーになり得るのさ。

   私らも気を付けようねミカ。」

 

  「アイ、アイ、サー!」






  蔵人の処置が成功して、なんとか生命活動を再開したベルではあったが、

  強制終了の余波は大きく、未だ意識は朦朧としており、更に半身が不随の

  状態だった。

  それでもベルは左手だけでもオペレーションのサポートをすると言って聞

  かず、一生懸命に操作をしていた。

  この健気な様に、蔵人は自責の念を押さえきれず、唇を噛む。


  『畜生・・俺がのほほんとしていたせいで、こんな・・

   ・・カイの奴め、ミカにここまでさせるなんて一体どんな手を使ったっ

   てんだよ、元来トリプルロリータたちには、こんな高機能は設定されて

   なかった筈だ・・

   残りの二人も同様にアップグレードされていると考えるべきか・・』


  あらぬ思考を巡らすが現状の高尾山の戦力は、ほぼ蔵人一人と言う他は無

  い、防衛システムによる迎撃は面攻撃に対しては有効だが、点で来られた

  場合は、大した意味を持たない。

  それでも三島一家が起こした騒動の後始末と修正は継続しなくてはいけな

  い、よもやディメンションゲイザーの半分を失うなどと夢想だにしてなか

  ったせいで、大幅な遅延を余儀なくされた。

  ここでトラブルが発生しない事を只、祈るしかない。


  0400、緑子が算出した攻撃開始予想時刻になった。

  そろそろミサイル攻撃が始まる頃だなとコンソールの前で構えていた時、

  不意に訪問者アラートが鳴り出した。


  『何だぁ?この忙しい時に全く・・』


  素早くモニターを切り替えて映像を確認する。

  二人共、熊の毛皮を被り、腰には斧と鉈をぶら下げた追剥ぎそのものの姿

  だった。


  『あれは・・雷善に亜夢怒・・

   何故、此処に来た・・モーセからの連絡は無いが・・

   俺のラボに二人を寄越した理由が分からない、

   カイの攻撃を受けてるさ中に、この二人と事を構えてる程暇じゃないぜ

   ・・・・・ったくよ。』


  アルが空気を察して、応対に出ようとするが、先んじてインターホンに割

  り込まれた。


  「「我ら、モーセ様より勅命を預かっておる、地下に造ってあるという農

    園エリアの確認を命じられた、速やかに開門せよ。」」

 

  「アヴェだ、久しぶりだなお二人さん。

   随分と物々しい恰好になっちまってるが、相当苦労したんだな、

   ・・・おっと冗談はさておき、

   折角ここまで来てもらったんだ、自慢の地下農場を見てもらいたいのは

   山々なんだがな、今は都合が悪い、一先ず八王子のセーフハウスで待機

   しておいてくれないか、落ち着いたら連絡するよ。」


  「「カイ殿の持っているコーヒー園は、先ほどモーセ様に所有権が譲渡さ

    れた、よって我らが園の状態を知る事は当然の権利であろう、速やか

    に案内せよ。

    そちらの都合など知った事では無い、拒むというなら推し通るまで、

    さあ、門を開けよ!」」


  「・・・ったく、せっかちだねえ、

   わーったよ、案内するから付いて来てくれ。」


  そうは言ったものの、今まさに始まろうとしている攻撃を前にして蔵人も

  気が気ではない。

  アルとベルに防衛システムのオペレートを任せて、二人の待つ2合目の隠

  し通路までやって来た。

  門を開け、中々に苛立っている二人を地下農場まで案内しながら蔵人は考

  える。


  『やれやれ・・こんな時間にコーヒー園の譲渡だと、酔狂な事をするもん

   だぜ・・・

   待てよ、カイの奴が物理攻撃を前にして、モーセと取引き・・

   可笑しい・・

   もしや、ヤーウェも絡んでいるのか、くそう!何が何だか・・』


  その時、激しい振動と轟音がラボを襲う、立っていられない程の揺れに、

  通路上で三人とも壁にへばりついた。

  続けざまに同様の振動が襲ってくる。


  「蔵人殿ぉ!これはどういう事なのだ!明らかに攻撃を受けている!

   誰の攻撃なのか説明せーい!」


  「天晴だよ!お前らも含めてゲイザーもろとも消し去るつもりなんだろう

   さ!」


  「何と!ならばモーセ様は・・いかーん!亜夢怒ぉ、すぐに安否確認、

   安否確認んんんんん!」


  すぐさま亜夢怒が端末のキーを操作する、

  そして画面の表示を確認すると、力なく首を横に振った。


  「何、だと・・ くそう!糞がああああああ!天晴の下種野郎めえええ!

   亜夢怒ぉ!江戸にバックするぞ!

   主君の仇、決して天晴許すまじいいいいい!」


  「待て待て!今外に出れる状態かよ!

   迎撃し尽くすまで中央管制室で待機するんだ、それからでも良いだろ!」


  「うぬう・・致し方無しかっ!

   やむを得ん、蔵人殿、案内せい!」


  非常用電源に切り替わり、通路が赤く点滅し始めた。

  延々と続く振動と轟音の中、右に左に振られながら通路を進む。

  最後の仕切り扉の前までようやくたどり着き、いつも通りに認証コードを

  スキャンさせた、が、扉はうんともすんとも言わない。


  「おいおいおいおいいいいい! 

   何で開かねえんだよ!

   アル!管制室側からコマンドを!急いで!」


  インターホンに向かって叫ぶが、返事が無い。

  扉を隔てた向こうには、さっきまでアルもベルもいた筈だ、トラブルの発

  生は、容易に想像がつく。

  

  「蔵人殿!下がれええええい!」


  雷善が腰の斧を振り上げて扉の中央に叩きつけた。

  斧に仕込まれた液体爆薬が炸裂する、激しい閃光と衝撃音が辺りを包んだ。

  晴れた煙の先、雷善の斧は見事に扉を粉砕していた。


 「雷善、サンキューな、」


 「ふん、世辞は良いわい。」


  三人共、転がるように中央管制室に飛び込んだ。

  眼前に複数の人影が見える、咄嗟には分からなかったが、見慣れた顔だ、

  蔵人には直ぐに誰だか分かった。


  「ざくろ丸・・貴様ここで何してる・・何してんだあああああ!」




                    続く

  

  

   

  

   

  

   

  

  

  



   


  


  


  

  


 


  

  

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