南佐の歩 第二章 第三話 Little ape in AMAGI (前)
後藤宗印からの、気色の悪い挨拶に一瞥をくれて、水晶は口を開いた。
「あなたがここに来る時は、決まって自分に自信が無い時ですわね・・
いい加減、自分の力で将棋を指されてはどうですか?
私の力などに頼ったところで結局はその場しのぎ、私が死ねば、いずれは
自分で指さねばならないのですから・・」
「ふふふ・・、言うじゃないか水晶よ、
今夜はお前の大好きな惣次郎を、ちょいと痛めつけておいたのでな、報告
しておこうと思ってね。」
一瞬、水晶の肩が動いた。
「柳水を失って五年、随分と生きながらえて来ました。
これまで、あなたの虜囚となって、あなたの望むまま、最善手を伝えて来
たのは惣次郎に手を出さない事を条件にしていた筈、それを反故にすると言
うのなら、わたしはもうあなたの思い通りにはなりませんよ。
いっその事、私を殺したらどうです?
その方があなたの為でもありましょうに、
・・・・
・・・うふふ読めましたわ、ようやく宗桂様が名人を降りる事になったの
ですね。
そして今棋戦は宗家以外でも優勝すれば名人になれるという事を宗桂様が
お認めになった・・
あなたは今棋戦で惣次郎が敵として立ち塞がる事を恐れている・・・
・・・違いますか?」
「くっく・・察しが良すぎて嬉しいよ、3カ月の後、私の前に惣次郎か宗眠
どちらかが必ず出てくる、その時はお前の出番だ、至高の一手、楽しみに
しているのでな、しっかり準備をしておけよ。
そう言って、懐から一掴みの棋譜を取り出し、格子の間から投げ入れた、
水晶の前に、棋譜が幾つも散らばった。
「・・今夜は気分が良い、後で緑子にお湯を持って来させるので、体を綺麗
に拭いておけ。」
舐める様に水晶の体を眺めた後、高笑いをしながら階下に消える宗印を睨み
つつ、棋譜の一つを水晶は手に取った。
『・・うふふ・・ポナンザ、やっと動き出したのね。
欲望にまみれて人の命さえ弄ぶ、宗家のケダモノども、覚悟なさい、
ポナンザと惣次郎が、必ずあなたたちを地獄に堕とすわ、
今の内に宗家の頂点である事を満喫しておくのね・・うふふふふ・・』
惣次郎が襲われた夜、看病しつつ、いつの間にか眠りに落ちた南佐は夢を見た
また、以前見たものと同じ夢、今度は女の子の姿がはっきりとしている、銀髪
にコバルトブルーの瞳、白いワンピース、こっちに手を差し出して「遊ぼう」
と言った。
その顔がとても愛苦しくて、思わず手を伸ばすと、その子は手を掴んで、丘の
上にある大きなブランコに連れて来てくれた。
二人並んでブランコを漕ぎながら笑い合う、顔と顔がすれ違う、体が何度も重
力から解き放たれる、その都度、足をバタバタさせて燥いだ。
いつの間にかとなりの女の子は立ち漕ぎをしていた。
勢い横を通る姿が颯爽として素敵だったので、真似をしたかったけど、上手く
立てない、もどかしく思っていると、その子が言った。
「そのままで良いよ、君らしくそのままで・・
でも、困った時は、魔法の言葉・・・・・・」声が遠のいて行く。
「ええっと・・今何て言ったの? ねえ、教えてよ、ねえったら。」
「あはは、大丈夫よ・・もう知ってるから・・」
目が覚めると、惣次郎がこちらを見て微笑んでいた。
「いつもありがとな、心配かけて済まない。」
「あらら・・いつの間にか私ったら、・・体、大丈夫ですか?」
「ああ、まだ少し痛むけど大丈夫だ。」
「惣次郎を襲った人たちって、やっぱり御三家の・・ですかね。」
「そうだな、どうにも俺を名人にしたくないらしい。」
「むむむ・・私、惣次郎の代わりに町将棋頑張りますからね、任せておいて
下さい。」
「うん、でも小次郎さんと森さんに力也さんもいるから無理はしなくて良い
どうしてもの時は誰かに付いて行ってもらえよ。」
「あい、了解です。」
「さあさ、おやすみだ。」
朝餉を済ませた南佐は片付けが終わってすぐに蔵人に連絡を取った。
連絡方法は、天城道場の垣根の切れ目に小さなお地蔵さんがあって、その背中
にカードを差し込むと、空間モニターが現れて蔵人のラボに繋がるので、そこ
で連絡をするというものだ。
モニターが立ち上がり、蔵人が顔を出す。
「おはようございます、蔵人さん。
お願いがあるのですが、聞いていただけますか? ・・・蔵人さん?」
「あ、ああ、済まない、ちょっと取り込み中でね、で、何だい?」
「実は昨夜、惣次郎が暴漢に襲われました、多分宗家による嫌がらせだと思い
ますが、今後の事を考えると、この家も安全とは言えません、
宜しければ、アジャスターの方に警備をお願いしたいのですが・・
如何でしょう?」
「OK牧場!」 「は?」 モニターが消えた。
「ちょっとおおおお、それだけええええ!」
近所のチヨちゃんがキチガイを見るような目で見ていた。
「な、何でもないのよ・・、ははは、はは・・」
お昼過ぎに、庭師の下田千之助がやってきて、頼まれていた庭木の剪定を、
今日から始めるとの事だが、千之助の父母が共に流行り病で亡くなった事に
加え、引っ越しを余儀なくされていて、住み込み見習の若い者を、剪定のつ
いでに道場に泊めて欲しいと言って来た。
当然兵衛は断ったが、その見習の若い者というのが、まだ十六、七の子娘で
とびっきりのカワイ子ちゃんだったので、渋々?了解した。
千之助は何度も礼を言い、この仕事の金は要らないので宜しくと、足早に
消え去った。
「今日からお世話になります、優奈です!宜しくお願いします。」
伸び放題だった庭木の枝を丁寧に剪定して行く姿は、見習いとは言え、様にな
っている。
体は小さいが、梯子を軽々と上るので、皆は子猿みたいだと感心していた。
今日の所は、屋敷全体の十分の一程だろうか、剪定作業が終わり、今夜からの
宿泊を前に、沸かしておいた風呂に入ってもらい、夕餉の前に改めて、全員に
自己紹介をして貰った。
生まれは八王子、年は十六、5年前に両親共病気で亡くして以来、父の友人の
世話になっているものの、何か手に職を付けたいと、2年前から千之助の所に
奉公に来ているのだと言う。
天城の面々は、この手の話に滅法弱いので、皆快く、同居を了承し、一人一人
自己紹介をして行った。
昨夜の事もあって、和やかな夕餉の団欒がとても有難く感じる天城家だった。
優奈は、ここが将棋道場とは知らなかったらしく、将棋は出来ないが、見てて
面白そうなので暇を見て教えてくれと、冗談ぽく言ったのをエルモが真に受け
夕餉が終わった後、片付けもそこそこに、エルモの楽しい将棋教室2が、女子
寮にて開講される事となった。
それを傍で聞いていた小次郎が、自分は英子に将棋を教えようと思ってた所だ
と言ったのが、エルモの琴線に触れた。
普段から、ねーちゃん、ねーちゃんと英子を慕うエルモにとって、その指南役
は自分であるべきと、妙な敵愾心が芽生えてしまう。
「はああ?小次の郎さんよ、いつの間に英子姉を垂らし込んだかしれねえが、
手前の実力じゃ、ねーちゃんが三流棋士になるのが関の山だぜ、箱根で負け
てやったのを忘れた訳じゃあねえよな、ねーちゃんは、あたしが将棋を教え
るって決めてんだ、余計な事するんじゃねえよ。」
「けっ、あんときゃあ俺もお前の三味線に絆されて、迂闊にも手を抜いちまっ
たがよう・・つうか何度この話させんだ、このボンクラ、いい加減どっちが
強えかはっきりさせようじゃねえか。」
オロオロする英子と優奈を見かねた惣次郎が、慌てて割り込む。
「いっその事、師匠と弟子で組んで対局したらどうだい?
なんか二人三脚っぽくて良いじゃねか、相談なしに一手毎交代で指すのさ、
それなら公平だと思うんだが・・」
「それだ!」
勝負方法は決まった、決戦の日は四日後の朝となった。
英子も優奈も、日中の仕事が片付いてからの勉強となり、道場側で英子が指導
を受け、優奈が女子寮で指導を受ける流れだ。
初日は、二人共、駒の動かし方などの基本を徹底的に叩き込まれた。
二日目は、攻め方と守り方、手筋といったものを中心に遅くまで勉強して、三
日目は実戦形式で、主だった定石や、囲いに対する攻め方と受けを、丁寧?に
指導された。
小次郎もエルモも真剣そのものなので自ずと指導も似通ってくるのだ。
三日目の夜、本番を前にこれまでのおさらいをする二組の凸凹コンビは、戦型
を先手番、後手番の時であらかじめ決めておく事にした。
チーム小次郎は、道場に置いている惣次郎の手書きの教本を参考に、最終的な
詰めを行う。
「小次郎・・何だか変な事になっちまって済まないねえ・・」
「なあに良いって事よ、将棋の勉強に弾みが付いて面白えじゃねえか。」
「うふふ、将棋がこんなに面白いなんて知らなかったよ、
でも、この教本凄く分かり易くて感心するねえ、惣次郎は相当に勉強したん
だね。」
「ああ、惣次郎は凄い奴だ、皆の為に惜しげもなく将棋のイロハを教えてくれ
てさ、普通なら自分の武器を滅多には見せないもんなんだが、そこが宗家の
連中との大きな違いだぜ、
まあ、明日は面白い将棋にしようじゃねえか、なあ英子。」
「ああ、そうだねえ、じゃあ明日ね。」そっと肩に手を置いた。
襖の陰から覗いていた森に、康太が「いよっ三枚目!」と言ってニヤつくので
康太は森から詰将棋の宿題を出されて、解くまで寝かせてもらえなかった。
女子寮に戻った英子は三人が川の字になって寝ているので、何だかほっとした
横に布団を敷き、さあ寝ようかと横になった時、三人からいきなり取り囲まれ
尋問が始まった、南佐が燭台の蝋燭に素早く火を点け、顔にかざす。
「英子さあん、小次郎さんと、どうです?・・
もう一線越えちゃいましたあ?・・」
「ねーちゃん、小次の郎とデキちまったのかい?」
「男女のまぐわいについて教えてくんなまし!」
「・・っ、なんだいあんたら、やぶからぼうに、
ふふっ、あははは、やっぱりこの家は最高に素敵な家だね、おやすみっ!」
「ああっ、誤魔化さないでくださいよ、もう!」
「ねーちゃん、教えろよ、もうヤったのか?先っちょは?入ったか?」
「あたしもヤリたいです!」
和やかなやりとりはこの後小一時間程続いた。
決戦当日、朝餉の片付けが終わってすぐに、四人は準備に入った。
この三日の内に、ペア将棋の事を兵衛と志津が近所に触れ回ったおかげで、
道場には、朝から暇人たちが大勢やってきて、ちょっとしたイベントみたいに
なっていた。
「親父殿、なにも入場料まで取らなくったって良いだろうよ。」
「いや・・、俺じゃねえんだ、志津のやつがさ、頂くものは頂きなさいって
聞かなくてよう・・」
「やれやれだぜ・・はぁ~・・」二人して溜息をついた。
立ち合いは南佐が努める、記録と数えは康太がやる事になった。
いよいよ決戦開始、先手は悦子・優奈ペアとなったので当初の予定通り、穴熊
に組み上げる構えだ、序盤から交互にせっせと玉を左に寄せて行く。
後手の小次郎・英子組は、飛車を四間に振った後、美濃囲いに玉を入れる前に
居玉のまま仕掛けた。
『藤井システムたあ上等だぜ、優奈がこいつに対応するのは難しい、あたしが
一本道を開く!』
小次郎も英子がまだ振り飛車の捌きを理解してるとは思ってないので、大駒の
交換には神経を遣う。
『英子が、三日でここまで指せるようになるとはな・・だがまだ温い、一丁こ
こらで、八筋から城攻めだ!』
中盤に入ると、エルモの思惑通りに優奈が受けきれず、徐々に劣勢を強いられ
て行った。
しかし、エルモは間違えない、優奈が指した凡手の後は全て最善手で返して行
く、早指しの小次郎も流石に手が止まる、常に三手先に待つ悪手を想定してお
かねばならないからだ。
『今はまだ挽回出来るが、寄せが見えてからの失敗は、悦子の指し回しじゃあ
即お陀仏だぜ、だが向こうも苦しい筈、英子、頼むぜ!』
こうなると、最早【英子VS優奈】という構図となり、盤外は俄然盛り上がる
即席の賭場が立った、胴元は志津だ、惣次郎に形勢を聞いて現時点でのオッズ
を算出する。
『母上・・』手に負えない銭ゲバっぷりに、惣次郎も開いた口が塞がらない。
形勢は80%ー20%で小次郎・英子組が勝勢だ、エルモは最初の手番決めが
今回の失着だったと後悔した。
『えーこねーちゃんがガチでやべえ・・ここにきて悪手が無くなった、
しかも小次郎が憎たらしい位に、あたしの勝負手を躱して、ねーちゃんに繋
ぎやがる・・紛れを生もうにも、優奈には現状維持が精一杯だ、どうにか勝
負形に持って行かないと・・』
もう傍目で見ても逆転は無いだろうと誰もが思った、エルモも諦めるしか無か
った。
だが小次郎の指した詰めろに対して優奈が放った手が、詰めろ逃れの詰めろで
合い駒を英子が間違えたらトン死するという、恐ろしい手だった。
惣次郎と南佐は直ぐに気付いた、エルモも当然この手を読んだが、まさか優奈
が指すとは思ってもみなかった。
『いよおおおおおっし!ねーちゃんが間違えたら、確実に止めを刺す!』
英子は考える、合い駒を何にしようか、駒台には一式揃っているが、歩だけは
切れてなく、使えない。
小次郎もようやく気付いた、香車だけは打てない、角を成り捨てられたら一巻
の終わりだ。
祈る様に英子の手を見つめる、英子の右手が駒台に伸びる、桂馬をつまんだ、
だが直ぐに香車をつまみ直す、小次郎とエルモの鼓動が激しくなる。
英子が指した。 桂馬だった、小次郎は小さくガッツポーズをして、エルモは
うなだれた。
「参りました。」エルモが声にする、優奈は気付いてないのかエルモの顔を覗
き込んだ。
道場に歓声が響く、なんとも白熱したこの一番に、惜しみない拍手が贈られた
英子を小次郎が抱きしめた、
「やったな、英子、お前は最高だぜ、ははは、」
「え、え、勝ったのかい? あたしたちが? あは、あははは、やったねえ」
エルモは優奈の一手を褒めて抱きしめ、大騒ぎの客に並んでお辞儀をして感謝
の意を伝える。
客も悦子と優奈を称え、賞賛の言葉を贈った。
志津は満面の笑みで掛け金の清算をしていた、まさに至福のひと時だったろう
勝負が終わった後も、興奮冷めやらぬ客が残り、己が将棋に一喜一憂した。
道場から客や弟子たちがいなくなったのは、陽が落ちて暫くしてだった。
遅めの夕餉ではあったが、皆のんびりと今日の対局の事や二人の新弟子の今後
を語り合った。
小次郎も勝ったは勝ったがエルモが弱いのではない事を理解した上で、殊更に
貶めはしなかった。
エルモも優奈のがっかりした様子に負けはしたものの、初めての弟子が、これ
から伸びていく事を確信して、慰めはせずに、明日からまた頑張ろうと、励ま
すのだった。
「皆、聞いてくれ。」小次郎が切り出した。
なんだなんだと、皆が小次郎を注視する。
「俺は、今日から英子を正式に俺の弟子にする、それと俺の女にする。」
「どええええええええええ!」いきなりの爆弾発言が飛び出した。
「英子、もう俺は決めたんだ、文句は言わせねえぞ!」
「まったく・・しょうがない男だよ、あんたって・・
・・ここで断るって野暮な事出来る訳ないだろ・・」
英子は驚きと嬉しさに戸惑いながらも、小次郎の申し出を受けた。
「はああ?手前、今何つった?ねーちゃんを俺の女にするだあ?
身の程を知れってんだ、このチンカスが!
勝ったからって調子に乗ってんじゃねーよ!」
「何とでも言ってくれ、でも俺は英子に惚れているんだ、絶対に不幸には
しねえと誓う、皆、宜しく頼む。」深々と頭を垂れた。
「ぐ、ぐぬぬ・・、ねーちゃんはそれで良いのかよ、だって・・」
英子は既に頬を赤らめて小次郎を見つめていた。
「あーあ・・、絶対に幸せにしろよな!」
「ああ、任せとけ!」
楽しげな食卓の片隅、森の目から人知れず涙が零れた。
これが森升平、人生8度目の失恋である。
翌日、小次郎は茶室の改装で世話になった大工の棟梁の所へ行き、天城の道場
の裏手に、6畳程の離れを作って貰う様、頼んだ。
祝言は、惣次郎の棋戦が終わり次第、執り行う事にしたので、今は、まだ仮初
の夫婦である。
しかし、道場のの至る所でイチャイチャして康太や森の目の毒だとして、兵衛
から厳しく注意を受けた。
小次郎の爆弾宣言から8日経ち、小次郎が、惣次郎の贔屓筋の湯屋での対局の
代指しに出張る日が訪れた。
「小次郎さん、済まねえな、俺の対局だってのに・・」
「なあに、俺も今は金が要るからよ、有難く打たせてもらうとするぜ。」
「あんた、気を付けて行って来るんだよ、」
英子はそう言って切火を切った。
「そんじゃ、行ってくるぜ!」皆が見送る中、小次郎は意気揚々と出発した。
小次郎が対局する湯屋は、神田では有名な湯屋《命泉》だ。
玉川上水と隅田川の水、それに井戸水を加え、お湯の量で亀戸や深川の湯屋と
一線を画す程、豊富に沸かしている。
燃料だけでも相当な量の薪が要るなと、小次郎は感心しつつ勝手口の木戸を開
けた。
仕切りの上妻組の若旦那に挨拶しようと、番頭に所在を尋ねると、今日の仕切
りは三島が間に入っていて、後で若頭が顔を出すので、桟敷で準備しといてく
れとの事だった。
小次郎は正直の所焦った、上妻組と聞いて神田まで来たが、三島との因縁が残
っている内に対局を仕切られるのは、かなり危険だ。
しかし、元は惣次郎の対局だ、ここで尻込みしてる様じゃ天城の名が廃ると、
小次郎は腹を括った。
相手は格下の都築だが、舐めてはかかれない相手ではある、戦型は何にしよう
かと思案しながら対局開始の合図を待った。
すると、程なくして三島の若頭と数人の子分が現れた、小次郎を見てニヤリと
笑う、こいつはいけすかねえ野郎だなと、見たその後方に、そこにいては不可
解しい女子がいた。
貴美だ、小橋の奥方様が何故こんな所にと、思考を巡らすが見当が付かない。
だが確実に何か悪だくみがあっての事に違いない。
『俺って奴は、どうにも好事魔ってやつに縁があるみてえだぜ・・
惣次郎の代指しが、吉と出るか凶と出るか、天神様に聞いてみるとするか』
小次郎は大きく息を吸って、玉頭に飛車を振った。
続く