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南佐の歩 第二章 第一話 しじみ売りの女(中)


 

  小次郎を含め、皆、不味い事に首を突っ込んでしまったという顔になった。


  「昨夜も坂田さんが泊まりに来る前に、追い込みに行くと言って出たんだ、

   暫くして帰って来たかと思ったら、顔や着物に返り血が点々と付いていて

   どうしたのと聞いても、知らぬ存ぜぬで誤魔化してばかり・・

   昨夜はしつこくしたんで腹をしこたま蹴られたよ・・

   

   追い込みに行った夜はいつもこの調子さね。」


  


  「追い込みって・・おいおい・・カガリ、お前は何で旦那を止めねえんだよ、

   銭のカタに人様の命を奪うなんて、正気の沙汰じゃねえぞ、

   このままじゃお前だって同罪みてえなもんじゃねえか!」


  「小次郎さん、まあ最後まで話を聞きなよ、カガリさんはまだ言いたい事が

   あるはずだぜ、なあ、カガリさん。」


  「・・・ああ、そうだね・・あたしら夫婦は本当の夫婦じゃないんだ、

   あたしの父親は、あの寺の住職だったんだけどね、流行り病で死んじまって

   檀家の皆に檀家換えしてもらった後、空き家になった寺で宿の真似事を始め

   たんだ。

   でもね、女一人じゃあ、まともに金をくれる筈もなくて・・

   困り果ててた時にあの人がふらっと泊まりに来てさ、色々親身に話を聞いて

   くれて・・ついねんごろになっちまった。


   それから、宿を一緒にやる事にしたんだけれど、そうそう客は多くは無くて

   しじみなんか売り歩いて日銭を稼いでいたのさ・・


   そんな時、このままじゃ埒が開かないってんで、あの人が美人局をやれと、

   無理強いし始めたんだ、それから何度となく宿の客や、深川の女好き相手に

   気のある素振りで誘いをかけて、ねんごろになったよ・・

   あの人は、そいつらに追い込みをかけて、金を巻き上げて行った。


   あたしは段々恐ろしくなった・・だってあたしを抱いた男が、何人も斬られ

   たって話が耳に入って来るんだ、いつか奉行所のお役人があたしに縄を掛け

   に来るんじゃないかと・・このところ生きた心地がしない毎日なのさ。」


  「じゃあ、昨夜斬られた二人は・・」


  「分からないけど、多分、あたしを抱いた男と、その連れだろうさ・・」



  カガリは顔を手で覆い、体を震わせながら涙を零した。


  「あたしは、きっと地獄に堕ちるんだよ・・こんな汚らわしい女はさ・・

   御免よ、御免よ、こんな酷い話を聞かせちまって・・


   昨夜、坂田さんに肩を抱かれて口づけた時、この人はあたしを、この汚い

   人生から救い出してくれるんじゃないかと期待してしまったのさ・・

   なんとも虫の良い話さね。


   でも、好きになったからこそ、迷惑はかけられないよ・・

   これから、深川の番所に行こうと思ってる、

   もう会う事も無いだろうけど・・坂田さん、あんたみたいな色男に優しく

   してもらえて本当に嬉しかった。」



  小次郎の鼻息が荒くなる、居ても立っても居られない風で、うずうずしていた


  「ちょ、小次郎さん、こいつは闇雲にはいけねえや、落ち着きなよ!」


  「あんの糞野郎・・許せねえ、今からでも俺がぶっ殺しに行ってやっからよ、

   カガリはここで待ってろ!」


  「坂田さん!いけないよ、あんたが今度は罪を背負う事になる、

   そんな事は絶対にあっちゃならないよ、そんな事したら、許さないから!」


  「俺はもう決めたぜ、皆、俺を止めんじゃねえぞ!

   俺ぁ絶対にカガリを守ってやるからよ!

   カガリ余計な心配はするんじゃねえ、俺は、やるっつったらやる男さ!」

   


  傍から聞いていたエルモは思った。

  『こいつは早死にするタイプの奴だな・・しかしまあ、あたしも助けて貰って

   おいて偉そうな事は言えねえや、ここは南佐に任せるしかねえが、こいつは

   厄介だぜ、なんせヴァガボンドと関わるのは初めてだからな・・』


  南佐が突然手を挙げた。


  「はいはーい、今の話をまとめるとカガリさんの旦那っぽい人は、お金を稼ぐ

   為に、カガリさんの体を使いまして、その後、行為をされた殿方で、金払い

   の悪い人をを殺した、っていう事ですね、そして旦那っぽい人を奉行所に突

   き出したいけれど、カガリさんんまで罪に問われてしまうので、何とかした

   い、これでで合ってますか?」

   

  「お、おう・・」皆して頷く。


  「それでは、私の計画を聞いて下さい!

   先ず、手始めにカガリさんと小次郎さんには、しっかりと肉体関係を結んで

   頂きます、そしたらば旦那さんは小次郎さんに金銭を要求するでしょう。」

   


  「な、なるほど・・」小次郎とカガリは顔を見合わせて頬を赤らめた。


  「その際に一旦、小次郎さんは旦那さんに、金は今持ってないので後で持って

   来るから、亀戸の何処かで待ち合わせてくれと言って、道場に戻って来て下

   さい。

   旦那さんが金を取りに来る途中で、指定の場所に誘導、そこに待ち伏せてい

   る用心棒に旦那さんを、ねじ伏せてもらいます。」


   「用心棒って誰?」皆驚きの声を上げる。


   「私に心当たりがあるので、ご心配なく。」


  皆、半信半疑の中、エルモだけは何となく気付いた。


  『まさか南佐っちの奴、アジャスターに頼むんじゃねえだろうな・・』


  アジャスターとはディメンションゲイザーの管理者がやむを得ず人間に手を

  下す際に使用する者たちである。

  イコライザーの様なデミ・ヒューマンではなく完全なアンドロイドで、歴史

  の大きな変化を防ぐと共に、南佐の身の安全を確保するといった役割も持ち

  詰まるところ、普通の人間では行えない、特殊な任務を遂行するといった、

  ノンシリアル直属の部隊だ。


  先日、巴御前に会った時に渡した書状は、山本が南佐に関する今後の注意事項

  をテキストに纏めたもので、巴から緊急対応など、一通りの説明は受けていた

  その項目の一つ、天城道場に関わる大きな問題が発生した場合の対処という頁

  に、アジャスターの使用を緊急時は認めるとあった。


  惣次郎が手を挙げる。


  「南佐、少しガバガバ過ぎて、どうにも上手く行くとは思えないんだが・・」


  皆うんうんと頷く。


  「とりあえず、今夜は小次郎さん、カガリさんとやっちゃって下さい!」



  それを聞いたカガリが無言で、駒台の駒を盤上に流して、終局した。

  惣次郎が勝った、しかし飛車落ちとはいえ惣次郎相手にここまで戦える棋士は

  そうは居ない、皆が感心した。

  兵衛は、自分が負けた事が恥では無いと鼻息を荒げて吹聴する有様、すこぶる

  みっともない体だ。



  「それじゃあ・・今夜は泊まりに来てくれるんだね、坂田さん・・」


  いそいそと帰り支度をしながら頬を赤らめて小次郎を見つめた。


  「お、おう、また邪魔す、するぜ。」




  惣次郎が深川の入口までカガリを送って行くよう、小次郎に促した。

  小次郎は当然とばかりカガリを連れて道場を出た。



  当事者二人がいなくなったところで、作戦会議再開だ。


  「はいはーい、またまた作戦会議始めまーす!」


  皆、円陣を組んで一致団結の構えで、天城の絆の深さが伺える。


  「先ずは段取りの確認をしておきましょう、

   決行は明日の夕刻、金の受け渡し場所は亀戸神社そばの船小屋です。

   そこに小次郎さんを待たせます。

   お父様、森さんは深川から亀戸に入る街道筋で待機しておいて下さい、

   今の所、旦那さんの顔を見た事があるのは小次郎さんだけなので、

   惣次郎は夕刻前から、そのお寺の近くで旦那さんが出て来るまで張って

   おいて下さいね、出て来たら、気付かれない様に後を付けて来て下さい、

   私と用心棒は船小屋の近くに張り付いて、すぐに旦那さんを取り押さえら

   れる構えで待機します。

   小次郎さんには万が一でも危害が及ばない様に細心の注意を払います、

   取り押さえ次第、岡っ引きの段さんに伊澤さんを呼んでもらい、一旦番所

   に連れて行きましょう、カガリさんに嫌疑が掛からない様にしなければ

   意味が無いので、これも明日の夕刻までに私の方で手を打っておきます」


  惣次郎は心配だったが、南佐の自信があるといった雰囲気に押されて渋々

  計画を了承した。


  「ま、まあ小次郎さんが帰って来たら、またおさらいしようぜ。」


  志津も事の大きさが大きさなだけに、心配を隠せない。


  「誰も、怪我とかしない様にしないといけないねえ・・南佐ちゃん、無茶は

   しないでね、小次郎は女子の事になると周りが見えなくなっちゃうのよ、

   巻き込まれて危ない目に逢ったりしないわよね、皆、無事に帰って来るの

   それだけは、皆、心に留めておいて。」


  




  小次郎が帰ってきたので、さっきの計画をおさらいした、小次郎にはカガリ

  に、詳細を知らせぬ様、釘を刺した。


  落ち着いたところで、夕餉の準備に入る。

  当の小次郎は、いそいそと風呂を沸かして、一番風呂を極めた後、真新しい

  ふんどしを締めて今夜の決戦に備えた。



  「そんじゃあ行って来るぜ。」


  意気揚々と出陣した小次郎だが、興奮と不安で妙なテンションになっていた


  『もう、成り行きに任せてカガリに突っ込むしかねえ・・』




  深川に入って、寺に着くころには、日はとっぷりと暮れていて、辺りは昨日

  よりもずっと静寂に包まれていた。


  「御免なすって、どなたかいらっしゃいやせんか、」


  「はーい、只今ー!」カガリがいそいそと出て来た。


  「うふふ、坂田さんいらっしゃい。」


  「おう、今夜は世話になるぜ、で、旦那さんはいるのかい?」


  「それがさ、さっき出て行ったまま戻って来てないのさ・・

   でも、そのうち戻って来るさね、お客も今夜は入れないから、二人っきり

   酒でも飲みながらゆっくりしようよ。」


  「そりゃあ・・、そうだな、ゆっくりさせて貰うとするか。」




  カガリが、いそいそと酒の支度をして、講堂に二人、行燈の灯りの下で、

  並び酒を酌み交わす。


  「ごめんね、折角の夜だってのに気の利いた肴も無くてさ。」


  「なあに、気にしなさんな、俺はカガリが側にいて酒が飲めるなら、その辺

   の雑草でもヒラメと変わらねえよ、ははは」


  「相変わらず嬉しい事を言ってくれるじゃないか・・嘘でも嬉しいよ。」


  「嘘な訳無えだろ、もう俺はお前にぞっこんなのさ。」



  二人他愛ない会話が続く、小次郎もカガリも酒が進み、割と酔いが回って来た

  ところで、カガリが切り出した。


  「あたしさ、実は将棋で負けた事が無くて、今日、烈火に負けたのが初めての

   負けだったのさ・・悔しかったな、今度また指したいねえ。」


  「そいつは悔しがる事ねえや、惣次郎は、俺たちとは何かが違うんだ・・

   何だか、迫力があるっつうか、熱いんだけど冷めてるような・・

   今のあいつに勝てるのは、小橋んとこの宗眠ぐらいだろうさ。」


  「だねえ、指していて伝わって来たよ、情熱って言うのかな・・うふふ

   坂田さん、一つ勝負しましょうよ、詰将棋で、

   お互いに7手詰の形を出し合って、先に解いた方が勝ちって事で。」


  「そいつは面白え、今考えるから待ってくれよ、将棋盤は二つあるのかい?」


  「あたしは紙に書くから良いよ、盤は使って、」



  それから、しばらく二人とも行燈の下で詰将棋の製作会だ、酔いが回って

  いるとはいえ、真剣そのもの、無言の時間が過ぎていく。

  

  二人共ほぼ同時に完成したので、お互いに、せーので見せ合った。


  小次郎は焦った、日ごろから得意にしている詰将棋、しかも7手詰に思考が

  止まる、難しいのだ。


  しかし、流石は天城の一番弟子、なんとか正解をひねり出した。


  「解けたぜ! こいつはこの飛車のタダ捨てが決め手なんだな、

   カガリ、お前は?」


  「あたしは・・まだだよ、悔しいねえ、ええい、また負けちまった。」


  「こいつはな、玉の・・」「言わないで!何だか解けそうなんだ・・」


  「ああ、駄目・・分からない・でも答えは言わないでね、

   自分で解きたいからさ。


   うふふ、一生懸命考えたら、なんだか股座が湿ってきたんだけど

   触ってみるかい?」


  「そいつは大変だ、指で拭ってやらねえと・・」


  「あ、ああ・・もう駄目だよ、あたし狂っちまう・・」



  行燈の薄明りの中、お互いを激しく求めあう二人だった。


  果てるのがもったいないと思えるほど、カガリの体は小次郎に吸い付いて

  快楽を高めて行く。

  かつて、味わった事の無い蜜壺の具合が、男性に奉仕する為に生まれて来た

  と言わんばかり、突くほどに締め付けて小次郎を離さない。


  『うっ・・堪らねえ、初めて味わうぜ、こんな名器・・

   カガリを抱いたやつは幸せ者だぜ、だけど、今夜からは他の奴には渡せ

   ねえ、俺のもんだ、あの旦那には悪いが、なんとかカガリを助け出す!』


  「坂田さん、坂田さん・・好きだよ・・あんたが好きだよ・・」


  何度もそう言ってカガリは小次郎と呼吸を合わせる様に果てた。

  

  涙を流して、抱きついたまま体を震わせるカガリを、小次郎は心底愛おしい

  と思った。

  



  「旦那、戻って来ねえな・・」


  「ああ、気にしないで、坂田さん、あの人今夜はもう帰って来ないかもね。」


  「俺さ、この件にカタがついたら、お前と所帯を持ちたいと思ってる、

   俺を信じて、お前の全部預けてくれねえかい?」


  「・・うっ、うっ・・ありがとう、ありがとう・・

   預けるよ、全部・・好きだよ坂田さん、もう一度抱いておくれ・・」


  「何があっても、俺はお前を離さねえ・・何があっても・・」





  朝になり、カガリが朝餉を用意してくれた、しじみの味噌汁と沢庵が目が覚め

  る程に美味かった。

  小次郎は、片付けなどを手伝いながら、計画の変更が必要だと感じてはいたが

  当の旦那が帰ってこないんじゃ、打つ手も浮かばなかった。


  「カガリ良く聞いてくれ、俺は一旦亀戸に戻って、昨夜から旦那さんが戻って

   来てねえ事を皆に話す、

   本当は旦那さんを今日の夕刻、亀戸神社脇の船小屋で待ち伏せる予定だった

   んだが、これじゃ空振りになっちまうからよ、でも俺は船小屋でお前を待つ


   ・・駆け落ちしよう・・ 


   天城の中に海鮮問屋の大店の次男坊がいて、そいつなら、関を抜けれる船を

   手配出来る、俺と駆け落ちしてくれねえか、カガリ。」


  「あたしの為に、坂田さんの人生を棒に振っちゃ駄目さね、

   でも嬉しいよ・・、嬉しくて、もう死んでもいいくらいさ・・ 


   坂田さん、その心意気ありがとう

   今日あの人が戻って来たなら、あたしがあんたに犯されたって言って、待ち

   伏せてる船小屋に行かせる、戻らない時は


   ・・あたしが行くから、どこか遠くに連れて行っておくれ。」


  「良く言ったぜカガリ、どう転ぼうが俺がお前を守ってやる、絶対にだ!」



  小次郎は寺を後にした、出がけのカガリの笑顔がとても爽やかで、漢の決意を

  後押しする。




  小次郎を見送ったカガリが本堂に向かうと、こじんまりとした仏像の前に座り

  煙草を吸っている男がいた。

  目と鼻が隠れる黒塗りの面を着けている。


  「首尾は上々のようだね、カガリ。」


  「ええ、可笑しいくらいに色仕掛けが効いて、あたしと駆け落ちしようって、

   笑いを堪えるので必死でしたよ、ふふふ・・」


  「あの浪人、左衛門と言ったか、眠らせているのかい?」


  「昨日、あたしが帰ってすぐに薬を盛ったからね、そろそろ目を覚ます頃合い

   かもね。

   天城の棋士が釣れたんだ、もう用済みさ、辻斬りの罪を背負って腹切りって

   筋書き、感動ものだよ。」


  「ああ、そうさ用済みだよ、ククク・・もう遺書も用意してあるからね。

   お前は夕刻からその船小屋に向かい、目標を始末するんだよ、

   いいかい一番目に消すのは惣次郎だ、二番目に南佐という異国の女、三番目

   は坂田小次郎、後は好きに殺って良い。

   その場に目標がいなければ坂田小次郎だけでも口は塞いでおくんだよ、実際

   お前、坂田を殺りたいんだろう?」


  「南佐っていう、すっとぼけた異国の女が用心棒を雇うって言ってたけど、辻

   斬りがあたしだって事が分からなけりゃあ手は出せない筈さね、駆け落ちの

   途中で坂田の奴は始末して、その後、道場に行って皆殺しってのも一興だよ


   ふふ、あたしっていつの頃からかしら、あたしを抱いた男を殺したいと思う

   様になったのは・・


   多分、父様に犯されてからだねえ、

   心の底から湧き上がる殺意を止められなくなっちまった・・


   じわりじわりと死んで行く男たちの顔を見てると、心が安らぐんだよ、

   多分、これが愛ってやつなんじゃないかな・・ふふふ。」


  「上出来だ、素晴らしい、カガリ、君に出会えて良かった。」


  「天晴様にそう言ってもらえるなんて嬉しいですねえ。」


  「ではお前の亭主が目を覚ましたところで腹を掻っ捌いてもらうとしようかね

   でもぎりぎりまで遅らせておかないといけないね、この頃の同心らは血糊の

   乾き具合をしっかり調べるから困ったものだよ。

   それと逃走の際は、ここに書いているとおりに行くと良い、

   きっと大丈夫さ、君なら出来る、今までも散々殺しておいて逃げおおせてる

   のが証拠だよ、いつも通りに楽しんでおいで。」

   

  「ああ・・殺るところを想像すると、挿れて欲しくなっちまったよ・・

   ねえ、天晴様のを頂戴な、あたしが大きくしてあげるからさ・・」


  「仕様がない女だね、でも今日は頑張ってもらうからご褒美をあげよう。」


  「ふふふ、幸せだよ・・最高に幸せ・・」





  小次郎は、足早に道場に帰り、皆に事の詳細を告げたが、あまりに急な事で

  兵衛以下、戸惑っていた。

  だが、結局は計画通りに作戦を進めるしか他に方法はなさそうなので、

  〈駆け落ち〉の場合を想定したプランを追加して、いざ作戦開始だ。


  惣次郎が、町人風の格好に着替え、先んじて深川に向かう、

  その後を追うように兵衛が続いた。

  小次郎は駆け落ちの支度をして、船小屋に向かった。

  森は急ぎ、江戸港に停泊している丸森の船頭宛に手紙を書いて、魚河岸に勤

  めている知り合いに言伝を頼んだ。

  南佐も急いで、例の用心棒とかいう者との待ち合わせ場所に向かった。


  エルモは手伝いたかったが、今回は志津と留守番という事で、隠密で計画の

  進行をサポートする側に落ち着いた、今回の計画の実行にあたり、南佐から

  髪飾りに仕込める程の大きさのインカムを渡され、同じ物をかんざしに仕込

  んだ南佐と双方向でやりとりが出来る様になり、エルモは微妙にワクワクし

  ている。


  


  惣次郎が寺の見える屋敷の生垣で、息を潜めて張り込みを行う。


  半刻ほど経っただろうか、動きがあった。


  玄関の戸が開いて、誰か出て来る。


  カガリだ、駆け落ちの偽装なのか、しじみの仕入れに行くと言わんばかりの

  出で立ちで出て来た。

  後に、その旦那が出て来ると思い、じっと目を凝らして構えるも、一向に誰

  も出て来ない、カガリは振り向きもせず歩いて行く。

  これは旦那に嘘をついて、駆け落ちするという事なのかと惣次郎は推測した


  『カガリさん、小次郎さんと駆け落ちするつもりだ・・

   とうとう小次郎さんも年貢の納め時ってやつか、幸せになると良いな。』


  ならば、間違いがあるといけないし、旦那と待ち合わせるかもしれないので

  後を暫く付いて行く事にした。

  よっと、腰を上げ、通りに出ようとした時、編み笠を茂みに置きっぱなしだ

  と気付いて取りに戻り、ちらと目を向けた本堂の裏に、人影を見た。

  笠を被っていて、はっきりとは顔が見えないが、横を向いた瞬間、僅かに

  見えた黒い仮面、見覚えがある


  『後藤天晴・・なんであいつがこんな所にいるんだ・・』


  


               続く


  



  




  




  

   

   

   

  

  


  


  

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