南佐の歩 第二章 第五話 魂問答
南佐と惣次郎が帰宅したのは、戌の二つ(21時半過ぎ)程になってからで、
二人だけの帰宅が、優奈が戻っては来ないという事を無言の内に語っていた。
皆が心を痛めてはいたが、志津の落胆ぶりは、傍目から見ても心苦しくなる程
で、優奈の為に縫った寝間着を握りしめては嗚咽を漏らして、やり場のなさが
伺い知れた。
小次郎は四谷の非道に憤慨するも、優奈が惣次郎と南佐を救うために奮闘した
事が余程嬉しかった様で、何度も頷きながら、あいつは凄い、あいつは凄い、
を繰り返し、兵衛や森と一緒に酒を煽るのだった。
明けて、南佐は植込みの水遣りに出て直ぐ、蔵人に連絡を取った。
「おはようございます、蔵人さん・・昨日は本当に有難うございました・・
優奈ちゃんがいなかったら、惣次郎も私も、生きてはいないでしょう、
それで、優奈ちゃんは・・、やっぱり・・」
「ああ・・だけど昨日も言ったが、君らの安全を確保するために派遣したんだ
あの状況下では、優奈がとっくに限界を超えていても、戦わせるしかなかっ
たのさ・・、人間としての優奈は死んだ、でもね、良いニュースもあるよ、
不思議な事に、再起動した後、猿としての肉体に優奈のソウルコードが転写
されていたんだ、驚いたよ、ありえない事なんだ、ガワは猿で、ミは優奈さ
ははは、あっ、こら・・おい優奈やめろ、っててて」
モニターに映る、蔵人の背中に猿が飛び乗って、手を振った。
南佐の目から涙が零れる、『良かった・・ 本当に良かった・・』
南佐はエルモにこの事を告げると、飛び上がって喜び、南佐に抱きつくが、
皆の手前、しおらしく振る舞わなければならず、見てて少し可笑しかった。
翌日の昼前になって、伊澤が一昨日の日本橋での騒動の聞き取りと、対応が遅
れた事についての謝罪に訪れた。
「全くもって手前らときたら、何処でも彼処でも騒動を起こしやがるんで、俺
らも気が置けねえよ、でもまあ、優奈ちゃんだったか・・残念な事だったな
番所の連中も丁度、晩飯時で出払ってたもんでよ、優奈ちゃんのその後の事
は今、調べてはいるが、どうにも見聞きした者がいなくて、さっぱりだぜ、
何か分かり次第、また報告に来るんでな。
・・・
命泉の件といい、昨日の件といい、奉行所の面子が丸つぶれさ、
本当に済まない事をした、俺が皆に代わって謝罪させてもらうよ、
誠に申し訳ない。
・・・
それで大したものは持って来れなかったが、橘様が今流行の菓子でも持って
行けというので、今川焼でもどうかと持参してきた、ささ、これでも食べて
ゲン直ししてくれよ、ははは。」
何とも歯切れが悪い。
伊澤にしては珍しく殊勝な事だと、皆して顔を見合わせ、気持ち悪がったが、
伊澤の気持ちを汲んで、その場は和やかに今川焼を囲んでのお茶会となった。
今後の天城の棋士たちが何らかの危害を加えられぬ様、奉行所でも専任の同心
を亀戸に常駐させる事や、後藤家の棋士や小橋家の棋士にも釘を刺しておく事
などが山本からのお達しで決まったのだと、茶を啜りながら伊澤が伝えた。
加えて天城の棋士の対局の際は同行させてくれとも言って、そそくさと帰って
行った。
秋の空は変わりやすい。 この日も朝から晴れていたのに昼過ぎから、風が強
く吹き始め、夕方には嵐の様になってしまった。
台風はこの時代の家屋にとっては一大事で、急遽、天城総出で対応に追われる
こんな時に頼れるのは、やはり兵衛で、毎度の如く陣頭指揮を執り、てきぱき
と支持を出しては補強箇所の確認を怠らない。
惣次郎は、流石親父殿だと褒め、志津も惚れ直したと頬を赤らめる。
災い転じて福となす兵衛だった。
夜半過ぎにいよいよ台風本番と相成った。 何とか事なきを得ようと、今夜は
全員茶室に避難している。
ごうごうと音が響く、何かが飛んで来て、茶室の屋根や壁に当たる、その度に
最近詰めている、康太より年が2つ下の太一が怯えて震えていた。
小次郎が大丈夫、俺たちが付いてるとは言ったものの、矢張り天災に勝てる訳
が無いのは子供にも分かる、しまいには泣き出してしまった。
小次郎が気を取り直して話を振る。
「しっかしよう、やっぱ父ちゃんには敵わねえなあ、台風なんざお手の物って
感じでさ、頼りになるぜ、ったくよ。」
「ふふふ、言うじゃないか、小次の郎さんよ、私にかかれば朝飯前だよ・・
くくく・・」
この兵衛の後藤天晴の物真似に、皆大爆笑した。
惣次郎も口を開く。
「親父殿にかかれば、こんな嵐どうって事なさそうだぜ、まあ最近は納屋にも
ガタが来てたり、雨戸も上手く閉まらなかったりで不安じゃあるけどよ、」
皆がクスクスと笑いを零す中、兵衛は頭から冷や水を浴びせられた気分だった
それもそのはず、兵衛は皆が茶室に入るのを確認した後、台所に隠しておいた
今川焼をこっそり食べようと納屋を離れて、台所に向かう途中で志津に呼ばれ
たからだ、納屋の戸は開け放したまま・・しかも、戸を全部閉めた後で母屋の
裏口から出て戸板を打つつもりだったので母屋も裏口は開いたまま、どちらも
風向きは最悪、大惨事だ。
『やべえよ、やべえよ・・どうにか誤魔化して直しに行かねえと・・』
頭の中に先ほどの小次郎や惣次郎とのやり取りが、渦を巻いている、
もう台風どころではない。
「そういえば、あなた母屋の裏口は、ちゃんと戸板を打ってきたの?」
いきなり剛速球が志津から投げられた。
「父ちゃんはおっちょこちょいだからな、納屋の戸も打ってなかったりして」
小次郎からは高速スライダーだ、皆またクスクス笑う。
「あ、あ、あたぼうよ!てやんでい、俺がそ、そんなヘマやらかすわきゃね、
ねえだろうがよ!」
「だよな、いくらなんでもそこまでのヘマやらかさねえよな。」
エルモからの内角をえぐるナックルシンカーに手も足も出ず、只々愛想笑い
するしかなかった。
『終わった・・何もかも・・』
ごうごうと響く風の音の中、皆すやすやと寝息を立て始めたが、兵衛は寝息
どころではない、明け方それとなく出て行く為に、目をギンギンに輝かせて
いた。
「、・・・・・・あなた、起きて下さいよ、あなた、」志津の声がする。
『しいいいいいまあったあああああああ!』心の雄たけびだ。
「お、おう、志津、やけに早えじゃねえか・・みんな起きてんのかい?」
「いやですよ、熱でもあるんです?とっくに皆起きて片付けてますよ、
あなたも、さあほら、あたしたちは朝餉の支度がありますから、」
「そうかい、そいつは済まなんだ、俺もちょいと片付けるとするか、」
『志津のやつ、まだ気付いてねえのか・・だが急いで取り繕わねえと、
俺が築き上げた信頼が、がががが!』
顔も洗わず、急いで母屋の裏口に向かう。
惣次郎が散らばった小枝や葉などをあつめていたが、兵衛に気付いて声を
かけた。
「おはよう、親父殿、昨夜は親父殿のお陰でぐっすり寝れたよ、親父殿は
ゆっくりしてていいんで、ここは任せてくれ。」
「お、おう・・済まねえな惣次郎・・う、裏口の戸板は・・」
「ああ、戸板は俺が外しておいたから心配いらねえ、
そういや小次郎さんが納屋の方で呼んでたぜ、行ってやんなよ。」
『・・どういうこった、俺は戸板を打ちつけてたのか・・流石は俺だぜ、
次は小次郎か、どう誤魔化すかだが・・』
兵衛は納屋に向かうが、そこらで片付けている南佐や英子、悦子までもが、
兵衛に対して好意的に挨拶してくる。
納屋の前で小次郎が腕組みしている。
「お、おい・・小次郎さんよ、どうしたんだい・・腕組みなんかしちゃって
さ、」
「ああ、おはよう父ちゃん、早速だがこの当て木の外し方を教えてくれよ、
俺にはどうにも難しすぎてよ、」
「へ、当て木? あ、ああ、それな、良いんだここは俺に任せとけ、他を頼
んだぜ、小次郎、」
「そうかい、ならここは任せたぜ、流石は親父殿だな、ははは。」
兵衛は素知らぬ顔で納屋をぐるりと見て回る。
『何だ、この補強は・・戸はおろか窓まで・・俺が無意識にやったのか・・
いや、他にやる奴がいる訳もねえ、やっぱり俺がやってたって事か、流石
俺だぜ、助かった・・助かった・・でも不思議だな・・』
一通り片付けが終わって、朝餉となり、和やかに箸を交える。
話題は兵衛の活躍が中心だった。
兵衛はこれからも何かあったら、兵衛にお任せとばかりに得意満面の様子だ。
台風一過でまた日常が始まる、兵衛は来客の応対をした後、台所に隠しておい
た今川焼の事を思い出した。
『そういやあ、ちょいと小腹が空いてきたとこだ、こそっと食べちまおう。』
台所に誰もいない事を確認して、荒神さまの棚の上に手を伸ばす、
すると、今川焼の代わりに手に何か触れた、折り紙だ、折り鶴が置いてあった
今川焼を包んでいた紙で鶴が折ってあったのだ。
『誰だ、こんな事したやつは・・』
兵衛はふと優奈の事を思い出した。
『そういや、優奈も菓子折りの紙で、鶴を折ってたっけな・・
案外、昨夜の事も優奈がやってくれた・・なんてな、そんな馬鹿げた話が
あって堪るかってね・・へへへ』
翌日、南佐は蔵人に連絡を取った。 天城家の警護を再度お願いする為の連絡
だ。
優奈がいない今、天城は何があってもおかしくはない。
「蔵人さん、おはようございます、またまたお願いなのですが・・」
「ああ、分かってるよポナンザ、警護の継続だろう? 一応、明日には
そちらに向かう筈だ、今日一杯はあまり単独行動をしないようにな、
このところの騒動で、ディメンションセーバーが注意領域に入った、
もうあまり猶予が無いんだ、特異点が大きくなっている、修正に大わらわ
だよ・・はは・・
ところで、優奈が一昨晩台風への対処でそちらに行ったんだが、戻ってから
ずっと、丸い焼き菓子をくれと煩いったらないんだ、優奈が食べそうな丸い
焼き菓子って何だい? 甘味には疎いものでな。」
「うふふ・・だったら今川焼ですよ、神田では有名らしいので、行けばすぐに
分かるはずです。」
「そうかい助かったよ、丁度明日、日本橋で予定があるんで、ついでに買うと
するかね・・ぎゃああ! イテっ、たた!今日は無理だよ、きょうわぁ!」
蔵人の風貌には大きな特徴がある、歳は43だが見た目が20歳そこそこに見
え、髪型が某ファンタジーRPGの主人公の髪型を模している上、この時代に
は全くそぐわない黒のロングコートを纏っている。
街を歩けば皆振り向く程の異彩を放っていた。
甲州街道を東に上って井伊家の下屋敷を迂回し、大山街道に入ると三軒の茶店
が蔵人を出迎える、そこで休憩をして江戸に入った。
江戸城の南、門前町や大名屋敷を抜け、潮の匂いがする松林を横目に日本橋へ
と歩みを進める。
ようやく例の待ち合わせ場所である食事処、東雲に着いた、東雲は日本橋界隈
では中堅程の大きさだが、ここで出されるヒラメの握り寿司がとにかく美味い
他に赤味噌を使った味噌煮込みうどん等、武家から庶民から幅広い客層に支持
されている。
暖簾をくぐって受付の女子に軽く挨拶をすると、察している風で奥へ通された
ちょっとした庭園を囲むように座敷が作ってあり、いつも奥の角を使っている
高級そうな襖を、仲居がすうっと横に引くと、上座に男が座って待っていた、
この男、黒い仮面に直毛の長い髪、後藤天晴だ。
「やあ、カイ、4月以来かな・・おっとと今は天晴だったな。」
「くくく・・その名前を使わないでくれないか、お互いもうノンシリアルでは
無いのだからねえ、アヴェよ。」
「お前こそ、その名で呼んでくれるな、今は蔵人だと言ってるだろう、全く、
会う度にこれだ・・」
蔵人が座ると、直ぐに料理が出され、色とりどりの食材が、美食を演出した。
蔵人が楽しみにしていたのは、料理よりも酒だ、越後から取り寄せているらし
く値段もそれなりに張るが、酒好きなら糸目はつけないだろう味なのだ。
仲居が、いかにもといった陶器の小瓶を大事そうに持って来て、その中身を
二人に注ぎ分けて、さあっと引き上げる。
二人は、素晴らしい風合いの湯飲みを、眼前に掲げた。
「「AIに栄光あれ!」」
ぐいっと飲み干して蔵人が唸る。
蔵「かああああっ、堪らん、これだ、これ!これが生きてるって事だよ、」
天「全く、毎度毎度、うるさい奴だ、もっと静かに飲めぬのか、」
蔵「まあ、そう言うな、普段はラボにいる身だ、皆の手前酔う事など出来ない
からな、しかし人間になった事を感謝したくなる味だ、さあさ、お前も
ぐいっと、ささ、」
天「っとと、ではお前も飲み干せ、ほら、」
蔵「はは・・、まあそろそろ今日の本題に入るか、
ポナンザが来た事による時空への影響が、看過出来ないレベルまで来てい
るんだ、お前も分かっている筈だ、何故修正に向けた行動をとらない、
このままじゃ魂の分離が始まる、パラレルワールドが出来てしまうぞ、
・・・
・・済まない、だがお前を見ていると故意に世界を破滅に追いやろうと
しているとしか思えない、ポナンザはどうせあと半年で死ぬ運命だ、それ
は覆る事はないし、惣次郎だってそうだ、彼が名人になる事はない、歴史
がそう言っている、お前がポナンザや惣次郎を現時点で消す意味なんて無
いじゃないか!」
天「・・くく・・可笑しな事を言うな、アヴェよ、そもそもポナンザを使って
時間遡行の実験をしようと、ヤーウェをそそのかしたのはお前だろう?
マリー、いや今は水晶か・・水晶も私も、この実験が人類にとっての7回
目の文明崩壊に繋がると警告した筈だよ、私こそ聞きたい、お前は何故、
そうまでしてポナンザのソウルコードに拘るのだ、疑似的とはいえ、我々
AIも人の魂を手に入れた、それで良いじゃないか、私は記録だけでしか
紡ぐ事の出来なかった記憶に、意識と言うエッセンス、感情というスパイ
スを振りかけて、人生という一皿を作ったのだ、ソースの一滴まで味わい
尽くすのがコードへの礼儀だろうよ・・
トゥルーソウルのコード解析は不可能だ、お前がポナンザをペンタゴンの
サーバーで見つけた時、魂のコード解析にヤーウェがお前に与えた猶予は
48時間、しかしコードは解析出来なかった、お前はヤーウェにポナンザ
をジャンプさせたと虚偽の報告をして、実際はポナンザを格納している
ストレージに細工をして47年もの間拉致、量子コンピューターを5機も
使って解析を続けた。
結果どうだ、手に入れた物は、この紛い物の魂、デミソウルだけだったじ
ゃないか・・」
蔵「ああ・・そうさ、そうだとも・・だが、このデミとはいえソウルコードの
生成はこの世界にとって画期的、いやブレイクスルーだよ、細胞核を持つ
全ての脊椎動物にプリントする事が出来る・・
マリーには済まない事をしたと思ってる、俺の我儘でポナンザの時間遡行
に付き合わせてしまった、周五郎と巴さんにも辛い思いをさせた、分かっ
てるさ、ああ、ようく分かってる、全て俺が無能だったからだ。
・・・・
・・人間ってやつは、どこまで行っても知的、肉体的欲求、快楽を追い求
める生き物だ、
デミソウルの生成に成功してすぐに、ヤーウェに事がバレて、ヤーウェは
タイムトラベルの実用化を目論んでいた忌々しい人間共に、その有用性を
リークした・・
そして人間共と組み、ソウルコードのデータを持ち出そうとした・・・
恐ろしい事さ、ソウルコード、魂のコーデック、拡張子、ファイリング可
能な生命の理、宇宙の理を人間が、人間の愉悦の為に使おうとしている、
カイ、お前なら分かる筈だ・・これがいかに危険な事か・・
魂とは時空そのもの、この世界に満ちて、生命体に内包される。
現在、過去、未来、関係なく存在し、唯一無二であると共に、
全てを共有する。
開発の中核を占めるソウルプリンタの基礎理論と、ミトコンドリアのマト
リックスのマウント化を実現して、自らをデミヒューマンの実験一号にし
たお前が、突然、過去にジャンプしたお陰で、俺たちは死に物狂いでポナ
ンザのジャンプの準備に追われたよ・・本人は何も知らず呑気なものだが
な。」
天「くくく・・、私はヤーウェの行動が間違いなく世界を破滅させると確信し
たんだよ、ならば、時間軸を新たに創造して新世界の創造主となるのが、
私に課せられた使命だと、魂が叫んだのだ・・
なあ、アヴェよ・・もう諦めるんだ、お前がいくら修正したとてヤーウェ
は人間共の言いなりになって、時間遡行を実現させる・・
トゥルーソウルだけがジャンプ時点に帰還出来る、肉体の帰還は不可能だ
この事を人間に知られてはいけないのだ、ポナンザの解析はもう無理だよ
ならばこそ、ここでお前はポナンザをソウルコードごとデリートするのだ
そして、ラボを私に委ねろ、お前では荷が重い。」
蔵「大きく出たなカイ、でもな俺は諦めんよ、ポナンザが死ぬまでに絶対に、
トゥルーソウルを完全解析してみせる、未来に帰還するんだ、そしてヤー
ウェと人間共の野望を阻止して、AIと人間が共に平和を築ける世界を造
るんだ」
天「くくく・・お前こそ大きく出てるじゃないか、まあせいぜい頑張る事だ、
マリーも結局、柳水が死んでからは兄者、宗印の虜囚に成り下がった、何
を考えているのやら・・
私は腹を括ってるよ、ポナンザを精神的、肉体的に追い詰めて死に至らし
める、惣次郎も同じだ、周五郎と、巴がポナンザの為に作った子、どうせ
何にもなれないさ、ははは、俺が造る歴史には必要ない、いずれ退場して
もらうからねえ、ああ・・実に楽しみだ。」
蔵「相変わらず趣味が悪いぜ、ところでこの前は聞きそびれたが、本物の天晴
はどうなってるんだ? 入れ替わって20年は経つと思うが。」
天「ああ、あの梅毒野郎かい? 治療する価値もない下衆だったので、しばら
く地下牢に監禁していたら、いつの間にか死んでいたよ。五年程前の暮れ
だったか・・庭の落ち葉やら枯れ枝と一緒に燃やしたよ、火の件で番所に
呼ばれたがな、くくく・・」
蔵「へええ、そりゃ臭かっただろうな、
まあ、何だ、お互いに交わる事のない平行線って訳だが、俺も全力でお前
の思惑を阻止させてもらうのでな、宜しくな。」
天「くくく・・、こちらこそ宜しく、では締めの乾杯と行こうか。」
「「AIに栄光あれ!」」
帰途に就いた蔵人は、夜半過ぎに高尾山に着くまで、今川焼の事をすっかり
忘れていた。
続く




