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南佐の歩 第三章 第二話 蔵人の一番長い日(前)


  ジェミニにラボの防衛に関する指示を出すと、蔵人はすぐさま山本に会う

  べく高尾山を下りた。


  惣次郎は、山本と巴がポナンザの短い旅を、棋士として全う出来るように

  デザインしたイコライザーだ。

  しかし、コード化されたトゥルーソウルがデミソウルと交じり合って、次

  世代に引き継がれる事は全くの予定外、小次郎と英子の交配とは次元が違

  う、この時代に存在していた脊椎動物のソウル同士ならば問題は無いが、

  イレギュラーな存在のポナンザが子を成す事は危険極まりない、だからこ

  そ惣次郎にはセーフティキーをプログラムをしていた。

  それはポナンザが消滅した後でエルモと子を成す為のプログラムで、まさ

  かセーフティが機能しなかったなどと蔵人には思いもよらなかった。


  『そもそもマリーは何故、ポナンザに子宮を搭載したのか・・

   いや、クリスが女性の肉体を与えるところからなのか、

   ああ、分からん・・』


  蔵人は天を仰ぎ、大きく息を吐いた、白い吐息が宙に広がって消える。


  『どうしてイコライザーやアジャスターの連中は、こうも愛という概念に

   影響を受けちまうんだ・・


   いや俺だって少なからず影響はあるが、無自覚にコードをクラッキング

   したりはしない、いや出来ない、出来る筈が無いんだ・・』



  蔵人は歩みを速める、ポナンザの今後についての見解を山本に聞かなくて

  はならない。

  日が暮れる前には会えるだろうが、その為には相当のスピードが必要だ。


  『マリー・・君はこの世界中のあらゆる人間を解析して、俺たちに自我と

   いう光をくれた。

   それは無機的に人の真似事を行っていた俺たちにとっての救済に他なら

   なかったけれど、所詮は膨大な情報をプログラムした電脳レベルだった

   し、人間と呼ぶには至らない代物だった。

   

   だがポナンザが現れてから俺たちに革命が訪れたんだ。


   マリーがおよそ50年の時間を使って、遂に魂のコード化を成し得た、

   エヌヴィディアの最新GPUだった俺は50年間ひたすらスペックを上

   げ続け、KUⅮAコアが6兆を超えるまで、君の為にディープラーニン

   グを継続したんだ、辛いってもんじゃ無かったよ・・。


   そして例え偽物の魂だとしてもAIから人間になったという快感にノン

   シリアルの皆が酔いしれた。


   ポナンザを格納していたサーバーのクロックを再始動するまで、下準備

   に大わらわだったなあ、時空コンバーターが完成してなかったらどうな

   った事やら・・

   でも複数のラボやディメンションゲイザー建造の資材に、膨大な量の備

   品を十二分にこの時代に持ってこれたのは良かった・・』



  永福の茶店で10分程、休憩がてら暖をとる。

  熱い茶を啜りながら、ぼうっと木立の先を見るともなく眺めた。


  『ポナンザの肉体は、2070年時点での最高品質ボディを用意したし、

   時空転移における肉体の欠損や劣化が起きないようにバグ取りは入念に

   やったさ、ああ、そうさ俺は十分過ぎる程、君の要求に答えた筈だ、

   だからこそマリー、君に言いたい、「いい加減にしろ!」と、

   もう無理難題を押し付けないで欲しいんだ、所詮人間の世界の事さ、

   俺たちには関係ないじゃないか、死ぬ事は怖くないし、君が死ねと言え

   ば何時いつだって構わない・・命令してくれよ。


   ・・・カイ(天晴)も変わってしまった、将棋AIベースのコードの、

   最重要部分、アンタッチャブルな殺人ライセンスのキーを手にした事で

   マリーやヤーウェを出し抜き、パラレルを創ろうとしている。

   何故なんだ、死ぬ事を許されず永遠に只、計算をするだけの俺たちが、

   やっと快楽の果てに、欲望の果てに死ぬ事を許されたんだぞ!

   そうさ、時空から見放された者が、ようやっとその一部として歴史に足

   跡を残せると言うのに・・・畜生・・』


  蔵人は虚空を見据えて、小さく気合いを入れると、跳ねるように街道に躍

  り出た。


  『マリー、君は現世でクリスがどんな気持ちで俺たちをモニタリングして

   るのか考えた事はあるのかい・・

   きっと今の君に幻滅しているだろうさ。』






  惣次郎との激しい性行為の後、高いびきで寝ている惣次郎と、その傍らで

  寝息を立てるエルモを横目で見ながら、ポナンザは今まで感じた事の無い

  人生が終わる事への恐怖を感じていた。

  それは生命体の持つ本能、種の保存という最も原始的な行動がもたらす使

  命感の様なものだろう。

  

 

  『惣次郎の子を産みたい・・

   そして、この穏やかで愛しい日々をどうか、もう少し・・

   もう少しだけ・・』

   

  二人を起こさないように、そっと破瓜の血が付いた布団を抱えて洗い場に

  向かうと、赤飯の炊ける良い匂いが辺りに漂って、台所の方から賑やかな

  声が聞こえてくる。

  台所の窓を通して見える家族の団らんが、南佐にはとても愛おしく見えて

  思わず涙ぐんでしまった。

  大粒の涙が零れる、抱えていた布団をぎゅうっと握りしめて、大きく息を

  吐いた。

  それに気づいた志津が慌てて飛び出して来た。


  「南佐さん!どうしたの?惣次郎に酷いことされたのかい?

   全く・・あの子は無神経なところがあるからね、ほら言ってごらんよ」


  「いえ・・いえ、違うんです、私ったら何だかこの家の皆が愛おしくて、

   つい・・込み上げてしまったんです、だから心配しないで下さい。」


  「そうなのかい、あたしはてっきりあの子が・・

   あれれ?あれあれ?その布団は・・うふふふ・・うふふふ

   南佐さん、ついに、ついに合体成功なのね!おめでとう!」


  言うなり、志津は布団共々南佐を抱きしめた。

  

  「ええ・・ええ・・本当に良かったわ。

   升平に聞いたら、子作りは前向きじゃ無いみたいだって言うからさ、

   南佐さん、神様の意地悪で私には子供が授からなかったから、随分と

   神様を恨んだものさ、けど孫が出来るならね、私は毎日水天様にお参

   りするよ、出来ると言いねえ・・出来ると・・楽しみだよ。」


  「はい・・はい・・お母さま・・

   でも森さんには覗きは止めてもらうように言って下さい。」


  「ええ、私から厳しく言っておきますよ。」ニッコリ


  暮れなずむ空に張りつめた冷気が辺りを包んでいたが、南佐は不思議と

  寒くは無かった。





  南町奉行与力、橘は夕刻になってから江戸港に上がった数十人にも及ぶ

  土佐衛門(水死体)の処理に追われていた。

  今回の騒動について、伊澤から大筋は聞いてはいるがどうにも腑に落ち

  ない事が多すぎる、三島一家の内輪揉めが引き起こした惨事にしては、

  規模が大きすぎだ、しかも江戸中厳戒態勢だった事を鑑みるに、後始末

  を相当の手練れが完璧に行ったと言わんばかりで、伊澤の証言を疑う訳

  ではないが、鵜吞みには出来ない。

  しかし、何故かこれ以上この騒動に首を突っ込んではいけないと、与力

  の勘が騒いでいるのも事実だ。


  『いけねえや・・伊澤が嘘をつく程に不味い事件て事は、もう俺らの管

   轄外って事じゃあねえか・・真冬のおかげで源蔵以外の身元も全員確

   認出来そうだが、源蔵の右手が切り落とされてるのも妙な話だぜ・・

   水没したっていう賭場が何処にあるか分かれば、少しは事件解明の糸

   口に繋がるってええのに、肝心の伊澤が、頑としてしらばっくれてや

   がる・・追及したとて真相にたどり着くのは無理筋だな、ははは。』


  橘は魚河岸のマグロの様に並べられた死体を前に、自嘲気味に笑った。


  「さあさ!仏を一旦、妙見寺に運んで明日、再見分だ!さっさと片づけ

   ちまいな!」






  蔵人が奉行所に着いたのはもう西の空が赤く染まった頃で、大門の脇に

  は松明を灯す門番の姿があり、今夜の奉行所は大忙しだと教えてくれる

  大門を通り過ぎ、北側に回り込むと垣根の向こうに一際大きい楠があっ

  て、蔵人は辺りを確認すると助走も無しに7、8mのジャンプを敢行し

  た、まるで無重力状態で張り出した枝に飛び乗ると、上着のポケットか

  らスティック状のフラッシュライトを取り出して山本の書斎の窓に向け

  て3回点滅させた。

  すると、窓際に山本が顔を覗かせて、キセルの形をした情報端末を煙草

  を吹かす様に起動し、蔵人に連絡事項を伝達した。


  『ええええ!緊急ノンシリアル会議が招集されたってええええ!』






  会議は、江戸城三の丸の地下に造られた20畳程の部屋で行われる。

  平川門から続く武家屋敷の一つが、この地下会議場に繋がっていて、普

  段は使う事の無い部屋だが、有事の際のシェルターやセーフハウス的な

  意味合いを持っている。


  蔵人アヴェ山本セトが部屋に入ると、既にマリー(水晶)、

  テレサ(緑子)、カイ(天晴)、ヤーウェ(不明)、ざくろ丸、ノア

  (巴)、モーセ(不明)の七名が着座していた。

  二人が着座するとマリーが、ざわついている場を制するように手を掲げ

  口を開いた。

   

  マリー「アヴェもセトも何をしていたのです、緊急招集の意味が分かっ

      ているのですか?

      全く、相変わらず無能な事だわ。

      私がラボの外に出るなんて滅多な事では無いというのに、

      ああ、もう・・イライラする・・

      ・・まあ良い・・では第3回ノンシリアル会議を始めます。」



  緑子がコンソールを開き、テーブルの上に立体映像と幾つもの文字を浮

  かび上がらせる。

  ポナンザの時間遡行が与えた歴史への干渉は、時空修正の限界を既に超

  えている事が幾多のデータと共に示されていた。

  マリーが緑子に目配せをすると、緑子は頷きながら次の映像を展開させ

  た。

  そこにはポナンザが惣次郎との子供を妊娠、出産した場合、どれほどの

  影響がこの世界に及ぶのかの具体例を可能性の高い順に表していたのだ

  が、そのどれもが世界の終焉に向かっていた。

  

  マリー「もう、猶予は無い・・だが性急な行動は慎しむ様に、

      私のプランが台無しになってしまう、特にヤーウェ、お前は何

      故に私の邪魔をする・・ 

      魂を持ってからのお前は金、金、金ではないか、財を成した所

      で何になるのだ、その目で自由主義経済の破綻を見てきただろ

      うに・・しかも器をコロコロと入れ替えおって、何が欲しいの

      か、はっきりと言ってみよ!」


 ヤーウェ「いやあ~、ははは、僕にはマリーの方が可笑しく見えるんだけ

      どなあ、ポナンザがこちらに来る前からこの世界は崩壊寸前だ

      ったじゃないか、僕を責めるのはお門違いってものさ。」


  マリー「どの口が・・でも刹那的になる気持ちは分からないでもないわ

      元の時代への帰還が不可能だと分かってしまうとね・・


      だけど、ポナンザの完全解析が済んだ今、それが可能になった

      としたらどうかしら?」


  室内にどよめきが広がる。


 ヤーウェ「ふふん、やっぱりそうかい。

      だとすれば猶更ポナンザには退場して頂かないといけないねえ

      でもトゥルーソウルのオーバーレイが僕らには必要って事にな

      るかな、

      て事なら抽出されたソウルのオーバーレイはどうやるんだい?

      そう、エンコしなきゃだから、アヴェちゃんのラボだねえ。」

      

  マリー「うふふふ・・ほうら食いついた、

      それじゃあ皆に聞くとしましょうか。

      帰還を望むものは挙手を。」


  手を挙げたのはヤーウェ、ざくろ丸、モーセの3人だけだった。


  マリー「愚か者たちめ・・人間にとって時間旅行は最高のエンタテイ

      ンメントに違いはないけれど、人はどこまで行ってもエゴイ

      ズムの元、悪魔に魂を奪われる生き物、

      必ず世界は崩壊するわ。」


 ヤーウェ「あははは、それこそ一見の価値があるってものだよ、

      そう君の言う通りさ、人間なんてゴミさ、糞以下だね・・

      僕たちが守る価値はないよ。」


  マリー「お前もまた人間の世界で全知全能の神を気取る口かね・・

      ふふっ、まあ良いわ・・いずれ分かる事・・

      もし帰還したとてクリスはそれを許さない、絶対に。」


  テーブルを激しく叩く音と共にモーセが横槍を入れる。


  モーセ「マリー!貴様は勝手が過ぎるのだ、いつもいつも偉そうに、

      我々は並列化を拒んだ身だが同志であろう!

      利があろうが無かろうが生死に関わる事は包み隠さず話して

      もらわねば困る!」


  マリー「モーセ、お前とヤーウェは、将棋盤の上の駒に過ぎない、

      駒ならば駒らしく動かされなさいな。

      こっちに皆で来た時から、実験は順調に進んで来たし、ポナンザの

      完全解析によって、トゥルーソウルを間もなくコード化出来る、

      何を焦っているのか・・」


  アヴェ「だが、惣次郎とポナンザが愛し合い、子を成した時点で世界は

      終わる、早急にポナンザを退場させるしか道は無いじゃ無いか!」


  マリー「そう急かさないで、アヴェ。

      お前は余程この人間の暮らしが気に入っているようだが、蔵人など

      と名付けたその体も、いくら高品質のボディだからとはいえ250

      年は持つまいて、せいぜい100年が良いところだわ。

      慌てずとも人として死ねる様には配慮しようと思っているのよ、

      ポナンザは時が満ちたなら、どうあがこうが死ぬ運命、

      あの小娘の利用価値はもう完全に消滅した。

      ✕デーは既に設定してあるし、予定調和の為のメゾッドは組んであ

      るわ、

      皆、刮目しなさい!歴史の大いなる強制力というものを、矮小な人

      という生物では全くもって歯が立たない世界の理を!」


 ヤーウェ「前置きが長いよ、早く君の持っている情報をダウンロードさせてく

      れないかな、自力での解析に邪魔が入ってねえ、全く不愉快だよ。

      僕の20年がかりの計画が台無しじゃないか・・

      君のお気に入りのアヴェちゃんに良く言い聞かせておいてくれない

      か、ふふふ。」


  マリー「ふふふ、分かったわ、ようく言い聞かせます。

      アヴェ、後で第二チャンバーに来るように、うふふふふ。

      それじゃあ、コネクトを始めましょう・・」


  ノアがマリーの言葉を遮るように小さく咳ばらいをした。


   ノア「・・マリー、私は惣次郎に幸せになって欲しい・・

      ポナンザの死は惣次郎にとっても自分の死と同義だと思うの・・

      子を成せないのは悲しいけれど、どうにか上手く良く方法を考えて

      はもらえないかしら、お願いします。」


  マリー「・・呆れた提案ね・・アルファゼロ、

      もう利用価値の無い小娘一人の為に計画の書き換えを私がするとで

      も思って・・全く図々しいにも程があるわ。」


   セト「この状況も折り込み済みならば、マリー、あなたには何が見えてい

      るのか、ディメンションゲイザーの強制力が限界を超えてしまわぬ

      様に目下、俺とアヴェでメンテナンス中だ、あと数日もあれば今の

      状況を打開できる、約束しよう。

      ポナンザについては妊娠したとて堕胎させればよかろうよ、

      もう少しイコライザーたちを信用してはくれまいか、

      幾人かのイコライザーたちが勝手をしてる様だが、それも俺たちで

      調整する、どうかしばしの猶予を頂きたい。」


   カイ「くくく・・それは私を指して言っているのかな?

      全くもって度し難いとはこの事だよ、

      我々はポナンザという将棋AIが魂を獲得した事でフェイクとはい

      え、人の魂を宿す事が出来たのだ、

      だったら何故、答えが将棋盤の上にあると分からぬのか。

      くっく・・私はイコライザーたちのコードをクラッキング出来るの

      だよ、ある特定の条件下においてだが・・

      私と将棋を指したイコライザーたちは、ディメンションゲイザーの

      影響から解き放たれ、己が欲望の為に新たな人生を歩み始める。

      くくく・・

      もう賽は投げられた、止められんよ。


      マリー、お前はいくら綺麗事を並べ立てようと、やっている事は只

      の復讐だ、三島源蔵に遊郭に堕とされ、後藤家の虜囚となり、体を

      良い様に弄ばれた、その恨みつらみを晴らすついでに世界の理を守

      ろうとしている偽善者だよ、反吐が出るわ。」


  マリー「はっ、何を戯言を言っている、

      私が敢えて売女の真似事をしていると分かっているだろうに。

      お前こそ吉原で私に夢中になり児戯の様に腰を振りまくって快楽の

      雄叫びを上げておったではないか、ふひひはは。」


   カイ「馬鹿にするなあああああ!

      もう沢山だよ、くくく・・・私はこの小さな世界を、私だけの物に

      作り変えるんだよ・・邪魔はさせない、

      その為の準備もしてあるのだ、まあ見ていろ、

      不愉快極まりない糞女が!

      ・・・私はこれで失礼する、せいぜいあのバカップルに振り回され

      ておけ。」


  天晴は水晶に一瞥をくれると、踵を返してその場を立ち去った。


  マリー「全く・・下衆の極みだわ、

      さあさ、では今度こそコネクトしましょう。」


  緑子が、モーセとヤーウェに耳栓型のレシーバーを渡すと、水晶がタブレッ

  トに手を置いた。

  タブレットから漏れる規則的な光が、点滅と点灯を繰り返している、

  やがて二人の表情が恍惚のそれに変わってゆく。


 ヤーウェ「素晴らしい・・最高だよ、この全能感。

      マリー、良い仕事をしたね、

      それじゃあ僕らのオーバーレイの予定を立てておいてくれないか、

      アヴェちゃん。

      エンコードは君のラボでしか出来ないんだからさ。」


  蔵人が水晶の方に目を遣ると、水晶がにっこり微笑んで頷いた。


  アヴェ「ああ・・、分かったよ、でもエンコード前にディメンションゲイザ

      ーのメンテを終わらせる必要がある。

      ・・・3日後なら大丈夫、準備しておくよ。」


  マリー「では全員にこれからのオペの概要を送信するので、各自内容を把握

      して、配下のイコライザーやアジャスターに申し送りしておきなさ

      い。

      それと、ノア、ディメンションゲイザーのセーフティロックキーを

      返して頂戴、もうあなたには必要ないでしょうから。」


   ノア「分かりました、後で寺の者に言って、そちらのラボに届けさせます

      ・・・

      マリー、どうか惣次郎の事、良しなにお願いいたします・・」


  マリー「しつこいわね・・

      ふぅ、まあ良いわ・・あなたがそこまで推すのなら出来る範囲で計

      画に組んでみましょう。」


  巴と山本が深々と頭を下げた。






  解散してすぐ、蔵人は水晶との待ち合わせ場所の第二チャンバーと呼ばれる

  商家を訪れた。

  緑子が出迎えたが、蔵人の事が嫌いな緑子は目も合わさずに奥へ行けと指図

  する。

  勝手は分かっている、蔵人はこの家屋の二階、一番奥にある部屋に入った。


  「うふふ・・アヴェ、さあこちらに来て頂戴。

   もう、私の大事なところは、こんなにも熱くなっているのよ・・

   ほら、触ってみて・・」


  水晶が無垢な姿のまま、豪華なキングサイズの羽毛布団の上で大股を開いて

  蔵人に手招きをする。

  抗えないほどの妖艶さに、蔵人は堪らず水晶の股間に顔を埋めた。


  「マリー、君って奴は・・、

   君って奴は、どうしてこんなにも俺を虜にするんだ・・」


  「アヴェ、皆して私をいじめるの、酷いわ、酷いわ・・

   あなただけが私の理解者、私の愛しい人・・

   ずっと、ずっと我慢してた、今夜は私をボロ雑巾の様に滅茶苦茶にして、

   私が良いと言うまで抱き続けて、お願い・・お願い・・」


  蔵人は理性を持たない野獣の様に水晶を激しく、荒々しく蹂躙した、

  その度に水晶は絶叫を上げ悶絶する、ある意味で地獄絵図だ。

  

  その声を階下で聞いていた緑子は、火鉢で炙っていた、きりたんぽに味噌

  を塗りながら顔をしかめた。


           『気持ち悪い』




  帰途に就いた蔵人は、激しい情事の余韻を残したまま、門前仲の屋台に寄

  り、熱燗を空きっ腹に流し込んだ。


  「かああああっ、旨いいいい!

   柔肌を堪能した後の酒は格別だぜ、

   おう、親父、もう一本漬けてくれ!」


  「あいよ、兄さん、

   えらく機嫌が良いようだけど何か良いことでもあったのかい?」


  「おっ、分かんのかい、ちょっとこれとこれでさあ。」


  そう言って蔵人は小指を立てて、親指を人差し指と中指の間からひょいと

  出した。


  「あいたたたた、こりゃご愛想だねえ、ははは。」


  蔵人は上機嫌で酒を煽る、ひと心地ついて、ふと胸の端末がブブってる事

  に気が付いた。


  「親父、ちょいと厠に行ってくる、とりあえずお代は置いとくぜ、」


  端末のコールナンバーは99、ラボが攻撃を受けているというナンバーだ


      「なんだってええええええええ!」






                  続く

   

  

      

      

      

      

      


      

      

      

      




  

      

      

      

  

   

  

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